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2020/05/16

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  • 加害者は変われるか?──DVと虐待をみつめながら

    信田さよ子,2015,加害者は変われるか?──DVと虐待をみつめながら,筑摩書房.(5.23.24)加害者は変われるか?:DVと虐待をみつめながら(ちくま文庫) 信田さよ子筑摩書房虐待、DV、性暴力の加害者は、どう動機づけられ、自らの行為をどう意味付けているのか、わたしの最大の関心はそこにあるが、信田さんが言語化したそれは、ひどく幼稚で凡庸なものにしか過ぎなかった。自分に抵抗できない者を虐待する、暴行するというのは、言うまでもなく、卑劣きわまりない行為であるが、その根底にある他者を自らの意思どおりにコントロールしたいという欲望は、おそろしく幼稚な、幼児期に克服されるべき全能感の現れでしかない。わたしは、身近な他者が自分の意思どおりに行為した場合、なんとも言えない居心地の悪さなり、ときには気味の悪さなりを感...加害者は変われるか?──DVと虐待をみつめながら

  • ぼっけえ、きょうてえ

    岩井志麻子,2002,ぼっけえ、きょうてえ,角川書店.(5.23.24)ぼっけえ、きょうてえ(角川ホラー文庫) 岩井志麻子KADOKAWA岡山弁で言う「ぼっけえ、きょうてえ」とは、「とても怖い」という意味だ。岩井さんのデビュー作である本書には、4つの短編が収められており、いずれも、岡山のウェットな風土に根付いた隠微な世界が展開する。岡山は「晴れのくに」として知られている。であるのに、なぜウェットなのか。大宅壮一が岡山県民を「日本のユダヤ人」と呼んだのはよく知られているが、高速交通網による社会移動と情報化が進んだ現在、県民性が云々という議論はナンセンスになっているとしても、13年間、岡山(倉敷)に暮らしたことのあるわたしとしては、「ウェットで隠微」という形容がストンと腑に落ちる。東に神戸、西に広島という大都...ぼっけえ、きょうてえ

  • トラウマの心理学──心の傷と向きあう方法 (新版)

    小西聖子,2012,トラウマの心理学──心の傷と向きあう方法(新版),NHK出版.(5.22.24)戦争、災害、事故、虐待、暴行等により脳に刻み込まれるトラウマ──心的外傷は、解離、フラッシュバック(によるパニック障がい)、対人恐怖、抑うつ、不眠、自傷行為等、その人を長期にわたって──場合によっては生涯、苦しめ続ける。本書は、NHK教育テレビで放送された講座をもとにしており、たいへんわかりやすい。トラウマやPTSDについて造詣の深い者には少し物足りないかもしれないが、初学者や、過去の忌まわしい記憶に苦しめられている人には有益だろう。ドメスティック・バイオレンスや性暴力、子どもの虐待などの事例は後を絶たない。被害者学を専門とし、長い間犯罪被害者のカウンセリングを行い、援助してきた精神科医が、豊富なケースをも...トラウマの心理学──心の傷と向きあう方法(新版)

  • 死後結婚(サーフキョロン)

    岩井志麻子,2009,死後結婚(サーフキョロン),徳間書店.(5.21.24)死後結婚(ghostmarriage)と言えば、アフリカ、ナイル川支流に住むヌエル族のそれがよく知られているが、日本も含めて、前近代社会においては、さまざまなバリエーションがありながら、珍しくもない習俗の一つであった。主人公、京雨子は、白昼夢のなかで、死者たちと交歓する。京雨子が死者の誰かの子を宿すところで物語は終わる。京雨子の死者との交歓、韓国での「死後結婚」の儀式は、わたしたちの先祖が慣れ親しんでいたであろう、死者と共生する世界のありようを彷彿とさせる。死者との交歓を、土俗的な習俗とエロティシズムをまじえて描き出すことにかけては、岩井さんの独壇場だ。OL京雨子が慕うビーズデサイナー沙羅。その内縁の夫が自殺したのは桜吹雪のとき...死後結婚(サーフキョロン)

