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電気蚯蚓は宇宙を夢見る http://denkimimizu.seesaa.net/

『電気蚯蚓は宇宙を夢見る』は、村松恒平責任編集のブログ文芸誌です。

面白い小説が読みたい人、小説家になりたい人、エッセイや文章が書きたい人、プロの編集者に編集してもらいたい人。 そういう人々のための必殺ブログ雑誌。

文章ゼミX案内係
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2009/03/08

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  • 世紀末の女王(マザー) 第六話

    世紀末の女王(マザー) 第六話

    泰司は岩に腰を下ろし、見るとも無く縦穴を見下ろしていた。 縦穴へは大洞窟内の空気が吹き込み、医療軍の制帽からわずかに出ていた前髪を なびかせている。 また、大洞窟のひび割れた天井からは、弱い光が線となって泰司の近くに 差し込んでいた。 それは、まるで泰司を空間ごと切り取り時間の流れを止めてしまったかのようで、 泰司の想いは過去に向かっている。 スローモーションで三名の少年が穴の中を転落していく…

  • バイト明けの朝、次の日の夕暮れ

    バイト明けの朝、次の日の夕暮れ

    1. 缶は広い部屋の天井付近から次々と現れ、壁沿いに這ったレールをループして作業台まで落ちてきて溜まる。彼は作業台に立ち、溜まった缶を段ボール箱に詰め続けている。 彼は思う。缶の流れ落ちる音はこの広い部屋にさぞ騒々しく響いていることだろう。と、しかし彼には聞こえない。強力な耳栓が音を完璧に遮断している。 この広い部屋には彼の立っている作業台の他4台の作業台があり、その内2台は昼間しか使用…

  • 少年少女 Got Short Dance

    少年少女 Got Short Dance

    【5】[キョウ - 世界の向こうで混ざって溶けろ - ] 「飛びそうだった?」 暗くなった街を野音のある美鷹駅へと向かう快速の、シートの端に沈むヒメはそっと言った。 「飛びたそうだった。てか落ちそうだったよ、ヒメ揺れてた」 ヒメの横でスティールパイプに凭れて立っている僕は、街の灯が流れていく反対側の窓に浮かぶヒメに答えた。 「幽霊って寂しいね。私、強い方だと思ってたの。小さい頃…

  • 夜の屋上に佇んで

    夜の屋上に佇んで

    屋上は静かだった。空には分厚く雲が重なり合い、月の光を微塵も下には零さない。マンション下の駐車場で整列した十数台の自動車。駐車場を挟んだ正面の高い木立。繁った木々の葉。その向こうに住宅街が続く。彼は耳を澄ます。すると一面に、虫の鳴き声が溢れだした。 四階建て分譲マンション。3LDKの部屋。妻と娘、そして彼。それなりの仕事とそれなりの人間関係。 バス停まで数分歩き、バスで駅まで10分足らず。…

  • ある夜とそこにある隙間

    ある夜とそこにある隙間

    砂利敷きの私道に車を乗り入れると、傾ききった陽の中で砂埃が膨れ上がった。この時間、アパートの駐車場にはまだ彼女の車の他車はない。彼女はエンジンを切るとハンドルに両手を置いて、一回大きく息を吐いた。車内を満たし始めた薄闇が僅かに震る。彼女はもう一度短く息を吐くと、助手席に置いたスーパーの袋とバッグを取り車を出た。 部屋の前でご近所の主婦とすれ違う。軽く会釈だけして、部屋の鍵を明ける。部屋の中か…

  • 浮世絵と少年(2)

    浮世絵と少年(2)

    便器のパイプの奥から極彩色の紙のかたまりが出てきた。修理業者がひとつひとつ拡げていくと、それは14枚あった。そのすべてが和紙に画かれた浮世絵春画だった。 「見て下さい。これがパイプ詰まりの原因ですよ。いまどき珍しいですね」 業者は何が起きているのかわかっていた。丹念に眺め、つぶやいた。 「こんな立派な絵を見ながらオナニーしたら最高だよなぁ」 百合子が春画を見ていると、なぜか春画の画面に…

  • 妄想だけは電車の中ですくすく育つ 駆込み乗車 その3

    妄想だけは電車の中ですくすく育つ 駆込み乗車 その3

    ご存知の様に美佐子さんは新婚六ヶ月だ。新妻だ。その日は、朝から誕生日の料理を作っていた。白いエプロンにミニスカートが良く似合っていて、すらりと伸びた足がとてもまぶしい。 メイン料理は鶏の丸焼きだ。チャングムがテレビで作っていたもので、鳥のお腹に朝鮮人参やしいたけ、銀杏、香辛料といったものを詰め込んで、竈の土でまわりを固めて焼くと言う手の込んだ料理なのだ。レンガの様に固くなった周りをコンコンと…

