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2022/10/30

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  • カラオケの歌える老人ホーム 第8話「モーツァルトの『レクイエム』、ラクリモサを歌う女

    ホーム『灯』に見知らぬ女性が現れた夜、カラオケルームはざわついていた。最近、『灯』の評判が老人ホームの外にまで広がり、夕闇が迫る頃にふらりと立ち寄る参加者が増えていた。入り口には「どなたでもご参加ください老人ホーム灯」とポスターが貼ってあった。白髪をきれいにまとめ、真珠のネックレスをつけた上品な女性が、やわらかな笑みを浮かべながら静かにマイクを手に取った。「モーツァルトの『レクイエム』、ラクリモサを歌います」スタッフのユリコは目を丸くして慌てた。普段のカラオケセットにクラシック、ましてや『ラクリモサ』など入っているはずもない。「あの、カラオケがありませんけど……それに、ラク……ラク?」女性は優しく微笑んでうなずいた。「伴奏はなくていいの。アカペラで歌わせてくださいね」入居者たちは互いに顔を見合わせてヒソヒ...カラオケの歌える老人ホーム第8話「モーツァルトの『レクイエム』、ラクリモサを歌う女

  • カラオケの歌える老人ホーム 第7話 忌野清志郎『500マイル』を歌う女

    ホーム『灯』のカラオケルームに見知らぬ女性が静かに現れた。その日はちょうどお盆の夜だった。名前も知らず、誰の知り合いかもわからない。彼女は何も言わずにマイクを手に取り、控えめな声で歌い始めた。忌野清志郎の『500マイル』だった。「次の汽車が駅に着いたらこの街を離れ遠く500マイルの見知らぬ街へ僕は出て行く500マイル」ひとつふたつみっつよっつ思い出数えて500マイルやさしい人よ愛しい友よ懐かしい家よさようなら汽車の窓に映った夢よ帰りたい心押さえて押さえて押さえて押さえて押さえて泣きたくなるのを押さえて次の汽車が駅に着いたらこの街を離れ500マイルひとつふたつみっつよっつ思い出数えて500マイルやさしい人よ愛しい友よ懐かしい家よさようなら汽車の窓に映った夢よ帰りたい心押さえて押さえて押さえて押さえて押さえて...カラオケの歌える老人ホーム第7話忌野清志郎『500マイル』を歌う女

  • カラオケの歌える老人ホーム 第6話 ロス帰りの元ヒッピー

    80年代初頭、この頃は週末になると六本木のムゲンでよく遊んだ。そこで知り合ったケンちゃんは今どうしているのだろう。そんなことを考えているとある夜老人ホーム「灯」にケンちゃんが招き寄せられるようにやってきた。けんちゃんの最後のダンシングカラオケ室のドアが開いたとき、最初に聞こえたのは、ギシギシというリズムのない足音だった。サングラスに赤いチェックのシャツ。ジーパンはくたびれ、スニーカーは左右で色が違う。でも、その男は一歩ごとにこう言っていた。「おい、ここ、歌っても怒られねぇ場所なんだろ」彼の名はイワセ・ケンジ(通称けんちゃん)。アメリカ帰りの自称ロッカー。ロスでヒッピー風に暮らしていたらしい。「言っとくけど、俺が“ダンシングオールナイト”最初に歌ったのは83年のL.A.だぞ。誰も知らなかったから、“オレの曲...カラオケの歌える老人ホーム第6話ロス帰りの元ヒッピー

  • カラオケの歌える老人ホーム 第5話 91歳の歌う枯葉

    バリに滞在した頃親しくなった91歳へのオマージュ。木島イチロウ、91歳。日本の大手鉱業会社に勤務していた元経理マン。彼はかつてフランスに派遣され、海外の鉱山拠点に減耗控除(減価償却と似た経理用語で鉱山で使うらしい)の考え方を導入する仕事を任されていたという。現在は60代の愛人・サエコが付き添っている。ある日の午後、ホーム『灯』のカラオケルームで、木島はぼんやりと窓の外の庭を眺めていた。サエコがそっと声をかける。「イチロウさん、今日は何か歌いますか?」木島はゆったり微笑みながら答える。「歌うか。昔フランスで覚えた歌だよ」ユリコが興味津々に尋ねる。「フランスで、ですか?」木島はうなずき、ゆっくり語り出す。「慶応を卒業してすぐ三井系の会社に入った。フランスに派遣されて減耗控除を導入した頃、よくビストロで歌ったも...カラオケの歌える老人ホーム第5話91歳の歌う枯葉

