濃い灰色の雲が、重苦しく立ちこめる朝だった。鶏が鳴いても、太陽が顔を出さない。春とは名ばかりの、肌寒い日。 暖炉に火をつけるかどうか、姑と夫は軽く言い合いをしていた。 数日前、もう暖房は必要ないだろうと結論していたため、夫は火を炊くこと
「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展@東京都現代美術館
巷で話題沸騰中のディオール展、ようやく行ってきました。4月の前売りチケットの発売初日、「つ、繋がらない!」と言いながら、スマホで頑張って取りました。10時半で予約していたのですが、行ったらもう、当日券終わってましたね。クリスチャン・ディオー
3月もミステリ三昧しておりました。いつかは書きたいミステリ……。「何がなんでもミステリー作家になりたい!」(鈴木輝一郎)小説講座をやっている先生のミステリ小説の書き方についての本。ミステリBL書きたいな~、とぼんやり思っていて参考になればと
ジャニーズWEST2023ツアー「POWER」@横浜アリーナ3/27昼
こんにちPOWER!!!!!!!現在ジャニーズWESTのツアーが開催中。横浜アリーナでの公演に運よく当選したので、行ってきました。レポは熱いうちに書け! ということで、印象に残ったところをレポしておきます。ちなみに密録はもってのほかだし、メ
1月全然読めなかった反動で、2月はいっぱい読みました。(原稿をしろ!)「獣はかくしてまぐわう」(沙野風結子)沙野先生の警察&バディものが好きなので、2巻目も読了しました。私は受けの後輩のコツメカワウソちゃんが可愛くて好きです。「O...
<<はじめから読む!<18話 勝手知ったる自分の家とばかりに、キッチンでコーヒーを淹れた。お互いにこだわりがないので、インスタントを適当に。新調したばかりのおそろいのマグカップを手に、司が部屋に戻ると、花房は愛おしそうにギターを抱きしめ、爪
<<はじめから読む!<17話 怪我人はベッドに寝かせたまま、司は彼の股間に顔を埋めた。毛を掻き分けて陰嚢を指で撫で回し、立派にそびえ立つ陰茎の側面を唇だけで銜え、刺激を与える。上目遣いで窺う花房の表情は、興奮の赤に染まっている。 自分の愛撫
<<はじめから読む!<16話「ほ、本当にする?」 ベッドの上に移動した司は、ウブなヴァージンに戻ってしまったかのような気分で、震えた。枕元に手をついた花房が、「いまさら、でしょう?」と笑う。 公的な場面での爽やかイケメンスマイルではなく、獰
<<はじめから読む!<15話 さすがに夜中に大立ち回り(とはいえ、司自身は何もしていない)があったうえに、授業も花房の欠勤の穴埋めをしなければならず、疲れた。「今日は、早く帰ろ……」 アルバイト講師も全員帰したところで、最低限の仕事をして、
<<はじめから読む!<14話 そのあとのことは、あまり覚えていない。警察署で取り調べを受け、非行少年として補導されかけた子どもを庇い、その親に引き渡した。河原の母は泣いて息子の無事を喜んだし、鈴木の母は息子の頭を問答無用でぶん殴った。 もし
<<はじめから読む!<13話 名乗ることも忘れていた母親を落ち着かせて話を聞いた。彼女は河原の母親で、残業を終えて帰宅したところ、息子が家にいないと泣いて訴えた。 部活と勉強の両立を目指し、滅多に塾を欠席することもない河原だが、司は彼を退塾
<<はじめから読む!<12話 自分が花房の夢を妨げてしまった。その事実に、夜も眠れないほど悩んだ。 同じ教室で、いずれは室長として切磋琢磨したい。自分の密かな夢は、花房の夢を踏みにじった上にしか成立しないのだと、改めて思い知らされる。 司が
<<はじめから読む!<11話「花房先生、めっちゃくちゃかっこよかったです!」 興奮した口調、拳を握って振り上げるのは菊池だった。すでに生徒を見送り、電話営業もできない時間帯だから、今日の仕事のまとめと明日の準備をのんびりとやっている。 花房
<<はじめから読む!<10話 一度倒れたことで、花房は吹っ切れた。 休日出勤の代休もしっかり取るようになったし、授業前にはおにぎりや菓子パンを頬張って、エネルギー補給をしてから臨む。急いで飲み込もうとしている姿を見て、「ゆっくり食えって」と
<<はじめから読む!<9話 朝六時に鳴り出したスマホのアラームを、開始三秒で止めることに成功した。寝室は静かで、司はホッとする。 台所を借りて、朝食を作った。起きたときに少しでも食べてもらえればいい。 ハムと卵、レタスのサンドウィッチに野菜
<<はじめから読む!<8話 自分が入れる授業は入り、どうしても無理なところは今日は出勤していないアルバイトに急遽来てもらい、なんとか事なきを得た。授業中は花房を沢村に任せ、おかげで彼女も残業になってしまった。 頭を下げると、彼女は司のことを
<<はじめから読む!<7話 花房を見守っていた司だが、そうはいっても、彼もいい年をした成人男性である。当然、手のかかる子どもたちを多数抱えている状況で、そこまで注意していられるはずもない。 顔を合わせてはちゃんと食べているのか、寝ているのか