  • 【名著】「レズビアン」である、ということ【再読】

    掛札悠子,1992,「レズビアン」である、ということ,河出書房新社.(5.20.24)突如、彗星のごとく現れ、数年後、なんの痕跡も残さず去って行った、伝説上の人物、それが掛札悠子さんだ。自分が親密な関係を望む特定の相手が、異性ではなく同性であること、掛札さんがカミングアウトするのは、その事実だけである。結局、「レズビアンである」と言うことは、「今、自分が親密な関係をつくっている(つくろうとしている)のは女性である○○さんだ」という事実を示すひとつの方法でしかない。そして、一人一人の人が自分の現実をそうやって口にすることが簡単になりさえすれば、「レズビアン」という言葉も、「同性愛」「異性愛」という分類も意味をもたなくなる。だが、今の社会で「自分が親密な関係をつくっているのは女性である」と言うことは容易ではな...【名著】「レズビアン」である、ということ【再読】

  • 私たちのなかの私──承認論研究

    アクセル・ホネット(日暮雅夫・三崎和志・出口剛司・庄司信・宮本真也訳),2017,私たちのなかの私──承認論研究,法政大学出版局.(5.20.24)私たちのなかの私:承認論研究(叢書・ウニベルシタス) ホネット,アクセル法政大学出版局ホネットは、高度に抽象的な思弁を弄する人で、哲学が得意ではないわたしとしては、どうも苦手なのだが、本作では、珍しく経験的な分析、考察が展開されており、とくに、労働をめぐる承認の問題はけっこう興味深かった。「裁量労働制」や、企業の個人事業主へのアウトソーシングに端的に現れているように、一見、労働者の自由が拡大しているように見えるが、同時に、法による労働者の権利擁護が後退し、労働の成果が個人の自己責任に帰せられる度合いが増している。ホネットは近年のうつ病患者の増加を指摘しているが...私たちのなかの私──承認論研究

  • 物象化──承認論からのアプローチ

    アクセル・ホネット(辰巳伸知・宮本真也訳),2011,物象化──承認論からのアプローチ,法政大学出版局.(5.20.24)物象化(叢書・ウニベルシタス) アクセル・ホネット法政大学出版局これが講義録とはにわかには信じがたい、抽象的、思弁的な考察が続く。ルカーチが考えた物象化は、人間が損得勘定だけで関わり合う資本主義社会、ゲゼルシャフトのなかで、人が経済的利得のための道具、手段──あたかもモノのように扱われることを意味するが、ホネットは、物象化を、もっと広く「承認の忘却」によってもたらされると考える。わたしは、「承認の忘却」、物象化としての虐待、暴力と、解離、自傷行為との関連をつきとめたく考えているが、難しい課題だ。批判理論の伝統において、今日まで未解決のテーマに挑んだ講義録。“物象化”概念をめぐるルカーチ...物象化──承認論からのアプローチ

  • 承認をめぐる闘争──社会的コンフリクトの道徳的文法(増補版)

    アクセル・ホネット(山本啓・直江清隆訳),2014,承認をめぐる闘争──社会的コンフリクトの道徳的文法(増補版),法政大学出版局.(5.19.24)承認をめぐる闘争:社会的コンフリクトの道徳的文法(叢書・ウニベルシタス1010) アクセルホネット法政大学出版局ホネットの承認論と言えば、どうしてもユルゲン・ハーバマスのコミュニケーション的行為の理論と対比させてしまうのだが、認識、理想的発話、討議に先だって、自己の他者による承認、他者の自己による承認、自己の自己による承認がなければ、認識も発話も討議も成立しないというのは、言われてみればたしかにそうで、それは、ハーバマスが捨象した感情表出の要素を社会理論に復権させる意図も併せもつものであろう。ホネットは、ヘーゲル哲学を、ジョージ・ハーバート・ミードの立論で補足...承認をめぐる闘争──社会的コンフリクトの道徳的文法(増補版)

  • 水車小屋のネネ

    津村記久子,2023,水車小屋のネネ,毎日新聞出版.(5.18.24)水車小屋のネネ 津村記久子毎日新聞出版日頃、毒々しい内容の小説ばかり読んでいるせいか、ハートウォーミングな群像小説である本作品がよけいにこころに染み入った。母親に短大進学費用を使い込まれ、母親が新たに付き合い始めた男に虐待される妹の律をかばって、親元を逃げ出し、そば屋に住み込みで働く理佐。1981年から2021年までの40年間、どこにも居場所がなかった姉妹は、さまざまな人々と関わり合い、しっかりと地域社会に根をはっていく。そして、それぞれの生きづらさをかかえた若者たちが、姉妹と関わり合い、根を下ろせる場所と生きる意味とを見出していく。そばの実を挽く水車小屋に住みつくヨウム、ネネが、人と人との関係性をつないでいく。ネネを介してつながってい...水車小屋のネネ

