ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。
褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。
2020年11月
「ほら見て。何も無い壁に突然に爪痕」無量塔(むらた)の唾がモニターに飛ぶ。「逆に、肉眼では見えなかったのに蜃気楼みたいな何かが動いてる」モニターの唾を指で拭きながら指摘。「此処も注目。未来ちゃんとカメラの間を何かが通って画像が乱れた」何度も早戻し再生を繰り返すプロデューサー。「他のカメラにもはっきり映ってる。解析すれば立体処理で形態も判明する。凄いぞ。馬鹿相手の胡散臭い心霊番組には辟易してたんだが、此の映像があればガチで不可解現象を検証する報道番組が遣れる」ガチャガチャと必要を越えて興奮を表現するボタン操作。「CGとか合成とかインチキなのが分かってるのに其れっぽく曖昧に煽ってた自分にサヨナラだ。此れからは池上彰先生とかオリラジ中田のあっちゃんと並んで、事実科学に基づき誰に恥じる事の無い番組を胸張って作るのだ」血...◙知諌誇戸其の捨◙
「ほら見て。何も無い壁に突然に爪痕」無量塔(むらた)の唾がモニターに飛ぶ。「逆に、肉眼では見えなかったのに蜃気楼みたいな何かが動いてる」モニターの唾を指で拭きながら指摘。「此処も注目。未来ちゃんとカメラの間を何かが通って画像が乱れた」何度も早戻し再生を繰り返すプロデューサー。「他のカメラにもはっきり映ってる。解析すれば立体処理で形態も判明する。凄いぞ。馬鹿相手の胡散臭い心霊番組には辟易してたんだが、此の映像があればガチで不可解現象を検証する報道番組が遣れる」ガチャガチャと必要を越えて興奮を表現するボタン操作。「CGとか合成とかインチキなのが分かってるのに其れっぽく曖昧に煽ってた自分にサヨナラだ。此れからは池上彰先生とかオリラジ中田のあっちゃんと並んで、事実科学に基づき誰に恥じる事の無い番組を胸張って作るのだ」血...◙知諌誇戸其の捨◙
「話長(なげ)ぇし意味分かんねぇし」七海が知諌誇戸の話を遮った。「霊障が再発したのってアンタが来てから急にだし、なんなら前より激しいし」見えない何かが七海達を中心に円を描き彷徨っている。時折、生臭い息を吹き掛けながら。「出来るものならやってますよ。出来ないレベルのやばたんだから、正直に打ち明けてるんです」野太い吐息が、見えない何かの図体(ずうたい)の大きさを想像させる。「逆切れすんなし。インチキせいばつしの癖に。アンタが変的厘(へんてこりん)な恰好で家ん中歩き回ったから、幽霊が面白がって寄って来たんじゃないの?アンタが軽尺酷零(ちんちくりん)な呪文唱えたから幽霊がイラついたんじゃないの?アンタが妙竹林(みょうちくりん)な石翳すから幽霊がそんなの効かねえよって暴れてるんじゃないの?」四方に怯え八方を警戒する未来も...◙知諌誇戸其の玖◙
「だから私は、やばたにえんを避けて来ました。見つけたら踵を返し襲われない様に距離を保って来ました。しかし或る時、やばたんの行動にあるパターンを発見したんです。非捕食者を襲う時以外は、目的地がある事に気付いたんです」三人の周囲を彷徨(うろつ)く、人でないモノの気配。その動きには質量があり、気の所為ではない。「何処を目指しているんだろう。巣でもあるのだろうか。危うきに近付くは愚か者のする事。しかし私は、人を襲わないやばたんの一匹を追跡してしまった。逃げるばかりでなく攻撃できる弱点でもあれば、怯えて暮らさずとも良くなるから」時折荒くなる息遣いに、生臭い風が頬を撫でる。風上に振り向くも姿は見えず、石を翳すと慌てて遠退く。「やばたにえんが惹かれて集う其の場所は一箇所ではありませんでした。日本各所に点在するやばたん誘引聖地...◙知諌誇戸其の捌◙
