月 ほっかりと 月がでた 丘の上をのっそりのっそり だれだらう、あるいてゐるぞ (『雲』より) 山村暮鳥といえば『雲』というように、我々はおのがじし身勝手な親近感を胸に秘めて、山村暮鳥の研究に着手したわけであるが、まず第一印象として、誰もが感じたことは、彼のあののんびりと...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・50
二 意味の理解と語源 言語の意味という中には、主体が事物を把握する仕方と、把握された対象とが含まれている。言語の意味をこのように解することは、私の根本的な言語の本質観に基づいている。 「言」(パロル)は我々の脳裏に蓄積された「言語」(ラング)の具体的な実現であり、非限定...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・49
第四章 意味論 一 意味の本質 意味は音声と同様に、一般には言語の構成要素の一つと考えられている。意味を理解することは、音声形式によって、それに対応する表象・概念を喚起することだと考えられているが、音声によって喚起されるものは、心的表象、概念、具体的事物であって、それは言...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・48
(六)格の転換 国語の文の構造は、詞が辞によって総括され、それがさらに順次に詞辞の結合したものに包摂されるという入子型構造の形式によって統一されるものである。従って、文の成分を分析し、あるいはこれを統一した文として理解するためには、文における格が、つねに他の格に転換すると...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・47
(三)修飾格と客語および補語格 修飾格は、連体修飾格(形容詞的修飾格)と連用修飾格(副詞的修飾格)に二分されるのが普通である。修飾格の位置に立つものが修飾語である。修飾語は、文に包摂されたものが分立して表現されたものだから、主語、客語、補語等と本質的に区別されるべきもので...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・46
(二)主語格と対象語格 述語格から分立する主語、客語、補語等は、述語との論理的規定に基づき、述語に対する主体、あるいはその客体、目的物等の主体的弁別に基づいて現れてくる。国語の形容詞及び動詞のあるものについては、次のような特殊な現象を認めることができる。 ●甲 色が赤い。...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・45
ニ 文における格 (一) 述語格と主語格 附、客語補語賓語等の格 これまで文の成立に関する形式について述べてきたが、文にはそのような形式によって統一され、完結される内容の存在が必要である。判断するためには、判断される事実とその表現がなければならない。感情の表現には、感情の...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・44
ハ 文の完結性 文の本質は詞と辞の結合であるが、それは文成立の一半であって、さらに一つの重要な条件は、思想の表現が完結されているということである。 「花・は」「雨降る・べく」「美しけれ・ども」は詞と辞が結合しているが、これを文とは考えない。なぜなら、思想が完結されず、下...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・43
四 文の成立条件 イ 文に関する学説の検討(略) ロ 文の統一性 文は、一つの統一体を構成する条件を必要とする。以下、文の意識を構成する諸条件について私見を述べる。 まず私は、言語は話者の思想的内容を音声あるいは文字に表現する心的過程の一形式であると考える。さらに厳密に...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・42
三 単語の排列形式と入子型構造形式 国語における語の排列形式を全面的に考察し、思想表現の構造を明らかにしたい。それは、国語における文の概念を明らかにするために必要な階梯である。 文の分解によって認定される具体的なものは、つねに詞辞の結合であること、この詞辞の結合は、音声...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・41
山田孝雄氏は助動詞を複語尾として辞の概念より切り離し、動詞が語尾を分出したものと考えられた。接尾語(接尾辞)は、単語の内部の遊離した部分であって、これが附属して新しい概念を有する単語を構成するものと考えられた。この見解においては、複語尾は動詞に附属して新しい単語を構成する...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・40
以上、辞の中で活用のある動辞(助動詞)と詞との転換について述べたが、次に活用のない静辞(助詞)の詞との転換について述べる。 「はかり」は元来詞として体言的に用いられる語である。 ● いづくを(はかり)と我も尋ねむ。 ● 三月(ばかり)も空うららかなる日。 ● 雨が降っ...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・39
次に、辞より詞に転換する場合について述べる。 詞の総合的表現においては、しばしば主観と客観との対応が総合的に表現されているが、詞辞の転換においても同じようなことがいえる。ここでは、主体と客体との総合的表現が認められるのである。「花が咲かない」の「ない」に対応するものは「...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・38
ヘ 詞辞の転換及び辞と接尾語との本質的相違 詞と辞とは語の性質上本質的に相違すものだが、「あり」に詞としての用法と、辞としての用法があるということは、どのようなことを意味するのだろうか。 最初から「あり」に二つの用法があったと解すべきか、または一方の用法が他の用法に転換...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・37
ホ 辞より除外すべき受身可能使役敬譲の助動詞 辞すなわち助動詞は、過程的構造についていえば、概念過程を持たない語であり、その表現性からいえば、詞が客体的なものの表現であるのに対して、辞は主体的なものの直接的表現であるといえる。詞は第三者のことについて述べることができるが、...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・36
「あり」に辞としての用法があるという考え方によって、「なし」にも、辞としての用法がある。「なし」は元来、形容詞であって、詞に属すべきものだが、それが次第に肯定判断に対立する否定判断を表すようになってくる。本来、否定判断は「ず」あるいは「あらず」を用いるのが普通である。 ●...
