織田は、この作品でも、登場人物の内面に立ち入ることをことごとく避け、かわりに船、海、あらし、動物、その他生活用品等で彼らの「生活」を表現している。だがそれは、もはや人間関係そのものを媒介させうる社会的な「物」としてのそれではなく、自然の一部としての人間に対してきわめて並列...
「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・6
第三章 言語の特徴・・その二、客体的表現と主体的表現が分離していること 1 客体的表現をする語と主体的表現をする語がある 【要約】 いま、一切の語を、語形や機能などではなく、対象→認識→表現という過程においてしらべてみると、二つの種類に分けられることがわかる。 一、客体的...
「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・5
5 音韻およびリズムについて 言語学では、音声と音韻を区別している。個々の音声の個性を引きこれは去った共通の面がある点をとりあげて、これを音韻と呼ぶならわしになっている。これは、表現の二重化の自覚である。音声そのものが言語としての表現ではなく、音韻と呼ばれる面が言語表現で...
「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・4
3 辞書というものの性格 【要約】 《辞書の中に言葉がある》という解釈は正しいだろうか。 「辞書に登録された語彙は、具体的な語の抽象によって成立したものであって、宛も博物学の書に載せられた桜の花の挿画の様なものであって、具体的個物の見本に過ぎないのである。辞書は具体的言語...
「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・3
2 言語表現の二重性 【要約】 言語の音声や文字の特徴はどこに求められるか。 (文字の)感性的なかたちの変化は、そのかたちが一定の種類に属するかぎりにおいて、その範囲を出ないかぎりにおいては自由だが、たとえ小さな変化であっても、そのかたちが他の種類に転化するような場合には...
「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・2
第二章 言語の特徴・・その1 非言語的表現が伴っていること 1 言語の「意味」とは何か 【要約】 ・言語の意味が何であるかの言語学者の説明は、大きくわけて二つになる。その一つは、話し手、書き手の側にあるものとしてその心的状態と表現である言語との関係において説明するやりかたで...
「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・1
第一部 第一章 絵画・映画・言語のありかたを比べてみる 1 絵画と言語との共通点 【要約】(注・原文は敬体文) ・言語も絵画も、人間の認識を見たり聞いたりできるような感覚的なかたちを創造して、それによって相手に訴えるという点で(作者の表現であるという点で)共通な性格をもって...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・71《完》
(三)滑稽美 懸詞による旋律美、協和美の観察は、もっぱら美の形式に関することであった。 音声Sを媒介として喚起される概念をA、Bとする時、AとBの対比は、懸詞の美の質的価値を決定する基準となる。AとBとの対比を、角(ASB)によって表す時、角(ASB)は、極小から極大まで...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・70
(二)協和美 ● 獨ぬる床は草葉にあらねども秋くるよひは(つゆけかり)けり(「古今集」) 「つゆけかり」という語は、一方に心の憂愁を意味すると同時に、上句の比喩を機縁として文字通り「露けかり」の想を伴い、両方が響き合って、一つの複雑な観念を表出する。二つの想が相対立し、相...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・69
ロ 懸詞による表現美 (一)旋律美 懸詞による表現美は、二つの点から考察できる。その一は、懸詞を契機とする思想展開の上から。その二は、展開された美の質的相違の上から。 今、特定の音声をSとし、Sを媒介として喚起される概念をABとする時、概念の対比を次のような図形で表すこ...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・68
文が思想の統一的表現であると考える時、それがどのような形式で表されるかは、国語の特質を考える上で極めて重要な問題である。 懸詞を含む文の統一性がどのようなものであるかを明らかにすることによって、懸詞の表現における機能を明らかにしたい。 ● 梓弓(はる)の山辺を越えくれば...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・67
三 懸詞による美的表現 イ 懸詞の言語的特質 懸詞とは一語で二語に兼用し、あるいは前句後句を一語で二つの意味を連鎖する修辞学上の名称である。 ● 花の色はうつりにけりな徒にわが身世に(ふる)(ながめ)せしまに(「古今集」) 「ふる」は「経る」「降る」の二語に、「ながめ」...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・66
三 屈折型 a↗↘b→c→d 例えば「猿!」と呼ばれている人を振り向いて見ると、なるほど猿によく似ている。この滑稽感は、顔そのものや猿の概念、事象が滑稽なのではない。人間と猿との連想があまりに意外であり、もっともだという同感が伴った場合に滑稽に感じるのである。このように、...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・65
