バクバクと食べて朝食を終え、ごちそうさまも言い忘れたが、食器の片付けはしっかり済ませて、そそくさと自分の部屋に戻った。 慣れないスーツをぎこちなく着て、ネクタイもあれほど練習したのに綺麗に行かなくてイライラしていた。 急いでいればいる程うまく行かないってこの事だよな。 そんな事を痛感しながら着替えを終えて、髪型も綺麗に整えて、玄関まで急ぐ。 玄関の全身鏡を見て、全体を確認した。足元を見ると、俺の靴の横に親父の靴墨と、布巾が置いてある。 ああ。母さんありがとう。綺麗に磨いて、大きな声で言った。 俺「行ってくる!母さんありがとう!!」 駅まで足早に歩き、ホームに着いた。学校に行く時もたまに電車には…
人間の欲望は尽きないもんだ。 この時の俺は、こんな状況でも今の自分の置かれてる立場を理解して、なるべく良いと思える道を歩んで行こうと思ったんだ。 色々有ってドッと疲れたが、こんな日ほど酒が美味いから不思議なもんだ。 マリサさんはこんな会話をしながらも、上機嫌に飲んでたから、こう言うドタバタも酒のツマミと考えたら良いんだろうな。 俺もいつまでも辛気臭い顔しててもマリサさんに申し訳無いから、気持ちを切り替えて楽しむ事にした。 腹も減ってたし、海鮮系の料理と日本酒がバッチリ合うもんだから、この日もカナリの量を飲んだ。 マリサ「トオル君てホントお酒強いわね!私も相当だけど、負けちゃうわ。」 俺は、【酒…
社会人編 母「徹!今日は早めに起きなさいよー!色々支度有るでしょ!」 下から母さんの大きな声が聞こえる。 俺「• • •うん。」 母「起きてるのー?分かった!?」 俺「うーん!!今起きるよ!!」 朝の6:30。眠い目を擦り、階段を降りてフラフラと洗面所へ向かっていく。 冷たい水で顔を洗って一気に目が覚める。気分的には悪くない。頭が切り替わって少し興奮しているのが分かる。 今日から社会人なんだな。俺は希望の会社に入ったんだ。宏美は道が決まらず藻掻いているのに。 頑張らないとな。良し。たっぷり朝ごはんを食べて、満員電車をやり過ごす体力を補わなきゃな。 リビングに行くと父も起きていて、もう朝食が並ん…
残りの学生生活も、楽しくも淡々と過ぎて行く。バイトをしたり、たまに飲みに行ったり、のらりくらりと過ごしていた。 宏美は結局希望の会社に内定は貰えず、バイト先の本屋さんで暫くバイトしながら、アパレルメーカーの面接を受ける生活をしていた。 愚痴を言いながらも前向きに頑張る姿に、俺も色々アドバイスしたり、一緒に息抜きしたり。そんな日常を送る俺達。 そして遂に卒業式を迎えた。 目が輝いてる人と、薄暗くどんよりしている人の両極端の中で、それでも目には涙を溜めながら、それぞれの道を歩んで行く。 俺は中間位かな。不安と希望の狭間で漂っている感じ。 躊躇いながらも止める事の出来ない時間が流れ、ネイキッドデザイ…
マリサ「白は、マサヤが飛ぶのを恐れてアミの情報が伝わる前に確保しに行ったのよ。」 俺「マサヤが飛ぶ?ですか?」 マリサ「この業界なら良く有る事なのよ。女の子の売掛の取りっパグれは、指名ホストが自腹で立て替える事になるから、有る程度まとまった売掛が有る女の子が飛ぶと、その指名ホストも飛ぶって訳。」 俺「なるほど。だから白はすぐさまマサヤの元に向かったんですね。」 確かアミちゃんの売掛は20万ちょいだったはず。 コレは高額なんだろうか? その時の俺には良く分からなかった。 大人の社会は怖いもんだ。 俺「ソレは分かったんですが、アミちゃんの携帯に出た謎の男は何者なんでしょうか?」 マリサ「あぁ。多分…
レストラン街に着くと親父がそわそわしているのが見えた。 父親「徹、もう込み出す時間だから早く来い」 俺「オッケー。じゃあ入ろうか」 親父はどうしてもビールが飲みたいらしく、帰りの運転を母さんにして貰う様に説得してた。 親父はビールを飲みながら、一通り食べて、二人共終盤にウニと〆鯖を旨そうに食べてた。 俺も食べたかった物は殆ど食べ尽して、大満足だ。 俺「いやー。旨かった!!ごちそうさまでした。」 母「もう良いかしらね?それじゃあ帰りましょう。」 三人共旨い寿司をたらふく食べて、ホクホク顔で家路に着いた。 俺は部屋に着いて、早速裁縫セットを試して見る事にした。 端切れの中から厚めの生地を新品のハサ…