<<はじめから読む!<6話「蓬田先生、お時間いいですか?」 丁寧な口調は声音も朗らかで、司は一瞬、呆けてしまう。「お前誰だ?」が顔に出ていたようで、花房は途端に、うろんな顔つきになる。慌てて取り繕って、「大丈夫」と笑うと、彼は気にした様子も
<<はじめから読む!<5話「えー? 歓迎会開いてもらってないのー? ダメじゃないか、蓬田先生。新人を受け入れる、その姿勢が大事なんだから」 折しも、今日は土曜日。明日はテスト対策の特別授業も入っておらず、普通に休みであることを告げると、湧田
<<はじめから読む!<5話「えー? 歓迎会開いてもらってないのー? ダメじゃないか、蓬田先生。新人を受け入れる、その姿勢が大事なんだから」 折しも、今日は土曜日。明日はテスト対策の特別授業も入っておらず、普通に休みであることを告げると、湧田
<<はじめから読む!<4話 男――花房は、最低でも週に三回は、駅前で弾き語りをしていた。帰りに彼の歌を聞くことが、司の楽しみになっていた。観客はいたりいなかったり。通りすがりの一見客ばかりの中、常連になっていた司のことを、彼も認知していたは
<<はじめから読む!<3話 二十四歳。新卒一年目はどうにかなった精神力は、二年目になって急激に摩耗していた。何もかもが初めてだった新卒時よりも、勝手がわかってきてからの「なんかこれ、おかしくない?」の方が、辛い。 別に、やりがいや夢を求めて
<<はじめから読む!<2話 六月一日付で、花房はなふさ一里いちりは司の教室に配属された。小さな教室だから、社員は室長の司と、花房のふたりきりだ。「蓬田先生。こちら、花房先生」 上長である湧田がわざわざ花房を連れてきた。 初対面の感想は、「社
11月本を読了するまでは次の本買えない。っていうか普通に金欠で買えない。(WESTのチケット当たりますように!:当落日まだ)「獣はかくしてまぐわう」(沙野風結子)「獣はかくして交わる」の続編です。【あらすじ】東界連合壊滅という目的の一致..
<<はじめから読む!『その新人、花房はなふさ先生っていうんだけどさ、社長の甥っ子なんだよね』 案の定、終電滑り込みコースになった司は、湧田の言葉を反芻しながら歩みを速めた。 五月も半ばを過ぎ、日中は真夏と紛うほどの暑さの日も少なくない。だが
電話の向こうの声が、一瞬静まった後に、キンキンと甲高く響いた。『じゃあ先生は、うちの子がずる休みをしたって言いたいんですか!?』 だからそうだって言ってんだろ。 反射的にそう受け答えしたくなる気持ちをぐっと堪えて、司つかさは下手に出る。「
別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。 すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。 これ以上、「他の会社に用があ
今月は小説を書くのにいっぱいいっぱいで、ほとんど読めずじまい……。「文芸オタクの私が教えるバズる文章教室」(三宅香帆)noteの配信を見て、「面白そうだな」と思って図書館で借りる。先月も同じことを言ったけれど、オタクの書く文章はおもしれぇな
11月買った積読本を消化中です。「君の運命になれなたら~初恋オメガバース~」(春田梨野)twitterで相互フォロー関係で、もくりを開けると結構な確率で遊びに来てくださる春田さんのデビュー作になります。デビュー、本当におめでとうございます!
12月に読み終えていたんだけど、レビューに手が回らず、もう一回読みました!レビューしないと次の本に手をつけないので、11月に買った本がいっぱい積んであります。「孤独な神竜は黒の癒し手を番に迎える」(寺崎昴)【あらすじ】天を操り恵みをもたらす
【ネタバレ】「ザ・ビューティフル・ゲーム」@日生劇場1/11マチネ
ミュージカルが好きです。テニミュきっかけで好きになった若手俳優の他の舞台を見にいっていた時期が長くありました。ストレートもミュージカルも、朗読劇もありました。全部好きですが、特にミュージカルが好きです。音楽の力はすごい。セリフや身体、表情の
今年も創作TALKの季節がやってきました。いや、そんなん書いている暇はないのですが・・・・・・うん、息抜き息抜き!(現実逃避)twitterなどからやってきた皆様へ。・このブログサイトは自作小説とレビューがメインの雑記ブログです・BL小説と
今年も創作TALKの季節がやってきました。いや、そんなん書いている暇はないのですが・・・・・・うん、息抜き息抜き!(現実逃避)twitterなどからやってきた皆様へ。・このブログサイトは自作小説とレビューがメインの雑記ブログです・BL小説と
12月に読んだ本、漫画をまとめます。「書く習慣」(いしかわゆき)kindleアンリミテッドに入っていたので読了。オタクの書く文章は面白いなあ。著者の「帰り道の10分で毎日日記を書いていた」というのを真似して、電車に乗るときだけ日記をnote
本当は今年買ってよかったものを挙げようと思ったんだけど、化粧品以外に「これこれ~!」ってものが、今年はあんまりなかった記憶。せいぜいがココフセンのクリップタイプか。コーンドレッシングかな。グラッチェガーデンズは、どうしてピザの食べ放題のとき