「ね?」掌を叩き煤を払う。「ね?じゃねーし。其の、御萩みたいなのって、生きてたの?死んだの?何所から出したのよ」家が未だ揺れていた。「出したんじゃなくて、捕らえたんですよ。元々貴方の家に巣食ってたやばたにえんのひとつです。小さいのなら傾注で斃せるって処を見せたんです」蜻蛉(とんぼ)を採る要領でそっと手を伸ばし摘まんだ指先で、今度はピザSサイズの黒い粘土が鱏((えい)か鮃(ひらめ)の様にびったんびったん暴れた。「ふう。やばかった。貴方方、今までよく無事だったね。此れは本家でないと手に負えないわ」先程翳した白い石を粘土に押し付けると、お手玉同様に黒煙を噴き出しながら藻掻(もが)き苦しみ炭となり砕けて散った。「本家って?小父さんは分家なの?てか詐欺?役に立たない人なの?」未来を押し退け七海が迫る。「んまあ、子供って残...◙知諌誇戸其の柒◙
床を壁を天井を、あらゆる所を叩く音で家が揺れる。「本物でも偽物でも何でも良いから兎に角早くやっつけて。その為に来たんでしょアンタ」頭を抱えて蹲り金切り声で叫ぶ未来。「けいちゅうしろ。もっと一生懸命けいちゅうってのをしろっての。でないとウチ等死ぬ」座布団を甲羅にして部屋の隅で丸くなる七海。振動で散らばるポッキーを追って走り回る結衣。「無理無理。ちっさいのなら此の石で退治できるけど大おっきいのは無理。此処を出ましょう殺される前に」家全体が軋む中、音の移動に合わせて石を盾に後退し続けた知諌誇戸は、縁側から裸足で庭に転げ落ちた。「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」人ではない何かが叫びながら庭に出る。知諌誇戸は未来と七海を後ろに庇いながら、悲鳴に向けて石を翳し日向へと避難した。...◙知諌誇戸其の陸◙
「見えない私は目で捜すことは出来ない。でも音で判る。居るか居ないか。居るなら何処か。其処に居るのが何者なのか」掻く音は叩く音になり足音になり台所を出た。知諌誇戸は姉妹を背に庇い、廊下を後退。「もし私の目が見えていたら視覚に頼り正に文字通り見過ごしていたでしょう。しかし私は清祓司(せいばつし)。私の目に掛かれば。いや、耳に掛かれば」袴に烏帽子法衣(えぼしほうえ)を纏っていれば説得力もあっただろうが、今の知諌誇戸は肌着股引(ももひき)で汗だくの親父。「あれっ?なんだ?違う!危ないぞ!下がって!傾注!傾注!」まっすぐ向かって来た足音が知諌誇戸達の目の前で足踏み。「駄目だ。此れは危険だ。思ってたのと大分違う。追い返すで精一杯だ。私の手には負えない奴だ」黒板を爪で曳く様な不快な音が笑い声のように響き渡り、圧されて知諌誇戸...◙知諌誇戸其の伍◙
「聞こえますか?此の小さい打撃音が。拍指(かしわし)と名付けました。親指で張力を掛けた中指を掌に打ち付ける指パッチンとは違い、親指と人差し指で拍手(はくしゅ)をイメージして鳴らします。開手(ひらて)の様に掌に空間を設けて反響させられないので、音は指の接触のみ。繊細で極小な微音です。私は此の柏指が、どれ位の時間で返ってくるのか、どんな音になって返ってくるのかを聴き分け、周りに誰が居るのか、何があるのか、其れはどれ位の距離にありどれ位の大きさなのか、目で見るよりも判る様になったんです」手を伸ばし索敵するように柏指を打ち、歩き回る。「私は弱視故(ゆえ)に特殊な能力を2つ、手にいれました。1つは、今見せた反射音で物の存在を知る能力で此れは訓練の賜物です。が、もう1つの特殊能力は」ゆっくりキッチンへ入って行く。「判ります...◙知諌誇戸其の肆◙