  • 【旧作】家族卒業【斜め読み】

    速水由紀子,2003,家族卒業,朝日新聞社.(5.17.24)本書が出版されたころ、大学の入学式に仲良く参加する「一卵性母娘」が話題になっていた記憶がある。長時間労働に縛り付けられた夫(父)が不在の家庭で、専業主婦かパートタイム勤務の母親と子どもとの癒着が深まる。ただの「友だち親子」であれば問題はないが、往々にして、母親は、子どもの人生に夢を託し、自らの支配下におこうとする。スーザン・フォワードの「毒親」(toxicparents)概念が人口に膾炙したのは、その10年ほどあとのことである。そしてさらにその10年ほどあとの現在、婚姻制度も戸籍制度も、20年前と変わらぬままだ。法律婚という体裁とカネのつながりだけで維持される夫婦関係と、世界に類を見ない買春市場の隆盛。この国の家族のかたちはなにひとつ変わってい...【旧作】家族卒業【斜め読み】

  • 父の逸脱──ピアノレッスンという拷問

    セリーヌ・ラファエル(林昌宏訳),2017,父の逸脱──ピアノレッスンという拷問,新泉社.(5.16.24)父の逸脱―ピアノレッスンという拷問 セリーヌ・ラファエル新泉社著者のラファエルは、4歳から14歳までの10年間、実父から虐待を受け続けた。ピアニストになるべく、長時間、ピアノレッスンを強制され、完璧に弾きこなすことができなければ、ズボンと下着を引き下ろされ、尻を鞭打たれる。父親は大企業の幹部社員であるが、事件が発覚した後も、自らの行為が虐待であったとは認めない。父はまったく変わっていないとわかった。父の完璧主義は病的であり、恐るべきものだった。父は、わたしを通じて自分の父親をもっと満足させ、彼に認めてもらいたかったのか。わたしを完璧な子どもにすることで、自分自身が完璧な子どもでなかったことの埋め合わ...父の逸脱──ピアノレッスンという拷問

  • 知的障害・自閉の人たちと「かかわり」の社会学──多摩とたこの木クラブを研究する

    三井さよ,2023,知的障害・自閉の人たちと「かかわり」の社会学──多摩とたこの木クラブを研究する,生活書院.(5.15.24)知的障害・自閉の人たちと「かかわり」の社会学――多摩とたこの木クラブを研究する 三井さよ生活書院知的障害・自閉症当事者の「自己選択」、「自己決定」、「自己実現」を支援する市民団体、「たこの木クラブ」での経験から、「ともに生きる」ことの意味を探求する。おっと思ったのは、ニクラス・ルーマンのシステム論、コミュニケーション論を援用して、障害当事者および支援者との経験を考察していくくだりだ。障害当事者との関わりも含めて、わたしたちは、他者の行為の意図、動機を正しく理解できるとは限らない。理解できると慢心することが、コミュニケーションの失敗や二次障害につながることもある。はじめにあるのは、...知的障害・自閉の人たちと「かかわり」の社会学──多摩とたこの木クラブを研究する

  • ぼっちな食卓──限界家族と「個」の風景

    岩村暢子,2023,ぼっちな食卓──限界家族と「個」の風景,中央公論新社.(5.14.24)ぼっちな食卓限界家族と「個」の風景 岩村暢子中央公論新社足かけ20年、三度にわたるパネル調査の結果ににもとづき、家族の食生活のあり方から、とめどなく個人化する家族のありようを描き出す。目黒依子さんが『個人化する家族』を著したのが1987年のことだった。高度経済成長期、私生活中心主義、マイホーム主義の定着により、家族の地域社会における孤立の問題が浮上したが、バブル経済期のあたりから、家族内部での個人化が注目されるようになった。「一緒にいてもスマホ」、家族がお互いに無関心を装い、お互いに関与しない、干渉しない、食事は各自が勝手に調達して食べる。現実は、「個食」のその先へと進んでいる。夫婦や親子の間柄でさえ、関わり合うこ...ぼっちな食卓──限界家族と「個」の風景

