いつも小説をお読みいただきまして、ありがとうございます。作者の阿弓晃子です。さて、大変申し訳ないのですが、小説の更新をしばらくお休みさせていただきます。理由は、お恥ずかしいですが、後半部の構成の見直し・やり直しのためです。ラストの内容は決まっているのに…本当にすみません。今のところ、再開は7月頃と思っております。こちらのブログでお知らせします。その間は、たま~にこちらやツィッターで何かつぶやいているかもしれません。このような状態ですが今後ともよろしくお願い申し上げます🙇【おわび】小説お休みします
「これ早く削除しない?フクちゃんにも言ってさ。削除してみんなでお祓いを受けた方がいいんじゃない?」しかしオミさんは、「いやもったいないでしょ。もう少し研究したいし。俺はいいから、みんなはお祓い受けといでよ」「何のんきなこと言ってるんだよ!霊がついてるのが誰だかわからないから言ってるのに…」俺もちょっと言ってみた。「もしかして、家に憑いてるんでしょうか?」オミさんとカイさんは一瞬考え込んだが、「いやこれまでこういうことはなかったし…」「そうだよな。事故物件でもないし…」なんだか全然正解が見えない。結局は本人でありリーダーであるオミさんが決めた。「とりあえず1ヶ月だけは様子を見ようよ。どんな風に育つかまず見よう。動画に使えるかもしれないし」「いやいやそんな…」とカイさんはまた止めたが、「何かあったら、塩を撒く...59.のんきな?オミさん
予想通り次の朝、オミさんは疲れた様子で帰ってきた。「オミさん朝ごはんは?」「ごめん。いい。カイくんが来たら起こして」と、プライベートルームに入っていくオミさんを見送ってから、俺はオミさんが無事帰ってきたことに気づいてほっとした。オミさんがシャワーから上がったところでカイさんがやってきたので、3人で例の写真を見せ合ったのだが…「ええっ…?」俺は自分のスマホの画面を見て声を上げてしまった。写真には、昨日にはなかった白いモヤが現れており、オミさんを取り巻いていた。さらに画面写真右側はモヤがオレンジ色になっていた。そして、オミさんの肩を掴んでいた手が全くなくなっていたのだ…それを見て、オミさんもカイさんもびっくりしていた。オミさんの写真は昨日と全く同じ。カイさんの写真は電話で聞いた通り、肩に手などなく、怪しいとこ...58.育っている心霊写真。
まあ大御所とか言っても俺からしてみればこれの何が面白いのか、っていうチャンネルはいくつもある。そして我が〈礼霊ず〉にもやっぱり長所も短所もあるわけで…俺は編集のことだけでなく撮影のことか色々覚えなくてはいけないと思ったのだ。…しばらくして疲れたので、よそのではなく、〈礼霊ず〉の第2回目の動画の研究をすることにした。オープニングで並んだオミさんとカイさんは、まだまだ撮影地の説明も慣れていない感じで可愛い。などと思いながらも、頭のどこかではカイさんからでも電話が来ないかなと願っていた。さっきの写真はやっぱり怖い。そんなところにカイさんから電話が来た。俺はスマホに飛びついたが…―ダイキ君、写真見たけどオミの肩の上に何も写ってなかったよ。写真取り違えてない?俺は驚いてしまい、ロをパクパクさせるしかできなかったが、...57.届かない生き霊
「やっぱりこれはカイに見せなきゃだな。明日来てもらおうか?そうだ、ダイキ君、この写真、カイ君に送っておいて」俺は恐れおののいた。「カイさんのスマホ、霊障で壊れませんか?オミさんのも俺のも心配ですよ」「壊れるとしたら俺のだから大丈夫だよ。俺についてる霊なんだから」その時、チャイムが鳴った。タクシーが来たのだ。「ダイキ君、その写真、絶対に削除しないでね」そう言いおいて、オミさんは急いで出かけていった…自分のスマホとはいえどう扱ったものかと悩んだけれど、電源を切ったら2度と起動しなくなるんじゃないかと思い、切らなかった。怪奇現象や霊障のひとつとして、電子機器の不具合や故障があるからだ。それが心配で、スマホは会社のネットワークからは外した。ああは言われたけれど、俺としては心配だし、何よりひとりでこの家にいるのが怖...56.お留守番は生き霊と?
俺はこれまでいろんな動画やテレビで知ったことを思い出そうとしたが、「データの削除、ですかね…あと、デジタルものってお祓いとか霊能者とかはどうなんだろう…」それぐらいしか思いつかなかった。するとようやくいつもの調子になってオミさんが、「削除なんかしーない、っと!」と、瞳をキラキラさせて言う。そして、「この写真、俺にもちょうだい」「ええっ?」「なかなかこんな体験できないじゃない?心霊YouTuberといえどもさ。勲章だよ」「じゃあ、オミさんが外出から無事に帰ってきたら」「何それ」「だって外出の間、呪いで何かあったら…」「大丈夫だよ。俺は心霊YouTuberなんだから」そして、そのまま、オミさんは俺のスマホから自分のスマホにその写真を転送してしまった。「やっぱり手があるんだよなぁ…」55.オミの勲章。
もしかすると華島さん?実は、落ちぶれた華島さんをオミさんの方から捨てていて、それをずっと恨んでいるとか…「俺、自分がこうなるとは思ってもみなかった…」いつも頼もしいオミさんも、なかなか落ち着きを取り戻せてないようで、俺なんかはずっとパニックだ。「…こういう時ってどうすれは良かったんだっけ?…」「ええっと…」54.生き霊パニック