「知的障害」とは何か。「物覚え」(記憶力)や「物わかり」(弁別力・類推力など)が同年齢の集団に比べて劣っており、学習や生活に支障が生じている状態のことであろう。私は35年間、教職についていたが、そのうち15年間余りは「知的障害児」と呼ばれる子どもたちにかかわっていた。彼ら...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・35
「あり」に存在詞としての意味と、判断辞としての意味が存在することは、「て」「に」と結合する場合にも現れてくる。「て」と「あり」の結合。この結合が口語に「た」となった時、 ● 昨日見(た)。 ● あなたに送っ(た)本。 上のような「た」は、明らかに辞としての用法だが、 ●...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・34
再び形容詞連用形接続の「あり」について考えて見ると、そこには詞としての「あり」と、辞としての「あり」の二通りがあると思われるが、「暖いです」「暖うございます」の「です」「ございます」は明らかに辞としての用法だが、次のような場合はどのように考えればよいだろうか。 ● 殿下は...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・33
次に、形容詞の連用形に結合した「あり」がある。 ●この冬は暖かり(く・あり)き この例においては、すでに零記号の陳述が加わった「暖かく」に「あり」が結合したもので、その形式は「学生で」に「あり」が結合したものと同じである。 *山田孝雄氏はこの「あり」を形容存在詞と命名し...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・32
ニ 辞と認めるべき「あり」および「なし」の一用法 現行文法書の助詞および助動詞は、私のいう辞に合致するものだが、なお幾分の出入りを認めなければならない。 その一は、一般に動詞として詞に属すると考えられている「あり」およびその一群の語である。 ● ここに梅の木がある。 ●...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・31
ハ 詞辞の下位分類 詞と辞の二大別の原理は、詞辞の下位分類においても厳重に守られなければならない。詞の中には絶対に辞の概念を含めてはならないのである。詞と辞の意味的関係は、「雨が」という連語を取りあげて見ると、「雨」および「が」という各々の単語は《「雨」(が)》という図が...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・30
ロ 詞辞の意味的連関 詞は概念過程を経て成立したものであるから、主体に対立する客体界を表現し、辞は主体それ自身の直接的表現である。これを図に表せば次のようになる。 C(詞) A(主体)→B(辞)↗ ↘ ...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・29
《二 単語における詞・辞の分類とその分類基礎》 イ 詞・辞の過程的構造形式 単語は、その過程的形式の中に重要な差異を認めることができる。 一 概念過程を含む形式 二 概念過程を含まない形式 一は、表現の素材を、いったん客体化し、概念化してこれを音声によって表現する。「山...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・28
《第三章 文法論》 《一 言語における単位的なもの ・・・単語と文・・・》 言語研究で、単語が言語の単位であるとしばしばいわれるが、単位とはどのような事実をいうのかを考えてみる必要がある。しかし、単位とは何であるかに答えることは容易ではない。一般に使用される単位の概念には...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・27
《三 文字の記載法と語の変遷》 文字は言語表現の一段階であり、思想伝達の媒介に過ぎない。また文字は、異なった社会にも隔たった時代にも媒介の機能を持つので、言語の変遷に及ぼす力は大きい。 例えば、ミモノ→見物→ケンブツ、モノサワガシ→物騒→ブッソウのように漢字的記載を媒介...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・26
《二 国語の文字記載法(用字法)の体系》 用字法の体系とは、主体的用字意識の体系に他ならない。 言語主体が文字によって何を表そうとしたか、どのような用意があったか等の主体的な表現技術及び意図を探ることになる。 国語の文字を分類すると次の二つに分けられる。 一 言語にお...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・25
《第二章 文字論》 《一 文字の本質とその分類》 文字の本質は言語過程の一段階である。それは二つの側面からいうことができる。その一は、文字は、「書く」「読む」という心理的生理的過程によって成立する。音声が発音行為によって成立するのと同じで、文字は書記行為であるといえる。文...
