〘牛の首〙-葬られた牛神伝説-

〘牛の首〙-葬られた牛神伝説-

又昔、一人の老いた僧侶が旅の途中、真夜中に峠を過ぎようとしたときであった。それまで何の煩わしき音一つしなかったのに、此処へ来て妙な、不安な音を聴いた。それは水音と、何者かが嘆き悲しんでいるかのような幽かな音だった。僧はじっとして少しの間、その音に耳を澄ませていたが、音が止んだと想う瞬間、音のする山の奥へと入って行った。するとそこに、小さな池が、黒い水面を湛えていた。僧はその池に静かに近寄り、その水面を覗き込もうとしたその時であった。後ろから、不穏な幽気が、僧を引き寄せんとした。僧が振り返ると、何人もの亡者が、頭を垂れながら列を成して進み、一人ずつ黙々と池の中へと入ってゆき、見えなくなった。僧は…