俺は、自分でチェックする前に、ドキドキしながらオミさんにスマホを手渡すことになってしまった。「同じアングルで撮ったんだ…変えても良かったのに…もう少し近くに撮っても…」などと言いながらじっくりと写真を見ていたオミさんが、えっ?とかすかな声をあげた。「何かありましたか?」俺は真っ青になってしまった。「これ、この2枚目…」のぞき込んでも、俺にはわからなかった。しかしオミさんは写真から目を離すことなく、「俺の肩、右の肩に、何かついてない?」「…えっ?」…これって…「…手、だよね?…」「そう、ですね…」…信じられないが、どう見てもオミさんの肩には何かがある…というか、人の手が置かれている、というか、手が肩をつかんでいる。オミさんも俺も言葉を失うばかりだった。何しろこの家にはこの二人しかいないのだ。それにオミさんが...53.オミに生霊
結局オミさんは応接室のソファに、腰掛けてボーズをとってくれた。同じポーズで俺は、一番俺が苦手な真正面からのフラッシュ使用で3枚撮らせてもらった。「もういいよお…で、どんな感じに撮れたの?」52.フラッシュ使用
カイさんを見送ってからも、オミさんは何だか所在なげだった。「オミさん、そろそろ出発ですか?」「うん…それが、タクシー頼んだら到着まで30分て言われて…」そこで俺は思いついた。「オミさん、良かったら今、写真を撮らせてもらえませんか?俺室内とかフラッシュ使っての撮影苦手で。自分のスマホなんですけど」するとオミさんは目を丸くして、「えーそうなの?」とは言ったが、叱られはしなかった。「でも…いやあ…何だか…いいよ…こんなスーツ…俺らしくないし…」と、もじもじしているので、「じゃあ、新人のカメラ指導と思って…カッコ良く撮りますから、麻里華さんも喜びますよ」「やだ!絶対見せない!」なんでだよ…でも、オミ社長はなんかいい人だ。今のところまでは。…それにしても、華島さんの情報、うっかりでももらしてくれないかな。51.恥じらうオミさん
「小さいお杜があるだけだから撮れ高が心配なんだよね…雰囲気はあるし、実際俺も具合悪くなっちゃったんだけどさ…でもダイキ君は大丈夫だったし」「まあ、撮るだけ撮っておいて、イマイチならお正月特集に使ったりしてもいいだろうし」「…そうだ、昼間の骸骨探してみようか」「ああ、それでもいいかも。フクちゃんは昼間ダメかもしれないけど」そしてカイさんは時計を見ると、「ダイキ君、機材の片づけ頼める?」「はい。大丈夫です」と、俺が答えると、今度はオミさんに、「悪いけど、今日はちょっと用事があるから帰るわ。オジサン達の接待よろしくね」と、いたずらっぽく笑ってドアに向かったが、「カイくん、バッグ忘れてるよ!」「あ、ごめんごめん、俺としたことが」「気をつけて帰ってね。今日はありがとう」そしてまた笑顔でカイさんは帰っていった。…うー...50.カイさんのバッグ
いつも小説をお読みいただきまして、本当にありがとうございます。さて、大変申し訳ございませんが、作者都合(病気でも更新はしたいというわがまま)によりまして、1ページに2~3行しか書けない場合が出てきそうです。本当に申し訳ありません。小説は続けてまいりますので、よろしくお願い致します。【おわび】作者のワガママですが…
「ああ、おかえり」カイさんと俺が戻ると、オミさんはカッコいいスーツを着てウロウロしていた。どうだった、とオミさんが尋ねたのをさえぎるようにカイさんは、「あれ、そのスーツどうしたの?随分かっこいいじゃん」するとオミさんは不満そうに、「無理やりオーダーで作られちゃったの」すると、カイさんは面白くて仕方がないといったように笑いながら、「え?もしかして淡泊な方のおじさん?」「ううん、しつこくて激しい方のおじさん」「まだいたんだしつこい方のおじさん」オミさんはロを尖らせてうなずいた。しかしまだカイさんは、「そういえばしつこいおばさんの方は?」ボタンを気にしながらオミさんは、「ん?旦那さんにバレちゃって海外に飛ばされたみたい」俺はちょっとざわっとした。これって例の枕営業っていうやつではないだろうか。いやオミさんはいい...49激しいオジサン
「いやあ、俺に何かできるのか…」「いやいや、そういや頭の片隅に置いておいて、としか確かに俺にも頼めないなあ…」「は、華島さんの問題は…」「うん、まあ、オミはあの人とステージでチューとかしてたから、ファンには喜ばれてたっていうけどね。それが語り継がれてるのかなあ…」あと、ススキノのホテルの部屋は、華島さんと二人だったって聞いたけど…オミはススキノとかから華島さんをかついでくる役だったし、ツアーの予算不足で、主役も一人部屋にできなかったんだろ…俺は、カイさんの話に違和感を覚えた。札幌でしかライブに参加していない俺は、ベーシストだったオミさんと華島さんのチューなんて見ていない。見ていたら、絶対に覚えていると思う。帰り道、車の中でカイさんは、「神社で体調悪くならなかった?」言われて思い出した。心霊スポットとその周...48.華島さんのプチ情報ゲット
俺は驚くしかなかった。しかしカイさんは苦笑いをして俺を見るばかりだった。「…なーんてね…でも、やっぱりオミが前面だから、〈礼霊ず〉は上手くいってるでしょ」と、いたずらっぽく笑って、この話は終わりになったようだった。「ダイキ君、コーヒーでも飲まない?」「すみません、気がつかなくて」俺はほっとして、ドリンクバーに向かった。…席を離れてから、俺が意外に思った、というか残念に思ったのは、クールでストイックと言われるカイさんが、歩いてくる女性にチラチラと視線をやっていることだった。手をつないでいるカップルの女の子の方にも。俺が席に戻って、2人でコーヒーにロをつけてからもカイさんは…もちろん俺は不快さを押し隠していたのだが、カイさんは気づいたらしく、「ごめん、いや、みんな麻里華ちゃんのデザインしてる服に似てたから…そ...47.オミのウェディングドレス?