  • カラオケの歌える老人ホーム 第4話 元小学校長

    ウブドへ行くと言った人バリ島で知り合ったある男を思いだした。ある日バリ島のビラの屋上に一人たたずんでいる男性がいた。簡単な挨拶をすると男性は突然身の上話を始めた。普通初対面の相手にはそこまで話はしないと思うのだが。初老の男は校長を務めたあと地元九州のとある市の教育委員会幹部となり、その後定年で退職した。その日に妻に離婚を申し渡され去られたという。その後傷心をいやすためにバリ島サヌールにやってきた。母親をつれてくる予定でそのための下見だと説明してくれた。朝出かけて夕方まで一日中自転車でサヌール周辺を走り回っていたがその後彼の姿を見なくなった。聞き伝にウブドに行って唱歌をうたっているらしいという噂を聞いた。ウブドに住む日本人で同好の人々が集まって唱歌を歌い、そのリーダーになっているという。あれから13年になる...カラオケの歌える老人ホーム第4話元小学校長

  • カラオケの歌える老人ホーム 第3話 GODOさんとフレディー

    GODOさんはわたしの元上司で元商社マン、そしてかつて名だたる一族のお坊ちゃんだ。交流関係が広い方だった。その中の一人にナットキングコールがいる。GODOさんを偲んで次の空想話を創ってみた。春のデュエット老人ホーム「灯」に、“あの”知らせが届いたのは、三月の風がまだ冷たさを残していた頃だった。「GODOさん。今日、お客様がいらっしゃいますよ。アメリカからですって」「また誰かの冗談だろ」GODOさんは笑った。少ししゃがれた声。昔はジャズピアニストだった、という噂。いや元商社マンだったという人も。本当かどうかは誰も知らない。本人も否定しないが、肯定もしない。午後2時、カラオケ室に響く重い足音。やってきたのは、黒のハットにロングコート、長身で、背筋の伸びた老人だった。目を見張るGODOさん。その目がふっとにじん...カラオケの歌える老人ホーム第3話GODOさんとフレディー

  • カラオケのある老人ホーム 第2話 カラオケとリハビリと、時々涙

    【第2話】バリに滞在してレストランの前を通りかかるといきなりこの歌が。日本人だと見るとスキヤキを歌ってくれる場面に何回もあった。今日の話はカラオケとリハビリと、時々涙「はいはいはい!そこ、膝曲げて!せーのっ、“ワン・ナイト・カーニバル!”」理学療法士のユリコ(35)は、今日も元気だ。なんせこの施設唯一の“カラオケ・リハビリ融合型インストラクター”。正式な肩書きではない。本人が勝手に言っている。「だってさあ、足だけ鍛えても心がついてこなきゃ、また転ぶじゃん?だからうちは“声出しリハビリ”よ。音程?知らん!」今日のメニューは『昭和アイドル縛りスクワット』。「おっと、ナカジマさん!その場でズンドコしてる場合じゃないわよ~!」「ワシ、今日こそは“つぐない”を完唱するんじゃ…!」「ちょ、やめて、もうそれ“つぐない”...カラオケのある老人ホーム第2話カラオケとリハビリと、時々涙

  • カラオケの歌える老人ホーム【第1話】

    【第1話】カラオケの歌える老人ホーム「なあ、ここってさ、本当にカラオケあんのか?」開口一番、そう言ったのがイナガキ・トシオ(74)。薄い白髪の長髪、革ジャン、サングラス、スキニーのジーンズ。介護士のミナミは、一瞬、「撮影か何かのロケハンですか?」と本気で訊いた。違う、入居希望だという。「どこもかしこも“静かにしましょう”ってばっかじゃん?でもここ、チラシに書いてあったぜ。“カラオケできます”って。…ホントに、できるのか?」ミナミが思わず笑うと、トシオは小さく鼻で笑った。「じゃあ、ちょっとだけ、試しに歌わせてくれよ。俺がまだ、生きてるってことを」その日、カラオケ室では入居者たちが『北国の春』を静かに合唱していた。そこへ突然、ギラついた男が現れて、マイクを握る。トシオが選んだのは、矢沢永吉の『時間よ止まれ』。...カラオケの歌える老人ホーム【第1話】