二 語の美的表現 語は以下のような過程的構造形式を持っている。 《起点》(具体的事物、事象) ↓ 《第一次過程》(概念) ↓ 《第二次過程》(聴覚映像)) ↓ 《第三次過程》(音声) ↓ 《第四次過程》(文字)) 従って、語の美的表現ということは、上の過程的構造の...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・64
次に、リズムはどのようにして美の要素となるのだろうか。 リズムは一般にその基本単位が群団化して、より大きなリズム単位を構成する。国語におけるリズム形式の群団化の方法は、音声の休止である。言い換えれば、リズムを充填すべき調音を省略することである。|はリズム形式の限界すなわ...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・63
第六章 国語美論 一 音声の美的表現 言語の美は、絵画における美のように視覚的要素の構成の上に成立するものではなく、言語過程といわれる主体的表現行為の上に構成されるものであり、それは身体的運動の変化と調和から知覚される美的快感に類するものである。従って、言語美学の考察は、...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・62
四 詞辞の敬語的表現の結合 敬語表現を理解するためには、まず話し手(甲)、聞き手(乙)、素材および素材に関連する人(丙・丁)、それらの相互関係を明らかにしておく必要がある。 (一)まず表現素材について、これを構成する要素を明らかにする。すなわち丙、丁の関係を考える。今、...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・61
次に敬辞を列挙する。 一 「ます」 動詞連用形に付き、「花が咲きます」「本があります」「御座ります」となる。 二 「です」 形容詞終止形に接続して、「山が高いです」となり、また動詞終止形に接続して、「花が咲くです」「本があるです」となり、体言に接続して。「花です」「駄...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・60
三 言語の主体的表現(辞)に現れた敬語法 言語における主体的なものの表現も、場面の制約を受けて敬語となるが、これはもっぱら、主体の聞き手に対する敬意の表現となる。 ● お暑うございます。 ・・・ございませう。 ● お庭を拝見します。 ・・・ました。 上の「ございます」「...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・59
詞に関する敬語が、素材的事実の特殊な概念的把握の表現であって、話し手の敬意そのものの表現ではないということは、敬語の構成法(表現過程の形式)を考察すれば明らかになることである。その構成法を例示する。 その一 「あげる」「くださる」「いただく」 その一は、概念の比喩的移行...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・58
ロ 素材と素材との関係の把握 甲は話し手、乙は聞き手、丙丁は素材的事実、丙および丁は素材的事実の成立に関与する人とする。丙丁と話し手甲との関係を問題外として、丁と丙が同等ならば「丁が丙にやる」だが、丁が丙より上位なら「丁が丙に下さる」となり、丁が丙より下位なら「丁が丙に差...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・57
その二 お・・になる お・・になられる 「お書きになる」「お書きになられる」等と使用される。これらの表現が敬語となるのは、「る」「らる」の場合と同様、ある事実の直叙を避ける方法に基づく。「なる」は「白くなる」「暖かくなる」の「なる」であって、他者がある行為において実...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・56
次に、詞としての敬語は、全く素材の表現に関するものであることを、敬語の構成法の上から明らかにしようと思う。 敬語の語彙論的構成法を考察することは、(敬語の対象を追求することではなく)ある事実が話し手によってどのように規定され表現されるかを明らかにすることである。すでに述...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・55
事物の概念的把握による語の構成は、語彙論に属するから、敬語的表現(敬語的構成)は語彙論に所属しなければならない。敬語的系列は語彙的系列である。この見解は、文法体系の組織に関連して、重要な結論を導く。 「咲くだろう」という語は詞と辞の結合で、「咲く」という事実の概念に話し手...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・54
次に、敬語はどのような理由で、国語の特性と考えることができるかを明らかにしようと思う。それを日本民族の美風の現れなどと、民族精神の云々をする前に、敬語の語学的特質を究める必要がある。敬譲の表現は外国語にもある。従って、国語における敬語の特質が奈辺にあるかということが問題に...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・53
二 言語の素材の表現(詞)に現れた敬語法 イ 話し手と素材の関係の規定 詞は、事物(素材)の概念的把握によって成立するが、その中から敬語というものを特に取りだして区別するのはどのような根拠によるものか、について述べたい。 それにはまず、詞の成立する過程(素材の概念的把握...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・52
第五章 敬語論 一 敬語の本質と敬語研究の二の領域 国語はいかなる場合においても、敬語的制約から免れることはできない。敬語はほとんど国語の全貌を色づけしているものだから、国語現象の科学的記述と組織を企てようとすれば、まず国語を彩るこの多様な色彩様相に着目してれを正当に処理...