ここまでややこしくなって来ると、優先順位を付けないと身動きが取れない。 まずマサヤには引き取り人が必要らしいから、他の人を見つけて貰うしか無い。 それにアミちゃんの件が有るから色々絡んでるけど、とりあえずマサヤには知らせ無いでおこう。 謎の男は白の事を知ってるみたいだったし、アミちゃんを預かるから伝えとけって言ってたな。 多分店への売掛が回収不能になったんだろう。ソレを白に伝えなきゃ。 マリサさんはもう後回しにする事は出来ないから、ひとまず店に行って白に謎の男の事を話してから、マリサさんに会おう。 店に急いで向かい、事務所に駆け込んだ。 白に謎の男の話をすると、自らマサヤを迎えに行くって言い出…
父親「徹。この分はキッチリ酒で返して貰うからな。早く一端の社会人になってくれよ!その時は一緒に記憶無くすまで飲もうワッハハハ!」 母「まぁお父さんったらオツマミ作るの大変じゃないの。」 俺「いや、心配するとこソコ?!」 一同「ハッハッハ!!」 その笑い声で店員さんがコッチを見ている。 俺「すみませーん、ちょっと良いですか?」 店員「はい。どうなさいました?」 俺「このショーケースの、3万5000円のセットを下さい。」 店員「コチラで宜しいですね?それではレジ迄お越し願います。」 丁寧に梱包してくれて、お会計を済ませて商品を受け取る。 俺「ありがとう!後はちょっと本見たいから、二人はどうする?」…
野太い声で、アミちゃんの電話に出た謎の男。 俺「アミさんの携帯ですか?」 謎の男「あぁ。そうだけどお前は?」 俺「あのぉ、その、友達のトオルと言います。」 謎の男「どこの店だ?白んとこか?」 えっ?! 白んとこ?? 俺「あ、はい。そうです。」 謎の男「アミはこっちが貰うからな。白にそう言っとけぇ!」 何だ何だ?全く意味が分からないし、アミちゃんは大丈夫なのか?? 俺「どう言う事ですか?アミちゃんは何かしたんですか?!」 謎の男「はぁ?お前白んとこのもんだろ?」 「お前らは幾ら有るか知らねーけど、コッチはコッチでしっかり回収させて貰うからなぁ。」 「まぁ半年位は預かるからそれまで大人しくしとくん…
沢山の道具セットがある中で、1番高い物は13万円だと!? ちょっと高過ぎるな。この3万5000円のセットはどうだろ。 使う道具はしっかり揃ってるし、見た目もカッコイイ。 アレコレ目移りしていると両親がブラブラしているのが見えた。 俺「おーい。母さんコッチ来てよ。」 俺「こんなに沢山有るから迷っちゃうよね。それでもこの3万5000円のセットなんてどうかな。色も良いし、セットとしても十分だと思うんだけど。」 母「これでしっかり仕事出来るなら良いんじゃない?お父さん。」 父「そうか?俺はコッチの1万円のセットも良いと思うんだけど。」 母「良い物をキチンと使うのが良いんじゃないの。お父さんのお酒は少し…
時計を見ると夜の21:30だった。 マリサさんに電話を折り返そう。 ありのままの状況と気持ちを話したら、マリサさんはきっと分かってくれる思う。 マリサさんの人間性は、前回の絡みで理解したつもりだ。 一方的に押し付ける事は絶対にしないし、相手の状況を理解して、想像力を巡らせてくれる筈だ。 俺はササッと出掛ける準備をして携帯を手に取り、マリサさんの鬼電への返信の電話を掛けた。 俺「すみません。色々有り過ぎて考えながらベットに横になってたら、いつの間にか寝ちゃってました。」 「さっき起きてすぐに出れますので、どこに行けば良いですか?」 マリサ「……分かったわ。そしたらトオル君何も食べて無いでしょ?店…
今日は何を着ていこうかな。クローゼットを開けて暫しにらめっこしてた。 そうこうしてるうちに10:20分になっていた。 母「徹!そろそろ行くわよ。」 下で母さんが言ってる。俺は結局いつものマイセット1を手に取り、そそくさと着替えて階段を降りた。 親父「じゃあ行こうか。」 今思えば3人で出掛けるのは大分久しぶりだな。 1ヶ月位前にしゃぶしゃぶを食べに行った以来かな。 車で10分程走り、他愛もない会話をしていると、程なくして松岡屋に着いた。 まずは3人で裁縫セットを見に行く。 物々しく重い入り口をギシッと引いて開け、エレベーターを目指す。 流石は土曜日の昼間だな。一階の化粧品売り場は、女性の1人客と…