  • 紀野一義 佐々木閑 輪廻に対する考え方

    紀野一義氏と佐々木閑氏、紀野一義氏は故人であり佐々木閑氏は70歳近い現役仏教学者だ。いずれも素晴らしい方で比較しようなんて烏滸がましい気持ちはさらさらない。しかし違いを知ることでよりお二方を知ることができると思い、折に触れてメモしている。佐々木閑氏は輪廻はないという。え、輪廻って仏教の基本中の基本ではないかと、それを信じないなんて一体あなた仏教徒なのと詰問したくなるが氏は筋金入りの仏教信仰者なのだという。お釈迦さんの言ったことを全部信じなくてもいいんだ。取捨選択していけば良いと、従来の仏教者なら腰を抜かしそうなことを言う。紀野一義氏は死んだらどんな来世があるか楽しみだという。しかし仏教原理主義的な考えを排する。キリスト教でも母親信仰でもいいという。これまた従来の仏教者なら腰を抜かしそうなことを言う。神や仏...紀野一義佐々木閑輪廻に対する考え方

  • 紀野一義と佐々木閑 孤独と救済(自他)

    仏教の古い経典、『スッタニパータ(SuttaNipāta)』ずいぶん孤独な教えだなと思う。しかし佐々木閑氏は「この犀の角のようにただ独り歩め」が大事だと言う。紀野一義氏はこのフレーズを言及したことは少なくともYouTube講演録ではないようだ。ここにも原始仏教と変容した大乗の違いを目の当たりに見ることができる。孤独と救済(自他)への変容か。犀の角あらゆる生きものに対して暴力を加えることなく、あらゆる生きもののいずれをも悩(なや)ますことなく、また子を欲するなかれ。況(いわ)んや朋友(ほうゆう)をや。犀(さい)の角(つの)のようにただ独(ひと)り歩(あゆ)め。交(まじ)わりをしたならば愛情が生ずる。愛情にしたがってこの苦しみが起る。愛情から禍(わざわ)いの生ずることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。朋...紀野一義と佐々木閑孤独と救済(自他)

  • 大乗 大審問官 受け入れられるように変容していくことが真理なのだ。

    「大審問官」はイワンがアリョーシャに語って聞かせる彼の創作になる物語だ。舞台は15世紀、スペインに降臨したキリストに対して大審問官は捕えて火あぶりの刑を宣告する。地下牢に一人で現れた大審問官はキリストに向かって、いまだ自由を扱いきれない人間に対し自由を与えることでパンを奪い合い、返って人類を不幸にしたと批判する。無言で聞いていたキリストは最後に否定も肯定もせずに大審問官にキスをする。自由にすると互いにパンを奪い合って結局は破滅する人間は、奇跡と権威と神秘つまり悪魔の力を借りてコントロールしないと破滅するとキリストにいいつのる大審問官の心のなかに深い苦悩を感じ取り、憐みと共感のキスをする。彼の思想と行為はキリストの思いを否定したものであり、許すことはできないはずであるが、今そこにある大審問官の苦悩を感じ取る...大乗大審問官受け入れられるように変容していくことが真理なのだ。

  • ロス・カンタロスの滝 ハイライト19

    フリアス湖を後にし、ロス・カンタロスの滝へと向かう道は、まるで時間の流れが緩やかにほどけていくかのようであった。木漏れ日が点描画のように地面を照らし、ざらついた砂利道の上を歩くたびに、微かな音が響く。その音すらも、この静寂の森の呼吸の一部のように感じられた。周囲には、青々とした森林が広がる。竹のような細長い植物が風に揺れ、かすかな囁きを交わしている。陽の光は枝葉の隙間を縫い、道端に淡い陰影を映し出す。湿り気を帯びた空気が頬を撫で、時折、遠くの鳥のさえずりが静寂を破るように響く。この道を歩くこと自体が、旅の目的なのではないかと錯覚するほど、穏やかで静謐な時間が流れていた。歩みを進めるにつれ、森の奥へと誘われるような感覚に陥る。樹々は次第に背を高くし、葉の茂りも濃くなり、道はやや薄暗い。かすかに聞こえてくるの...ロス・カンタロスの滝ハイライト19