「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・51
三 意味の表現としての語 言語主体の事物に対する意味作用はどのように成立し、どのように言語に表現されるのだろうか。ここでは、意味そのものの成立の条件について論じようと思う。 意味は言語主体の素材に対する関係によって規定される。一本の枝が「杖」と表現されるためには、主体の...
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織田は、この作品でも、登場人物の内面に立ち入ることをことごとく避け、かわりに船、海、あらし、動物、その他生活用品等で彼らの「生活」を表現している。だがそれは、もはや人間関係そのものを媒介させうる社会的な「物」としてのそれではなく、自然の一部としての人間に対してきわめて並列...
〈ところがある日、賀来子は電球を手にしてしきりに溜息をついてゐる基作をあやしんで、その電球をどうするつもりですかと訊いた。まさか玩具だとも言へず、古い電球を新しい電球にする法を思案してるねんと答へると、そんなことできるんですか。出来ィでかいな。すると賀来子はさうですかと暫...
さてすでに述べたように、織田作之助の方法意識の中には、ストーリー・テリングに対立するものとしての近代的リアリズムへの志向がふくまれていた。私はそのあらわれを「夫婦善哉」「素顔」「天衣無縫」といった作品にみたわけだが、その中でも「夫婦善哉」「素顔」と「天衣無縫」との間には異...
資本主義社会が発展していく中で、かつての封建中流階級は「庶民」として生き抜くために、他ならぬ「庶民」を徹底的にだましつづける他はなかった。いわゆる日本的なブルジョア合理主義とは、伝統的な仏教・儒教道徳としての「勧善懲悪」思想の裏返しとしてあるのであり、それゆえ両者における...
織田作之助は、いわゆる生活というものを平面的な流れとしてとらえる。そしてその流れは、多かれ少なかれ「運命」とよばれる一つの必然性によって支配されている、という認識がある。織田は「雪の夜」において、坂田というひとりの男が、瞳という娘に惚れるということをきっかけに、どこまでも...
周知のように、井原西鶴は江戸時代の封建社会体制をなし崩し的に崩壊せしめる、変革の可能性を裡に秘めた新興階級(町人)、つまり商業資本家の代表者として登場した。従って、井原西鶴の小説は、新興階級の封建社会に対する自己主張であり、中世的な美意識や、儒教道徳を拠りどころとする当時...
織田作之助におけるストーリー・テリングという方法は、「ストーリーの奇抜な変化に凝ったり」するようなものではなかった。 〈その頃、もう人に感付かれた筈だが、矢張り誰にも知られたくない一つの秘密、脱腸がそれと分かる位醜くたれ下がってゐることに片輪者のやうな負け目を感じ、これ...
織田作之助の「文学」における基本的方法をひとくちでいえば、それはストーリー・テリングという方法である。 〈おれの小説は一気に読める、と彼は豪語していた。いかにも彼の文体はキビキビして、鈍味がなく、素早い頭脳回転に渋滞のあとがなかった。しかし彼の頭脳は素早く回転すればする...
・・・夜を経なくっちゃ、太陽が登らないのだ。・・・(「夜の構図」) 織田作之助、太宰治、坂口安吾、石川淳、この順は彼らの世を去る順であった。そして中島誠は、この順を彼らの文学的資質の順としてみている。 〈必ずしも、淳、安吾、治、作之助の四人は同質の作家ではないだろう。...
さて、もう一度戦後の文学現象をながめてみたい。 1 志賀直哉・永井荷風・正宗白鳥・谷崎潤一郎らの大家の復活 2 上林暁・尾崎一雄・外村繁らによる私小説の復活 3 舟橋聖一・田村泰次郎・石坂洋次郎らの風俗小説 4 川端康成・田宮虎彦・井上靖らの中堅作家 5 織田...
またすぐれた文学を次のように規定している。 〈すぐれた文学とは、われわれを感動させその感動を経験したあとでは、われわれが自分を何か変革されたものとして感ぜずにはおられないような文学作品だといってよい。感動しうるためには、その作品はわれわれにとって再経験しうるものでなければ...