「なんか嫌(や)だ。なんか解んないけど物凄く嫌だ。俺も大概チャラい奴相手にしてきたけど、何々(なんなん)だろ此の無限に湧いてくる不快感?後に何(なん)も残る気がしない不毛感?キャラで煙(けむ)に巻いて、嘘混ぜ込んだ屁理屈で誤魔化そうとしてるっぽさ?何か知らんが兎に角嫌い」駄々子(だだこ)の様に喚き散らす無量塔(むらた)だが、見てる皆も思う事は一緒だった。子供の様な老婆に市販の塩を高値で買わされた後だけに、余計胡散臭く見えたのだろう。アウェイな空気が色濃く舞う。「お気遣いなくお構いなく。何時もの事なので慣れてますんで」知諌誇戸(ちいさこべ)は、先程まで恭(うやうや)しく翳していた扇で汗を飛ばし、懐からミッフィーの刺繍の入った今治フェイスタオルを出して額を拭った。「気にしてませんって言ったらウソになりますけど。あっ...◙知諌誇戸其の参◙
「参ろうぞ。感(いざ)災厄(さいやく)渦巻く穢(けが)れの巣へ」癇に障る高音で捲し立てながら指を鳴らし拍子を取り、局の人間を掻き分け機材を跨ぎずんずん進む。「居(お)ろう居(お)ろう。災い起こす厄共、吹き溜まりて感候(いざそうろう)」リビングを抜け縁側を廻りダイニングからキッチンに辿り着く。「程(ほど)な穢れの厄を数見付けし。あ、ひい、ふう、みい」ステンレスの流し台を扇で叩きながら何かを数える。「よぉ、いつ、むぅ、と。あい判り申した。あっあっあっ。あ此れ笑い声ですので御心配無く」大きな振りで扇を閉じ、此れまでの芝居掛かった摺り足と打って変わった親父臭い足取りでどたどたとリビングに戻る。「いやあ胡散臭いと思ったでしょ。良いんですよ隠しても判るそう思ってる顏してるから。顏は正直だ。まあ、こんな恰好であんな声あげてり...◙知諌誇戸其の弐◙
尻尾を巻いて退散した有限会社カゴシマン消霊と入れ違いに、浄衣(じょうえ)姿の男が朝陽(あさひ)を背に負い正門に立ち開(はだ)かった。ボリュームを最大にしたスマホから出囃子として神楽歌(かぐらうた)を流し、勿体ぶった足取りで玄関を目指すキャラの濃い男。「善よき哉かな。善よき哉かな」蚊も落ちんばかりの不可聴音ギリギリの高音を発しながら許可も得ずにずんすん敷地に侵入してくる。濃(こ)き袴に立烏帽子(たてえぼし)、壊色(えしき)とされる不浄の鈍色に染め上げられた無紋の法衣(ほうえ)を纏い、白塗りの面(つら)に剃った眉を薄墨で擦(なぞ)った引眉、紅(べに)を注(さ)した唇(くち)から覗く歯は鉄漿水(おはぐろみず)で染められぬらぬらと黒く光っていた。広げた形が其れに見える蝙蝠(こうもり)扇を勢い良く広げ、墨で認められた霊験...🔲姉妹仲違其の捌🔲