  • フリアス湖2 ハイライト18

    湖岸に近づくにつれて湖面の色調が美しく変化している。深い青から鮮やかなエメラルドグリーンへと移り変わるグラデーションは、水深や陽の光の角度、湖底の地形の微妙な違いを感じさせる。周囲を囲む深い森と対照をなし、その豊かな緑が静かな湖の美しさをさらに際立たせている。湖上にはゆったりと小舟が浮かび、穏やかな時間がゆっくりと流れている。穏やかに輝く湖面を船が切り裂いてゆく。その背後には白く泡立つ航跡が、ゆるやかな放物線を描きながら広がっている。水面はまるで銀色の絹布のようにきらめき、航跡がその繊細な質感にひとときの変化をもたらす。視線を上げれば、遠くに連なる黒い丘陵と、その上をゆったりと飛翔する一羽の鳥の姿がある。静けさと動き、静謐と自由が一体となったこの光景には、旅立ちのような、また帰郷のような不思議な郷愁が漂っ...フリアス湖2ハイライト18

  • フリアス湖 ハイライト17

    船上で、青空を舞台にカモメの曲芸が始まった。手を伸ばし、餌を高く掲げると、羽を広げた一羽のカモメが巧みに風を捉え、優雅に急降下してくる。鋭い目で正確に狙いを定め、空中で器用に餌をさらっていった。その鮮やかな身のこなしに、船上から歓声と笑い声が湧き起こる。澄み渡った空の下、自由自在に風と戯れるカモメを見ていると、ふと自分もまた、この旅の間だけは自由な鳥のように、気ままに風を感じているのだと思えてくる。青空に吸い込まれるように飛び去るカモメを見送りながら、この束の間の自由を胸いっぱいに吸い込んだ。船が静かに止まり、そこに現れたのは言葉を失うほどに美しい鏡面の世界だった。フリアス湖はまるで時を止めたかのように澄み渡り、山々の輪郭を完璧に写し込んでいる。白雪を抱いた山頂は二つとなり、深い森もそのまま湖面に吸い込ま...フリアス湖ハイライト17

  • バリローチェ ハイライト16

    パタゴニアを抜け、湖水地方へ—夜行バスのゆりかごに揺られてプエルト・ナタレスの街が遠ざかる。バスの車窓から見えるのは、沈みゆく夕陽に照らされた大地。どこまでも続く荒野に、ほのかに残る夕焼けの名残が赤く染めている。今夜の目的地は、アルゼンチンの湖水地方の玄関口、サン・カルロス・デ・バリローチェ。ここから20時間の長距離バスの旅が始まる。カマ・コーチという最上級のシートを選んだ。座席はほぼフラットに倒れ、足元には厚手の毛布。まるで空飛ぶカプセルホテルのような快適さだ。おまけに簡単な軽食も配られる。ビスケットにチーズ、ハム、そして甘い菓子パン。ラテンアメリカの長距離バスには、この小さな機内食のようなパッケージがつきものだ。リクライニングを深く倒し、旅の疲れを解く。車内の乗客たちも、それぞれのスタイルで寛いでいる...バリローチェハイライト16

  • ウイルスが研究所から外部に流出した可能性が「80~95%」で非常に高い

    ドイツからコロナ流出の報道が。これはインパクトあるね。読売新聞<picture><sourcesrcset="https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/amd-img/20250313-00050153-yom-000-9-view.jpg?exp=10800&fmt=webp"type="image/webp"/><sourcesrcset="https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/amd-img/20250313-00050153-yom-000-9-view.jpg?exp=10800"type="image/jpeg"/></picture>新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真=国立感染症研究所提供【ベルリン=工藤彩香】ドイツの有力紙ツァイトと南...ウイルスが研究所から外部に流出した可能性が「80~95%」で非常に高い