「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・24
《五 音声の過程的構造と音声の分類》 自然的音声の分類基礎がもっぱらその物理的条件にあるということは、音響の本質がそこにあるからである。これに反して、言語の音声は、それが成立するためには、主体的な発音行為を必要とする。主体的意識としての聴覚的音声表象は、発音行為の一段階と...
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月 ほっかりと 月がでた 丘の上をのっそりのっそり だれだらう、あるいてゐるぞ (『雲』より) 山村暮鳥といえば『雲』というように、我々はおのがじし身勝手な親近感を胸に秘めて、山村暮鳥の研究に着手したわけであるが、まず第一印象として、誰もが感じたことは、彼のあののんびりと...
〇『昭和史』(遠山茂樹・他)・岩波新書 〇『日本資本主義講座』・第一巻・岩波書店 「資本主義の全般的危機と第二次世界戦争」(小椋広勝) 「太平洋戦争とアジアの民族革命」(小椋広勝) 「占領をめぐる内外の情勢」(陸井三郎) 〇『日本資本主義講座』・第三巻・岩...
「庶民」とは「広辞苑」によればもろもろの民、人民あるいは貴族などに対し、なみの人々平民といほどの意である。だがしかしこれでは満足できない。その満足できない部分すなわち日本の大衆の内在的さりかた、内在的な意識構造を深沢は表現した。しからばその「庶民」という言葉のもつ内容とは何...
「日本人」というものの社会的存在形態、あるいはパーソナリティをこれほどまでにその内部からとらえている小説はないだろう。 私達がこの小説を読む過程の中でもつある「親近感」とはいったいどういうものであろうか。おそらく井伏鱒二は原子爆弾の恐ろしさ、あるいは戦争はまだ終わっていな...
そのようなことがもし吉本にとって自明のことであるとすれば、彼の「芸術論」には明らかに、「芸術はどのようにして創られるか」という視点が欠けている。それは同時に、芸術創造の過程における、芸術家と生のままの現実とのダイナミックな関係を見落としていることでもある。 私はそこに吉本...
ここで吉本はどのようなことをいっているのであろうか。 例えば、一人の画家が一つの風景を前にして絵を画き始めたとする。このときその画家の芸術創造の原動力となるものは、一つの風景とそれを画きたいという彼の衝動(内部意識)である。吉本はその「風景」(現実)と内部意識の関係を循...
私はこの要約における、吉本の蔵原に対する批判には全面的に同意する。 すなわち、まず階級闘争を主要主題としなければならない、といった「主題の積極性」理論、それはひとたび転向によってその思想体系を百八十度転換するや否や、まず帝国主義的侵略(「聖戦」)をその主要主題としなけれ...
さて、その第二の部分は、いわゆる二段階転向論である。それはプロレタリア文学並びに文学運動批判としてあり、同時にまた吉本隆明の提起する芸術論、芸術運動論の問題でもある。 彼のいう二段階転向論とはいかなるものであるか。 〈わたしのかんがえでは、(略)プロレタリア文学運動の...
さて吉本は「転向」ということを次のように規定する。 〈それは、日本の近代社会の構造を、総体のヴィジョンとしてつかめそこなったために、インテリゲンチャの間におこった思想変換をさしている。〉(「転向論」・『芸術的抵抗と挫折』・未来社・169頁) すなわち、吉本にとって転向...
・・・泣いてゐるものが一番悲しんでゐるわけではないのだ・・・(「中毒」織田作之助) この論文をしめくくるに当たって、吉本隆明をとりあげようとするのは、他でもない、けだしこれまでの私の戦後文学に対する言及の論拠が、吉本のそれに負うところきわめて大だと考えるからである。とは...
だがしかし私は一方でそうした精神主義的限界をみながら、坂口安吾を次の二点において評価しなければならない。 その一は、「堕落論」における《醇風美俗》意識に対する闘いであり、その二は「オモチャ箱」における、新しい芸術論の提起においてである。 〈彼の小説の主人公はいつも彼自...
〈人間だけが地獄を見る。然し地獄なんか見やしない。花を見るだけだ。〉(「教祖の文学」・前出・Ⅱ・32頁) はたして、この花とは桜の花びらのことであったろうか。 《桜の森の満開の下》とは何か。それは芸術という一つの空間であり、人間が「真実」を垣間見る、一瞬の世界ではあ...