  • 家族変動と子どもの社会学──子どものリアリティ/子どもをめぐるポリティクス

    野辺陽子編著,2022,家族変動と子どもの社会学──子どものリアリティ/子どもをめぐるポリティクス,新曜社.(5.13.24)家族変動と子どもの社会学ー子どものリアリティ/子どもをめぐるポリティクス 野辺陽子新曜社子どもの権利、とくに子どもの意見表明権の擁護の問題は難しい。本書では、親の離婚、非配偶者間生殖技術により生まれてくる子ども(とくにゲイのカップルから代理母により生まれてくる子ども)、児童養護施設で育つ子どもの友人関係、保護された被虐待児の処遇、以上をとおして、子どもの権利擁護とその限界について論及する。この問題は、「第5章被虐待児に対する「子どものため」の臨界──被虐待児は「子どものため」の支援/介入とエイジェント化をどのように経験しているか」(根岸弓)において、もっとも克明に描き出されている。...家族変動と子どもの社会学──子どものリアリティ/子どもをめぐるポリティクス

  • 風俗依存症──私が本当の居場所を見つけるまで

    大庭佳奈子,2011,風俗依存症──私が本当の居場所を見つけるまで,文芸社.(5.13.24)【文庫】風俗依存症―私が本当の居場所を見つけるまで―(文芸社文庫お2-1) 大庭佳奈子文芸社本棚の一角にセクシュアリティ関連の書物があって、はっきり言って苦手な領域なんだが、研究計画上、避けられないテーマであるからして、無理せず少しずつ読んでいくことにした。(軽躁状態のとき、この手の書物を集中して読んだときはそうとうヤバかった・・・。)大庭さんは、崩壊した家庭環境に耐えられず、そこから逃げ出すように、モデル業、そして性風俗の世界に足を踏み入れる。わたしの関心は、セックスワーカーの多くが、愛着資本を欠落させているという問題だ。愛着資本の欠落ゆえに、性風俗の場に身を置き、深入りしてしまうとすれば、自己決定、自己責任の...風俗依存症──私が本当の居場所を見つけるまで

  • 人を動かすナラティブ──なぜ、あの「語り」に惑わされるのか

    大治朋子,2023,人を動かすナラティブ──なぜ、あの「語り」に惑わされるのか,毎日新聞出版.(5.12.24)人を動かすナラティブなぜ、あの「語り」に惑わされるのか 大治朋子毎日新聞出版20年ほど前、ナラティブアプローチによる臨床社会学の試みが注目された時期があって、わたしも、某学会でシンポジウムを主宰したことがある。細々としてではあるが、社会学だけでなく、精神医学や看護学、社会福祉学の分野でも、ナラティブアプローチは現場で実践されており、トラウマケアや、精神障がい者の地域生活支援、高齢者の生活史の聴き取り、フィンランドではじまったオープンダイアローグ等、ナラティブアプローチによる実践は大きな効果をあげてきた。ナラティブとは、「さまざまな経験や事象を過去や現在、未来といった時間軸で並べ、意味づけをしたり...人を動かすナラティブ──なぜ、あの「語り」に惑わされるのか

  • 敬遠される役務のことなど

    教〇員組合上部団体の月一の会合。どこの組合でも、「自分の権利は組合に守ってほしいが役務は負いたくない」という、いわゆるフリーライダー希望者が多いという話しをよく聞く。たしかに、月一の会合にしても、半日以上は潰れてしまうし、面倒じゃないとはいえない。でも、やってみると、「月一くらいいいんじゃね?」と思えてもくる。それに、単組の団交に比べれば、楽なもんだ。今年度は、マンション管理組合の役員も引き受けている。先ほど、先日あった理事会の議事録に、確認のサイン、押印をしたところだ。こちらも、月一で半日弱潰れるが、「月一くらいいいんじゃね?」と思うのは、労組の活動と同じだ。フリーライダーはケチくさいし、カッコ悪いよ?新宿タワマン25歳女性刺殺「1000万円」めぐり異なる説明逮捕の男「応援のため」女性「前払い金として」...敬遠される役務のことなど

  • 上昇(アップスウィング)──アメリカは再び<団結>できるのか

    ロバート・D・パットナム、シェイリン・ロムニー・ギャレット(柴内康文訳),2023,上昇(アップスウィング)──アメリカは再び<団結>できるのか,創元社.(5.11.24)ブックトレーラー『上昇(アップスウィング)』ロバート・パットナムは、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)という用語を人口に膾炙させた人物であると同時に、次から次へと大部の著作を世に問うてきたことでもよく知られている。パットナムの名を世界に知らしめた『孤独なボウリング──米国コミュニティの崩壊と再生』以外にも、以下のような著作群がある。ロバート・D・パットナム、デヴィッド・E.キャンベル(柴内康文訳),2019,アメリカの恩寵──宗教は社会をいかに分かち、結びつけるのか,柏書房.ロバート・D・パットナム(柴内康文訳),2017,われらの子...上昇(アップスウィング)──アメリカは再び<団結>できるのか