「旅行に行かないか?」 付き合いで見始めた映画が案外面白く、夢中になっていたせいで、反応が一瞬遅れた。「え」 トシキの顔をまじまじと見る。彼はまっすぐにテレビを見ていて、一見すると、映像にのめり込んでいる様子だ。 けれど、本当は違う。身体は
BL小説読みなら誰もが一度は読んだことのある、角川ルビー文庫が創刊30周年!おめでとうございます!イベントが始まっています。1 KADOKAWAアプリでポイントフェアリアル書店で紙の本を買う人は、KADOKAWAアプリをダウンロードして参加
レビュー記事は、基本的に購入した本で行っています。図書館で借りた本も含めて、11月に読んだ本について紹介します。「泣くロミオと怒るジュリエット」(鄭義信)ジャニーズWEST・桐山照史主演でしたが、緊急事態宣言下で途中で中止になってしまった舞
昨年、配信があった映画「川のながれに」が都内で劇場公開され、舞台挨拶に我が推し、松本享恭くんが出演するということで行ってきました。映画本編やアフタートークの話をする前に、下北沢の街について少し。東京大学の学生だった10年以上前、私は駒場キャ
11月のお給料日に、どの本を買うかシミュレーションしています。まぁ全部BLですが……。「烏の緑羽」(阿部智里)文庫化を待てないシリーズナンバーワン、八咫烏シリーズの最新刊を読了しました。壮年になった雪哉の所業に戦いたり、若宮が亡くなっている
これで今月買ったBL小説はようやく読了です。「運命と偽りの花嫁」(水川綺夜子)北国の王子・アムリタは美貌と聡明さからアルファだと期待されていたが、のちにオメガだと判明する。オメガは奴隷同然の身。アムリタは父王により地下牢に繋がれる。一方、砂
モフモフ祭り、ラストはリンクスロマンスもふ~。「眠り屋羊は狼貴公子の閨で恋をする」(村崎樹)獣人たちが暮らす商業都市・ファラベルバル。田舎から出てきた羊獣人のメロウは、魔法で人々を健やかな眠りに導く“眠り屋”を営んでいる。ある日、シカ族の紳
ひとりで勝手に角川モフモフ祭り、ようやく三冊目です。「溺愛鷹公爵と愛され猫」(椿ゆず)ネコ科獣人のルカは不吉な虹色の瞳を持つため孤独に生き、居場所を与えてくれたタイガー公爵の役に立ちたいと願っていた。ある時、放蕩者と噂のタカ獣人の公爵・リア
勝手にひとりでモフモフKADOKAWA祭り、第二弾は平安和風×陰陽師なモフモフBLです。「星見の皇子とかりそめの狐妻」(魚形青)妖狐の血を引く陰陽師の行親は、鄙びた邸で普段は隠している白狐姿でいるのを、敵対する宿曜師派の二の宮に見られてしま
久しぶりにレビュー記事を投稿します。夏はね、いろいろと他にお金を使うところがあったから、さ・・・・・・。(もしかして4月頃に買った本、まだ積んでるのありませんか私)心機一転、リセットして購入本のレビューを書いていきます。「白の九尾は月影の皇
机の天板を雑巾で拭くと、ガタゴトと音を立てて、ぐらつくものがある。授業中にノートを取っているときに、気にならないものだろうか。 確かこの席は、学年一位の内藤ないとうくんが座っている。弘法筆を選ばず、というやつなのかもしれない。秀才は、どん
皆さんはスケジュールやタスクの管理は、デジタルとアナログ、どちらで行っていますか?私はスマホの扱いがイマイチ。「グーグルカレンダー・・・・・・?」という人間なので、断然アナログ派です。この時期は、文房具店やLOFT、ハンズなどで大々的に手帳
ジャニーズWEST1stドームツアー「TO BE KANSAI COLOR~翔べ関西から~」@東京ドーム8/10
7月1日の大阪・京セラドームからスタートした、ジャニーズWEST初めてのドームツアー。8月10日、11日の東京ドーム公演で終幕を迎えました。私は10日公演のチケットが当選したので、今年二度目のWESTに会えました。東京ドームは初めてですが、
外は晴天、夏の盛り。家から出るのも億劫になる気温だが、夏休みの空気感が、「どこかへ行かなければ」と、重圧をかけてくるような日だ。 エアコンから送り出される人工的な風に乗って、自分の部屋とは違う香りが拡散する。柔軟剤だとか香水だとか、あるい
<<はじめから読む!<15話 長い夏休みが終わり、十月。キャンパスはいよいよ秋めいてきて、もう一枚、上着を持ってくるべきだったな、と敬士はくしゃみをした。「フツーはガイダンスだろ……がっつり講義しやがって」 冬学期一発目の講義から、時間を延
<<はじめから読む!<14話「じゃあ、い、挿れるよ」 おう、と男らしく請け負ったが、実のところ、敬士も息も絶え絶えになっていた。 尻で気持ちよくなれるのは、どうやら一部の選ばれし才能の持ち主だけだったらしい。 響一はローションをたっぷりと使
<<はじめから読む!<13話 夢じゃないし、妄想でもない。響一の手指が下着の中に入ってくる。陰毛を掻き分け探すまでもなく、すぐに目当ての屹立に辿り着くと、二人同時に息を吐いた。 指先が先端に触れ、くるりと円を描き出す。他人に触れられることは