「御神(みかん)ちゃん、如何(どう)いう事なの此の数値」最年長の法人代表が、丸まる虫に夢中な最年少に問う。勿論答えが返って来る事は無い。一度は興味を失ったダンゴムシだが、逃げ惑う様が幼女の琴線に触れる。四方に散るダンゴムシの再度捕獲に奔走する結衣と衣斐女。「此れは、ご依頼頂いたご家庭には漏れなくお配りさせて頂いている、次回すぐ利用できるクーポン券であります。今回お役に立てなかったのにお渡しするのは心苦しいのですが、もしまた霊的障害が起きました際には、割引させて頂きますのでご笑納ください」がっくり肩を落とし籠氏万は、クーポン券を入れたくしゃくしゃの封筒をテーブルに置くと、重い足取りで機材を引き摺り帰っていった。握り拳を震わせ見送るプロデューサー。「っだぁぁぁぁ!」カゴシマン消霊が片付け忘れて行った機材を乱暴に蹴り...🔲姉妹仲違其の柒🔲
空気を読めない籠氏万は、不機嫌なテレビクルーに気付くことなく台所に入り、上機嫌でセンサーが作動するかをチェックした。手を翳すとモニターには正常に異常を関知した知らせとしての反応を映し出した。しかし昨夜の結果を再生すると、瞬きすら憚ってモニターを見詰めるも波形は微動だにせず、グラフは早回ししても逆再生してもまるで其れは静止画像。「おかしいですねぇ。昨日は確かにお台所に反応があったんでありますが」嫌な汗を拭きながら機材を叩いたり揺すったりして再起動を試みる有限会社カゴシマン消霊の社長。昭和のテレビ調整のノリである。が、特に不具合は見つからない。「行程としましては、本日は、確認出来た侵入口や移動経路に最適な罠を仕掛けて障害を捕縛し、翌朝、霊障の消沈を確認した後、報奨金額の交渉する予定だったのでありますが」行程も予定も...🔲姉妹仲違其の陸🔲
夏休みの自由研究レベルのセンサーを、鼻歌を唄い乍ら設置していく月見里。止まらない籠氏万の解説。何となく全員で聴き始めた為、何となく席を立ち辛い面々。カットが掛からないので撮り続けているカメラマン。カメラが止まらないので付き合っている音声。編集すれば良かろうと回しっぱを指示した手前、其の場を離れられないプロデューサー。偶々(たまたま)一番前に正座してしまったので立ち上がれない百鬼長姉次姉。皆の後ろに付いて廻っていた結衣は最後列に居た為、難を逃れた。早い段階で会場を離れ、縁側に戻って衣斐女とポッキーの残りを賞味する。抑々(そもそも)衣斐女は説明を受ける必要がなかった。行く先々で同じ文言を講じる籠氏万蔓を見て来たのだろう。二人、縁側から降りて床下を覗き、ダンゴムシを捕まえて遊ぶ。食べ尽くしたポッキーの空き箱はすぐダン...🔲姉妹仲違其の伍🔲
「何故、此の様な吐露をするのか。其れは、我々が決してインチキゴーストバスターズなどではないことを先ず布告したかったからであります。既に知らされている消息を手翳しで読み取った振りをしたり、事前に調べた情報をアクリル球を覗いて見えた見えたと騒いだりする詐欺業者や如何様師ではない、と言うことを宣誓したかったのであります。我々は、社会通念上妥当とされる対価で、科学では未だ解明されていない不可思議的被災を沈静いたします。当然に料金が発生しますが、必ず納得いただける請求であることを自負しております」針金の先端がキッチンに向いた瞬間、吾主莉の抱えた機械が耳障りな警告音を鳴り響かせた。「はい早速出ました此れは必然です知っているから反応したのではありません。貴方のお家の不可思議的災害の発生源がお台所であると言う揺るぎない事実を、...🔲姉妹仲違其の肆🔲