  • にがにが日記

    岸政彦,2023,にがにが日記,新潮社.(5.10.24)にがにが日記 岸政彦新潮社社会学者としても小説家としても、興味深く、優れた仕事をしてきた岸さん。わたしも岸さんの仕事(著作)はフォローしてきたので、本作も期待して読んだんだが、まんま身辺雑記だった・・・まあ、「日記」にはちがいないんだが。しかし、生活史研究、小説、ウッドベースと、多才な人だよな。面識はないけど、共通点はいろいろある。〇わたしが学部時代を過ごした大学の大学院に岸さんは在籍していた。〇ねこ好き。少し前まで、わたしも岸さんも、二匹のねこを飼っていて、二匹ともすでに死んでしまった。〇音楽好き。ただし、わたしはロック、岸さんはジャズ。まあ、わたしも、いまは、ジャズを聴くことが多くなったけど。〇「一緒に暮らしている人」がこころ優しい。〇不妊治療...にがにが日記

  • 生皮──あるセクシャルハラスメントの光景

    井上荒野,2022,生皮──あるセクシャルハラスメントの光景,朝日新聞出版.(5.9.24)生皮あるセクシャルハラスメントの光景 井上荒野朝日新聞出版性暴力被害や被害者のPTSDをモチーフとした、ノンフィクション(ドキュメンテーション)や学術書は数多い。それらには、被害経験とその記憶に苦しむ当事者の生々しい声も数多く収録されている。しかし、自らの苦しみを言語化するのは必ずしも簡単なことではなく、性暴力被害経験とその記憶の過酷さがじゅうぶんには伝わっているとは言えない現状がある。そして、加害者は、被害者以上に口を閉ざしたままであることが多く、なぜそのようなことをしたのか、自分がしたことに対しどう思っているのか、ほとんど不明のままだ。その点、優れたフィクション、文学作品は、被害者、加害者双方の心理を、巧みな言...生皮──あるセクシャルハラスメントの光景

  • 資本とイデオロギー

    トマ・ピケティ(山形浩生・森本正史訳),2023,資本とイデオロギー,みすず書房.(5.8.24)資本とイデオロギー トマ・ピケティみすず書房注釈を含めると、優に1,000ページを超す大著。これ以上の大著となると、アイン・ランドの肩をすくめるアトラスくらいしか思いつかないが、小説と学術書はちがう。もちろん、本書の方が、全部読みとおすには、より強靱な忍耐力を必要とする。『21世紀の資本』よりも、時間的にも空間的にもよりスケールが大きい議論が展開されている。中世の「三層社会」──聖職者、軍人、庶民の三層より成る、近代初期の「所有権社会」、奴隷制と植民地主義、社会民主主義と共産主義、ハイパー資本主義、フランス、ドイツ、イギリス、スウェーデン、米国、日本、中国、インド、ブラジル等々、縦横無尽に時空を飛び越え、格差...資本とイデオロギー

  • 代理母、はじめました

    垣谷美雨,2023,代理母、はじめました,中央公論新社.(5.7.24)代理母、はじめました(中公文庫) 垣谷美雨中央公論新社2010年代後半以降、日本と韓国では、「フェミニズム文学」がけっこう盛んになってきたが、本作もその系譜に位置づけられる作品だろう。代理母は、「それをお金で買いますか?」(マイケル・サンデル)問題の最たるものであろうが、主人公たちは、代理母を務める貧困女性が、買い手やブローカーに搾取される度合いとリスクを低減するための最大限の配慮を実践していく。本作も、一気読みしてしまうこと必至のおもしろさだ。解説は、山田昌弘さん。義父の策略で、違法な代理母出産をさせられた16才のユキ。命がけで出産したにもかかわらず、報酬はすべて義父の手に。再び代理母をさせ稼ごうとする義父の手から逃げだしたユキは、...代理母、はじめました

