生きるのが難しい時代。 愚直なまでに真面目に生きる男の物語です。
昭和から平成へ・・・。 世の中の移り変わりを、独特な視点で描く物語。 真面目に生き、失敗を繰り返しながらも幸せになる事を諦めない藤堂。 子育てが終わり第二の人生を歩み始める世代に、幸せの本質を問うお話を書いてみました・・・。
ふぅ~っと 白い煙を吐き出す ぼぉ~っと、ひじ枕をしてどこを見るでもなく 床に横になり、溜息とも吐き出すタバコともつかない息がもれる 何となく後味の悪い会話だった 「今日ねお買い物のついでに、和江ちゃんのとこ寄ったのよ」 「そしたらなんとビックリ!」 「ねぇ、和江ちゃんのとこ 食器洗い乾燥機があったのよ~」 「いいなぁ、あんなの憧れちゃう」 夕飯の片付けをしながら、留美子…
「こんにちは~~」 語尾が少し枯れた村松の声が、事務室に響いた 緊張してるんだな・・・ 彼女の緊張を悟られないようにと、藤堂も挨拶を重ねたへぇ こんにちは こんにちはっ お疲れ様です 休憩に戻ってくる社員達に声をかけていく 「あれっ?村松さん それ何?」 村松が持っている大きな風呂敷包みに気が付いた 事務員の娘が聞いてきた 「えへへ~、今日 社長さんのお誕生日でしょ」 ちょ…
車の中ではずっと、何やらいい匂いがしていた お昼前のこともあって、食欲を刺激する 後部座席に置かれた、紫色の風呂敷に包まれたそれは 上品な存在感と、およそ仕事に関係の無い違和感に溢れていた 営業部を出る時に村松が積み込んだものだ 「今日はね青木社長のお誕生日なの。 お祝い持って来ると 約束したのよ」 今朝は早くから起きて、子供達のお弁当と 沢山の赤飯のおにぎりを 作ってきたらしい 村松…
藤堂は出世を獲りにいくタイプの男ではなかった 偉くなりたくないわけではない 小さな組織をまかせればソツなくこなす 頭の良さとそれなりの人望ももっていた 少し足りないやる気と 将来をイメージした時の夢の無さ 何より大好きな釣に、気が向けばいつでも行ける 今の環境が影響していた 長男が生まれて、お金の為に転職して5年 収入もそこそこ安定してきたし、欲しかった物は揃いつつある 世間でいう幸せな…
「そうそう、リーダー知ってた? 城北営業部の安間さん、大変だったみたいよ・・・」 ん? 安間・・・ 何かあったの? 「それがね、聞いた話なんだけれど・・・ 数人の男の人に襲われたみたいなの」 「ちょっと前の夜らしいんだけど、車に乗ってるところを いきなりだったみたいで・・」 ふぅ~ん、ひどいの? 「暫くは会社にも出て来れないらしいよ 車もボコボコにされちゃったみたいだし」 そう…
「さっきからチラチラ見てるでしょ?」 助手席に乗せた部下の村松が、笑いながら言う 「女子高生!」 何かを言いたげにこちらを見たままだ なんで俺の目線に気付くのかな~ 藤堂は村松が何処を見ているのか気になった 「ほらっ、ちゃんと前を見ないと危ないよ」 部下なのだが歳は少し上で、友達のような女房のような 口の利き方をする すぐに怒り、すぐに泣く女性部下 自転車に乗った女子高生が通るた…
湖の雰囲気が明らかに違っていた ここで生活する者達の息使い ピーンと張り詰めた緊張感 繰り返されてきた命のやり取り・・・ 今 自分はその中の1人 藤堂の投げたペンシルに影たちが気付いた 狩る者がスーっと近づいて来る 無防備に待つだけの狩られる者 一瞬で決まるであろう間合いで影達が止まった 藤堂はルアーを動かせないでいた 今日1日いろんなルアーを投げ、動かし方も分かったはずなのに…