<<はじめから読む!<12話 抱えられるように部屋に寝室に連れ込まれる。自分の身体に起きている不都合は、とっくに響一に気づかれている。 響一が鍵をかけた瞬間、敬士はずるずるとへたり込んだと同時に、土下座をする。「え、なに? なになに?」 突
<<はじめから読む!<11話 そんなに心配なら、現場に立ち会えばいい。 和音の誘いに乗って、初めて収録部屋に入った敬士は、カメラに映らない物陰で、居心地悪くぽつんと立っていた。 不安に視線をさまよわせていると、響一と目が合う。彼は「大丈夫だ
<<はじめから読む!<10話 結局、数回しか訪れることのなかった響一のマンションだったが、敬士は、道を覚えるのは得意だった。 大学近くに居を構えている彼の家までは離れている。電車に乗っている間も、そわそわして座っていられなかった。 エレベー
<<はじめから読む!<9話「オレはとうとう、ダメかもしれない……」 試験が終わった。二重の意味で終わった。ギリギリ単位はもらえるはずだが、それ以上は無理だ。マクロ経済学のテストは、もしかしたら不可かもしれない。 自宅リビングのソファにぐった
<<はじめから読む!<8話 もうすぐ期末試験の期間になるというのに、敬士はベッドに寝転んでスマホを弄っていた。 動画サイトにアクセスして、鈴ノ音屋のチャンネル登録者数を確認する。前に見たときよりも、じわじわと人数を伸ばしている。本当に、一万
<<はじめから読む!<7話 改めて、素面の状態で連れてこられた響一が暮らす部屋は、大学生の独り暮らしにはあはり、分不相応だ。3LDK、明らかにファミリー向けの物件で、しかも南向きの角部屋。 不躾にならない程度にじろじろと観察していた敬士であ
<<はじめから読む!<6話 あの日、響一自身の言葉が心に残っていると語ってから、彼はずいぶんと気を許してくれた。ようやく友人になれたのか、響一の口から敬語が消えた。 嬉しい変化であったが、もともとのお喋りの練習台という側面は鳴りを潜め(最初
<<はじめから読む!<5話「あれ~? 松川まつかわじゃん。それに鈴木も。お前ら知り合いだったのかよ」 耳障りな甲高い声で、しかも早口。顔を見なくてもわかる。石橋である。 少数精鋭を謳う医学部は、学生同士はみんな顔見知りなのだろう。響一は石橋
<<はじめから読む!<4話「響一、こっちこっち!」 SNSでの癖で、「キョウ」と呼びかけそうになって、一度飲み込んだ。所在なさげにしている響一に、手をひらひらと振る。「敬士くん。お待たせしました」 あからさまにホッとした表情を見せる彼に、敬
<<はじめから読む!<3話 自室のベッドの上、スマホを前にしてちょこんと正座した敬士は、緊張していた。 おかげで、待ちわびていたコール音とともにスマホに手を伸ばしたのはいいが、手が滑って落としてしまった。 一瞬、「やば!」と思ったが、コール
<<はじめから読む!<2話 土下座をなんとかやめさせた敬士は、キョウ……本名・鈴木すずき響一きょういちと、リビングダイニングのテーブルを挟んで向かい合った。 響一は、茶を出してくれた。湯呑みを持つ手が、カタカタと細かく震えており、敬士は慌て
<<はじめから読む! 目を開ければ、見知らぬ天井だった。 敬士がヤリチンと呼ばれる人種なら、隣に見知らぬ女性が……というシーンである。しかし悲しいかな、敬士は童貞。ベッドには、他人の温もりはない。 しばらくぼーっと、前夜のことを思い出してい
四人兄弟の三番目として生まれて、今年で二十一年。 そのおかげか、空気を読む能力には長けていた。 年上の新入生相手にどう対応すべきか悩んでいる先輩とか、タメ口になっては語尾だけ「……ッす」と、中途半端な敬語に直す同級生。 彼らの前ではおどけ
<<はじめから読む!<35話「おい。野乃花。遅刻するぞ」「遅刻するのは哲宏だけでしょ。私は余裕だもん」 自転車での道のりは、哲宏の学校の方が遠い。私はすでにショートカットルートを開拓しているのだ。もう少し遅くに出ても平気である。 春になり、
<<はじめから読む!<34話 冬休み中に謝らなければならない人は、もうひとりいる。 青い顔をしていた私に、「ついていこうか?」と、哲宏が申し出たが、断った。私が向き合わなければならない問題だ。これ以上、哲宏を煩わせるわけにはいかない。 待ち
<<はじめから読む!<33話 思い立ったが吉日、私は風子の家に向かった。彼女の祖父母にどう思われているかわからなかったので、呼び出しは哲宏にしてもらった。「天木、今は出かけてるって」 今日は朝から冷え込んでいて、空もどんよりと曇っている。雪
<<はじめから読む!<32話 次の日から、少しずつ私は、普通の生活リズムを取り戻していった。 朝起きて、昼に活動し、夜に眠る。その繰り返しは、どんな手段よりも、私の心と身体を正常な状態へと近づけていく。 朝食の席に姿を現した私を見て、綾斗は
<<はじめから読む!<31話 学校を休む理由のレパートリーって、実はほとんどない。お腹が痛いとか、頭が痛いとか。 熱のあるなしは、体温計で測ればすぐに数値化されてバレてしまうが、痛みや気分は自分の感じ方の問題だから、誰も強く言えない。 母親
