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  • エピローグ1-5 終わり

    着替えて、ギターを背負う。これからスタジオ。年中を抑えたままのスタジオ。いつでも使えるように、資金のほとんどがスタジオに費やされている。所有は嫌い。だから、高くても借りる。身軽なほうがいいのだ、飛ぶためには。 裏口を説得されて選択、そちらから外に帰還。 春の陽気。行き先だけを私に告げる端末でスタジオへの経路を調べる。立ち止まる私は数枚、撮影された。視線を送る。目を逸らした。ありきたりな光景。いくらかあなたの話題になってくれたら、幸い。一過性、見返すこともないのだから、腹を立てるのはナンセンス。取り合うべき対象は、曲である。 いつかのための帽子をギターケースのポケットから引き出す。黒いキャップを…

  • エピローグ1-4

    弦を弾く。声を紡ぐ。どちらも振動。 私ではないのに、笑えてる、聞き取ろう、あるいは自分にものにと、目を凝らす。 気づいて。 これは見せかけ、商売なのに。まだ、私に未来を見出してる。 何も与えない。それが私だ。 笑顔に埋もれた、一人だけ悟ったような顔を見つける。 どこかで見かけた人。 スタジオの人物だ、名前は知らない。 伝わってる、理解者が一人。これで曲は完成。救われたも同然。 披露はおしまいでいい。曲は生きられる。私も次に進める。何をしようか、これまでに歩まない道を進もうか。 笑えているか、おまえたちは。 私の笑顔で。鏡ではないのだ、そこに見出しているのは、いつかの、過去ではない、現在のおまえ…

  • エピローグ1-3

    「アイラさんが了承してくれるのなら、私が意見することなど……、断りきれなかった私に責任がありますから」カワニはまだクライアントに押し切られた打ち合わせを悔やんでいるらしい。自分以外に不手際の影響が及んでしまう、だからふがいなさが払拭されないのか。とって代われないのは生まれたときから決まって、わかっているはずなのに、スイッチの切り替えがとても緩慢。なんとも思っていない、私の言葉も半ば耳に届かずに一定方向に渦巻く流れをただただ水流が収まるまで待っているような構えか、アイラは鈍重な反応を示すカワニを切り離して、仕事に取り掛かった。 ステージの下見。先ほどの人物とは別の店員に案内されて、三階に降り立っ…

  • エピローグ1-2

    「いらっしゃいませ、……あっ、おっ、えっつと、ああ、こんばんわ」 「会場はどちらですか?」 「わ、私がご案内したしますです」 「お願いします」 お客の列を保つレーンに沿って店内を平静を取り戻しつつある店員に案内を頼む。私の声に気がついたのだろう、短い奇声が通り過ぎてから後頭部に刺さった。途切れた陳列棚の隣、ドアを押し開けた店員に先に入るように、促された。裏手。上下に階段。どうやら地下もあるらしい。 二階へ階段を上る。上りきってすぐに右に。事務室、室内の周囲という周囲を灰色の棚とロッカーで埋め尽くす。中央に個人用のデスクを配置、うずたかく各種の書類やCDが詰まれて、壁が見えるはずのスペースは歌手…

  • エピローグ1-1

    透き通った拡散の青空。週があけた月曜日。憂鬱な一日。今日は新曲のリリースイベントに借り出される、これから。クライアント側の意向、一度だけ販売促進のために曲を弾いて欲しい、との訴えであった。断ったはずだ、オファーを受ける段階において、力強く誠実に、断固として期待する反応や態度は見せられない、口をすっぱくして伝えたのだ。それでもやはり、人間は契約に無関心、というか破っても構わない、ある程度の許容を相手に委ねるずるがしこい気質を持っている。だから、打ち合わせ、つまり仕事を受けるか、否かの段階で相手に何度も契約以上の仕事を私にさせない約束を取り決めたのに……。本来なら、今日もスタジオで楽曲の作成に没頭…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談3

    スタジオを訪れる私。帰還。現実との境界線をまたぐ、ドアを閉めた。体臭の混ざった空気。窓を開ける。全開。コートは着たまま。前も同じような行動を取っていた、だけど記憶は曖昧。埃のかぶったデスクとPC、布でもかぶせておけば、埃を払う作業はベランダに出て、布をマタドールみたいに叩き落とせたんだ。後悔?それほど、落胆はしていない。次回の改善点、と受け止める。そうやって前に進んできた。目標はこの改善にかける。大げさに夢は掲げない私。 軋むデスクチェアに腰掛ける。ギタースタンドの傾斜は、安定性と部屋の隅において置けるギターの立場を考えて設計されたみたいだった。店の棚で踵を八の字に重ねる靴みたいに威圧的。でも…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-8

