フェアウェル 改装して新しくなった早稲田松竹で映画を見るのははじめてだ。 実に素晴らしい映画館だ。チケットは当日券でしか買えないのだが、このアナログ感もまた悪くない。2本続けて見ると2,000円。1本1,300円でこの施設なら悪くない。 そして鑑賞した映画も素晴らしかった。アメリカ在住の中国人女性監督による、ご自身の体験した物語。群像劇である。 冒頭にこの映画が嘘に基づく本当の話であることが示される。この嘘とは、余命3ヶ月を告げられた祖母に嘘をつきとおすコメディ。おばあちゃんのフェアウェルパーティを開きたいが、本人に本当のことは言えないので、甥と日本人女性の結婚式と嘘をついて大勢の思い出にしよ…
渋谷のシネマヴェーラで大島渚の特集がある。 その前に・・・ TIFFに昨年創設された「大島渚賞」の受賞作が、今年は「該当なし」だった、という極めて正しい対応をされた審査員の皆さんに敬意を示したい。 このブログでも何度か書いているが、もう日本映画は終わった。まだテレビが普及して観客が映画館から離れていった1970年代以降のほうがマシだ。大島渚がなかなか映画を撮れずに苦しんだ1970年代から、映画業界斜陽の時期。そして現代へとくると、もう日本映画に価値はない。キネ旬ベストテンもろくな作品はない。これらの文脈の先に「該当なし」が結果として示されるのだ。 そういう思いを抱きつつ、この『忘れられた皇軍』…
コントラ ・・・ ・・・ どう説明すればいいのか。とにかく素晴らしいとしか言いようがない。ある先入観や予備知識をもってこの映画を見るのはやめたほうがいいかもしれない。最初のシーンから最後のシーンまで、2時間半近い映画であるにもかかわらず、全く飽きることがない、とてつもない映画であった。驚いた。 場所は新宿、Ks Cinema 初めての劇場だ。 小さな劇場だが、新しくてきれい。そしてなんとなく映画好きが集まる雰囲気が実にいい。 映画はこうだ。田舎の女子高生と同居するおじいさんが亡くなる。その時手にしていた手帳を彼女が読み返すうちにドラマが進んでゆく。平行して、家族を失った男、この男は延々後ろ向き…
サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ- Sound of Metal
サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ- ミュージシャンが音を失うというとベートーヴェンが思いつくが、この映画はそう短絡的ではない、もっと現代的だ。男は身寄りがない。女はフランス生まれのようだ。二人は同じバンドにいて、キャンピングカーで流浪の生活をしている。男はドラマーだ。 しかし彼は次第に聴力を失い、完全に何も聞こえなくなる。彼女は彼を施設に入れようとするが、彼は自分の聴力を取り戻したい。インプラントという非保険対象で高額な手術を受けたいが金がない。仕方なく彼は同じ境遇にある教会が支援する施設に入所する。 ここでも彼は葛藤する。どうしても施設に馴染めない。自分が聴力を失ったこととに納得…
『ミナリ』を鑑賞。キネノートはこちら。 この写真がとても印象的だ。韓国からの移民。赤い帽子と赤いトラクター。比較的”色”の特徴を消しているこの映画で、この”赤い”色だけがなぜか脳裏に残る。少年が怪我したときの血もまた赤い。 時代は1980年代だと思われる。レーガン大統領というセリフが出てくる。この時代の韓国については、これまであまり公になってこなかったが、『1987、ある闘いの真実』が語るように、80年代後半の光州事件に象徴されるように、成長と改革(革命)が激突する頃だ。 この時代に、家族でアメリカに移住する理由は、この映画では子供の心臓病としてるように見えるが、実は『はちどり』や『82年生ま…
あの夜、マイアミで アマゾンプライムビデオで鑑賞。 四人の対話劇。それぞれがは白人社会で黒人の劣悪な環境を経験している。 マルコムX モハメド・アリ ジム・ブラウン サム・クック まず、それぞれの俳優が実物にとても良く似ている。そして映画の冒頭で、それぞれが当時の社会で大変厳しいビハインド、辛い体験をしていることが示される。マルコムXは敬虔なムスリムでありながらNOIを離脱する羽目になる。NFLのスーパースター、ジム・ブラウンは白人に歓迎されながら家に入ることが許されない。シンガーのサム・クックは白人を前に全く受けず挫折する。 こうした4人がある日マイアミに集まる。 そしてお互いの主張が衝突す…
Ma Rainey's Black Bottom マ・レイニーのブラックボトム
