うっすらとした明かりの中を、四艘が北千住から荒川をさかのぼる。漕ぎ手は、熟練のようで船足は相当に早い。川越からさらに入間川上流に入ってゆく。やがて川が二筋に別れ、入間川本流から右手の飯能方向に入る。土手沿いをわずかな提灯の光で、馬上は前が三之丞、後ろが弥生であった。あたりは川越藩の所領であったろう。しばらく進むと入間川が川上から大きく蛇行する地点。飯能河原で四艘の船は係留し、千両箱を、河原の横の広場に降ろし積み上げた。あたりは、朝のひかりが立ち始めている。土手の手前で、馬から降りた二人はその様子をうかがう。さてどうしたものだろうか。「思いの外にうまく運んだな。さて最後のの仕事じゃ。皆頑張っておくれ」広場の奥には杉、檜が筏としてにいつでも組める状態で大量に置いてある。百姓強力みのすけの合図で、十人の屈強な男...江戸元禄人模様寺子屋師匠菊池三之亟事件控え第三話「泥棒村」その4