<<はじめから読む!<30話 文化祭二日目は、途中で帰ってしまった。当番もまだ残っていたのに、すべて投げ出した。具合が悪いとか、適当な理由をつけることはできた。 けど、電車の中でスマートフォンを片手に、誰に連絡をすればいいのか、わからなかっ
<<はじめから読む!<29話「なんであんたがいるのよ!?」 ヒステリックに叫ぶと、周りにいた人たちが何事かとこちらを向く。そして目つきの悪い学ランの金髪男を視界に入れると、慌てて視線を逸らし、そそくさと逃げていく。 風子は周囲の様子など気に
<<はじめから読む!<28話 一日目の土曜日は、校内の生徒しかいない。そこまで盛り上がるようなものでもなく、仲間内でやりとりした各模擬店の食券を使って飲み食いをしたり、自分の当番のときは、「いらっしゃいませー」と声を張り上げてみたりした。
<<はじめから読む!<27話 文化祭までの日々は、長く感じられた。 普通はあっという間だった、というのだろうけれども、私は早く日常に戻ってほしかった。 風子のクラスに様子を見に行けば、ギャルたちがわざと聞こえるように、嫌味を言ってくる。かと
<<はじめから読む!<26話 真っ直ぐ家に帰らずに、哲宏の家に寄った。庭に自転車があるのを確認してから、ピンポンを押す。 インターフォンのカメラに私が映っているのが見えたのだろう。返事はなく、ただ、ガチャ、と鍵が開く音がした。「お邪魔します
『豊嶋とよしま玲子れいこは、A県出身の女優だった。昭和〇〇年に上京し、Xという劇団に所属した。地元では評判の小町娘だったが、舞台では主役はおろか、せりふのある役につくこともほとんどなかった。 彼女が有名なのは、女優としての功績ではない。日本
<<はじめから読む!<25話 文化祭の出し物は大きく分けて三種類。展示とステージ発表と模擬店だ。文化部は自分たちの日頃の成果を発表する舞台として、作品展示をしたり、体育館ステージで音楽や演劇を行う。 クラスの出し物は、ほとんどが模擬店だ。共
<<はじめから読む!<24話 夏休みが終わるまでに、私は哲宏と仲直りをすることがなかった。 風子の宿題の手伝いも、私だけが風子の家に行き、自分の家に呼ばなかった。哲宏と私の間に何があったのか、風子は何も気づいていない。 哲宏も哲宏だ。 綾斗
<<はじめから読む!<23話 小学校五年生。宿泊研修のときのことだった。 少年の家、とかいう宿泊施設が郊外にあり、そこで一泊二日、外でご飯を食べたりスタンプラリーをしたり、とにかく自然と触れ合う学校行事である。 転校してきてから一年経っても
<<はじめから読む!<22話 花火大会以来、風子はスマホを見つめてちょっとおとなしくしていることが増えた。 心配するふり、何も知らないふりで、「どうしたの?」と、声をかける。 しょんぼりと眉を下げた彼女は、「崇也センパイ、返事してくれないの
<<はじめから読む!<21話 私は、金髪男と二人きりになった。 人混みの中、背の高い男はよく目立った。夜の河川敷、屋台の灯りを金髪が反射する。美容院に頻繁に行っているわけでもなさそうで、その輝きは美しいとはとても言えない、まばらなものだった
<<はじめから読む!<20話 花火が打ち上がるまで、あと一時間半もあるというのに、観覧席は大勢の人で賑わっていた。 なんとか座れる場所はないかと探していると、風子が「あっ」と声を上げ、手をぶんぶんと振り回した。巾着を持ったままだったので、た
<<はじめから読む!<19話 花火大会当日。私は風子の家に、少し早めにやってきた。「野乃花ちゃん、おいで」 私を含めた何人かで花火に行くのだと風子が報告したところ、祖父母は喜んだ。 何せ、手のかかる孫娘である。小学校のときからまともな友達は
<<はじめから読む!<18話 勉強会はその後は和やかに再開された。綾斗をなだめながら、夕方になり、母親が帰宅する前に風子を帰す。「哲宏の教え方、わかりやすかったでしょ?」「うん!」「また教えてもらいたいよね?」「うん!」 よし、これで言質は
<<はじめから読む!<17話 哲宏はすぐに、凜莉花の様子を見に行った。私も行くと立ち上がりかけたが、「やめとけ」と制止されて、座り直した。 ちゃんと謝罪できていないから、と言い募ったが、彼は首を横に振る。「あいつはこじらせてるだけだから。そ
<<はじめから読む!<16話「私もわかんないんだってば」 風子が来ていることを知ると、途端に渋り始めた哲宏を、電話じゃ埒が明かないと直接迎えに行った。「私が文系なの、知ってるでしょ」 基本の基本で躓いている風子にわかりやすく教えてあげられる
<<はじめから読む!<15話「どこが可哀想なの?」「え」 母親に捨てられて、祖父母に育てられているというのはかなり不憫だ。それに、彼女自身の性格もあって、なかなか友達ができないということも説明した。「だって、おじいちゃんやおばあちゃんに可愛
<<はじめから読む!<14話 哲宏と風子を交流させるという思いつきは、計画の時点で頓挫した。何せ、通っている学校が違う。電車通学ならば、偶然を装って出くわすこともできるが、哲宏は自転車で近道をして通っている。 何もできないまま、終業式の日に