私は「木枯の酒倉から」「風博士」「母」といった小説が、「海の霧」や「竹藪の家」とたとえ同時期に書かれたとはいえ、はっきりとその両者に区別をつけなければならないと思うのだ。すなわち、坂口安吾は前者において、人間の不可解さを見つめ、それによって得た一つの「観念」によって、後者...
だがそれではいったい、そうした坂口安吾の姿勢とは、いいかえればどういうものなのであろうか。私はそうした姿勢に、必ずしも坂口安吾のオリジナリティ、あるいは可能性を求めようとしないにである。 母の憎しみによって与えられ、育てられた坂口安吾の観念、それは人間はあくまで不可解な...
〈母。…得体の知れぬその影がまた私を悩ましはじめる、 私はいつも言ひきる用意ができてゐるが、かりそめにも母を愛した覚えが、生れてこのかた一度だってありはしない。ひとへに憎み通してきたのだ「あの女」を、母は「あの女」でしかなかった。〉(「をみな」・前出・Ⅵ・29頁) 坂...
坂口安吾の思想とは何か。だがその前に私は、坂口の次のような言い方に注意しなければならない。 〈思ふに文学の魅力は、思想家がその思想を伝へるために物語の形式をかりてくるのではなしに、物語の形式でしかその思想を述べ得ない資質的な芸人の特技に属するものであらう。〉(「大阪の反...
「FARCEに就て」の骨子はいうまでもなく文学方法論であるが、福田が「文学について語ったことばのはうが、ずっと深く人生の真実を突いてゐる」と指摘しているように、ここで坂口は文学のレーゾン・デートルを人間のレーゾン・デートルとして語っているのである。つまり先の私の同意し得な...
さて私は、坂口と私の関係を必然化せしめるものが、坂口と私が共に生きるとはどういうことなのかという問いかけを、おのれに向かって発している人間であるという、芸術的事実であると言った。そしてそれは、実生活において坂口が書こうとすることによって、また私が読もうとすることによって、...
さて、それではいったい福田恒存のいう、「作品を通じてつかみ得た」坂口安吾のすがたは、どこにおいて存在し、またいかなる方法において捉え得るのであろうか。この問題について、私は坂口安吾と必ずしも同意見ではない。私は次のように考える。私がまず「作品を通じて」坂口安吾の姿をつかも...
もし、生活とは何か、生きるとはどういうことかという問いに、答える方法それが、他ならぬ生きることだといったら、それは同義反復だろうか。ともかくも坂口安吾は、そのような同義反復におのれの芸術を賭けているのだ。 〈私が自ら戯作者と称する戯作者は私自身のみの言葉であって、いはゆ...
■幼児語 【要約】 “かたこと”には2種類がある。一つは、成人語とは系統のまったくちがう“語”であり、もう一つは成人語からの音韻転化によってできている語である。子どもが最初に形成するのは、ほとんどが前者であり、前者をふくまない子どもはないのであるから、発生論的な見地からは...
1966年に静岡県で起きた「袴田事件」の再審判決が9月26日に下りるという。検察側は、被害者遺族の「事実を精査し、真実を明らかにしてほしい」という意見陳述書を読み上げ、袴田巌氏の「死刑」を求刑したそうだが、あくまで袴田氏の有罪を主張するつもりらしい。袴田氏は死刑囚として4...
16 成人語の形成過程 【要約】 少なくとも現代の文明国では、子どもの最初の言語習得がその社会の成人の間で用いられている語形(成人語)を用いることからはじまることはない。はじめ子どもは“かたこと”を用いる。そのなかには、喃語発声、音声模倣に発生的な因果関係をもっているもの...
8 幼児語から成人語へ 【要約】 幼児語が成人語へ変化していく過程は、1歳のある時期に急速に進められる。この期に、ワンワンはイヌとなり、マンマががゴハンとなり、tick-tackがclockになり、miawがcatとなる。この変化が成人の子どもに対する訓練と、子ども自身の...
■機能語(助詞) 《助詞機能の分化》 【要約】 日本語の助詞が、文ないし談話できわめて重要な役割を果たすことはいうまでもない。“山は高い”というとき“山”や“高い”はそれぞれ外延と内包をもっているが、助詞“は”にはそれがない。助詞は、同じ文の中のほかの語を規定したり、文を...
