第13章 走っては振り向き、キティはまた走った。あとを追うカンナは息が上がって苦しい。もう、どこに連れて行こうってのよ。え? 鬼子母神? お参りしろ…
けっこう曇っていた何日か前、なんとなく思い切った散歩がしたくなって、僕たち夫婦はここから家まで歩くことにしました。そう、東京タワーですね。まあ、それ自体は横目…
変な表現ではありますが、猫って一匹狼的な感じがするじゃないですか。 このように独立独歩誰も頼らず、頼られもせずって感じが。 しかし、実際にはけっこう猫同士…
外気が乾燥し、空が澄み渡り、陽光の角度も鋭角になっていくと赤い花がひどく目立つように思えます。 ケイトウなんかはそのユニークな形もあいまって一際目立ってま…
「ナア!」 ああ、この声は猫師匠よね。そう思ってるそばから尻尾を立てたキティがあらわれた。顔をあげ、じっと見つめてくる。 「え?」 カンナはカー…
なにも知らないカンナは颯爽とマンションを出た。ここのところ変なお客さんが増えたし、ついこの間はヤクザまがいのオッサンまでやって来た。それだけじゃなく、イ…
ふたたび腕を垂らし、彼は首を振った。 「よく聞くよな、そういうの。警察の常套手段ってやつだろ? テレビでよく見るやつだ。脅したり宥めたりして、嘘でもい…
「だから?」 「だから、不思議なんだよ。お前さんの話は信用ならないってことになる。いいか? お前さんは開いてるドアから覗きこんだんだよな? まあ、それだ…
「ふうん、なるほどね。――いや、現場で話したのがいるだろ? その者はお前さんは全部話してなさそうだって言ってた。俺もそう思えてきたよ」 「ああ、あのオネ…
ブザーが鳴り響いた。あてがわれた数字での点呼があり(蓮實淳は九十九番だった)、七時半からは白飯に焼き鮭、味噌汁、ひじきの煮物といった朝食だった。それから…
それと同じ時間、蓮實淳は留置場にいた。 布団にくるまっていたものの目をひらき、天井を見つめていた。明かりがちらちらして眠れなかったのだ。それに、腹も立…
「いいんだよ。コイツは痛い目にあわないとわからないようだからね。オチョ、この子はあんたと違って責任ってのを心得てるよ。ま、命令に従わなかったのは腹も立つが…
その夜、雑司が谷みみずく公園の最奥部には普段あまり見られない光景が広がっていた。二十匹以上の猫が集まっていたのだ。キティは寝そべり、その前にオチョとペロ…
「それに、さっきの話。筋は通ってるんだけど、そこにも変なとこがあるわ。あなた、なにか隠してることがあるんでしょう。全部は話してないわね」 蓮實淳はちょ…
それからのことは彼自身もよく憶えていなかった。「ここで死んでる」と言った直後にポケットへ手を突っ込まれ、「なにを隠してる」と訊かれたのを憶えてるくらいで…
冷静に考えられたなら違った行動をとったかもしれないけど、彼はそういったものからかけ離れた人間だった。ペロ吉の叫びが消えたと同時に階段を駆け上がり、風に煽…
ゆるい坂を下り、妙見堂まで行くと彼は路地の方を窺った。警官らしき姿はない。それどころか誰もいなかった。雲は黒くなっている。ま、これじゃこうもなるよな。そ…
ふたたびスーツに着替え、ネクタイを締めてるところに電話が鳴った。階段を降りながら時計を見ると、五時十二分。 「はい、こちらなんでもお見通しの占い師、蓮…
第12章 蛭子家を出たのは二時過ぎだった。シャワーを浴び、濃いコーヒーをつくると蓮實淳はソファに身体を沈みこませた。けっきょく思考は痺れたままで、なに…
「先生?」 「はい」 「柏木さんは古くからの友人なんです。私のというだけでなく、主人の幼馴染みなんですよ。占ったとき、それも見えたんじゃないですか?」…
離れに入ると嘉江は羊羹を切り分け、ひとつを仏壇に供えた。 「主人が好きだったんですよ。お酒も好きなのに、甘いものにも目がなくて」 窓は開け放たれ、…
帰り道でも蓮實淳は鼻に指をあてつづけていた。六時までに考えをまとめとなければならない。しかし、どうしたらいい? 法明寺の参道を抜けた足は鬼子母神へ向かっ…
「これも率直に訊きますが、あなたはこのビラを見せられてませんか? その柏木という老人からということですが」 「ああ、いえ、見せられてはいませんが、話は聴…
「率直に訊きますよ。あなたはこれを作った男を知ってますね?」 「いや、」 そう言ったきり、相手は固まったようになった。蓮實淳はじっと見つめてる。 …
「ああ――」 大和田義雄は立ち上がった。明治通り沿いにある《ベローチェ》の奥まった席に彼はいた。 「すみません。早くに出たんですが、警察の人間と話し…
「どうでしょうね? いえ、もちろんそれでいいならってことですよ。しかし、被害届などと言ってるのを考えると、そうした方がいいように思えるんですが」 「はあ…
九月の頭になって、やっと新しい動きがあらわれた。大和田義雄から連絡があったのだ。休みの日は昼過ぎまで寝てる蓮實淳も早くに起き、身支度を調えた。時計を見る…
「それで気が収まるなら、もちろんお詫びいたしますよ」 「それがな、あの人はそんなことしなくていいって言うんだよ。詫びられたとこで怖いのに変わりはないって…
「ああ、あのことですか。そうですか、あの方は柏木さんっていうんですね?」 「ん? ああ、そうだよ。なんだい、お前さん方は名前も知らねえで難癖つけたってこ…
このように彼らにはそれぞれ待ち人がいたわけだ。そして、ともに来たらずの状態だった。カンナはぼうっと外を眺め、自転車が通るたび首を伸ばした。自分の気持ちす…
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