<<はじめから読む!<13話 スマホを取り出して母に連絡してみるものの、既読にすらならなかった。今日もどこかで何かしているのだろう。専業主婦だというのに、ちっともじっとしていない。ボランティアか、老人ホームに入っている曾祖母の見舞いか。 曇
<<はじめから読む!<12話「フーコ。ちゃんと真っ直ぐ帰りなさいよ!」 体育の授業があったから、今日は朝から放課後まで、ずっとジャージ姿だ。着替える手間が省けたので、さっと風子の教室まで行って、ぴしゃりと言った。「わかってるよ。部活、頑張っ
<<はじめから読む!<11話 学校のテスト期間というのは、どこも似たようなもの。一応、探りを入れてみれば、例の工業高校もテスト中だ。駅で彼を見つけて、クッキーを渡すにはこの機会が望ましい。相手が部活やバイトをやっていたりしたら、帰宅時間も不
<<はじめから読む!<10話 心底呆れたように、信じられないように、風子以外の誰かが聞けば、そんなニュアンスを感じ取っただろう、「はぁ?」である。 しかし、ここにいるのは風子だけだ。他人の心の機微には、人一倍疎い。 彼女は身をくねらせると、
<<はじめから読む!<9話 部活終わりのジャージのまま、風子の家に行った。 小学生の頃から変わらない佇まいに、安堵と同時に言いようのない不安や焦燥に駆られるのは、私だけだろうか。 天木家は変わらない。でも、周りはどんどん進んでいく。そして、
<<はじめから読む!<8話 毎日七時間目まで授業を受けた後に、部活に参加するのは、正直身体がしんどい日もあった。逆によかったことは、部員が少ない上に無理を言って入部してもらったという経緯が香織先輩からみんなに伝わっていて、あれこれと気を遣っ
<<はじめから読む!<7話 五月の連休も明けて、高校生活も少し慣れて、落ち着いてきた。哲宏の大きなお世話のアドバイスをよそに、私は相変わらず、風子と一緒に登下校をするだけの学校生活である。 一応、風子にも「部活とかしなくていいの?」と聞いて
<<はじめから読む!<6話 転校してきた風子に、両親がいないということは、割とすぐに広まっていた。 参観日のときに、ひとりだけ祖父母が来る。周りの母親たちに比べて年老いた自分を恥じることなく、風子の祖母は堂々と振る舞っていたし、風子も嬉しそ
<<はじめから読む!<5話「今日も天木んちに寄ってきたのか?」 放課後の私の行動を見てきたかのように言うが、中学からの習慣を知っているだけだ。「そうだけど」 何か悪いことでも? という態度を崩さない私に、哲宏は深く溜息をついた。「いい加減、
<<はじめから読む!<4話 風子を家まで送り届けた。 高度経済成長期、という歴史の授業でしか知らない時代に、この辺りは開発され、住宅が並び立ったという。 彼女の家は、その頃に建てられたもので、外観は当時のままだ。近所の小学生たちは、ここを「
<<はじめから読む!<3話 ひらり手を振って教室を後にする。茅島さんは結局戻ってこなかった。たぶん、教室が無人になってから、こそこそと鞄を取りに戻ってくるに違いない。合わせる顔もないだろうから。 三階の教室を出て、早足で階段を降りる。一階の
<<はじめから読む!<2話 進学した高校は、公立高校の滑り止めとして機能しているような学校だ。特進コースですらそんな有様だから、クラスの何人かは新学期への期待感ゼロの、沈んだ顔をしていた。 中学の同級生の茅島さんは、まさしくそのタイプだった
ジャニーズWEST、デビュー8周年、おめでとうございます。そして、いつも私たちファンに寄り添ってくれて、一緒に歩いてくれて、ありがとうございます。10周年もそのまた先もずっと、同じ歩幅で歩いていけますように。ジャニーズと私そもそも私は、どち
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濃い灰色の雲が、重苦しく立ちこめる朝だった。鶏が鳴いても、太陽が顔を出さない。春とは名ばかりの、肌寒い日。 暖炉に火をつけるかどうか、姑と夫は軽く言い合いをしていた。 数日前、もう暖房は必要ないだろうと結論していたため、夫は火を炊くこと
ゲゲゲの謎コラボカフェ@渋谷モディに行ってきました。予約抽選発表日は、どこもかしこも外れた! の悲鳴が上がっていましたが、 ・ど平日 ・真っ昼間 ・ひとり の条件で第一希望当選したので行ってきました。 一番乗りで並んできました。外からの撮影
五月の連休が明けても、時折肌寒い日がある。名残の桜がひらりと舞い落ちるのを後目に、俺は校門を急ぎ足で一歩踏み出す。 「川崎かわさき、お前、本当に部活やらなくていいのか?」 中学の部活は必修じゃない。転校以来、先生がしつこく誘ってくるのは、
九月の夜。東京と比べて涼しいと見越して長袖を持参したが、必要なかったかもしれない。 店内は冷房が稼働しているにもかかわらず、宴会場の襖を明けた瞬間に、熱気がこちらへと向かってきた。 「今日の主役がようやくお出ましだぞー」 長い大学の夏休