柴田ではない 他の2人が発する違和感 仕方なく考えられる理由を探し始めた 確かに持ってきた道具は古い あのキャンプの後、急いで買いに行った物だ 柴田の物と比べても古さは歴然としていた さりげなく2人の道具をチラ見する・・・ おそらく何匹かのバスを釣ってきたであろう道具達 鮮やかな黄色いラインを見て、逆に笑ってしまう どうも投げているルアーに問題があるらしいと感じた スピナーは主に鱒…
1番のポイントは はずす・・・ 興奮しているはずなのに、冷静な自分がいる そう、昔からそうしてきた 少しだけずらして様子を探りたい 今日の自分と魚のやる気・・・ なんだ これ? 初めて使うルアーは作られた目的が分からない ペンシルタイプは投げた事も無かった エラ辺りまで出して斜めに浮いている ラインを巻くと水面を滑走する ただの棒 2投目・・ 更にポイントからずらし被害を避け…
「あそこは良く釣れるよ あの少し張り出している所から先に投げるんだ」 湖を見下ろす外周道を走らせながら 時折車を停めては兄ちゃんがポイントを教えてくれる 「去年は結構釣れたんだ、デカいのも出るしね あっ、白いスピナーベイトは買ってきた?」 いいから早く始めたい ポイント選びも楽しみのひとつじゃん・・・ 藤堂は兄ちゃんの少し自慢げなアドバイスがウザかった それにしても、綺麗で大きな…
「白いのが効くらしいですよ あと、ワームは持って行けって」 柴田の言葉もがろくに耳に届かないほど 藤堂は興奮していた 久し振りに来た釣道具屋には、それまで見た事が無い いかにも釣れそうなルアー達が並んでいた 手に取るだけで多くを語りかけてくる戦士達 アメリカ製のいい加減な物とは違う、綺麗な作り 今日の釣行への期待は高まるばかりだった んっ、 ワーム? およそ釣が似合わない柴田に、負ける…
「じゃ、明日迎えに来ますね。 ダム湖まで兄が連れてってくれるんですけど 午後からでいいか?って・・」 あっ、 あぁ 藤堂は最近軽い ウツ に悩まされていた 外に出るのが嫌だった 人に会う事も極力避けていた 「ストレスですね」 医者の答えはいつも一緒 薬出しておくので様子みてください・・ ストレスって なに?・・・ 無理やり誘ってくれ! きっと断るから・・・ いろいろ理…
ピシュ! ピュッ! 慣れてくるに従い、ロッドの限界値でキャストできていた スピナー、スプーンとも、流れに対して引いてくる角度も 自然と身に付いてきていた ここでは釣れない事は分かっていたし 釣り人は騙せても、ここに住む魚には興味の対象にさえ なっていない宝の破片は、違和感だけを放ち続けていた 「猛君~、テント張るから手伝って~」 ついに断れないお誘いがきてしまった もう一回…
「明日行きませんか?」 う、うん・・・ 暖かい土曜の午後、後輩の柴田が訪ねて来た この日本にも、ブラックバスが居るらしい 藤堂はルアーの釣りが好きだった 小学生の頃、初めて見るルアーは その名の通り魅惑的で 期待感と、こんな物で魚が釣れるのか?という 猜疑心の両方が同時に膨らむ不思議な鉄片だった スプーン、スピナー、プラグなどと、呼び名もかっこいい! それらを投げるためのロッド、…
南無妙法蓮華経~ 南無妙法蓮華経~~ はにゃ・・・・ ロウソクの炎が時折揺れている・・ 祖母は目を閉じたまま数珠を掛けた手で拝んでいた あや・・ ◎▽#・・・ 南無~~みょう~ ほ~~れん げ~~きょ~~~ ジャラッ うん、うむ 祖母は座ったまま振り返り母に告げた 「この家には外に・・北西の方向だな お稲荷様が祭って…
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