翌朝一番。定数を決めずに募集を掛けたうちの二組目が到着。一組目は呼んでないのに来た招かれざる人だったが。「どぉもどぉも。いやぁ遠かった遠かった。バス停からお宅までが未舗装路で20分なら先に言っといてくださいよぉ。砂利道でカートのタイヤ、みぃんな逝かれちゃったであります」密度が濃く一本一本も太く黒々と茂る幅広眉毛に、剃ったばかりなのに既に青田の様な口周り、髪も腕もマジックテープの様な剛毛に覆われた低姿勢の小男を筆頭に、鰯の群れの様に皆同じ動作で作業する、薄汚い白衣に身を包んだ栄養が足りて無さそうな社員達。に混じって、何故か独り小さな女の子。大きさが揃わないジュラルミンやポリカーボネートのケースを縛ったハンディカートやスマートキャリィを引き摺っての登場。「さぁさテキパキ動いてくださいよぉ。鈴子(りんご)くんはセンサ...🔲姉妹仲違其の参🔲
「まあ。確かに。言われてみれば。霊の存在は。否定はしませんでした。ね」アイコスをガシガシ噛みながらプロデューサーは忙しなく歩き回った。「しかも、行成(いきな)り報酬を請求して来るパターンは初めてですよ。抑(そもそ)も現金を要求されたは事が今まで無かった。もしかしたら今回は本当に心霊を認めたのかも。まさか金に困っての迎合とか?そうか成り済ましの詐欺って可能性もありますか。何れにしても番組的には盛り上がりますね」興奮を隠せず手にした台本で意味なくあちこち叩いて歩く。「盛り上がるのは其方(そちら)の勝手ですけど、霊障を解消するって約束は、忘れないで・く・だ・さ・い・ね?」次女は丸めた台本を奪いプロデューサーの頭をポコポコ叩いた。「勿論ですよ。オシロさんがパチモンだったとしても其れは飽くまで余興です。後半必ず科学的に解...🔲姉妹仲違其の弐🔲
「うわぁ。10万詐欺(さぎ)られた。てかお姉ちゃん、なんで払うの?てかお姉ちゃん、アレ誰?」次女は平倒(へた)り込み肩を落とした。「ママ入院してパパ居なくなって、お金は幾らあっても足りないから、少しでも足しになるならって密着取材オーケーしたのに」落ちて来るのが牡丹餅なら受け留められる規模の大口を開けて泣面(べそ)掻く。「まあまあまあまあ落ち着いて。アレの襲撃は想定内です」一番取り乱していた肩掛けカーディガンのプロデューサーが執成(とりな)す。「おい誰かコーヒー。今からちゃんと説明しますから、ね」招かれざるオシロの来訪に、段取りが狂ったスタッフ達は右往左往するだけの烏合の衆。「アレはオシロさんと言って、2年程前に降って涌いた此の業界じゃ有名な迷惑一家なんですよ」カーディガン男は、アイコスを口に咥え眉を顰めた。「一...🔲姉妹仲違其の壱🔲
「霊が出るから来たんでしょ。此れまでのは、貴方達(あんたたち)がトリックやフェイクって解った上で霊だ超常だって騙してるからお灸据えたのよ。其れと結衣(ゆい)ちゃん、私は巫女(みこ)じゃなくてまこ(馬娘)。だから結衣ちゃんとはちょっと違うのよ」オシロと呼ばれた老女は、結衣に手を預けてスニーカーを脱いだ。「さ、案内して、お台所よ。お台所に案内してちょーだい。禍(わざわい)が澱(よど)むのは何時も水回りだから」結衣は、広い三和土(たたき)に脱ぎ捨てられた靴々を蹴り散らかし、オシロのスニーカーだけを丁寧に揃えた。南向きの玄関から北側の台所まで貫通する廊下は、暗く機材でごった返している。九尺四枚建(きゅうしゃくよんまいだて)の玄関引き戸を左右に開け放ち、その正面を狙ったモーション検知カメラが鎮座。廊下にもポールが立てられ...🔶白様襲来其の弐🔶