ただ俺は、その時、「オミに前面に出てほしい」って言ったの。リーダーとかメインとか。チャンネルの看板のイケメンとして動いてくれなきゃ俺はやらない、って。「…でも、今は二人でメインですよね?」「…うん…でもリーダーはオミでしょ?」「あ…そうですね…」俺は照れ隠しに、「で、なぜ音楽チャンネルじゃなくて心霊にしたんですか?」「二人で映像制作会社を経営しながらできるから。今なら色々わかるけど、当時は音楽ジャンルの料理のしかたもわからなかったし」…諦めたばかりのことに、向かい合うのもつらいですよね。すみません。「それに、オミはホラー、俺は日本史好き。それを生かして動画を作り始めたんだ。〈礼霊ず〉としてね」…そこで…カイさんの微笑みに…こういうところでは普通、安心しても許されると思うのだが…「…でも…」「えっ?」「俺は...46.地獄の果てまで、オミを。
「…そして華島さん本人からは、次のツアーも頼むね、って言われてたのに、病気ということでで事務所を辞めてそれっきり…マネージャーさんともね」…オミが電話しても、「おかけになった電話は」になっちゃうし。他力本願と言われればそれまでだけど、もう売り込みもあてがなくなってて、心が折れてしまってバンドは解散。もうオミと俺も、音楽はやめてしまったよ。「おかげでバイトが増やせたけどね…何の目標もなく、つらかった。同じ街だけど、実家に戻るのは嫌だったから、よくオミとお互いの部屋に行って、テレビとかYouTubeとか見てゴロゴロしたり…」で、流行りのYouTubeでもやってみようかってことになったんだ。45.心、折れて
…20代も後半になって、インディーズの音源も売れず、プロデビューなんてとんでもなく、俺たちは本当に焦り出した。バンドを拾ってくれる事務所なんてのも現れなかった。俺はオミと一緒だからどうにかやってこられたと思う。結局30歳になるまで、バンドは続けることにした。そんなある日インディーズの社長に、話があると言ってオミは連れて行かれた。オミが遅く帰ってくるとびっくりだった。オミにプロのアーティストのツアーメンバーになって欲しいという。ベースがうまくてルックスがいい人間がほしいということで、オミだけ華島さんの何回目かのソロツアーのサポートに誘われたんだ。バンドのメンバーはもちろん賛成だった。どんなきっかけでいい話が転がり込んでくるかは分からない。こうしてプロの世界とコネができていれば、デビューのきっかけにでもなるか...44.オミの指一本
「なぜ…ですか?」「アイツはもともと慎重なヤツだし、その頃は、俺もそうだったけど、オミも青かったんだと思う。バンドの切り込み隊長になる自信も、バンドを背負う自信も持てなかったんじゃないかな」…でも、一番人気が出たのはやっぱりオミだし。オミと俺ばかり女の子に騒がれたり、プレゼントもらったり、先輩に誉められたり。それは大学生バンドになってからも変わらなかった。ボーカルもすごくうまかったし、ドラムもそうだったんだけど、ギターとベース以外いわゆる華ってやつがない。ずっとそう言われてやってきた。全然、プ口になれそうな気配はなくて。ボーカルとドラムは卒業と同時に就職しちゃったし。親をごまかせたオミと俺だけはバンドを続けることができたけど、あとは何人メンバーチェンジしたことか…43.残酷な〈華〉
「いやいや、ダイキ君、それ聞いちゃう?」カイさんは複雑な笑みを浮かべたが、うつむくと少しずつ話し始めた。…オミとバンドを組んだのは高校1年の夏休みだった。オミはベースだったけど、ボーカルもできた。俺はギターで。メンバーは全員もうすでに中学の時にバンド経験があったからよかったんだけど…「一番ルックスがいいのがオミだから、オミをボーカルにしようと、何となくみんなで思ったんだ」それで、オミにみんなで言ったんだけど、オミは固く辞退した。みんなで何回も頼んだけど、無理だって断る。やっぱり説得は俺だろうと思って、行きなれたオミの家に行って長々と説得したけど駄目だった。「オミは何ていうか、オーラもあったから絶対どこでも通用したと思う。オミだって、プロを目指していたんだし、俺もそうだし。だから、最後は、俺をプ口にするため...42.オミ君、お願い。
「カイさんに何か縁のある神社なんでしょうか?」「いやあ、親父たちからも聞いたことないなあ。でも何か親近感は覚えるよね」他の字はもう読めなかったので、気を取り直して、検証というか下見というかを始めた…と言っても俺の機材の使い方をチェックしてもらう時間の方が多かった。実はカイさんたちが思っているほど心霊チャンネルを見ていない俺なわけだがカイさんは丁寧に、夜の撮影で先を歩くメンバーの写し方などを教えてくれる。「編集の練習も頑張らないと…」俺のつぶやきに、カイさんは笑顔で応えてくれた。「この先は夜の本番だなあ。でもお社のほかに特に何もないからなあ…あとはオミに相談だな…」ということで、俺たちは帰り支度を始めた。帰りも骸骨や白い人は現れなかった。遅いお昼は、俺のリクエストでファミレスのハンバーグ。ちょっとお高めの店...41.苺パフェがトリガー
階段を上り終えると、「失礼します」カイさんにならって、俺も鳥居の前で一礼して、境内に入った。こういう場所に相応しく、どんよりとした曇り空だった。社殿は崩壊こそしていなかったがものすごくさびれていて小さく、鈴も鈴紐もずいぶん古く見えた。賽銭箱はなかった。扉の格子からそっと中をのぞいてみると、男二人が座るのがやっと、の広さのように見えた。床にはかなりホコリもたまっていて、神具のようなものがニ、三個ほど転がっていた。「ご神体もなさそうだし、本当に廃神社なんだな」振り返るとカイさんは、今度は社殿の脇の石碑をじっくりと見ていた。「あれ、高井神社って書いてあるんだ」高井といえば、カイさんの苗字と同じだ。近づくと俺にもどうにか読めた。このように神社の名前が書いてあるこういう石碑は〈社号碑〉と言うそうだ。40.初めての廃神社。
