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それでも生きていこうか https://soredemoikiteikouka.hatenablog.com/

うまくは生きて来られなかった。馬鹿はやったけれど、ズルいことはしなかった。まだしばらくの間、残された時間がある。希望を抱けるような有様ではないが、それでも生きていこうか。

ジョバンニ中島
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愛知県
出身
宮城県
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2019/10/22

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  • 道標は犬

    山で仕事をしていた日々、時折現場や集合場所にたどり着くのに手こずることがあった。 道が険しいという意味ではない。問題は目印として伝えられる物にある。 コンビニエンスストアや信号、目立つ看板などであれば問題ない。しかしそれが横倒しの電柱だとかひっくり返されたU字溝、打ち捨てられたバスタブだったりすると話が違ってくる。雪が降ったり積もったりすると、見落としてしまうからだ。 しかし何といっても山の中。実際何もないのだから、文句を言っても始まらない。 その中でも特に印象に残っている物がある。 犬だ。 「明日の新しい現場だけど」 翌日の作業員の配置が決まると、夜に担当者から連絡がある。 「ジャンボエビ釣…

  • 蟻は這う 3

    山道を登る歩き方には、コツがある。 説明が難しいが、膝を前に持ち上げるのではなくて、逆の脚の膝の裏をぴんと突っ張るようにすると、楽なのだ。自然、男性らしからぬ、尻を左右に振る歩き方になるが、周りの先輩方は皆そうしていた。それを真似することに気付いてから、少しづつ息が続くようになった。 毎朝、山道を登る。気温は低く、吐き出す息がまるで雲のようだ。泥が混ざり汚れた雪の筋を残しながら、私たちは登る。 初日は、森林組合の人が道脇の若木を鉈で切り、杖にして渡してくれた。有難く使わせてもらったが、数日後には要らなくなった。 幾重にも重ねていた服装は、Tシャツ一枚の上にウィンドブレーカーという格好に落ち着い…

  • 癒える

    人間というのは、強くない。 体や心の悲鳴を無視していると、必ずどこかに歪みが溜まる。程度が過ぎるとひどいことになる。 ある日突然、起き上がれなくなったことがある。 脊髄を駆け上る痺れに襲われ身動きが取れなくなったこともある。 人と会話を交わすことさえ耐えられなくなったこともある。 弾けてしまったゼンマイのようなもので、どうにもならない。 限界まで来たことが、自分自身にはわかっている。抗うのは止そう。これ以上無理を重ねることは、おそらく命に関わる。 社会への義理は、出来そうならば果たしておけばいい。まずは立ち止まることだ。時の流れから自分を引き剥がすことだ。安全な場所に身を横たえることだ。 見て…

  • 蟻は這う 2

    坂というのは不思議なものだ。 そこに身を置いている時に、その角度を体感できる人というのは少ない。例えば、人が頭で理解している45度というのは直角の壁の半分の傾きだ。でもそれに向き合ったときに感じる傾斜は、上り下りいずれでも遥かに急なものになる。徒歩や自転車で上るのに骨折るところでも、実際には分度器にあてれば5度もない。 わたしたち人間は平面で進化したからだ。 森林組合での仕事の初日。 幸いにしてまだ雪もない山の麓の集合場所で、朝礼をする。無駄話をして煙草など吸う。装備の点検など準備をする。それから山を登る。 登山をする方には解るだろう。山道を登る事それ自体が結構な運動だ。私は登山などやったこと…

  • 蟻は這う

    「…この業務は東日本大震災の緊急雇用対策として発注されたものです。既に研修は受けていただきましたが、未経験の皆さんは指導員の指示を守って、事故の無いよう作業にあたってください」 11月を過ぎれば東北はどこも冷える。しかも山の上でやるのだという仕事に備えて厚く着ぶくれした私は、窮屈なタートルネックの襟を引っ張って息をしながら森林組合の職員の訓示を聞いていた。 ハローワークでは15人募集していると聞いたが、その日集合場所に来ているのは森林組合の職員を除けば3人。私と20代半ばほどだろう痩せて背の高い青年、そして小柄で真っ黒に日焼けした初老の男性。挨拶した際に漏れ聞いたところでは、二人ともどうやら未…

  • 青みがかった暗がりの中、つくりものの星空が瞬いている。 「さわっていいよ」 女はくすりと笑って、並んで座った私の手を自分の太ももにのせた。効かせすぎの空調のせいで、タイトスカートからのびる素のままの肌はひんやりと冷たかった。 飲み屋の女の割には、華やかさのない女だと思っていた。愛想笑いが下手だし、受け答えも生真面目すぎる。でもそんなところが、私は好きだった。 「田舎にね、蛍が見れる川があった」 天井を見上げる横顔を、初めて美しいと私は思った。 「なつかしいなあ」 彼女の名はまどかといった。東北の震災で失った物事はいくつかあるが、彼女はそのうちのひとつだ。 S市で働いていた30代半ば、私はサラリ…

  • かげろう

    S市の有名な繁華街の入り口に、くろだという焼き鳥屋がある。今の世のネット検索で調べてまともに出てくるのか、どうか。やってみたことはない。 愛想笑いのやりかただけは一応知っているというような大将と、黄ばんだこけしのような女将、そしておそらく少し発達障害がある、すでにいい歳の娘がやっている店。昔は息子が焼き場をやっていたが、いなくなった。小路に入って十字路の角。古ぼけた名入り行灯の電気が消えていれば、その日は休みだ。前触れも何もない。 私を初めてその店に連れて行ってくれたのは、社会人なりたての頃に働いていた会社の上司だった。もとは東京の人間だ。アイビー調のファッションにこだわりがあって、いつもそん…

  • 蜘蛛の糸

    「いつになったら収まりますかね。この揺れ」 若い部下が青白い顔をして、俄かに冬に逆戻りしたようなどす黒い雲を見上げた。家族に電話が通じない、と呟いた。 私は生返事をしながら、ふわふわ波打つように感じる足元のアスファルトを見つめていた。平成23年の3月11日の夕刻、東北はS市中心部の街路は、オフィスビルから逃れ出た人々で埋め尽くされていた。本震から1時間以上経ち、余震の揺れが襲うたびに上がる悲鳴が、もはや慣れたのか疲れたのか弱まってきたようだった。 東日本大震災。S市の出身で当時もS市で暮らしていた私にとって、人生の転換点になった事は間違いない。周りには命を落とした人も、家族を亡くした人も、家屋…

  • ミミズの夢

    人生にはいろいろあるさ、うまくいく事ばかりじゃないと、それこそ数えきれないくらいの先人が言い遺して来ただろうし、もしこれを読んでくれている人がいるとするならば、そのあなたもそう感じたことが幾度かはあるのかもしれない。 でも、うまくいかない事が多すぎるなら、それは自分自身のせいだ。 私はジョバンニ中島。いわゆる仕事に成功することにも、男として強く在ることにも、もしかしたら優しく在ることにも失敗した男。 運がいいとか悪いとかというのは、いつ頃からか、いちいち考えなくなった。無限責任という言葉があるが、私に能力と機転がありさえすれば、何か策を講じることが出来たのではないかと思うことはよくある。まるで…

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