【SS】:よせてはかえす

【SS】:よせてはかえす

ひとけのない冬の海は鈍色に濁り、朝の陽の光を弱々しく跳ね返していた。波打ち際をあるく蒼羽はつよい風を避け、マフラーに首をうずめる。それでも舞い上がった砂粒がぴしぴしと頬を打つ。 かちん、とトングを鳴らした。金属音でリズムを取りながら、小学生のころにはやった男性ボーカルの曲を口ずさむ。足元と、手で鳴らすリズム、自分の声に意識を集中させる。だからだろうか、背後から声をかけられるまでひとの気配に気がつ...