さて、ここで注意すべきは、科学も芸術もそのような対立をいわゆる「実践・・認識・・再実践・・再認識」という形でおこなうが、そのとき科学にとっての実践とは正に認識の実用化であり、芸術にとっての実践とはそのような対立の表現であり、その表現はおおむね非実用的なものであるということ...
ところで芸術がそのような人間の生活活動の意識的生産の中から生まれてきたということははたして自明のことであろうか。 思うに、人間がその生活において意識的生産と物質的生産を《同時に》行うとは、いいかえれば人間の生活は意識的生産と物質的生産との対立として存在するということでは...
ここでいう自己疎外とは、人間が絵を描こうと思って描きはじめるや否や、その描かれた絵が独立して、逆に人間を支配しはじめるというそうした人間と絵との関係、もしくは人間の意識活動の内的構造のことである。だがこうした自己疎外という現象は、単に人間の意識活動の中にあるばかりでなく、...
人間を人間たらしめているものは、その存在を存在たらしめている生産活動・生活活動に他ならないが、マルクスはそれを動物の生産活動と区別して「自由な」生産活動であると規定する。すなわち、動物が直接的な肉体的欲望に支配されて生産するのに対して、人間は肉体的欲望から自由に生産し、し...
【第五章 内閣】 ◎草案(修正該当部分) 第七十二条3 内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。 ◎修正案 第七十二条3を削除する。 《解説》 ・修正案においては、国防軍は存在しないので、この規定は不要である。 【第九章 緊急事態】 ◎草案 (緊急事態の宣言) ...
【第四章 国会】 ◎草案(修正該当部分) 第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。 第四十九条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。 ◎修正案 第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。 2 参議院は非政党議...
【第三章 国民の権利及び義務】 ◎草案・1(修正該当部分) 第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民はこれを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び責務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならな...
◎草案 【第二章 安全保障】 (平和主義) 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。 2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。 (国...
《日本国憲法改正草案・自由民主党》修正案・《2》 【第一章 天皇】 ◎草案(修正該当部分) (天皇) 第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。 (国旗及び国家) 第三条 国旗は日章旗とし、国...
■呼びかけと要求 《呼びかけ》 【要約】 呼びかけは、現前する人、あるいは現れることが期待される人に対して伝達する欲求に動機づけられる発声である。注意をひきつける効果の大小に重点が置かれており、音量あるいは音調が重要な役割をはたしている。レベス(Revesz,1956)は...
■感嘆発声 【要約】 初期の感嘆発声は、主として短母音または長母音の強い発出であり、情動の直接的な表出である。子どもの属する社会の言語音からの影響を受けておらず、生得的なものである。これは“一次感嘆発声”あるいは“自然感嘆発声”とよばれている(Revesz,1956;Le...
12 言語的伝達の諸型 ■サルの発声の型と機能 【要約】 京都大学の霊長類研究グループによる十数年間の研究成果が、最近、伊谷(1965)によってまとめられている。伊谷によると、ニホンザルの音声的伝達は機能的につぎの4種類に分類することができる。 ⑴ 叫び声(crying)...
■母親の初語識別 《初語識別》 【要約】 通常、初語は子どもとたえず接している母親によって発見される。母親は、純粋に情動的あるいは喃語的な発声に対しても、これを自分への呼びかけ、あるいは、何かを自分に要求する有意味的発声と解釈しがちである。客観的に有意味とはいえない空疎な...
11 初語 【要約】 “語”は、文のなかの構成分でなければならないから、初語は“語”ではないが、初期の談話は、語に似たまとまり方で1音節ないし2~3音節から成り、機能的にみても、将来の本格的な談話の中に移行していくものが多いから、“語”とよんでも誤りとはいえない。word...
6 言語的伝達の機能の初期分化 【要約】 ここへきてようやく言語的な行動の第1歩がはじまる。それは、言語形式に従う適応的な伝達の開始ということである。この期から、子どもは言語を利用して外界に適応する方法を徐々に、しかし積極的に習得していく。 まず、初語の問題をとりあげ、...
