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「属」することは、本当に幸せなことなのだろうか。

人は何かに属さないと生きていけないのだろうか。 属することの息苦しさに折り合いをつけながら、人は心の安定を求めるのだろうか。 属することは、本当に幸せなことなのだろうか。

杠 志穂
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2016/05/20

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  • 35.生命維持装置.1

    父が余命宣告を受けたとき、もしものときに――ということで生命維持装置を使うかどうか尋ねられたことがある。その際に説明を受け、私なりに納得したつもりだった。「父は無理な延命は望まないと思う」そう答えた私に婦長(今は師長と呼ぶらしいのだが、私はつい婦長さん、と呼んでしまう)は小さく頷いた。「立場上、こんなことを言ってはいけないのかもしれませんけど、私が志穂さんだったら同じことを言うと思います。装置つけて、お気の毒だと思う例も随分見てきましたから……」私はその答えを聞いて、自分の出した判断になんとなく安堵したものであった。そしてその後、その装置について調べることはしなかった。父にとってこの装置は不要にしよう。充分に戦ってくれている父に、これ以上苦しい思いはさせたくなかった。いつかその日が来たら、お疲れ様でした、と見送...35.生命維持装置.1

  • 34.日めくり.4

    その日の午後三時頃、今日は一日何事もなく閉店までいられそうだ、と私はほっとしていた。ここのところ父の病院、あるいは母の施設からの度重なる呼び出しにより、誠に勝手ながら――の貼紙をしょっちゅうドアにやって早じまいしなければならない日が多く、夕方はあてにならぬ店、の悪評が定着しつつあってそれも頭痛の種だった私にとっては、定刻に閉店できた日は本当に嬉しかったのである。しかしそのとき母が入居している施設の施設長から携帯電話に着信があり、「お母さんは大丈夫だから、呼ばなくていいから、と言っておられるんですが……」と申し訳なさ気に、朝から微熱があってフラつきがある、と報告を受けた。嘆息が出てしまった。今日も”誠に――”の貼紙の日になってしまうのか。父はともかく、母はこんな私の事情をもう少し察してはくれないのだろうか。もう少...34.日めくり.4

  • 34.日めくり.3

    「父さんとね……」母がぽつり、と語りだした。「父さんとね、最近よく話しとるの。私らが死んでしもうたら志穂一人ぼっちになってしまう。志穂の身がちゃんと立つようにしといてやらんと……って」「あんたは二言目には何もいらん、何も欲しくないって言うけども……でもあんたが継いでくれんと。あんたがあの家守ってくれんと」「母さん、この後の面倒事も私が何とかせんとあかんの?」自分の声が尖っているのは気が付いていた。「大体、父さんと母さんが色んなことちゃんと決めておかんから、こんなことになるんよ!家のことやら地面のことやら、姉ちゃんらのことやら……。ちゃんと計画しといてくれんから私がいっつも後始末しとらんといけんのよ」語尾がきつくなった。母は困った顔で、左手の薬指にもうかれこれ五〇年以上着けている指輪を回した。父が母の誕生日に贈っ...34.日めくり.3

  • 34.日めくり.2

    私は冗談めかして両親にいつも話した。「使えるものは、みんな使っていって。そりゃあ残ったものは燃やしてしまえって言われるとムッとするけどね。でも父さん母さんが一生懸命頑張って貯めたお金なんだから、使いきってしまった方がいいんよ。残そうなんて思ったらケンカのもとになるだけやもん」良い子ぶって言ったわけではない。私は二人にかかった費用は全て記録し、領収証やレシートに至るまで全て保存していた。とにかく後々面倒事に巻き込まれたくなかった。使いきってしまえばいい。残る不動産は兄や姉たちが納得する形で分割すればいい。私は元々どこの誰でもない。二人の間に産まれた子なのだから、二人が亡くなれば私の杠家での役割はそれで終わりにしてもらっていい。そしてこの後は”私”という一人の人間として生きていきたい。清々と息子たちと出て行けばいい...34.日めくり.2

  • 34.日めくり.1

    すずちゃんが逝ってしまってから、しばらくは虚脱状態に陥ってしまった感のある私たちだったが、そんな事とはお構いなしに日めくりは誰にも平等に正しくめくられていった。元々、頻繁に交流できるほど近い場所に住んでいたわけではなかったのが幸いであったのかもしれない。彼女がいない、という現実を私たちは時折忘れそうになったりもできたから。今はお互いに忙しくてコンタクトが取れていないだけ。電話をすれば、メールを送れば彼女の可愛いおしゃべりや、ウィットに富んだ返事が必ず帰ってくる。お互いの忙しさを思いやって今は遠慮してるだけ。そう、いつかはきっと会える。そう信じよう。私やさっちゃんが『大きな宿題』を終えたとき、きっとすずちゃんはにっこり笑いながら「うーん、まあまあやねぇ」なんて憎まれ口を叩きながら、「お疲れ様。ご苦労様でした」って...34.日めくり.1

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