ゲ謎応援上映@チネチッタに行ってきました~。 川崎は3つでかい映画館があるのですが、利用頻度でいうと、 109>チネチッタ>>>>>TOHOシネマズ って感じ。でも同じ映画を複数回通ったというと、断然チネチッタ。なぜならば、 「ウルトラマン
今年もやって参りました、創作TALKのお時間です。昨年までの記事は↓です。 twitter(死んでもtwitterと言う)のリンクなどから飛んできた方向けの自己紹介。 ・プロの小説家になりたくてもがいて早○年・主な投稿先はBLとライト文芸系
<<はじめから読む! <【25】 「レイ。これはここにやっていいのか?」 「あ、えーと。それはサム爺に……サム爺! これってどうするの?」 ある秋の日、レイナールはジョシュアとともに、庭に出ていた。一角を整備してもらい、レイナール専用にし
<<はじめから読む! <【23】 帝国には、過去、白金の王族が送り込まれていた。レイナールは、帝国にもヴァイスブルムの伝承が残っていることに賭け、皇帝に手紙を送った。 帝国の歴史について、遠く離れたヴァイスブルム出身のレイナールが知るこ
秋といいつつ、10月~12月の3か月に読んだ本です。 図書館で集中して書き、本を借りて帰ってくるサイクルはやはりいいですね。 「獣神様とは番えない~アルファの溺愛花嫁さま~」(村崎樹) 我らがたつるん先生の獣人モノオメガバース。 運命の番っ
<<はじめから読む! <【22】 冬の風が吹く。首筋がひやっとして、レイナールはぶるぶると身体を震わせた。短く切りそろえた白金の髪は防寒には頼りなく、カールが差し出したストールを、ぐるぐると巻きつけた。 「まだいらっしゃいませんよ。家の中
<<はじめから読む! <【21】 ジョシュアが旅立って、三日経った。 アルバートが手の者をこっそりとつけているので、一行があと二日で国境を抜けるという情報が入ってきていた。本当なら、とっくに隣国に入り、帝国まで続く街道をひた走っている頃
<<はじめから読む! <【20】 ジョシュアが旅に出るまでの日々、レイナールは彼と睦み合った。言葉を交わせば、「行かないで」「ひとりにしないで」と縋りついてみっともなく泣いてしまいそうだった。 肉体の交わりは、レイナールから意味ある言葉
<<はじめから読む! <【18】 「十日後、ここを立つ」 疲れた顔のジョシュアが、重々しく告げたのは、年が明けてすぐのことだった。 新年の祝いもほとんどせず、周囲の貴族の挨拶も断っていた。軍閥貴族と言われる家系は、ジョシュアの置かれた立
<<はじめから読む! <【17】 以降、何度もジョシュアはレイナールの部屋を訪れ、話し合いをしようとしたけれど、応じる気になれなかった。アルバートが来たときには、さすがに扉を開けたけれど、ただそれだけ。彼の話を聞いても、聞き入れようとは一
産みの親と育ての親が違うのは、まれによくある。 積極的には言わないけれど、親密になるにつれて、打ち明け話をするようになる。一般家庭の子には同情され、腫れ物扱いされる場合もあるけれど、「実は……」と、お互いの秘密を共有する友人もいた。 人
<<はじめから読む! <【16】 ジョシュアの言う「今度」は、なかなか訪れなかった。 すっかり回復したボルカノ王が、軍を振り回しているせいで、ジョシュアは家に帰ってこられない日が増えた。朝も早くに出ていくため、朝食の時間くらいしか、話す
<<はじめから読む! <【15】 夜会の日から五日、ジョシュアは家に帰ってこなかった。 彼が先頭に立って、医師団と連携を取り、腹痛の解明に挑んだ結果、食中毒であることがわかった。夜会の前に、側近中の側近である貴族を集めての晩餐会があり、
<<はじめから読む! <【14】 城を見上げるのは、二度目だった。 一度目は、自分の命を守ることだけを考えていた。母国にとっては、レイナールが生きようが、この地で死のうが、どちらでも構わなかった。死ねば開戦、生きて根づけばそれはそれで使
巷で話題沸騰中のディオール展、ようやく行ってきました。4月の前売りチケットの発売初日、「つ、繋がらない!」と言いながら、スマホで頑張って取りました。10時半で予約していたのですが、行ったらもう、当日券終わってましたね。クリスチャン・ディオー
3月もミステリ三昧しておりました。いつかは書きたいミステリ……。「何がなんでもミステリー作家になりたい!」(鈴木輝一郎)小説講座をやっている先生のミステリ小説の書き方についての本。ミステリBL書きたいな~、とぼんやり思っていて参考になればと
こんにちPOWER!!!!!!!現在ジャニーズWESTのツアーが開催中。横浜アリーナでの公演に運よく当選したので、行ってきました。レポは熱いうちに書け! ということで、印象に残ったところをレポしておきます。ちなみに密録はもってのほかだし、メ
1月全然読めなかった反動で、2月はいっぱい読みました。(原稿をしろ!)「獣はかくしてまぐわう」(沙野風結子)沙野先生の警察&バディものが好きなので、2巻目も読了しました。私は受けの後輩のコツメカワウソちゃんが可愛くて好きです。「O...