白から一通り話を聞いて、何とも言えない気持ちになった。 今日はもう仕事をする気にはなれないな。 俺「今日はスーツの替えも無いし、頭を整理したいので休ませて下さい。」 白「別に良いけど、指名レースが有るのを忘れんなよぉ。」 そう言えば、ショウは自分で指名レースに100万円を追加してたな。 ソレはどうなるんだろう…… 事務所を後にして、ホールを抜けようと思ったら、なんとマリサさんが丁度来店したんだ。 俺はこの時、頭がいっぱいになっていて、前回のお誘いの時に嘘をついて断り、タクシーから見られていたのをすっかり忘れていた。 マリサさんが冷たい目線で近付いて来たんだけど、俺の血だらけのスーツを見てビック…
親父「今日は松岡屋にでも行くか。あそこなら五階に大きなクラフトショップも有るし、なんたって十兵衛の寿司屋が有るからな。あそこのウニがたまらないんだよ。なぁ?母さん。」 母「そうね。私は〆鯖が好きかしら」 はい、出ましたー。 今鯖食っとるっちゅーねん!もう慣れたから突っ込むのも面倒くさいわ! 俺はそう思いながらヤレヤレ顔で話を進める。 俺「ゆっくり本も見たいからさ、早めに行こうよ。」 親父「徹。ビニ本なんて買うなよ?」 母「まぁお父さんったら。今時ビニールで包んで有る本なんて有るの?テープで止めてあるだけじゃないかしら。」 親父「そうかそうか。ワハハ」 俺「……はいはい」 俺「それじゃあ10:3…
マサヤが捕まっただと!! 何でそんな事になったんだ?! ショウが傷害で訴えた訳でも有るまいし、誰かが通報したのか? 俺は事の真相をアキラに尋ねると、アキラは掃除をしていて、事務所から警察官とマサヤが一緒に店外へ出て行くのを後ろから見たらしく、詳しくは分からないと言っていた。 そうなると事実を知っているのは白だ。 俺は急ぎ足でもう一度事務所に戻ろうと思った。 白が警察を呼んだのだろうか…… そんな事して何か得が有るのだろうか。 分からない。 とにかく白に聞いてみよう。 俺は事務所の前まで来て、気を使う余裕も無く、バタッと扉を開けた。 俺「マサヤが捕まったって本当ですか?!」 白「だーかーらぁ。お…
そんな親父だから、俺が高校の時少し悪さした時はさ、左のボディーブローを軽く食らわされた訳。 もう悶絶よ!息は出来ないは、胃の内容物が込上がってくるわ。 でも、色んな経験して来ただろうから、人間味は凄く厚いんだ。 怒られた後は二人でパチンコ行ってさ。 土曜の昼間っから酒飲んでたのに、高校生の俺を車に乗っけてよ? 飲酒運転で、未成年の息子とパチンコ行く公務員なんて、今考えたらめちゃくちゃクレイジーだよな。 車の中で、俺も昔は散々悪さしたもんよ!お前も同じ血だってこった!ワハハ!って。 ホント最高の親父だよ。俺は、そんな親父が大好きだった。 親父は身長も182cmとかなりデカい。 食欲も人並み以上で…
事務所の扉を開けると、白が店のホームページを更新してるところだった。 マサヤの姿は見えない…… 白「おう帰ったか。ショウはどうだった。」 俺「お疲れ様です。傷自体は大した事が無いと思うので、重傷では無いと思いますが、何日か仕事は出来ないと思います。」 俺は病院まで送っただけなのに、自分の主観で報告をした。 白「まぁそうだよな。そう思ってホームページに、ショウは病院送りになったって書いといたんだぁ。一応指名数はナンバーワンだからねぇ。」 「こんなおもしれぇ事が起こると、何が有ったか気になってまた客が来るもんよぉ。」 「おもしれぇよなぁ♪お前もそう思うだろぉ?」 俺「は、はい。」 白「じゃあお前も…
母「徹ーご飯出来たわよー。」 下で母さんが呼んでいる。 俺は部屋を軽く片付けて、階段をスタスタと降りる。 リビングには父も起きて来ており、寝間着のまま煙草を吹かして新聞を読んでいる。 父「ほう。あの犯人まだ捕まって無いとよ。 あんな大きな強盗事件を起こしておいて。 日本の警察はどうなってるんだ。全く。 税金を有効に使って欲しいもんだよなぁ。 母さん。」 母「そうよねぇ。大根の1つでも安くして欲しいものよね。」 父「そうそう。」 これで会話が成り立ってるんだからウチは平和なもんだよ。全く。 父「おい徹。お前はもう直ぐ社会人になるんだ。父さんの様にはなるなよ?俺は散々苦労してきたから、お前は平坦な…