「あれ?あれって、結衣(ゆい)じゃなくね?片っぽあれ結衣だよ。結衣テメ今日テレビ来るから達(だち)連れて来んなって言っといたべ」長女は掌(てのひら)で日差しを遮りながら、近付く二人の素性に目を凝らした。「うわわわ。オシロさん来た。今度はお婆ちゃんのオシロさん来た」此処で初めてベースボールキャップに肩掛けカーディガンの男が口を開いた。「え?誰?お婆ちゃん?結衣の同級生と違うの?」次女は口からポッキーを落とし、裸足で三和土(たたき)に駆け降りる。「お今日(こーんにち)わ。来てあげたわよ」結衣と手を繋いで現れたのは、背格好は結衣と同じ小学一年生だが見た目年齢は九十超えた老女だった。「あ~居るわね禍膠(こび)り着いてるわよ此の家には。良かったわね蔓延)(はびこ)る前に私に会えて。蔓延(まんえん)してからだったら一千万円...🔶白様襲来其の壱🔶
「プリベル知らんの?プリンスオブペルシャの略だし。タミーナ王女だし。アンタ去年ハロウィンでやってたし」盆地の集落は四方を囲む山々に阻まれ、夜が明けるのは遅く日が暮れるのは早い。「あれってペルシャの民族衣装なん?知らんで着てたわ。ちょっとエロいからモテるかなーってノリで」最寄りの駅までバスで半時間、家からバス停までも都会ならタクシーを呼ぶ距離。其のバスも一時間に一本で日に五本、台風の季節は鉄砲水が道路を横切るので数日運休。「知っとけし。てかアレ、アタシが貰ったし。なんならアタシもう着てるし」等高線に添って山を一周する国道に貼り付く人家は、お隣さんでも味噌汁が冷める距離。「女装家も酷かったけど、霊能者でーすって入って来た、アンガールズの田中じゃない方に似てた奴とかも、酷かったねー。幽霊退治に来たのに幽霊見えたって大...▣姉妹登壇其の弐▣
「バラエティードキュメント?ドキュバラ引っ繰り返しただけで、やらせ問題はスルーってか」長女はポッキーを一本咥え、寄り目で枝毛をチェックした。「ライスカレーとカレーライスくらいしか違わんし」お通じが悪くなったのは上司が無能だからだと辞表を叩きつけ、返す刀で家事を分担しない同棲相手から合鍵を毟(むし)り取ったものの、折半していた家賃光熱費の全額負担がキツくなり実家に帰巣し居座った暴れ馬の姉。「さあ、どーだろ。意外とウ〇コ味のカレーとカレー味のウ〇コくらい違うかもよ?」次女は上り框(かまち)を踵で蹴りながら長女のポッキーに手を伸ばした。「どっちか食べなかったら殺すって言われたら、やっぱカレーかな。ウ〇コ味っても、ウ〇コ食ったことないから知らんし」染髪不問という校則に惹かれて受験した高校がメイク禁止であることを入学式で...▣姉妹罹災其の壱▣
ポニーテールの項を見送りながら、二人は股間を押え前屈んだ。「堪んねえなあ、おい。漂うフ、フ、フエロモンが、ピンク色に漂うとる」「なあなあ。キャバクラ奢ってくんなましょい。余計な事あ喋んねがらよお」店員は配られていた割引チケットを振り翳して戻ってきた。「はい此れチケット。此れで10%引きになりますからね。なあに?やらしい顏。もしかして此の後そういうお店行く話、してたんですか?エッチ」もう完全に掌で転がされてる二人のデレデレは止まらない。「姉ちゃん仕事終わんの何時よ?」「寿司食いたくねが?寿司。奢るし」此の間違った距離の詰め方がモテない原因に他ならない。「残念でした私カレシ居まあす。3名様お帰りでえす」軽く遇われレジへと誘導。足腰立たない村民は摑まり立ちでよろめきながら店外へ。「お客さん達って。ご出身、何方(どちら...❏村人陳情其の肆❏