そんな恐ろしい霊が…出会ってしまったら、俺はどうすればいいのか…「かなり手前でいつしか消えるとはいうけど…俺も写真はネットで一回しか見てないけど、目撃談とは違って、頭が髑髏ではない感じだった」「…というと?」「怖い顔の幽霊。白い着物は着てる感じだったけど」そして、カイさんは、「何か、かなり昔からの霊かなって個人的には感じたけどさ。鎌倉時代とか」でも、現代人でも死に装束は白い帷子だしなあ、と付け足すと、ごめん、そろそろ行こうか、とカイさんは機材の入った黒のリュックを持ち上げた…思い機材を持っての山道は結構きつかった。傾斜も厳しいが、道が広めとはいえ、右手の崖、鬱蒼と生い茂った草木が嫌で嫌で仕方がなかった。見ると来るとは大違い、といったところだ。そして…本番は夜…務まるのかな、俺…でも、涼しい顔で歩いていくカ...39.現場はきついよ。
「そうですね…」俺もしみじみそう思った。「それじゃあ、〈ず〉は?」〈ず〉かあ…カイさんは面白そうに笑い、「オミとカイで、絶対に解散しない二人、ってところかな。でもフクちゃんも手伝ってくれるようにもなったし、ダイキ君も入ってきたしな。仲間が増えるいい名前なのかもな」と、俺に笑いかけてくれた。そして、カイさんははっとして、「そうそう、心霊のこと。ここで何より一番特徴的なのは、昼間、その山道をふらふらと骸骨が歩いていることがあるんだって」俺は、弱すぎと思われないように何か言わなければと、「え?首だけじゃないんですか?」「うん、髑髏だけじゃなく、全身骨で。ぼろぼろの、もともとは白だったんだろう帷子(かたびら)を身にまとった骸骨がよろよろと歩いてくるんだって。でも、髪もまだ抜けきってないってさ…」38.さまよう骸骨の話
「ここは特徴的な霊が出るんだよ」と言いさして、また急いで別の説明を始めた。「そういえば、〈礼霊ず〉の由来って話してないよね?」「あ、はい」「今となってはなんだかダサいチャンネル名なんだけど、まずすぐに心霊ものだってわかるように霊の字をまず入れた。礼って字は俺が提案したんだけど…」見えなくても、出会っているかもしれない霊に対しても礼を尽くしたい、ということだそうだ。「悪霊のことまで考えるのは忘れてたんだけど」と、カイさんは笑い、でも、もとは我々人間に関わった存在なんだから、ご挨拶くらいはした方がいいと思うんだ」37.カイは礼を尽くしたい。
「怖いものなし」と言われるカイさんが怖いというのだから、俺は少し身構えた。それにしても、どうして来てからそんなこと教えるかなぁ。「まあ夜に、髪の長い白い着物の女性、っていうのはよく聞く話だけど、ここにもその話はある。あとは斧とか鎌をを持った昔の人、着物の男性を見たって言う人もいる。そして昼は…」「昼も何かあるんですか?」「ああ。心霊写真でも、昼なのにはっきり霊体が写ってるのってよくあるだろ?ここもそんな感じなんだ」動画やテレビでしか心霊写真を見たことのない俺にはまだピンとこなかったが、「今日は自分のスマホで撮影していいから。あと、撮ったものは帰って3人でチェックが終わるまで絶対に削除しないで」と言われて、自分のスマホに心霊写真が残ったり、残されたりするのかと思うと初めて心から怖くなった。心霊YouTube...36.カイさんの優しい指導
きっとその辺りで二人はバンドを始めたと思うんだけど、そこから先のことは話してくれなかった。でも、笑顔で「そうそう昼飯何がいいか考えといてね。約束どおりデザートもおごるから」あんまり高いものはおごれないけど、とカイさんは大笑いした。ハンドルを握るカイさんの指の細さと白さ、美しさに俺はびっくりする…目的地近くの駐車スペースに車を止めると、カイさんは左手の急な斜面を指さした。「あっちを登って行くから。俺も初めての場所だから自信ないけど」そして、二人で車から機材のバッグを下ろした。まだ昼間だけれど、俺のには夜の練習も兼ねて、ライトなんかの夜用の機材も入れてある。ところが、荷物を担ごうとしたところで、カイさんはとんでもないことを言い始めたのだ。「ここは俺も初めてで、情報を調べただけなんだけど、かなり怖いところらしい...35.今さらカイさん…
オミさんが帰ってきてないと言っても、カイさんは別に困った様子はなかった。何かあった時のために、お互いに合鍵を持っているのだという。「じゃあ大輝君、ロケ練習に出かけよう」カイさんの車に、カメラや三脚やポラロイドカメラなんかの機材を積み込んで俺たちは出発した。助手席に座ってしまうと、そこまでで安心してしまったのか、俺はぼんやりと考え込んでしまった。オミさんと麻里華さんとの、仲睦まじい姿がよみがえってくる。恋人っていいな…俺も華島さんと、ラブラブになれたらいいのに……あんな…酷い夜は無かった…ことにして……そこで我に返った俺は、上司であるカイさんに、話しかける必要があるのに気づいた。…とは言うもののまだ出会ったばかりで俺は何を話したらいいのかわからない。それを察したのかカイさんの方から色々話してくれた。「オミと...34.オミとカイの「出会い」
その時、カイさんがオミさんの背中に向かって尋ねた。「オミくん、俺、大輝くんの部屋に泊めてもらっていい?」「いいの?そうしてくれると助かる。まだ大輝くんはここに慣れてないから」「ありがと。じゃあ大輝くんと明日の打ち合わせしてるよ」いかにも王子様とお姫様みたいな2人が行ってしまうと、「さあ大輝くん、特訓だ!」と、カイさんは俺を隣の部屋へ連れて行った。「…そうは言ってももうこんなに遅いからざっくりとだよ」と言って、明日行く廃神社へのマップを見せて色々説明してくれた。さらに、俺の実際の撮影に備えて、練習に機材を持っていくことにしていた。のでそのバッテリーをチェックしたり、動作確認をしたりした。「とにかく、機材が重いんだわ。今回は、フクちゃんと大輝君もいて4人だからかなり楽だけど」人より少し力はあると思う俺だけど、...33.ロケ練習前夜
麻里華さんはこの家によく来ていたのだろう。「…それじゃあ、仕事場以外を見ても…いえ、倉庫とオミさんの部屋だけ見せて…」倉庫というのは物置部屋兼の俺の部屋らしい。オミさんは慎重に、自分はドアノブにも触らず、麻里華さんにドアを開けさせた。当然俺の部屋に誰かいるわけはない。麻里華さんが電気をつけて中に入っていくと、オミさんは、押入れの中を見てもいいよ、と言ったが、麻里華さんはそこで動かなくなってしまった「ごめんなさい。変なことして…」いや、とオミさんは何か言いかけて、「俺の部屋はいいの?」「うん。もう…本当にごめんなさい」そんなやり取りが続く中、カイさんは応接室に残って、立ったままあらぬ方をぼーっと見ていた。「変なことばかり言ってごめんなさい。私とつきあってるオミさんが、男の人となんて、ある訳ないものね」いや、...32.いい加減にしてオミさん