マ・レイニーのブラックボトム Netflix映画 とても残念なことに、この映画にも出演しているチャドウィック・ボーズマンの遺作となった作品。デンゼル・ワシントンの正当な後継者とまで期待されていた若きスターの死は映画界にとって大きな痛手だ。遅ればせながらご冥福をお祈りしたい。 もともとデンゼル・ワシントンが監督をすると言われていたこの映画は、彼を中心にプロデュースされたようだ。ときは1927年。まず、この映画の映像の美しさ。時々写るシカゴの街の風景の見事なシーンが印象的だ。 全く予備知識がなかったが、主人公はマ・レイニーというかつて「ブルースの母」と言われた黒人歌手を中心とする話。この個性的な黒…
停滞フィールド 2020→2021 3人のアーチスト作品が並べられた企画展。場所は本郷にあるトーキョーアーツアンドスペース本郷。 まず1階の広瀬菜々&永谷一馬両氏の作品は、部屋いっぱいに真っ白な物質が並ぶ。触ることはできないが、どうも実物を固めて形成しているものらしい。 2階は渡辺 豪氏の作品で、真っ暗な中にプロジェクターで扉が延々と写される。そしてもうひとつの部屋には巨大なスクリーンが折れ曲がるように表と裏で構成され、そこに巨大な事物、例えば本などが大写しにされて少しずつ動くインスタレーション。極めて難解。 最上階の3階は田中秀介氏による一連の絵画作品。事物の捉え方が独特で、どの作品も人物の…
Crip Camp ハンディキャップ・キャンプ: 障がい者運動の夜明け
Crip Camp ハンディキャップ・キャンプ: 障がい者運動の夜明け ミシェルとバラク・オバマ夫妻がプロデュースした作品で、このブログで紹介した『アメリカン・ファクトリー』も彼らの作品で、あちらはアカデミー賞を受賞している。 障害者の映画というと色々思い出されるが、虐待という意味だと『チョコレートドーナツ』だし、別の意味だと『ライド・ライク・ア・ガール』だ。いずれもネタは控えるが、とにかく感動する。日本の映画だと『37セカンズ』だ。いずれも特定の個人に近寄って描くドラマだが、こちらは本当にあったドキュメンタリーである。 バリアフリーについては日本も少しずつだが進歩しているが、これは自然にそう…
シン・エヴァンゲリオン劇場版 去年だったか、まだ名古屋に住んでる頃、駅前にでかいモニターが掲げられ、冒頭のシーンを公開した予告編が流されたのは。あれから約1年、前作「Q」から9年か。しかも予定の公開もコロナのおかげでさらに延びて、やっとの公開となると、長年のファンにはたまらないほど待たされたことだろう。 平日の午前中なのに劇場は満席。当日券を手にして来られたお客さんは、ペアでも別々の席に座るほどだ。少なくともMX4Dの劇場に空席は見当たらなかった。 荷物は足元に置けないことが入り口で案内され、近くのコインロッカーに預けることになる。これは正解。この劇場はアトラクションだ。155分の長いアトラク…
여자가 프로 야구 선수가 되겠다고? 이게 말이 된다고요?!: 야구소녀 리뷰 野球少女 2019年の映画 スポ根ものではない。 主演のイ・ジョヨンさんがインタビューでも応じているように『梨泰院クラス』で」トランスジェンダーを演じた彼女にこの役がオファーされたのは、ある意味必然といえるだろう。 プロ野球で初めて女性が登板した歴史を映画化したものだ。彼女を取り巻く環境も含めて見応えのある映画だった。 冒頭のシーンは、プロのスカウトが学校を訪れるシーン。彼女の同級生の男子がスカウトされ、彼女はスカウトされなかった。彼女は高校野球史上初めて投手として活躍した選手だったが、この最初のシーンはいきな…
映画『あのこは貴族』予告編 あのこは貴族を浦和駅前のパルコにある映画館で鑑賞。 東京に住んでいると、この映画の背景に写る多くの東京という底しれぬ得体のしれない街のあちこちに目が向いてしまう。これは東京の映画だ。東京という巨大な街で巡り合う(邂逅)複雑な人間関係を、階級という見えない壁を二人の人物に抽象化して示すものだ。 冒頭のシーンからもやもやする。タクシーに乗りガラス越しに東京の街並みを憂鬱に眺める若い女性の華子(門脇麦)。彼女はこの日、家族に彼氏を紹介するために高級ホテルに向かうが肝心の彼氏はいない。この日に別れてきたらしい。彼女は貴族なのである。 彼女がようやく巡り会えた男性(高良健吾)…
Dick Johnson Is Dead いつものように町山智浩さんの推薦です。(町山智浩『ディック・ジョンソンの死』を語る) まずディック・ジョンソンについて紹介しよう。彼はシアトルで精神科医を営んでいる老人だ。足の指がなく、妻は7年前に亡くなった。認知症だった。彼の娘は映画監督で、そんな父親(ディック・ジョンソン)が老いてゆくところを丁寧に撮影してゆく、というドキュメンタリー。 面白いのは、父親のディックが死ぬケースをいろんな状況で想像すること。物が空から落ちてきたり、心臓発作を起こしたり、建築現場の作業員にぶつけられて血まみれになったり、階段から落ちたり・・・。これがあまりにもリアル。最…
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