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「あ、嫌そうな顔してる」チョン・ユンホがにやりと笑った。どうやら感情が表に出てしまっていたらしい。「……唐揚げ食べてるじゃないですか。それでいいでしょ」「だってチャンミンが作ったやつ、美味しそうなんだもん」当たり前だ。僕は伊達に何年も自炊生活を送っていない。そこら辺の男や、下手すれば女の子より、うんと美味しいご飯を作れる自信はある。彼は拗ねたように唇を尖らせた。僕には幼い子供のようにしか見えないけれ...
フライパンに卵を流し入れたときの、じゅうっという音が、僕は好きだ。徐々に固まっていく様子を見るのも好き。固まりきる前にくるくると手前に巻いて、それを3回くらい繰り返せば、ふわふわの卵焼きの完成。いつもより綺麗に焼けたような気がして、それだけで僕の気分は幾分か良くなる。今日も食堂は賑わっていた。お昼休みに突入するとすぐに人で埋まってしまうから、僕はこの時間を密かに闘いだと思っている。できるだけ、静か...
「これ……」このシール、知ってる。お菓子のおまけだ。でも、僕が知らない絵柄。端っこにポッピーがいる。それに何だか、きらきらしている。なんでこれが、僕の下駄箱に。「あれ?それって、あのキャラクターだよね?」「う、うん」ジュニくんが隣に立って、僕の手元を覗き込む。僕の好きな物を知っているのなんて、ジュニくんか……。「……ジュニくんが置いたんじゃないよね?」「僕?置いてないよ」持ってたとしたら直接渡すよ、とジ...
人のことはとやかく言えないが、ジュニくんは変わり者だと思う。違う学部である彼が僕のことを知っていることも驚きだったけれど、友達になって欲しいと言われたのはもっと驚きだ。可愛いものが好きで、お菓子を作るのも好きで、毎週テーマパークに通い詰めている、まるで女の子みたいな趣味を持つ僕。それに加えて人見知りが激しいから、同じ学部の人とだってまともに会話したことがない。だから、「友達になってくれない?」なん...
「だ、誰だよ、ジュニって……」足を踏み出したままの状態で、俺は固まった。シムが笑顔を向けた先は、俺がいる場所とは反対の方向。木と木の間の細い道から、インテリ系のひょろっとした細身の男が現れた。どこかで見かけたことがあるような、ないような。思い出せない。ジュニと呼ばれたそいつは胸の前で手を振りながらシムに近寄って、あろうことか、当然のようにシムの隣に腰を下ろした。なっ、なんだって?これは一体、どういう...
週が明けた月曜日、俺はシムに会いに行くことを決めていた。この間の、お菓子のお礼だ。せっかく作ってくれたのだから、めちゃくちゃ美味しかったと伝えなくては。何事も、言葉にすることが大切。あわよくば、シムと仲良くなるチャンス。今はまだ知り合いに毛が生えたような関係だから、どうにかステップアップしたい。俺は張り切っていた。準備はバッチリだ。ストラップを探したお礼にしてはシムからもらったお菓子が多すぎるから...
目にかかるくらいの黒髪に、細い黒縁の眼鏡。優等生の見本のような彼に、僕は見覚えがなかった。けれど確実に、彼は僕のことを知っている。人違いだと言って誤魔化すか。正直に話して秘密にしてもらうか。2つの選択肢が、頭の中をぐるぐると駆け巡っている。どっちが正解なんだろう。いずれにしても、僕は早くこの場から立ち去りたかった。だってこれは秘密だから。隠しておきたい、僕の秘密。可愛いものが好きなことも、あのテー...
食堂の一番隅っこの席に、チャンミンは居た。あまりにもひっそりと座っているものだから、空いている席を探すために3回ほど辺りを見渡してからようやく気が付いた。チャンミンは箸を持ったまま、外のサクラ並木を眺めていた。これが咲いたらあたりはピンク一色になりそうだけれど、今はまだ蕾も不揃いで茶色しか見えない。咲いていないサクラの木を見て何が楽しいんだろう。疑問に思ったけれど、窓から差し込む柔らかな日差しに照...
チャンミンと一緒に帰った日から、3日が経とうとしている。あれ以来チャンミンとは何の進展もない。というか会ってすらいない。部署が違うだけでこうも会わないものなのだろうか。確かに、チャンミンは営業部とはあんまり関わらないって言ってた。それにしても、だ。もしかして俺、避けられてる?……いや、それは無いか。無い無い。さすがにそんなことは。考えを打ち消すように、俺は首を横に振った。だって他の総務課の女の子たち...