■言語理解の透明性 【要約】 音声は談話の聴取においては“透明”だといわれる。このことは、“話”という語がつぎのような広い意味範囲にわたって用いられる事実からも立証される。 まず、“話”という語は、言語行動の一形態としての意味に用いられる。 ⑴ 活動ないし能力(2歳児は十...
《自己行動調整機能の発達》 はじめ他者への伝達手段であった談話が、子ども自身が自己の行動を統制し組織化するための手段を分化すること、および、まえには二人のひとに分かれていた“話すー聞く”という機能が、のちに個人行動の中へ統一的に内化されること。この発達過程を分析する方法が...
9 言語理解 【要約】 言語理解は子どもの知的発達に大きな寄与をする。そのような寄与がどのように発達変化するか、その発達を規定する要因は何かについて考えてみたい。 ■ 談話の自己行動調整機能 自己行動に対する談話の調整機能の発達過程についての実験的研究の成果を検討する...
《代表過程と条件づけ》 【要約】 二つの事項間の任意的な関係は、言語的代表過程に限らず、非言語的過程にも存在する。接近連合、あるいは条件づけによって、連合される二つの事項の間に有縁性があってもなくても、両者間に結びつきが生じる。 連合における結合は、一つ一つが孤立してい...
《代表過程の二つの発達水準》 【要約】 代表過程とは、“代表するもの”と“代表されるもの”との間の分化である。ピアジェ(Piaget,1945)に従って、“代表するもの”を“能記”、“代表されるもの”を“所記”とよぶ。この二つの用語は、フランスの言語学者ソシュール(Sau...
■範疇化 【要約】 代表過程の発生と発達を具体的に考えてみる。認知に対して作用する代表機能は、要するに、客観的事象を意味的なものへと変形することであり、範疇化することである。 特定の1匹の動物が特定の“そのもの”としてではなく、“イヌ”という範疇(カテゴリー)ないし級(...
《ピアジェの見解》 【要約】 ピアジェ(Piaget,1933,1934,1945)は、知覚が行為的経験を媒介としてはじめて発達すると考えている。前述したマッチ箱場面(父親が1歳4カ月の女児の目の前でマッチ箱をあけ、そのなかに鎖を入れ、箱の口を少しあけたまま彼女にさし出す...
■認知と行為 【要約】 代表機能の最も単純で直接な水準は知覚である。知覚が行為的な経験とどのように因果的に関係しているかについて、二つの対立する見解がある。その一つは、人間の知覚は代表機能によって支えられるが、この機能は、人間においては視覚や聴覚とならんで一つの基本的で生...
■非言語的な経験 《“内言語”の非言語性》 【要約】 言語的代表過程が形成されるための要件の一つとして、マイクルバスト(Myklebust,1960) は、“内言語”なるものを考えている。“内言語”はビゴツキーの“内言”とは異なる概念である。“内言”は談話の内面化ないし思...
東京のデパートで開かれていた「大黄金展」の会場から1040万円の純金製茶碗が盗まれた。犯人Aはこの茶碗を古物買い取り店Bに180万円で売却した。古物買い取り店Bは同じ日に古物買い取り店Cに約480万円で転売した。 したがって、Aは180万円、Bは約300万円、Cは約56...
8 認知世界の形成 【要約】 子どもは、まず言語を学び、つぎにそれを基礎として意味的経験をするようになっていくのではなく、はじめに意味的経験をし、その経験を深めていく途中から、それを基礎として言語の影響を徐々に受けるようになっていくのである。意味的経験がなければ、言語の経...
■聴力 【要約】 談話を聞く場合、談話の全体が必ずしも遺漏なく聞きとれるということはなく、また、つねにそうである必要もない。その理由の一つは、談話の行われる状況、談話そのものの置かれている文脈、あるいは広い知識・経験などが、聴取欠損部を補うのに役立つということにある。この...
■音声識別と発声 【要約】 音声識別力が、子どもの漸次発達変化していく音韻とその体系化にそって発達することは明らかである。低い発達段階では、一部の音声だけを識別し他の音を無視するとか、特定の音声を彼自身の音韻範疇に従ってまとめたり相互交換したりする、ということが考えられる...
■音声識別と場面 【要約】 “言語理解”が言語以外の条件(場面)によっている場合が多い。 カリツォーバは、成人が談話を与えるとき、その音調が一定であり、また身振りや場面も一定であるときだけ、要求している条件(“理解”)反応を示すことを実験的に確認している(Kogan,1...