ポニーテールの項を見送りながら、二人は股間を押え前屈んだ。「堪んねえなあ、おい。漂うフ、フ、フエロモンが、ピンク色に漂うとる」「なあなあ。キャバクラ奢ってくんなましょい。余計な事(あ)喋んねけよ」店員は配られていた割引チケットを振り翳して戻ってきた。「はい此れチケット。此れで10%引きになりますからね。なあに?やらしい顏。もしかして此の後そういうお店行く話、してたんですか?エッチ」もう完全に掌で転がされてる二人のデレデレは止まらない。「姉ちゃん仕事終わんの何時よ?」「寿司食いたくねが?寿司。奢るし」此の間違った距離の詰め方がモテない原因に他ならない。「残念でした私カレシ居まあす。3名様お帰りでえす」軽く遇われレジへと誘導。足腰立たない村民は摑まり立ちでよろめきながら店外へ。「お客さん達って。ご出身、何方(どちら...❏村人陳情其の肆❏
十二時を過ぎた大衆酒場は、平日という事もあってだろう席に客は疎らだった。「金、金は有るんかの?巫女買わせるにも金は有るんかの?」「高麗塚偉(こまつかい)は銭持っとるぞな。嫁いだ娘が送ってきた写真に、グランドピアノが写っとったに」身を乗り出して目を剥く村民2人。「高麗塚偉なら有るじゃろの。あそこはチヨダのお膝元じゃけ」刃丈太は遠くの席の空き皿を片付ける店員の生脚を眺めて目を細めた。「此(こ)ん話(はなしゃ)あ、三人だけの秘密ぞ?守れや?なんせ人身売買じゃげの。しかもチヨダに盾突く事になっかも、だ」酔いが回った刃丈太が、村民2人の首を掴み引き寄せた。「得た銭(じぇじぇ)こは、誰の情報が役に立っだとしても、平等に三等分にす」二人は箸で醤油皿を小さく叩いた。「先(まんず)ば乾杯じゃ。緘口の誓いと分配の契りぞ」「観光が近...❏村人陳情其の参❏
「時によ、あのチビは今何処に居(お)るんかの」何時の間にやら炒飯と焼きそばとお好み焼きは、隅に押し遣られ冷めていた。「誰(た)ぞ?チビて」耳に全神経を集中させながら刃(は)丈(たけ)太(だ)は外方(そっぽ)を向いて素っ呆けた。「白(しら)切んなや。百鬼(なきり)の夫婦の仇ば討った、あの細(こんま)いのことばい」「隠しても無駄すて。アレを殲滅したんが一花だって事(こた)あ、村人なら皆(みんんんな)知っとおと」二人は品書きから目を離さない。「さあ。そうだったかの。一花が倒れとったが御柱(みはしら)の傍じゃったけ、そんな噂が立ったんじゃなかろうも」焼き鳥を手に取り口に運ばず弄ぶ刃丈太。「そおゆう惚(とぼ)けは良(え)えて。あのチビの行方が一山になるちゅう話ば持って来たんじゃけ、知っとおなら勿体振らんとさっさと言いやあ...❏村人陳情其の弐❏
廃村になってから1年が過ぎた頃。不満を溜め吐け口を求めて元村人が二人、無心と謀議を持ち掛けに刃丈太(はたけだ)邸を訪れた。村を出た者達は、襲われる心配こそ無くなったが、外界の価値観に翻弄される生活に疲弊していた。労働党の独裁により経済が崩壊した分断国家から亡命した難民の様に、主義の異なる社会に馴染めず苦しむ。読み書きが出来ない男衆(おとこし)は履歴書が書けず日雇い土方を抜けられない。電卓に触れた事も無い者にレジなど打てる筈もなく派遣に登録しても求人は無い。容姿に自信があっても人心掌握の話術に疎い娘子(むすめご)の接客業は続かない。其々が得意としたり興味があった職種に就いてはみたが、勤しんだ経験の無い御国者が暮らしていける程に稼げる訳もなく、結局は一般では耳にすることはない『慰労恩賞』だけが頼りの生活。しかし其の...◪村人陳情其の壱◪
