ネタバレします。 第36章「約束はできない」1992-1993 1992年3月ハイスミスはチューリッヒを舞台にした小説を考えていた。 サスペンス小説にするつもりでプロットを考えていたが途中で方針を変え犯罪を端においやることにした。 『スモールg ひと夏の恋物語』(邦題は『スモールgの夜』) この作品はハイスミスが今まで書いてきた物語とは違うのだという。 そしてこの作品は彼女の最後の作品、遺作なのである。 ハイスミスの「悪の物語」をずっと愛してきた読者にとってこの作品は「裏切られる」作品なのだとも語られる。 悪魔から神に乗り換えた? 悪魔を裏切った? それまでの凡庸な幸福を退けてきたハイスミスは…