オミさんは落ち着いて答えているようだった。「前にも言ったじゃない。別に俺はあの人とはもう会ってもいないし。ツアーの時はお世話係をやらされてただけだし…」「でも…次のツアーに採用されたければ…とか言われて…無理に…って…」…それって…何なんなんだよ…俺は言葉にできない、でも激しい感情を抑えるのに必死だった。「そんなの嘘だよ。安心して…そうだ、送ってくよ。途中でお茶してもいいし」かたくなになってしまったような麻里華さんはカイさんと俺の目を気にしながら、かすかにうなずいた。その時、カイさんが助け舟を出すように、「麻里華ちゃん、心配ならこの家、今全部を取りあえずチェックしてみたら?そのためにこうして抜き打ちで来たんでしょ?」ためらいながら麻里華さんはうなずいた。オミさんも、どうぞどうぞ、と言うが、怒りのあまりパソ...31.消えないウワサ
インターホンに出たのはカイさんだった。「オミくん、麻里華ちゃんが来た」オミさんは慌てて電話を切ると、玄関で麻里華さんを迎えた。「どうしたの?麻里華ちゃん、急に…」オミさんの彼女だという麻里華さんは本当に綺麗な人だった。長く美しい黒髪で…涼やかな切れ長の目元が少しカイさんに似ているような…突撃の理由はわかるような気がするが、ヒステリックでもメンヘラでもない感じだ。きちんとした彼女が当然のこととして、オミさんの浮気の噂を聞いて、確認しにきた、ということだ。「オミさん、彼氏と一緒に暮らし始めたって本当!?」「ううん、俺、男の人とはそうならないよ。何でそんな話が…」「フクちゃんの店で、隣りに座った女の子たちが話してた」「いや、新入社員は札幌から来たよ。この人」いきなり言われたが、俺はきちんと自己紹介した。オミさん...30.オミさんと俺の危機
オミさんは苦笑いして、「でもどうしてそれを…?」今度は母の方が困ったような顔で、「ごめんなさい、色々心配で、オミさんのお名前をネットで検索したの。そしたらオミさんのお名前がかねもとさんのホームページに出ていて、さらには社長さんにお顔がそっくりなので、確信したんです…」「いえ、僕は隣りのおじさんにそっくりですので、気にしないでください」気にしないって何?というカイさんの突っ込みにみんなで笑った…「…すみません。俺に信用がないばっかりに…お二人に失礼なことばかり…」両親が帰ると俺は二人に謝った。しかし、特に怒られはしなかった。「いや、お会いできてよかったよ」「大輝が幸せに育ってきたってわかってよかったじゃん」その時、オミさんのスマホが鳴った。「あ、フクちゃん?どうしたの?」フクちゃんというのは、〈礼霊ず〉のレ...29.オミさんの男の愛人?
するとカイさんが、「そればかりではなくて、若い人の感性も知りたい、というのもありまして…それならすぐ、大輝君にもできると思うんですよね」「大輝、どうする?本当にお前はここでやっていけるのか?」突然の、父の前向きな言葉だった。驚いたが、俺は、「やります。頑張ります」と、とっさに答えていた。そして、さっさと、オミさんとカイさんに、よろしくお願いします、と頭を下げていた。両親も二人に頭を下げ、俺のことを頼んでくれた。嬉しかったが、少し緊張がほぐれた感じで、みんなに申し訳ないのだが、疲れがじわじわと広がってくるような気がした。場の雰囲気がなごんだところで、笑顔でカイさんが、「明日は大輝君と二人で現場の下見なんですよ…」と言うと、両親は楽しそうに聞いていたが、母がいきなり、「オミさんは、かなもとフーズの御曹司なんで...28オミさんは御曹司?
オミさんがロを開く前に、今度は父がオミさんたちに、「あなた達の動画はいくつか拝見しました。同じ業界?の他の人の動画も見ました。それで、お二人の、〈礼霊ず〉さんの動画が、何ていうか、中でも優れていることは、素人目にもわかりました」「…ありがとうございます」…お二人を恐縮させてしまった…「ただ、それだけに、甘やかした一人っ子のこいつが通用するとは思えないんです。もしクビになったら、こんな広い東京で…」「いや、それはないです。何かありましても、まずは解雇ではなく、動画の作業を、北海道でリモートで作業してもらうことにできると思います」俺は、初めて聞く話でびっくりしてしまった。「ではなぜ大輝君に今ここにいてもらうかというと、動画の撮影もやってほしいのと、動画の編集を私たちと一緒にやってもらって、今の〈礼霊ず〉の動画...27.オミ社長ありがとう…
「…それに社長さんと専務さんの髪の色も…」確かに社長は金髪で、カイさんは透明感のあるプラチナブランドだ。「母さんそんな言い方…」と言ったところで、父が別の角度から攻めてきた。「今の会社に迷惑をかけてるのに、それで偉そうに社会人なんて言えるのか?そんな社員なんて、どこでも願い下げだろう?」俺には言葉もなかった。それでこんなことを言ってみた。「だいたい俺なんか入ったばかりの新人だし、話が違って映像制作ではなくて、苦手な営業にまわされて、使えないとかさんざん言われて、人より残業してるし、そんな俺がいなくなっても会社に迷惑をかけているとは思えない」「そりゃそうかもしれないが、直属の上司とかチームは迷惑してると思うぞ」「……」「せめて一回帰って、直接謝ってきた方がいいんじゃないか?」「嫌だそれは…」それをすれば、も...26.帰るか、地元へ。
その日からしばらくは本当に大変だった。退職代行業に頼んで在籍していた会社をやめる手続きを始め、そこに、会社から電話をもらった母親から電話ががかってきてどこにいるのか何をやっているのかを訊かれ、父からも電話がきた。父の方はまず、「何やってるんだお前は!」と、カミナリから始まり、会社に迷惑をかけるとは何事か、とまた怒鳴られ、「今日中にそっち行くからな!」と叫ぶと……本当に両親は夜遅くにやってきた…二人とも、札幌より田舎のお堅い公務員。いつもの応接室で…たまたまやってきて巻き込まれてしまった「専務」のカイさんとオミ社長のピアスやリングやタトゥー(実はシール)、ロックっぽいシャツなんかを見て…苦々しい表情を見せた。「…専務…高井一成さん…株式会社レイレイズ…ねえ…」二人の名刺を見て、珍しく母の方からロを開いた。「...25.かわいそうなオミとカイ
