ショートショート『楽譜倉庫から』
卒業試験のため、篤人は音大の図書館にある楽譜倉庫の扉を開けた。 ひんやりとした冷気が身体中に襲いかかってくる。 まるで冷凍庫のような寒さからは、この部屋で何年も眠り続ける音符たちの「奏でてほしい」という、悲痛な叫びを感じる。 奥の棚の上段に、お目当ての楽譜はあった。 やや背伸びをして引っ張り出すと、埃の煙の中から、一枚の楽譜が舞い降りてきた。 題名はなく、数十小節ほどの音符が手書きで丁寧に書かれていた。 何の曲だろう… 篤人は鼻歌でそのメロディを口ずさむ。 …初めて聴く曲だ。 誰かのオリジナルかもしれないと思いながら裏面を見ると、右下にコメントが書かれていた。 -香奈、今までた
2025/02/12 22:14