  • 老後の資金がありません

    垣谷美雨,2018,老後の資金がありません,中央公論新社.(5.7.24)老後の資金がありません(中公文庫) 垣谷美雨中央公論新社かろうじて中流階層に踏み止まる夫婦が、生活困窮の一歩手前まで追い込まれる筋立てだが、最期はハッピーエンドで終わる。どこの中流階層の家庭でも起こりうる展開だが、凡庸な内容にならず、最後まで読み手を引きつけるストーリーテラーとしての力量はさすがだ。本作がけっこう話題を集めたのは、もちろん、多くの人が老後の生活資金の問題に不安をいだいているからだ。2019年に、金融庁が、老後の生活を維持するためには預貯金2,000万円が必要とするレポートを提出したことが、この不安を増長した。「老後資産2000万円」金融庁報告書の波紋まとめ読みリタイア後の生活設計が難しいのは、きわめてシンプル、人間、...老後の資金がありません

  • 悪い夏

    染井為人,2020,悪い夏,KADOKAWA.(5.6.24)悪い夏(角川文庫) 染井為人KADOKAWA生活保護の不正受給者、受給者にたかるケースワーカー、同僚ケースワーカーの不正をただしながらヤクザの仕掛けた罠にはまり転落していくケースワーカー、覚醒剤中毒者と化したケースワーカーに暴言を吐かれ子どもと心中するシングルマザー・・・どこにも救いようのないエピソードが延々と続いていく。読み始めは、生活保護受給者への不信を煽るような人物造形に不快になったが、それを上回る、善人も悪人も次々に不幸のどん底に落とし込まれていく展開の不快さの方が優ってしまった。もちろん、読み手を不快にするフィクションが悪いというのではない。とはいえ、一縷でも希望をいだかせる結末もあり得たのではないかという思いは残る。気持ちが落ちてい...悪い夏

  • 恋愛の日本史

    本郷和人,2023,恋愛の日本史,宝島社.(5.5.24)恋愛の日本史(宝島社新書) 本郷和人宝島社日本やタイは、宗教による性愛の禁圧がほとんどなかった稀な社会であり、それが、現在の買春天国(地獄かも)につながっていることを思うと、「性のタブーのない日本」をことさら言祝ぐ気持ちにもなれない。本書の『源氏物語』の解説では、光源氏のマザコン、ロリコン、B専、監禁、寝取られ、托卵等のエピソードが語られている。こんな気色悪い男の性愛遍歴を描いた作品が、高尚な古典文学として現在も愛好されているのは、キリスト教やイスラム教の文化圏では考えられないことなのだろう。日本史の教科書の登場人物はほとんど男である。しかし、男どもの権力闘争のバックにはつねに女がいたし、闘争に関与しないとしても、人々の暮らしの半分以上を担ってきた...恋愛の日本史

  • おひとりさま vs.ひとりの哲学

    山折哲雄・上野千鶴子,2018,おひとりさまvs.ひとりの哲学,朝日新聞出版.(5.4.24)おひとりさまvs.ひとりの哲学(朝日新書) 上野千鶴子・山折哲雄朝日新聞出版どう死ぬかということはどう生きるかということだ。西行や種田山頭火に憧れて、「俺は野垂れ死にしたい」とうそぶくオヤジがいるが、そういう男にはきまって妻子がおり、ちゃっかり依存先なり逃げ道なりを用意したうえで、自分は世俗的な生への執着がない──実際は人一倍執着している──と格好つけているだけだ。婚姻というものが、「誰にも看取られずに孤独死すること」への恐怖から逃避する一手段となっていること、それは確かなのだろう。上野「妄想」と正直に言っていただければ理解できます。ここでも「性格の悪い社会学者」は、妄想よりリアルを見ちゃうんです。その妄想だって...おひとりさまvs.ひとりの哲学

  • 「おひとりさまの老後」が危ない!──介護の転換期に立ち向かう

    上野千鶴子・髙口光子,2023,「おひとりさまの老後」が危ない!──介護の転換期に立ち向かう,集英社.(5.3.24)「おひとりさまの老後」が危ない!介護の転換期に立ち向かう(集英社新書) 上野千鶴子集英社介護保険財政の健全性の維持のため、介護現場での職員配置基準が緩和され、介護職員の労働強化が進んでいる。そうしたなか、だれしも認める「介護のプロ」の髙口さんは、施設居室への監視カメラの導入に反対し、職を追われた。その髙口さんと上野さんが、高齢者介護をめぐる問題状況を語り尽くす。「人に迷惑をかけてはいけない」とか、「人の役に立つ人間でなければいけない」とか、とくに心身の機能が衰えた高齢者にとっては無理筋の考えは、難病の当事者や重度の障がい者だけでなく、病気や障がい、生活困窮の当事者となる可能性のあるすべての...「おひとりさまの老後」が危ない!──介護の転換期に立ち向かう