  • プンタ・ピラミデ ハイライト15

    プンタ・ピラミデの午後バルデス半島の小さな町、プンタ・ピラミデ。この地は、観光の拠点としても機能しており、ツアーに参加する人々が一息つく場所だ。朝訪れたときは、風が強く、どこか寂しげな雰囲気だった。しかし、午後になればその表情は一変する。ビーチには人があふれ、カラフルなパラソルが砂浜に花を咲かせる。海では子供たちがはしゃぎ、ボートが波間を進んでいく。空は澄みわたり、強かった風もいくらか穏やかになっている。この町には、ツアー客を待つ人々だけでなく、ここを目的地として訪れる人も多い。ホテルやレストランもあり、長めに滞在するのも悪くない選択肢だろう。ここからなら、海の生き物たちの営みをじっくりと見守ることができる。風が冷たくても、人々の活気がそれを忘れさせる。陽が傾くにつれ、海辺の光景はさらに美しく輝き始めてい...プンタ・ピラミデハイライト15

  • バルデス半島 ハイライト14

    バルデス半島を駆けるパタゴニアギツネバスの車窓から、金色の草原をすり抜ける一匹の狐を発見した。この狐は、おそらくパタゴニアギツネ(Lycalopexgriseus)だろう。アルゼンチン南部からチリのパタゴニア地方に広く分布するこの種は、イヌ科に属するが、一般的なキツネよりもオオカミに近い特徴を持つ。体長は60cmほど、尾を含めると90cmほどになり、砂色の毛並みが乾燥した草原と見事に同化している。昼夜問わず活動し、小動物や昆虫、時には果実なども食べる雑食性だ。草むらをかき分けるように軽やかに歩く姿は、まさにこの荒野の狩人。遠くからこちらを一瞥し、すぐにまた風のように去っていった。バルデス半島にて、グアナコの静かなまなざしバルデス半島の風は、乾いた草原をそっと撫でるように吹き抜ける。その広がる大地の中で、私...バルデス半島ハイライト14

  • プエルト・マドリン ハイライト13

    プエルト・マドリンからバルデス半島プエルト・ナタレスからリオ・ガレゴスへと向かう道のりは、パタゴニアの壮大な景色と国境を越える際の手続きの煩雑さが入り混じった旅だった。一番前の席を確保できたのは幸運だった。窓からの景色を存分に楽しめたのではないだろうか。このエル・ピングイーノ(ElPingüino)と書かれたバスは、アルゼンチンやチリの南部でよく見かける観光・長距離移動用のバス会社のものだろう。トラックに詰め込まれた羊たちの姿が、パタゴニアの広大な大地とその牧畜文化を象徴しているように思える。バスの車窓から見たこの光景は、どのような感情を呼び起こしただろうか。パタゴニアは羊毛産業が盛んな地域であり、このように羊たちが輸送される光景は珍しくない。しかし、その瞳にはどこか不安げな表情が見える。彼らはどこへ運ば...プエルト・マドリンハイライト13

  • トーレス・デル・パイネの峰々 ハイライト12

    遠くの丘を駆ける影、ニャンドゥの姿が見えた。首を高く伸ばし、細長い脚をしなやかに動かしながら、大地を切り裂くように疾走する。パタゴニアの風をまとい、砂塵とともに消えゆくその姿には、かつて果てしない大地に群れを成していた時代の記憶が宿っているのかもしれない。この地に生きるものたちの多くがそうであるように、彼らもまた絶滅の危機に瀕している。風のように駆け抜けるその姿が、やがて過去のものとなるのか、それとも、まだ未来へと繋がるのか。ニャンドゥの足跡は、遥かなるパタゴニアの大地に深く刻まれていく。すべての音が遠ざかり、風の流れだけが耳に残る。目を閉じて大地に身を預けると、自分の輪郭がぼやけていくのを感じる。雲はゆっくりと形を変え、青の海原に浮かぶ白い島々のように流れていく。時折、かすかに聞こえるのは、先ほどまでこ...トーレス・デル・パイネの峰々ハイライト12