<<はじめから読む!<18話 勝手知ったる自分の家とばかりに、キッチンでコーヒーを淹れた。お互いにこだわりがないので、インスタントを適当に。新調したばかりのおそろいのマグカップを手に、司が部屋に戻ると、花房は愛おしそうにギターを抱きしめ、爪
<<はじめから読む!<17話 怪我人はベッドに寝かせたまま、司は彼の股間に顔を埋めた。毛を掻き分けて陰嚢を指で撫で回し、立派にそびえ立つ陰茎の側面を唇だけで銜え、刺激を与える。上目遣いで窺う花房の表情は、興奮の赤に染まっている。 自分の愛撫
<<はじめから読む!<16話「ほ、本当にする?」 ベッドの上に移動した司は、ウブなヴァージンに戻ってしまったかのような気分で、震えた。枕元に手をついた花房が、「いまさら、でしょう?」と笑う。 公的な場面での爽やかイケメンスマイルではなく、獰
<<はじめから読む!<15話 さすがに夜中に大立ち回り(とはいえ、司自身は何もしていない)があったうえに、授業も花房の欠勤の穴埋めをしなければならず、疲れた。「今日は、早く帰ろ……」 アルバイト講師も全員帰したところで、最低限の仕事をして、
<<はじめから読む!<14話 そのあとのことは、あまり覚えていない。警察署で取り調べを受け、非行少年として補導されかけた子どもを庇い、その親に引き渡した。河原の母は泣いて息子の無事を喜んだし、鈴木の母は息子の頭を問答無用でぶん殴った。 もし
<<はじめから読む!<13話 名乗ることも忘れていた母親を落ち着かせて話を聞いた。彼女は河原の母親で、残業を終えて帰宅したところ、息子が家にいないと泣いて訴えた。 部活と勉強の両立を目指し、滅多に塾を欠席することもない河原だが、司は彼を退塾
<<はじめから読む!<12話 自分が花房の夢を妨げてしまった。その事実に、夜も眠れないほど悩んだ。 同じ教室で、いずれは室長として切磋琢磨したい。自分の密かな夢は、花房の夢を踏みにじった上にしか成立しないのだと、改めて思い知らされる。 司が
<<はじめから読む!<11話「花房先生、めっちゃくちゃかっこよかったです!」 興奮した口調、拳を握って振り上げるのは菊池だった。すでに生徒を見送り、電話営業もできない時間帯だから、今日の仕事のまとめと明日の準備をのんびりとやっている。 花房
<<はじめから読む!<10話 一度倒れたことで、花房は吹っ切れた。 休日出勤の代休もしっかり取るようになったし、授業前にはおにぎりや菓子パンを頬張って、エネルギー補給をしてから臨む。急いで飲み込もうとしている姿を見て、「ゆっくり食えって」と
<<はじめから読む!<9話 朝六時に鳴り出したスマホのアラームを、開始三秒で止めることに成功した。寝室は静かで、司はホッとする。 台所を借りて、朝食を作った。起きたときに少しでも食べてもらえればいい。 ハムと卵、レタスのサンドウィッチに野菜
<<はじめから読む!<8話 自分が入れる授業は入り、どうしても無理なところは今日は出勤していないアルバイトに急遽来てもらい、なんとか事なきを得た。授業中は花房を沢村に任せ、おかげで彼女も残業になってしまった。 頭を下げると、彼女は司のことを
<<はじめから読む!<7話 花房を見守っていた司だが、そうはいっても、彼もいい年をした成人男性である。当然、手のかかる子どもたちを多数抱えている状況で、そこまで注意していられるはずもない。 顔を合わせてはちゃんと食べているのか、寝ているのか
<<はじめから読む!<6話「蓬田先生、お時間いいですか?」 丁寧な口調は声音も朗らかで、司は一瞬、呆けてしまう。「お前誰だ?」が顔に出ていたようで、花房は途端に、うろんな顔つきになる。慌てて取り繕って、「大丈夫」と笑うと、彼は気にした様子も
<<はじめから読む!<5話「えー? 歓迎会開いてもらってないのー? ダメじゃないか、蓬田先生。新人を受け入れる、その姿勢が大事なんだから」 折しも、今日は土曜日。明日はテスト対策の特別授業も入っておらず、普通に休みであることを告げると、湧田
<<はじめから読む!<5話「えー? 歓迎会開いてもらってないのー? ダメじゃないか、蓬田先生。新人を受け入れる、その姿勢が大事なんだから」 折しも、今日は土曜日。明日はテスト対策の特別授業も入っておらず、普通に休みであることを告げると、湧田
<<はじめから読む!<4話 男――花房は、最低でも週に三回は、駅前で弾き語りをしていた。帰りに彼の歌を聞くことが、司の楽しみになっていた。観客はいたりいなかったり。通りすがりの一見客ばかりの中、常連になっていた司のことを、彼も認知していたは