  • 最期はひとり──80歳からの人生のやめどき

    上野千鶴子・樋口恵子,2023,最期はひとり──80歳からの人生のやめどき,マガジンハウス.(5.2.24)最期はひとり80歳からの人生のやめどき(マガジンハウス新書) 上野千鶴子マガジンハウス本書は、日本のフェミニズム、介護の社会化運動を牽引してきた、人生の大先輩のお二人による対談集だ。きっと、少なくない女性が、このお二人をロール・モデルとして、人生をおくってきたのであろう。このわたしも、社会学の研究者になるきっかけの一つは、上野さんの快刀乱麻を断つがごとき、論文や著作群に触れたことにあった。ワーク・ライフ・ケア・バランスの実現は、後続世代に託される大きな課題だ。上野今回の改悪反対行動を共にするなかで、樋口さんから「私たちがつくったものを守っていってください」と言われたときにぐっときました。樋口さんから...最期はひとり──80歳からの人生のやめどき

  • 社会学の新地平──ウェーバーからルーマンへ

    佐藤俊樹,2023,社会学の新地平──ウェーバーからルーマンへ,岩波書店.(5.2.24)社会学の新地平ウェーバーからルーマンへ(岩波新書) 佐藤俊樹岩波書店いやあ、なかなかおもしろかったね。「プロテスタンティズムの倫理」、とくにカルヴィニズムは、中世ヨーロッパの修道院での「世俗外禁欲」ではなく、「世俗内禁欲」として定着していった。そして、フィレンツェで生まれた法人会社の制度は、「人による支配」から「規則による支配」、「公私の分離」等の特色をもつ近代官僚制の基盤となった。それゆえ、近代資本主義を成立させた具体的な原因として、ウェーバーは一つではなく、少なくとも二つ考えていた。一つはいうまでもなく①プロテスタンティズムの禁欲倫理であり、もう一つは②会社の名の下で共同責任制をとり、会社固有の財産をもつ法人会社...社会学の新地平──ウェーバーからルーマンへ

  • 毒婦たち──東電OLと木嶋佳苗のあいだ

    上野千鶴子・信田さよ子・北原みのり,2013,毒婦たち──東電OLと木嶋佳苗のあいだ,河出書房新社(電子書籍版).毒婦たち東電OLと木嶋佳苗のあいだ 上野千鶴子河出書房新社(著作権者、および版元の方々へ・・・たいへん有意義な作品をお届けいただき、深くお礼を申し上げます。本ブログでは、とくに印象深かった箇所を引用していますが、これを読んだ方が、それをとおして、このすばらしい内容の本を買って読んでくれるであろうこと、そのことを確信しています。)わたしは、今年1月初旬から4月初旬まで、メンタルヘルスの失調──軽躁状態にあり、悪いことに、ほぼ同時期に、買春、愛人ビジネス、パパ活等を取り上げた書物を集中して読み、よけいにメンタルヘルスを失調させることになってしまった。もとはといえば、トラウマと自傷的行為、ケアとエロ...毒婦たち──東電OLと木嶋佳苗のあいだ

  • 戦後と災後の間──溶融するメディアと社会

    吉見俊哉,2018,戦後と災後の間──溶融するメディアと社会,集英社.(5.1.24)戦後と災後の間――溶融するメディアと社会(集英社新書) 吉見俊哉集英社本書は、2013年から2018年にかけて、新聞紙面に連載された時評集である。第二次安倍政権やドナルド・トランプが弄した数々のフェイク、原発回帰、沖縄基地問題等、まっとうな批判が繰り広げられているが、言葉遣いは慎重であり、抑制的だ。これには、新聞連載記事という制約だけでなく、炎上やキャンセル・カルチャーだけは回避したいという、吉見さん自身の意向もはたらいたのだろう。東大の学部長や副学長を歴任した人ならではの慎重さを感じた。(褒めているのでも貶しているのでもありません。)それでも、吉見さんの、時代を捉える視角は、正確であり、ブレがない。米国を取り巻く世界は...戦後と災後の間──溶融するメディアと社会

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