    「彼は懇切丁寧に証拠品を所有してくれている、彼自身の利益のために。どのような価値があるのか、被害者の遺伝子が事前に外部に漏れていた事実の明るみは、彼女の資産管理の不備を露呈してしまう。これは、管理側にとっては避けがたい。証拠は被害者の管理側から不透明な、おそらくカモフラージュされた、資金の流れを追うしか方法が後手に回ってしまった現状の打てる最善策」 「バッグを持ち去ったのは、敷地ではないのかもしれない、とも考えます」熊田はタバコを取り出して煙を吐く。いつもとなりで目を光らせる種田は煙に指摘の態度を表さないまま、虚空を睨むように、凝視してばかり。 「ええ、そうですね」美弥都は応えた。「特別室の利…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-7

    「忘れた事実が強化された。彼の証言に重みが増した」 「集めた吸殻の説明は?不自然では?タバコをもらうために敷地に続いて喫煙ルームに入った、余計に怪しまれる」種田は口は細く尖る。 「その場合は正直に被害者の要求に応えた証に吸殻をみせたはず、取っておいた理由は単純に本数を確認しておきたかい、健康上の返答を用意した、と思われます」 「あなたは空論を突きつけてるに過ぎなくて、これらは状況証拠。殺害を決定付ける証拠とはとても言い難い」種田は腕を組んだ、しかし言った傍から美弥都の説明を決定的に結論付ける可能性を探している、貪欲、あるいは探究心の賜物。美弥都は使用済みのフィルターを足元のダストボックスに落と…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-6

    「それは憶測に過ぎない、確たる証拠があって言って欲しいです」 「吸殻が消えた、という状況証拠は、吸殻がもともとなかったという起点から進められない捜査が原因です。手詰まりは、情報の少なさではない。捜査の捉え方に要因があったというべき。これは私にもいえます」 「もともと無かったのですから、探しても見つからない。仮に吸っていたとしても、それが喫煙ルームで吸われ、個人の携帯灰皿にしまわれたのであると、喫煙場所の特定に困難。しかも、一度調べられて解放された。確実に処分しているでしょうね、被害者との接触の証拠ならば。口紅がついていたのも、あらかじめ周りの女性にタバコを提供した事実を作っていれば、警察には疑…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-5

    「アイラ・クズミを自称とまではいかないが、倒錯しかけた人物に最初の話を聞いた。特別室の利用者であることを、その人物は否定していていた。財布にホーディング東京の会員証がありましたが、開場後に席につけたなら特別室の利用を回避しても不自然と言い切れない行動です。持ち物検査と事務的な事情を尋ね、すぐに店内にいた他の観客の下へ席を立った」 「次はどなたに?」美弥都はきいた。 「男女のペア。小柄な男性と細身の女性です」 「関心がないようですね、その二人には。あともう一人残っていますか」 「敷地誠也。被害者とは会話を交わした事実が報告されました。相手を観察する能力は高く、人を抜け目なく判断できる機能を有する…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-4

    「日井田さん、そこまでなさっていたのですか?」熊田が驚いて眉が上がる、声も高くなった。 「重力センサーや扉の開閉が行われない時に鳴らす警告音は、特別室という一つのゲートによってわざと機能を取り払ったようにも、思います」美弥都は熊田の質問には答えなかった。液体は雫となり、色を変えて滴り落ちる。カップに液体を移し変える、二人の前に差し出した。 「熊田さん、事実でしょうか」 「さあ、考えもしなかった」 「あちらに連絡を」 「先に殺害を企て実行に移した犯人をまだ聞いていないが、それでもか?」 「結局、誰が殺したのです?」種田が純真に尋ねた。 「事件を振り返りましょうか。被害者の健康、遺伝的な要素が絡ん…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-3

    「教える義務はありません。ボランティアでもありませんから。まあ、ボランティアは慈善事業よりも、隠れた上手なイメージアップやうまみが本来の姿です、適切ではないわね。訂正します」 種田はのらりくらり、美弥都の対応にさらに苛立ちをあらわす。 「受付嬢は被害者のバッグを想定したロッカーからすぐさま発見できない様子でした。これは、行動に及ぶ前に取り付けた監視カメラの映像を見返した刑事の発言です」熊田が説明を追加。私に話させるつもりらしい。 「事件の背景を複雑に見た理由がまさに彼女、受付の女性が特別室に残されたバッグを外へ持ち出す暴挙に出たことに起因します」 「殺害とは無関係のように聞こえますが」種田がき…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-2