「大輝君、悪いけど、朝飯…カイ君の分もコンビニで何か買ってきてもらえないかな」その声で目が覚めたらしいカイさんは、「…俺すぐ帰るから気にしないで。納品あるから…」と、眠い目をこすりながら言い、「いやあ、ゆうべはすぐに帰ればよかった。すっかり話し込んじゃってごめんね」と言いながら、バッグにノートパソコンや何かを入れていく。そして、俺に、「そうだ、大輝君、社長に休みはもらったの?」と、尋ねてくる。俺はドギマギしながら、日曜です、と答えると、「あとは、祝日と俺がいなくて作業もない日とか、なるべく休んでもらおうと思ってるから。そうだ、今度の木曜日は休みだよ」「それなら、その日に大輝君借りてもいい?」「どうしたの?」「ん?次の撮影の神社の下見に行きたくて」「俺はいいけど、大輝君どうする?」24.カイさんと木曜日
次の朝、目が覚めてみると…俺は、特に何もされてはいなかった…本当に誰か部屋に入ってきたのかどうかも、今となってはわからない。とは言うものの、聞いていたオミさんの起床時間は10時だったしもう9時だ。俺は恐る恐る廊下に出てみたが、何をどうすればいいのか困ってしまった。とりあえず一番無難な応接室のドアをノックしてみた。返事はなかったが勝手にドアを開けた。すると、テーブルを挟んで床に、オミさんとカイさんが転がって寝ていた二人とも毛布をかけていたから、オミさんが、物置兼の俺の部屋から持って行ったのだろう…あれはオミさんだったのか。10時まで寝かせておこうと思って俺がドアを閉めようとするとオミさんが起き上がり、眠そうに、「おはよう…」髪はややボサボサだが、この人のカッコ良さは王子様っぽい雰囲気なのかな、と俺は初めて気...23.ボサ髪でも王子
「いや言ってる意味がわからない」すごく急いでいるらしいカイさんはオミさんにそう言ってから、「じゃあ入社祝いということで、はいケーキ」とコンビニで買ってきた美味しそうなケーキをテーブルにレジ袋ごと置いた。そして、俺には笑いかけてくれて、「ごめんね。歓迎会で埋め合わせするから」オミさんには、「ごめんね。デスクトップの方が突然動かなくなっちゃったから…」「ああ、全然。あ、そうだ。ちょっと俺のデータがまだ…一緒に行くよ…」すぐ戻ってくるからお茶でも飲んで待ってて、と俺に言い置いて、オミさんはカイさんと作業部屋に行ってしまった……動画と同じ感じで、何だか微笑ましい…今俺は、実物を見てる…二人は高校以来の仲で、何でも言い合えると動画で見たことがある。言葉通りオミさんはすぐに戻ってきたが、カイさんはずっと作業をしていて...22.オミとカイの実物。
「分かったちょっと聞いてみただけだから。気にしないで。うちはみんな見えないから安心して」俺はほっとした。「じゃあうちに来てくれるって言うことでいいのかな」俺はちょっと複雑だった。確かにYouTubeの仕事はやってみたかったが、オミさんとはそういう関係だし…でも一度は決心したことだからお願いすることにした。華島さんの手がかりも得られるかもしれないし、好きな仕事もできそうだし…ただ、俺の技術と知識のなさで追い出される可能性もあるかもしれないが…「はいよろしくお願いします」オミさんより俺の方が強引かもしれない…その時玄関のドアが開き足音がした。「こんにちはー」ノックをして入ってきたのはカイさんだった…切れ長な目の美しいカイさんの本物に、俺はまたびっくりしていた。しかしそれにはお構いなしで、オミさんは、「この人、...21.カイさん現る
でも、俺はオミさんについて行くことにした。やっぱりこれしか華島さんに会えそうな手段はないように思えたからだ…オミさんの愛車で連れて行かれた自宅兼事務所は新しくて広めだったが、自宅としては使いにくそうな間取りのように見えた。…狭めの応接室の黒いソファーの上で、ペットボトルのお茶を勧められながら緊張していると、オミさんもなぜか緊張したように、「あのさぁ笹本君…いきなりだけど、うちの会社に転職しない?」俺が口をパクパクさせていると、「住み込みで、もちろん給料は払うし、ここに住んでていいし、食費も持つし」俺はただただびっくりするばかりだった「好きなだけ動画作りもできるし、YouTubeの最先端もわかる。本当はそういうところに勤めたかったんじゃないの」痛いところを突かれた。ちょっとぐらいブラックでも、いやブラックで...20.オミさんは手段で踏み台。
俺は言葉がなかった。まるで自分と花島さんのことを貶められているようでショックだった。それと、オミさんは爽やかな人のはずなのに、まさかこんな人とは思わなかった。「ごめんね、メールが来たみたい」オミさんはスマホの画面をすごく真剣に見ると、「カイからだったんだ」と言ってものすごく嬉しそうな顔をした。そして返事を打ち始めた。そして下を向いたまま、さっきまでの生々しい話など忘れたように、「笹本君、今日泊まるところは決めてるの?」虚を突かれて、俺は一瞬黙った。「ん?」オミさんが一瞬あげてくれた瞳は、でもやっぱりさわやかだった。「いえ、ネカフェでも探そうかと思ってたんで」「もしよかったら俺の家に泊まらない?」俺は動揺してしまい何も答えられなかった。「大丈夫だよ。襲ったりなんかしないから。僕は若い子はダメなんだ。っていう...19.まくらえいぎょう
「でも、君はその頃はまだ未成年でしょ?男の子でしょ?そんな人とその…そういうことを華島が…」オミさんはなかったことにしたいんだろう。華島さんと俺のことを。「でも、未成年とか、そんなのあの頃のミュージシャンには関係なかったですよね。女の子は…」他の男のことなんて考えられない。オミさんも含めてだ。「そりゃそうかもしれないけど…」もしかすると、オミさんは俺が華島さんに対して何か悪いことをするかも、と思っているのかもしれない。恨みから恐喝とか、切りつけるとか…もしくは、恨みというよりただの頭のおかしいファンとか。「俺もその…華島さんに、華島さんの部屋に引っ張り込まれたんです」「…そうだねあの人は女の子も大好きだったからね…」また俺はその言葉に傷ついた。「でも、俺を廊下で助けようとしてくれそうになったのは、隣の部屋...18.消えたミオ