■動作語 【要約】 一定の動作に伴って生じる一定の発声、あるいは“かけ声”は比較的早く慣用型の音声に近づき、よく分節している。これを“動作語”とよぶことにする。 自分の動作に伴う発声として、物を投げるときのパイ、ものを持ち歩くときのヨイヨイ、などが1歳3ヶ月までに生じ、...
■要求語 【要約】 《初期発声》 不快、とくに空腹に連合して生じる最初の音声は[ma ma ma...]というような型であることが古くからいわれている(Jespersen.1922;Gesell and Amatruda,1947;Lewis,1948)。しかし、単母音[...
■状態語 【要約】 “状態”とは、個体の側の内的な状態のことである。特殊な状態に対応する特殊な語が“状態語”であり、イタイ、ウツクシイ、カワイイなどがこれである。個人の内的な事象が表示されなければならないという点で、対象語の形成の過程とはかなり異なる。 “痛い”という状...
7 語の発生と分化(略) 14 初期の品詞分化 《発達論と品詞分類》(略) 《初期の語の性質》(略) 《対象語》 【要約】 1歳児の語彙は、はじめは感嘆詞であり、つぎにそこから名詞が派生し、つぎに動詞、形容詞、副詞がこの順に生じるといわれてきた(Stern u.Stern...
13 場面と談話 【要約】 場面の性質のちがいが同一人物の談話の性質や量を規定すること、場面の変化が談話に変化をもたらすことは、成人にも幼児にも共通した事実である。われわれの言語行動の特徴の一つは、現実場面による拘束からの離脱にあるけれども、それからの全面的な離脱は、(統...
《初期の質問の形式と機能》 子どもに“疑似質問”といえるものが存在する。真の質問と疑似質問との間の判別は容易ではないが、その基準のおもなものはつぎのようである。 ⑴ 子ども自身がその名を知らないものについて質問する。 ⑵ 答えてやると、その答を反芻する。 ⑶ 答えてやると...
《“質問期”》 【要約】 シュテルン(Stern u. Stern,1907)は、1歳6カ月の子どもに、あらゆる椅子を一つ一つ指示しながらその名をたずね、部屋中を駆け回る時期があったと報告し、初期質問は、名をたずねることであり、これは子どもが“すべてのものには名がある”と...
■質問 《質問の機能》 【要約】 質問は“特定の明白な目的と、独自の聴覚的音声形式と、思考交流における重要な役割とをもつ、特殊な言語的伝達”(Reves,1956)である。質問は、質問者が自分の知らない情報を最も有効・迅速に知るためのすぐれた手段である。 質問が子どもの...
■談話的指示 【要約】 対人的な場面での指示行為の機能は、主題の伝達ということである。場面にある特定の刺激事象を場面から分離し選択的にそれを表示することもふくむが、それが完全に行えないということも意味している。一つの指示行為は、主題がその人であることは表示できても、その人...
■拒否と否定 《拒否》 【要約】 拒否態度は0歳2カ月ごろから、一定の形で明確に示される。哺乳瓶の代わりにおしゃぶりを与えると、頭を振り、怒って泣く。拒否は、もともと情動的な排除、あるいは嫌悪の直接の結果生じる行動であり、生得的な傾向である。拒否には、否定の性質である“真...
■応答 《返事》 【要約】 応答の最も単純な型は、相手の呼びかけに対する、ウンとかハイのような返事である。この種の応答は1歳前後で生じるが、特定の相手の特定の談話に対する特定の応答(適応的な反応)が生じているのではなく、紋切り型に反響的に反応が起こっているのみである。 前...
■呼びかけと要求 《呼びかけ》 【要約】 呼びかけは、現前する人、あるいは現れることが期待される人に対して伝達する欲求に動機づけられる発声である。注意をひきつける効果の大小に重点が置かれており、音量あるいは音調が重要な役割をはたしている。レベス(Revesz,1956)は...
■感嘆発声 【要約】 初期の感嘆発声は、主として短母音または長母音の強い発出であり、情動の直接的な表出である。子どもの属する社会の言語音からの影響を受けておらず、生得的なものである。これは“一次感嘆発声”あるいは“自然感嘆発声”とよばれている(Revesz,1956;Le...
12 言語的伝達の諸型 ■サルの発声の型と機能 【要約】 京都大学の霊長類研究グループによる十数年間の研究成果が、最近、伊谷(1965)によってまとめられている。伊谷によると、ニホンザルの音声的伝達は機能的につぎの4種類に分類することができる。 ⑴ 叫び声(crying)...