  • パタゴニアの大地 ハイライト11

    闇に溶ける影部屋へ戻る途中、ふと視線の端に黒と白の影が動いた。近づいてよく見ると、それはスカンクだった。尾をふわりと膨らませ、慎重に足を運びながら、静かに夜の闇へと紛れていく。狂犬病を持つことがあるため、ホテルでは餌付けなどはしないという。それでも、この小さな生き物がパタゴニアの広大な大地でひっそりと生きている姿には、どこか愛らしさを感じる。スカンクはネズミや昆虫を捕らえて食べるが、その名を広く知らしめるのは、やはり悪臭だろう。肛門嚢から放つ分泌液は、わずか数滴でも強烈な匂いを放ち、天敵さえもひるませる。彼らの持つ「最後の武器」だ。遠ざかる小さな影を見送りながら、夜の静寂の中に、自分もまたこの広大な自然の一部として溶け込んでいくような気がした。木立の小径を抜けてディナーを終え、ほのかに残るワインの余韻とと...パタゴニアの大地ハイライト11

  • ロッジ・セロギド本館 ハイライト10

    ロッジ・セロギドこれが我々の部屋のあるロッジ・セロギド本館。パタゴニアの大地にひっそりと佇むこの宿は、どこか懐かしさを感じさせる趣のある建物だ。木製の窓枠と赤い屋根が印象的で、遠くからでもよく目立つ。外観は素朴ながら、内装は暖かみのある雰囲気で、広々としたガラス張りのサンルームからは、パタゴニアの雄大な景色を眺めることができる。風が強いこの土地では、建物の中から景色を楽しめることがありがたい。ここでの夜は静かで、聞こえるのは風の音と、ときおり遠くで鳴く動物たちの声だけだった。時を超えた車輪ロッジの敷地の一角に、朽ちかけた巨大な車輪が静かに佇んでいた。錆びついたリムと風雨にさらされた木のスポークが、かつての旅路を物語るようだ。ここを通った幌馬車は、何を運び、どんな人々を乗せていたのだろうか。広大なパタゴニア...ロッジ・セロギド本館ハイライト10

  • グレイ湖紀行 ハイライト9

    ピンゴ川に架かる吊り橋を渡り、最終目的地のグレイ湖へと向かう。この吊り橋は一度に6人までしか渡れない決まりで、係員の合図を待って慎重に進む。足元は木製の板が敷かれているが、歩くたびに大きく揺れ、思わず足を踏ん張る。眼下に流れるピンゴ川の水は灰色がかって速く、吊り橋の頼りなさに少し緊張するが、それもまた旅の醍醐味である。橋の先には、いよいよグレイ湖が待っている。グレイ湖の畔でランチタイムにする。目の前にはパイネ・グランデの最高峰クンブル・プリンシパル(3,050m)が堂々とした姿でそびえ立ち、その手前の湖面にはグレイ氷河から流れ出た大小の氷山が浮かんでいる。この氷河は南パタゴニア氷原へと繋がっており、深い青さを帯びた氷の塊が静かに漂っている。パタゴニアの風が頬を撫でる中、自作のサンドウィッチとピクルス、リン...グレイ湖紀行ハイライト9

  • パイネ国立公園 ハイライト9

    チリのプエルト・ナタレスからNIKKOトラベルの小型バスに乗り、パイネ国立公園へと向かった。バスは朝早く街を離れ、一路北へと走りだした。トーレス・デル・パイネ国立公園はチリの首都サンティアゴから南へ約3,000キロ、パタゴニアの深奥に位置している。1959年に国立公園に指定され、広さは約2,400平方キロ。雄大な山岳地帯、氷河、原生林、美しい湖など、多彩な自然が織り成す壮麗な風景が旅人を惹きつける。「パイネ」とは現地の言葉で「青」を意味し、その名の通り、深く美しい青色の湖や氷河が目を楽しませてくれる。毎年、トレッキングを楽しむために世界中から10万人を超える観光客が訪れ、なかには一週間かけてゆっくりとパイネの大自然を味わう人も少なくないという。我々はチリのプエルト・ナタレスからNIKKOトラベル会社の小型...パイネ国立公園ハイライト9