するとオミさんは、似合わない、作り笑顔らしい表情を浮かべ、「…そうだけど…それが何か…?」「YouTubeでオミさんを見て…その、華島さんのことを思い出して会いたくなったんです」「会ってどうするの?」「あ…」「…」「笹本君、そういうのはやめたほうがいいと思うよ。もうあの人はステージを降りてるんでしょ?人前に立つ立場でもないらしいでしょ?俺でさえミオだった頃のことは忘れたいよ」オミさんはみんなに好かれている落ち着いた声でそう言ってくれた。「あの人も、君みたいに札幌出身じゃなかった?そっちを探った方がいいんじゃない?」「そうですけど、デビューの頃にはもう家族は亡くなったりして実家はなかったそうなんです」「…詳しいな…」でもオミさんは、たしなめるように優しく、「それでは言葉は悪いけどまるでストーカーみたいに見え...17.いけない関係。
オミさんのプライベートを探ってるのように思われても嫌だったので、俺は手短に自分のことを話した。動画制作の専門学校を出て、その関係の会社で働き始めたのに、営業にまわされてブラックのように働いてること。それでいつも休みはYouTubeばかり見ていて、偶然出会った礼霊ずにはまったということ。「ふーん、そうだったんだ…。じゃあ、せっかくの休日なのにごめんね」「いえ、俺の方こそ…」アイスコーヒーを飲んでいるオミさんの笑顔は動画と変わりなく、本当にさわやかで優しかった。でもそれは…やっぱりあの夜のススキノのバーにいたベーシスト・ミオと同じようだった…そう気がつくと華島さんのことを、いつ切り出そうか悩んだ。でも…「ん?どうかした?」「あの…オミさん、昔、ミオ、だったですよね?」オミさんは驚き、言葉に詰まったようだった。...16.オミとミオ
オミさんはもの凄く嬉しそうな表情になって、「時間ある?もしよかったらコーヒーでもどう?奢るよ」「初見の視聴者をもあっという間にファンにしてしまう」とも言われるオミさんの落ち着いた声とさわやかな笑顔が、俺1人に向けられているのが、信じられなかった。おそれおおいとも思ったけれど、オミさんと少しでも長く一緒にいたいと思って、俺はついて行った。おしゃれなカフェに入り、席に着くと、オミさんはお茶目っぽく、「女性のリスナーだとこんなことできないけど。それにせっかく北海道から来てくれたんだし」と言って笑い、それから、「えー、改めて、礼霊ずのオミです」と自己紹介してくれた。それで慌てて俺も、「笹本大輝といいます。よろしくお願いします」と、会社の名刺を差し出した。オミさんは、会社のなんていいの?と、一瞬ためらっていたが、結...15.オミさんを独り占め。
俺は、とにかくびっくりした。〈礼霊ず〉のオミさんの実物が目の前を歩いているのだから…いったいどうすれば…勇気を振り絞って、俺は一歩踏み出した。「あ、あのっ、〈礼霊ず〉のオミさんですよね?」「あ、は、はい。あれ、もしかしてリスナーさん?」「はい。礼霊ずが一番好きで…」「嬉しいこと言ってくれるじゃん」と、オミさんは笑って俺の肩を叩いてくれた。なんとなく立ち話になっている。「今日はどこから来たの?」「北海道です。札幌で…」動画と同じように、オミさんの目は大きく見開かれた。もともと大きくてぱっちりした目なのでこちらまで吸い込まれてしまいそうになる。「出張のついでとか?」「いえ、オミさんに会うために」14.吸い込まれそうな瞳
結局俺は、東京に行く事にした。一応連休明けに戻って来るようにしてはいたけれど、何だか札幌での日常から出ること、自由になれることが嬉しかった。この解放感は二度と手放したくない気がした。新千歳空港で、羽田行きの出発を待つ間、俺はまたつらいことを思い出した。高校生の頃、華島さんが輝いていた頃、東京、いや大阪とか福岡とかも、全国ツアーを追いかけていきたかったことを…初めて来た空港で、痛切に感じたのだ。でも、見ていると一番気が紛れるので、礼霊ずの動画を見ていた。いよいよ東京に着いても、何が何だかわからず、迷うばかりだった。東京の一等地に、礼霊ずのオフィスはあるらしいのだが、その住所にどうにかたどり着いても、全然わからなかった。困ってそのオフィスビルから目を転じると、前から元気そうに歩いてくる、ミュージシャン風の革ジ...13.都心でオーラ。
12.銀のペンダント華島さんがソロになって売れなくなってからも、俺は例のバーで華島さんを待ち…そしてスタッフ達を連れて華島さんはやってきた。どんどんライブの客は減っていて、会場も小さくなっていった。その頃から、華島さんはちょっとバーで荒れるようになっていた。でも、俺はファンが少ないのをいいことに、酔っ払っている華島さんにプレゼントを手渡したことがある…俺のささやかなバイト代で買ったシルバーのペンダント。華島さんはにっこりと笑ってその袋を受け取ってくれたのに……暴れないようにとお目付役にされたのは、ほとんどサポートのミュージシャンだった。スタッフでは言うことをきいてくれないからだ。…あの時、カウンターの華島さんから目を離さないように、でもはべらせた女の子達を優しく笑わせていた人が…もしかして、オミさん?ホス...12.銀のペンダント
方向性の違いで、華島さんのバンドはわりとすぐ解散し、華島さんはソロになった。バンドの中でもっとロック寄りにしたかったのは華島さんだけだったのだ。でも…みんなが期待したほど、華島さんは売れなかった。俺が一緒にいたお姉さんたちも離れていった。曲がいまいち、やっぱりバンドの方が良かった…そう言って。俺もそう思う面もあったが、やっぱり俺は華島さんが死ぬほど好きで仕方がなかった。11.寂しい思い出
そんな風にいろんな心霊チャンネルを見ていると、意外なことに人気人の中にはかつてはプロミュージシャンを目指していたという人が何人かいた。もう、礼霊ずを見る気にはなれなかったから、あの二人はどうなのかわからなかったけど。でも、あの、オミさんに突撃してみようか…という気はしてきた。メールとかではなく、いきなり。でも俺はその後も数日間悩み続けた。連休が近かったから、東京に行くことはできないわけではない。お金は少し厳しかったけど。毎晩、心霊の色んなYouTubeのチャンネルを見てしまっていた。それは、あの、オミさんを見たがっていると認めざるを得ない。10.オミさんに会いたい。