    これはあらかじめ喫煙可能な場所を選んでいる、とも言い換えられる。また、飲食後の喫煙も無意識に胃袋を満たす行為に乗せた喫煙を抱きつくように貼り付けて、喫煙にいたる動機、そのプロセスを日々蔑ろに、考え捨てて、思考を麻痺させている、と美弥都は思う。そうならないために、美弥都は何度か自問を繰り返す。それは必要な行為で、この次のどの時間帯にまで喫煙が制限され、あるいは許可されるのかを、毎回吸う機会が訪れるごとに、尋ねるのだ。大抵の要求は反射的な行為、つまり過去の行動をトレースしているだけのこと、本来の要求は五割にも満たないだろう。あくまで美弥都の観測。しかし、考えることを考えると、行動の意味はあまり意識…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談2-1

    すっかり溶けるはずだった店長の思惑に反し、今日の雪はそれでも数センチの積雪、日中の気温上昇が手早くそして跡形もなく漆黒のアスファルトを覗かせるはず。今日を除いて、明日からはまた晴れ間が続くらしい、店主が早朝の挨拶に乗じて外の天候に文句を言うついでに日井田美弥都は外部の情報を吸収し、それらを現在の景色に活用してるところである。 学生の一段が二階席にたむろしてから一時間弱、数分前にぞろぞろと個別の会計をレジにて申請、一人一人にレシートとおつりを手渡し、静けさに包まれた午後。カウンターのお客は一人だけが残り、その人も、私がレジに立ったのを見計らってか、気を利かせるように席を立ち、見事に店は私一人の空…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談1-2

    「失礼します」 「タバコを吸っているぞ、気にならないのか?」彼女は喫煙者とその煙に嫌悪を堂々と表情や態度に出す。 「日井田さんにお話を伺いたいのです」 「彼女にはもう、迷惑は掛けられないさ」 「納得できない箇所を私は消化しきれていない。お願いします」 「一人で行くべきだな。非番の日に」 「休みは来週にならないとやってきません。それでは遅い」 「私が同伴する必要はないように思うが」 「私だけでは彼女は発言に踏み切らないでしょう」 「……雪は止みそうだろうか?」 「ええ、いつかは止みます」 「そうか、タバコを吸うまでとはいっていなかったか」 「なんのことでしょう?」 「こっちの話だ」 「お答えを」…

  • ご観覧はこれにて終幕、余白と余談1-1

    東京出張の翌週、金曜日。休日を数えて三日、部署をあけた埋め合わせに部下の相田に休暇をとらせた。前日にもう一人の部下の鈴木を休ませ、熊田と種田は平常どおり何も起きない、平穏無事な午前を過ごした。書類に数枚目を通して判を押す。部長のデスクに溜まった書類入れの容器に数十枚、了承を待つ用紙の束が重なる。しかし、これも気がついたときには姿が消えている。我々が席を外す時間帯を狙って仕事を片付けているらしい。風の噂だ。代理人の仕業でも、こちらには影響がないのだから、特に不平を漏らす傾向を持ち合わせる人物はこの部署には在籍を許されていない。それに部長は何かしらの行動を起こしている事実は、彼に捜査依頼を受けるこ…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた5-5

    「納得できません。未使用のロッカーならば、扉は簡単に開けることができる、発見される危険性の高い場所に犯人が隠していたとは思えません」種田は投げつけられた結論、熊田が導き出した結論を捉えきれずにいる。 「だが、警察と我々は見逃した。たぶん警察は見つける、見つかってしまっても構わないだろうと、犯人はあまりバッグの発見には危機感を抱いていなかったんじゃないのかな」熊田はうそぶくように言う。 「どういうことです?」 「あくまでも憶測だが、被害者のバッグを移動させた人物と殺害を企てた犯人は異なる」 「……」無言で種田は機体の揺れが引き起こす、紙コップの荒波を穴が開くように凝視。 「それぐらいしか、受付嬢…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた5-4