  • プエルト・ナタレス紀行 ハイライト7

    プエルト・ナタレスカラファテで翌日のチリ国プエルト・ナタレス行きのバスチケットを購入する。アルゼンチンからチリへと国境を超える旅になる。今度はトイレ付きのバスだ。長距離バスでプエルト・ナタレスへ5時間の旅。四泊したホステル・ケルタを出発する。外観は鮮やかなピンクで、正直言って私の趣味とは合わなかったが、高台に位置するため眺望は申し分なかった。街を歩き回って疲れ果てても、この派手なピンクが遠くからよく目立ち、迷わずに戻ることができたのはありがたかった。色彩のセンスはともかく、旅人にとってはありがたい目印であったことは確かだ。朝8時30分、バスは静かに動き始めた。座席指定で幸運にも最前列の席を確保できたため、広大なパタゴニアの景色がまるで映画のスクリーンのように目の前に広がっている。どこまでも続く荒涼とした平...プエルト・ナタレス紀行ハイライト7

  • ハイライト6

    木製の道標が、これから進むべき道を示している。左はカプリ湖(LagunaCapri)へ向かう往復2時間半のコース。比較的短時間で美しい湖を眺めることができる。対して右は、フィッツロイ展望台(MiradorFitzRoy)への道。往復6時間半の長い行程だが、あの名峰を間近に見ることができる。迷うことなく、我々は右へ進むことにした。標高が上がるにつれ、道は険しくなるだろう。しかし、それだけの時間と労力をかけるだけの価値がある景色が待っている。風が少し冷たくなってきた。森を抜けると、フィッツロイの姿がちらりと顔を覗かせる。この先の道がどんな試練を用意しているのか、それはまだ分からない。ただ、登山とはそういうものだ。足を前に運び続ければ、いずれ答えは見えてくる。森の中の小川や湿地を越える場所には、こうして木の歩道...ハイライト6

  • フィッツロイ紀行 ハイライト5

    エルチャルテン・フィッツロイパタゴニア紀行~氷河の夢とフィッツロイへの道~ペリト・モレノ氷河を訪れるという長年の夢が叶った。エル・カラファテの街からバスに揺られ、氷河が姿を現した瞬間、その圧倒的な存在感に息をのんだ。青白く輝く氷の壁は、高さ60メートルにも及び、まるで地球の鼓動を感じるかのように、時折轟音とともに崩れ落ちる。展望デッキから眺める氷河の雄大さに心を奪われ、さらにボートクルーズで間近に迫る。湖上から見上げる氷壁の圧迫感は、言葉では言い尽くせない。陽の光が差し込むと、氷の奥深くに眠る青が鮮烈に際立ち、時が止まったかのような感覚に包まれる。氷河観光を終え、バスに揺られる帰路。長時間の歩行と冷たい風の中で過ごした疲れが一気に押し寄せ、気がつけばホテルに着いていた。日本からここまで約40時間。長い旅路...フィッツロイ紀行ハイライト5

  • カラファテ紀行 ハイライト4 ペリト・モレノ氷河

    広大なパタゴニアの大地、その静寂を切り裂くように、鷲が柵の柱に佇んでいる。羽根は風にわずかに揺れ、鋭い眼差しが遠くの地平を見据えている。その姿は、この果てしない荒野を見守る孤高の番人のようだ。バスの窓から眺める景色は単調に思えるが、ふとした瞬間にこうした生命の躍動に出会うと、旅の意味がふくらんでくる。ペリト・モレノへ向かう道のりもまた、旅そのものがもつ静かなドラマの一幕なのかもしれない。「カラファテ(Calafate)」と呼ばれる植物であり、アルゼンチン・パタゴニア地方に広く分布している。カラファテの植物には鋭い棘があり、家畜が食べることができないため、放牧地では藪を形成する。しかし、夏の終わりになると紫色の小さな実をつけ、それがジャムやお菓子の材料として珍重される。このカラファテの実には、「一度食べた者...カラファテ紀行ハイライト4ペリト・モレノ氷河