華島さんのバンドは地元ということで、自分達のライブだけではなく、札幌でのロックイベントには必ず来ていた。そのうち俺はもう、華島さんのことしか考えられなくなっていた。ガチ恋っていうやつだ。同じように熱烈に華島さんのことが好きなお姉さんたちに用心棒みたいなことを頼まれて重宝され、まだ追っかけの中に男は目立つから一緒に立っててほしいと言われ、確かに華島さんの視線をキャッチすることができたのだ。お姉さんたちと俺は手を取り合って大喜びした。それで仲間にしてもらえて、他のファンにほ知られないようにしている、華島さんのお気に入りの、怪しいバーにも連れていってもらえるようになった。バーの内装は少しワイルドな感じでお洒落だったが、俺のような16才、見るからに未成年の男でも平気で酒を出してくれるような店だった。そのうち1時を...11.ガチ恋…だったんだけど。
華島さんに夢中だったのは、俺が高校生だった頃。久しぶりに札幌からメジャーデビューした、それもV系のカッコいいバンドということで、俺が中学の時から地元でも結構盛り上がっていた。ロングの金髪で、大きなでも冷ややかな瞳の華島さんは、体はすごく細かったけれど、そのために儚げに見えたけれど、とにかく上手いボーカリストだった。俺も、あそこまでにはなれなくても音楽をやりたいと思うようになった。でも上手くはいかなかった。一応、友達やさらにその友達に声をかけたけれど、音楽をやりたい、バンドをやりたいというヤツはなかなかいなかった。俺自身、楽器選びも進まず、ただただ華島さんの活動をネットや何かで追っていくだけになり…そのうち、よくいる女の子ファンみたいに、ライブまで追っかけていくだけになってしまった。音楽をやりたいなんて言っ...8.出会い。
あの、オミさんに会えれば、華島さんのことが何かわかるのだろうか…DMとか、尋ねる手段はSNSで幾つもあるけれど、無視されそうだし……華島さんとのことはトラウマ。ホテルの部屋で、俺はあんな…もう俺は一生誰かと抱きあうなんてできないし、恋愛なんて無理だ。華島さんのことは、もう忘れたはずだったのに…いきなり、封印していた過去を暴かれた…テレビの方は自動再生で〈礼霊ず〉ではない心霊チャンネルを映していた。俺は、こらえきれず、華島さんのことをネットで調べた。知っている写真、その頃のことは無視して探したが、最後のソロツアー以降のことは何一つ載ってはいなかった。美貌も才能もたたえられたロックボーカリスト「華島詮(はなしまあきら)」はネットにすら忘れられているようだった。7.トラウマ。
俺は、ただテレビの画面を見つづけるばかりだった。我に返った時、思い出した。華島さんの最後のライブツアーで、ベーシストだけサポートメンバーだったことを。そして、バンドのメンバーの中で、その人だけは華島さんにぴったりなイケメンで…でもステージネームはよくわからなかった…そして…思い出せない…「ミオ、だったかも」それから俺は礼霊ずの動画をさかのぼって最初から見てみた。間違いない、オミはミオだ。6.社長の過去?
久しぶりに見たオカルト系の番組は楽しかった。後から知ったのだが〈礼霊ず〉は怖いだけではなくエンタメ要素が多いチャンネルだったのだ。それを2人のイケメンが繰り広げてゆく。これは好きだな、と俺は思った。エンディングでは、ー今日は写真もイマイチっぽいですね。ーこれはもう忘年会バンドの準備を始めた方がいいね。カイさんの言葉にオミさんは吹き出し、ーいやいやそれなら家でデータ整理してる方がいい。ーいやいや、俺、オミのベース磨いておいてあげるから安心して。ごまかすように笑いながらオミさんは足元のバッグを持ち上げた。そのオミさんの一連の表情を見て俺は愕然とした。もしかすると5年前ススキノのあのバーで、華島さんから離れて飲んでいたあの人?俺がホテルの華島さんの部屋から追い出されそうになった時、廊下でびっくりしてて、それから...5.あの夜の男
札幌で社会人になってから、俺には何も楽しいことはなかった。動画制作の能力をかわれて入社したはずなのに、営業にまわされて。ブラックではないけれど仕事はとにかく忙しくて友達とも会えないし。実家を離れて一人暮らしだったし。休みの日はゴロゴロしながらテレビでYouTubeの動画を見るのが唯一の楽しみ…そんな中、ランダムで出てきた動画が勝手に始まり、テレビから落ち着いた、さわやかな声が流れてきた。ーこんばんは!〈礼霊す(れいれいす)〉のオミです。ーカイです!…さて、今回は某城跡の霊を探る、ですね。ー久しぶりですね。ー今回も怖いんですよ。視聴者さんからの情報によると、血まみれの落ち武者が歩いていたという……心霊動画のチャンネルだけど、まるでミュージシャンのようないでたちがかっこいい2人。切れ長の涼やかな目元が美しいカ...4.楽しみはYouTubeだけ。
「二人で食べるメシはいいなあ」広くはない応接室の、黒のソファで唐揚げ弁当を食べながら、幸せそうに社長は言う。大輝、そう思わない?「そうですね。俺も一人暮らしの時は寂しかったです」そう言いながらも、社長は早く結婚すればいいのにと俺は思った。龍臣くん35さい、麻里華ちゃん24さいのラブラブカップルなのだから。でも…社長の仕事はYouTubeなんかの動画制作だ。自分でもチャンネルを持っているが、これが少しバズってきて、今ではそのジャンルのイケメン四天王のひとりと言われている…らしい?二重のくっきりした瞳が素敵な、男性の視聴者にも人気のでも…まだまだの会社みたいだし、何より社長のファンに麻里華さんの存在を知られたら大変だろう。「…どうしたの?」「い、いや、社長の今度の金髪、いいですね。マロン色より」「嬉しい。次の...3.社長の金髪
まあまだ三ヶ月しか経ってはいないけど…その時、LINEに着信。俺を居候させてくれている金本社長からだった。ー唐揚げ弁当買ってあるから安心して。俺は社長のこんな優しいところが好きだ。2.二人ご飯
東京の夜空は苦手だ。いや、正確に言えば、どんどん嫌いになってきていた。北海道から上京してきて、まだ華島さんと出会えていない。1.夜の空
はじめまして!阿弓晃子と申します。このブログの目的は、これから考えます。よろしくお願いします!はじめまして!阿弓晃子です
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