着ぐるみのバイトにも慣れてきた。手を振れば振り返してくれる子どもも、徐々にではあるけれど増えてきた。ポッピーに対する知名度はいまいちだけれど。それでも頑張りたいと思えるのは、毎週土曜日になるとシムが来るから。これは2人だけのヒミツだ。シムはポッピーの正体を知らないから、俺が勝手にそう思っているだけなんだけど。「ポッピー!」ほら、来た。もう声だけで分かる。シムが来たんだって。シムはいつもお腹じゃなく...
「えー、ユノ帰んねーの?」「うん、ごめん。ちょっと用事があって」「用事って?」「え?えーと……」こてん、と友達のテオが首を傾げる。「ちょっと課題をやろうかな?なあんて」「課題?ユノ、学校で課題なんてやったことねーじゃん」「うっ」確かにそうだ。なかなか 痛いところを突いてくるじゃないか。俺は言葉に詰まった。テオとは履修している授業もほぼ同じ。家の方向も同じ。普段一緒に帰ることが多いから、疑問に思うのも...
最近、チョンさんの行動が怪しい。テレビでやっているホワイトデー特集を食いいるように見たり、見慣れないファッション雑誌がリビングに置いてあったり、仕事ではないのにパソコンを開いては何かを一生懸命検索している様子。僕は考えた。チョンさんには気になっている人か、彼女が出来たんじゃないかって。そうじゃなきゃ、今まで仕事ばかりしていたチョンさんが、仕事以外のことであんなに悩んでいる顔をするはずがない。もうす...
3限目が終わってすぐに下駄箱に向かったけれど、チョン・ユンホの姿はなかった。彼は目立つから、居たらすぐに分かるはずだ。まだ来てないだけ?それとも帰っちゃった?待てども待てども一向に来る気配はない。そのうち人通りもなくなり、廊下はしんと静まり返る。時間を確認すれば4限目の始まりから10分ほど経っていた。……もしかしたら授業を受けているのかも知れない。僕は図書館で時間を潰すことにした。この時間の図書館は...
事件はある日突然起きた。なんと、シムが前髪を切って登校してきたのだ。今まで隠していたぐりぐりの大きな瞳を惜しげもなく晒し、校内でも大きな話題となった。地味で根暗だと思っていた男が一夜にして美少年になっていた。まるでシンデレラストーリーだ。シムに一体何が起きたのだと皆が気になっていたけれど、今までの態度が態度だっただけにどうにも話しかけられずにモヤモヤしている、そんな状態。ユノが中庭に現れるようにな...
俺の名前はパク・ドンヒョン。勉強は苦手だし性格も短気だし、自慢できることと言えば体格が周りの奴らよりもちょっといいことくらい。小学生の時についたあだ名が「大将」で、俺はガキの頃からそれはそれはやんちゃだった、らしい。らしい、と言うのは小さい頃の記憶なんてほとんどないから。俺は記憶力もなければ物を覚えるのも苦手なんだ。そんな俺にも、好きな奴がいる。「………あのさ」「何?」「お前さ、その、あのさ……ええっ...
※微R18ぎち、という音がしそうなのは、やっぱりそこが本来なにかを入れるような場所ではないから。この間より痛みはないけれど、内臓を押し上げるような圧迫感に、僕は目をぎゅっと瞑った。お互いの息遣いが鮮明に聞こえる。少し苦しいけれど今はユノを受け入れたい気持ちの方が強くて、不安はない。ユノが僕のことを好きだって、もっと触れたいって、そう言ってくれたから。「チャンミン……全部入ったよ」一瞬だったかも知れないし...
スーパーから戻ってきて部屋を覗くと、チョンさんはすうすうと寝息を立てて眠っていた。「早く帰って来い」とは言われていたけど、わざわざ起こす必要もないだろうと思って部屋には入らないまま、静かに扉を閉めてキッチンに向かう。そうして30分後。完成したたまご粥とカットしたフルーツ、スポーツドリンク。あとは薬を飲むためのお水。それらをトレーに乗せて部屋に入り、テーブルの上に一旦置いた。僕のベットの上で眠るチョン...
皆さんこんにちは。やっとBlueシリーズ、最終話を迎えました。予定よりだいぶ長くなってしまったのですが、お付き合いいただきありがとうございました!実は書いている最中、違うシナリオも思いついておりました。彼女と別れてユノと結ばれたチャンミン。腹いせに彼女からユノとの仲をリークすると脅され、事務所からも釘を刺されてしまい、二人は一度別れる。↓結局チャンミンがすべて責任を負う形になり、彼女と付き合っていたこ...
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