なかなか寝付かれない。今村や小出、それに木内典子ら組合員の顔が脳裏の浮かんでくる。彼らは啓太をじっと見据えて、「組合を脱退するのか?」と詰問しているみたいだ。それらの“幻覚”を振り払って啓太は眠りにつこうとする・・・しかし、眠れない。彼はベッドの上で上半身を起こし、しばらく放心状態になった。どうして俺は眠れないのだろうか。俺はそんなにも小心で気が弱いのか。啓太は自分が情けなくなった。両親にも石浜部長にも組合を脱退すると約束したのに、いざとなるとひるんでしまうのか。自問自答にもならない不毛の想念に、啓太は次第に疲れてきた。また横になって2時間、3時間・・・結局、彼は一睡もできずにその晩を過ごした。これなら、仮眠を取らず起きていた方がよっぽど良かったではないか。啓太は疲労を感じながら、再び職場に戻った。曽我と...啓太がゆく⑨(労働組合騒動)