    「熊田さんの困惑の焦点はそこですか?それでは、昨日受付に掛けた連絡の目的は?」意外な熊田の引っかかり。 「ロッカーの高感度なシステムさ」熊田は胸ポケットのタバコを取り出そうとしてから、機内を思い出し、コーヒーに手を伸ばす。「被害者自身かそれとも特別室の観客がバッグをロッカーに入れたんだよ、ロックを掛けずにね」 ロック。ぐるぐる糸が断線の悲運を誘発するイヤホンケーブルのように絡まる、それが熊田の一振りで結び目のないまっすぐな線が重さに従い互いを弾く、イヤーピースがお披露目。 熊田は窓を見ながら急降下に陥る種田を尻目に淡々とそしてかつてないほど饒舌に、コーヒーを傾けては論理の展開を伝えた。 「壁一…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた5-3

    「うん。バッグは、アイラ・クズミのライブが始まる前に、何かしらの方法により、会場の外へ運び出された。ところが、被害者の異変を察した我々が観客の動きを止めた二曲目に、バッグの姿は彼女の近辺を既に離れていたことになる。現にライブが始まってしまうと、観客はたとえチケットを持っていても、途中で会場内に入ることは禁じられている。受付の二人が誰も中に入れていない、そう証言をしていた」 「敷地誠也の喫煙ルームにおける接触、彼の証言に食い違いが見られたとすれば、バッグが彼の手に渡る。そして、彼は、所持品検査が行われた特別室に連れられる時間内にバッグを消し去った……、納得のいく解説は、正直お手上げです」種田は横…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた5-2

    「メニューの変更が仮に行われたとして、エレベーターで運ぶ食事の皿を給仕係は、まぎれた特殊な皿をどのように見分けたのか。いまからそちらに送る、というインカムを通じたやり取りが行われたのですか?」 「同じ帯域で無線は飛んでいた、必ず一階の二人の係りに聞こえているはずだ。もしそういったやりとりがあったのならな。それに、事前の打ち合わせで何番目のどの順番で皿を運ぶかを決めていた、とも考えられる」 「しかし、毒、あるいは毒のようなものは見つからない」種田は、手元の紙コップを持ち上げる。まだ温度が高い。 「これら二つの要素から導かれる死亡の要因は、彼女、被害者が特定の食物に対してのアレルギー反応を発症する…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた5-1

    機内。北へ帰る午後一の便に熊田と種田は搭乗。二人は昨日、命じた指示の待つためにホテルを出た時刻はチェックアウトぎりぎりの午前十時。移動と空港内のカフェで時間を潰し、チケットの刻限の間に合うように熊田に連絡がもらされた。空席が目立つ機内、登場口で連絡を受けた熊田は意図的に言葉を忘れた態度を取っているように思う。腑に落ちない点が捜査状況に含まれていたのだろう。恐ろしく険しい皺を眉間に刻んでかれこれ三十分は経っている。その間に種田は、待ちぼうけを食らう始末。事件は解決したのか、それとも思惑通りの結果報告ではなかったのか。考え尽くした、睡眠時間を削って可能性を探るが、種田は未だに納得する回答を選らず、…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた4-3

    よし。 ここからはスピードが命だ。片っ端からロッカーにカードキーをかざす。 左上は踏み台を使って、腕を引き伸ばす。焦りからか、息が上がった。 言い聞かせて、焦る私を宥めた。腕時計を見て時間を確認。まだまだ二十分もある。約束は十一時。 ない、見当たらない。空だ。空っぽ。 くそっ、どこに入れたんだ。 コートを掛ける縦長のロッカーも何もない。開かない扉は昨日の日付と日時が二センチ四方のパネルに表示。 下段。ここでもないか。 右側だ、焦るな。良く考えるんだ、何も正直に上から調べることはないのだ。取り出しにくい下段に、あえて隠していたのかもしれないぞ、冴えてる。 私は鳴らない指を弾いた。はいつばって、右…

  • やっと、事件のほころびに手が届いた4-2

    歩き出す、入ってきたエントランスを離れる方向へ進むと突き当たりの階段で一階に下りて、進行方向を変える、今度は一階をエントランスへ目指した。手のひらが汗ばむ。生唾を飲んだ、これで二回目。 向かって右手のドアを押し開けて中に進む、誰もいない、私は立ち止まって階段を見上げた。踊り場に上がる、さらに見上げる、大丈夫、こだますのは私の渇いた足音だけ。ここは少し寒さを感じる。 受付入り口に辿りついた。いよいよ。ガラスを覗くが、もちろん中に人はいない。一階でもらった入館証をパネルにかざす。ホーディング東京の受付に通じるこのドアは、入館証とパスワードによって開かれる。受付自体に金銭の取り扱いはなく、チケットの…

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