<divstyle="text-align:left"><spanstyle="color:black;"><spanstyle="font-size:16px;">「犠牲が出た今なら」刃丈太(はたけだ)は徳利を乱暴に振り、残った酒を猪口(ちょこ)に注ぎ切った。「しかも二人で、内一人が巫女で、も一人も馬な今なら。流石のチヨダも首を縦に振らざるえんじゃろ」猪口に滴る徳利の酒が表面張力で盛り上がる。「してもよ。もう何代も働いた事さ無(ね)ぇ俺等がよ、町さ降ってもやってけるもんかの」「刃丈太さん処とこだばさあ、息子さが町の役場で働いでっがら馴染みも早かろけども」「俺なんざ五画以上の漢字、読めねし書けねだど?何の仕事が務まるだが」「そら私(わ)も一緒さ。掛け算九九、三の段以上は言えねす。誰が雇うね此んなんを」愚図る村民...☒寿樹通夜其の弐☒
「だーかーらー儂(わしゃあ)ずっと言うてきたがじゃ」既に酒が廻り赤ら顔で目の座った刃丈太刃丈太(はたけだ)は、飲み干した猪口を卓袱台に叩きつけた。「止めれ。通夜の席でする話では無(ね)」皆が目を合わせるのを避けて俯く中、遠くの席から誰かが諫める。夫婦揃って虚血性心疾患で急死した、寿樹(よしき)の両親の通夜振舞いの席。「じゃあ何時(いつ)、議(ぎ)するが?儂は誰ぞ亡くなる度に進言して来ただに。全員殺されてからじゃ、議も出来んのじゃい」翌日に葬儀を控える喪主は親族ではない隣家の刃丈太。寿樹の親族は亡くなった両親だけだった。「今度こそ限界だがじゃ。百鬼(なきり)ん家(ち)が夫婦で獲られたで、もう巫女の現役は三人揃わんし馬も全滅。寿樹が娶れる歳までは待てねし、物集女(もずめ)ん処のちっこい娘(のん)も、判別付くのは1年...☒寿樹通夜其の壱☒
蜘蛛は圧されながら顏を一花に向けた。十六の眼に一花が映る。山の入り口で赤土道(あかつちみち)を外れ、一花は薄原(すすきはら)の中へと分け入った。行く手を阻む笹竹を掃いながら、一花は蜘蛛を押し続けた。陽が暮れかけた秋の山間。裸足の脚や手や顔に葉の縁の鋸歯(きょし)が当たり、肌に赤く血が滲む。其れでも一花は押し続けた。押すを止めたら蜘蛛が報復に出るだろうから。休む事は許されなかった。「徐々(そろそろ)案配(あんばい)かな。どら、御前を戴く事とするよ。太陽日(たいようじつ)の内に巫女を二人も喰らえるとは、口福(こうふく)極まれり」蜘蛛は八本の脚を振り上げると地に刺し踏み留まる。更なる抵抗に小さな女の子の気力は尽き、張り詰めた緊張の糸がぷつりと切れた。「三柱(みはしら)揃わずとも気迫で討てると奢ったか。刀など添え物に過...❖一花遭遇其の参❖
無量の蜘蛛は、斬っても突いても弱る気配は一向に無かった。其れでも諦めず石刀を軛(くびき)に持ち替え満身の力を込める一花(いちか)。しかし肘まで埋まる程に減り込ませても、払う事は疎(おろ)か両親から引き離す事すら叶わない。咬まれた二人の手足は力無く下がり、首も有らぬ方向に折れている。もう限界だ。一花の髪が逆立ち靡(なび)く。「出てって。よっちゃん家(ち)から。出てってって」自棄(やけ)となり自暴(じぼう)を起こした一花は石刀を捨て、蜘蛛を素手で押し始めた。六畳間を狭しと占拠する魁偉(かいい)な蜘蛛に、未就学児が紅葉の様な掌(てのひら)で挑む。すると。人より大きい節足動物を前に竦まず立ち向かい、内蔵噴き出す腹部に触れてでも排除しようという小さな女の子が奇跡を起こした。身の丈十二尺(じゅうにしゃく)を超す蜘蛛は自然界...❖一花遭遇其の弐❖
2020年11月
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