俺はドタバタと階段を上がって自分の部屋に入った。 一通り髪を乾かし、サッパリした所で、兄貴から貰ったお揃いの古臭い裁縫道具セットを手に取る。 これは初心者から業界の強者までキッチリ仕事が出来る物を詰め合わせてあるセットだ。 一緒にデッサンとかをまとめるファイルも付いてたけど、本棚に閉まったまま使った事は無い。 これのお陰で課題の提出はサクッと出来たし、実習も良い成績を取れて来た。 でも、ハサミは持ち手の部分がヘタって来たし、スケールもバネの戻りが悪い。 やっぱり買い替え時だなー。 でもこのハサミ、片方の持ち手の部分に変な凹みと言うか、エアコンとかのリモコンのリセットボタンの様な穴が有る。 ここ…
寝て起きたら朝の6時だった。 昨夜は余りに楽しくて、すき焼きを腹一杯食べ過ぎたせいか、ベットに横になったら少しゴロゴロして直ぐに寝てしまったらしい。 風呂も入らず寝ちまったから、シャワーでも入ろうか。 無人の兄貴の部屋を横目に若干の思いを馳せつつ、階段をスタスタ降りて行くと両親はまだ起きていないらしいく、静かなリビングの横の風呂場に入った。 俺は、朝に45度位の熱いシャワーをバシャーっと短時間で浴びるのが大好きなのだ。 熱くて細胞が一気に目覚めて、少し身体をバダバタさせる、この感覚がたまらない。 自分の血が巡り回って、大袈裟に言うと生きてる感じをこの瞬間に再認識しているのだ。 ひと通り身体を清…
家に着いたら親父が帰っていた。母はせっせとすき焼きの支度をしていて、慌ただしそうだ。 俺「ただいまー!あ、親父お帰り。俺さ、第一希望のネイキッドデザインに受かったんだよ!」 父「おお。それはおめでとう。卒業前に決まって良かったな。兄貴と同じデザイナーか。」 母「お父さん!薫の事は‥」 父「ああ。そうだったな。アイツはどこほっつき歩いてるんだか。もう2年も音沙汰無しで。」 俺「‥‥まぁさ!兄貴も男なんだし!何だかんだ元気にやってると思うよ。そのうち、おっすー!とか言ってヒョッコリ顔出すよ」 母「そうだと良いんだけどね。薫ったら」 兄貴は4歳上で、ホントに明るくて、俺にも色々してくれる気さくな頼れ…
病院内に入り、ショウはもう良いから帰れって言った。 アレだけイキってたんだ。今の自分を哀れに思われたく無かったんだろう。気持ちは分かるよ。 そして俺は部外者だし、病院にいても何も出来ないので、報告の為にも店に帰る事にした。 そう言えばここまで乗っけてくれたタクシーの運ちゃんは、お金は良いから早く行きなって言ってくれて、払って無かったんだ。 後部座席のシートにも結構血が垂れてたから、掃除もしないといけないだろうし、悪い事したな。 俺はちょっと色々考えたかったので、とぼとぼ歩いて帰ろうと思い病院を後にした。 白はこんな事が有っても全く動じなかった。 この程度の揉め事は慣れっこなんだろうな。 マサヤ…
二人は、テンション高めでいつものファミレスに向かって少し早足で歩いていた。 程無くしてファミレスに着き、いつもの指定席に陣取り、俺はダイエットコーラ、宏美はコーヒーを取って前のめりに座った。 俺「どーよ!宏美。俺はやってやったぞ!」 宏美「ホントにネイキッドデザインに受かるなんて流石は徹ね!おめでとう!」 俺「ありがとう。頑張れたのは宏美のおかげもあるから、今日は奢るね!」 宏美「ありがとね。あぁ。私はどーなるんだろ。徹みたいにラッキーが舞込むと良いんだけど、どこもダメっぽいんだよね。」 ラッキーって(汗)まぁ、ラッキーと言えばそうかも知れない。たまたま試験は山張った所が出たし、受け答えも、考…
ショウはよろけながら何とか立つと、頭から流れる血が目に入って、事の重大さに気が付いたみたいだ。 ケンカしてる最中は、アドレナリンが出まくって多少の痛みは感じないものなんだけど、本当に大量の血が流れると、その血が温かく感じて何だかちょっと気持ちが良いんだ。 それから、頭はとにかく大量に血が出るから、その量に自分でもヤバいって感じて、一気に痛みと怖さが襲って来る。 正にショウはそう感じたんだと思う。 立ったものの戦意喪失し、直ぐにその場に座り込んでしまった。 そして白がショウの元に近づいて行く。 白「どうした?もう終わりかよ。俺はお前嫌いじゃないよ?だから死んで欲しくないんだよねぇ。」 「だけど店…
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