  • アルゼンチン紀行ハイライト3 カラファテ

    夕映えのネメス湖19時半、部屋の窓から眺めるネメス湖は、夕焼けに染まりながら静かに広がっていた。空には淡いピンクと深い青が溶け合い、雲がゆっくりと流れていく。遠くに横たわる山々のシルエットが湖面に映り、パタゴニアの大地に深い静寂をもたらしている。この湖が素晴らしい。どれほど旅をしても、この光景は忘れがたいものとして心に残る。パタゴニアを訪れた際に撮った写真の中でも、これが最も好きな一枚かもしれない。時間が止まったような静寂の中、風だけがそっと湖を撫でる。旅の喧騒から解き放たれ、ただこの風景に身を委ねる、そんな至福のひとときだった。夏のカラファテ、冬の静寂アルゼンチン最南端の街カラファテ。この地は冬になれば厳しい寒さに閉ざされ、街は無人となる。ほとんどの店が夏の間だけ営業し、観光客を迎え入れるが、寒さが訪れ...アルゼンチン紀行ハイライト3カラファテ

  • ブエノスアイレス紀行 ハイライト2 タンゴの夜

    タンゴの夜、ブエノスアイレスにてその夜、アルゼンチンタンゴの店に足を踏み入れた。暗がりの中、テーブルに置かれたキャンドルの灯がほのかに揺れる。静かなざわめきの奥で、バンドネオンの音が響き、ゆっくりとステージの幕が上がる。アルゼンチンタンゴは、この街のラ・ボカで生まれたとも言われる。今から150年ほど前、アルゼンチンは繁栄の絶頂にあり、ブエノスアイレスは「南米のパリ」と称された。だが、華やかさの裏には、移民たちの孤独と郷愁があった。彼らが祖国を想いながら奏でた旋律が、やがてタンゴという形になっていった。ステージでは、踊り手たちが情熱的なステップを刻む。かつてこの場所で見たのは「ラ・クンパルシータ」だったか、それとも「エル・チョクロ」だったか。あるいは「ジーラ・ジーラ」や「バンドネオンの嘆き」だったのかもしれ...ブエノスアイレス紀行ハイライト2タンゴの夜

  • ブエノスアイレス紀行 ハイライト1

    ブエノスアイレスカナダのトロントからサンチャゴを経由してやっとブエノスアイレスについた。地球の裏側にやってきたとの感を深めていた。日本の地面を垂直に掘り進めるとブエノスアイレスにたどりつくとよくジョーク混じりに言われるが、なんだか他の天体にやってきたような感覚に襲われていた。シンクの水は日本とは反対周りに吸い込まれる。空の色も異なる。アルゼンチンの国旗はブルーが地色だがあれはこの地の空の色の印象からとられていると合点する。予約してあったホテルはマンションの一室のようで受け付けもマンションの一室風だ。なにも表示がなければ受付だとはだれも気がつかない。これまでに経験したことがない。ドアを開けると若い男女が何やら事務をしており、こちらが入って行ってもあまり愛想が良くない。英語もたどたどしく対応も要領が悪い、従っ...ブエノスアイレス紀行ハイライト1

  • トランプ大統領とゼレンスキー大統領の口論 キューバ危機以来の緊張で視聴した

    トランプ大統領とゼレンスキー大統領の口論キューバ危機以来の緊張で視聴したトランプ大統領とゼレンスキー大統領の口論動画をメモしておく。https://news.yahoo.co.jp/articles/b10e0809fd5bb4c961f539bed89beecde0970f94?page=6岩田太郎氏の腑に落ちる分析。国際政治の基準が、トランプ大統領により「リベラルな価値観に基づく道徳や理想」から「マキャベリ的な実利と現実」へシフトする。ロシアがウクライナでの戦争を終え米国は欧州から西太平洋、中国共産党に向かう。トランプ大統領は2月27日にウクライナ和平について問われ、「プーチン大統領は約束を守るだろう」と答えている。トランプ大統領とプーチン大統領の「友情」で米国とロシアの接近が進むことで、現在の中国と...トランプ大統領とゼレンスキー大統領の口論キューバ危機以来の緊張で視聴した

  • AIお絵描きの研究9 ABSTRACTの試み

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