  • 少年少女 Got Short Dance

    少年少女 Got Short Dance

    【4】[ドクタII -叫び、リミッター解除- ] 痛みに堪えながら立ち上がると、財布が浮かんでいました。 「ドクタのでしょ、これ」 履き込まれた黒いドクターマーチン10ホール、両膝を結ぶベルトが長く垂れている赤いチェックのボンデージパンツ、赤糸でThree Step To Heavenと刺繍された継ぎ接ぎデザインの白いガーゼシャツを着た赤毛君が、鼻血を流して呻く黄色の顔を踏みながら財布を振っています。 …

  • 浮世絵と少年(1)

    浮世絵と少年(1)

    中部国際空港の近く、海岸に沿って南国風のエキゾチックな建物があった。看板は「医療法人愛仁会 千鳥ホーム」とあり、老人ホームであった。 その屋上で、理事長の華子が海を眺めて佇んでいた。華子は精神神経科の専門医だが実際の診療はタッチしていない。 千鳥ホーム内に診療所はなく、応急の時は母校の後輩が嘱託医として対処していた。夫の誠も徳川時代から御典医の家系で、親から引き継いだ医院を開業している。し…

  • 世紀末の女王(マザー) 第五話

    世紀末の女王(マザー) 第五話

    足を踏み込むたびに石くれは動き、砂岩質の石が砕ける。足に蹴られた砂利が体と共に斜面を落ちて行く。強靭な細い脚は、そんな中でも上体をしっかり支え、力強く移動を続ける。 ��クソッ�≠、めき声が思わず、山田博之の口から出る。 祖父を諦められぬ気持ちが博之を発射台に向かわせ、式典会場に忍び込ませた。既に参列者は去り、閑散とした中で、焼け落ちた家の片付けがされていた。博之は気づかれぬように近づいていった。…

  • 私の×造(チョメゾウ) 「悪童!メンゴ!」

    私の×造(チョメゾウ) 「悪童!メンゴ!」

    6年生になると、×造は忽然と姿を消した。 一人っ子の×造は団地の同じ棟にいた。小さい頃、近くの公園には、いつも黒眼鏡の×造の「父ちゃん」が一緒で、顔が恐かったけど、俺も色々買ってもらったり、一緒に遊んで貰っていた。 4年生頃からからだろうか、その「父ちゃん」を見かけなくなり、×造の雰囲気も変わってしまった。 目つきが暗く、服装はだらしなく、顔や腕に小さい傷が増え、肌が黒くなった。 実はもともと母…

  • 妄想だけは電車の中ですくすく育つ 駆込み乗車 その2

    妄想だけは電車の中ですくすく育つ 駆込み乗車 その2

    田中洋一君は新婚であった。新婚と言っても6ヶ月を過ぎようとしているのだからアツアツと言うには微妙な時期である。午前様でも堂々と手ぶらで帰るけど、休みの日には、手を握りながらお散歩をすると言うくらいの関係である。 その日は、重要な会議がお客さんのオフィスであるというのに妙に間が悪くて、会社を出ようとすると部長に捕まり、バスはギリギリで乗り遅れ、電車は信号故障に引っかかってしまった。そんなこん…

  • ジブラルタルの霧 2

    ジブラルタルの霧 2

    やっと来たバスの中で、野村は彼と並んで一番前の席に座った。フロントガラスから見えるジブラルダルの景色が気になった。しかし彼が野村の目を見て真剣な表情で話しかけてくる。こちらもまじめに話を聞かないわけにはいかない。良い英語の勉強にもなると思って、野村は彼の英語に集中して耳をかたむけた。 彼の名前はデイビットと言った。彼の青みがかかったグレイの瞳は、飛行機から見た地中海のようだった。 野村が…

  • 私の×造(チョメゾウ) 「妄執の穴ぼこ石」

    私の×造(チョメゾウ) 「妄執の穴ぼこ石」

    玄関まで庭を横切る黒い敷石のひとつには、石鹸置き程度の窪みがあった。蒸し暑い8月の夕方、少年はその傍らにしゃがみ込んで、こぶし大の石を持ってコツコツと「穴ぼこ石」を打っていた。窪みには、潰された毛虫と虹色に光る体液が澱み、手にした石の先には、毛虫の棘や毛が付着していた。 少年は、額から滴る汗を気にも留めずに、跡形もなく毛虫を潰すとすぐ後ろの柿の木を物色して、毛虫の付いた葉をちぎり、器用に石の窪み…

  • 彼の岸異聞 (6.雑草)

    彼の岸異聞 (6.雑草)

    「あいたた」 左肩の痛みに幸太は体をひねった。さっき腰掛を粉々にした大男が背後から幸太の左肩をつかみ右腕を幸太の首に回して喉を抑えていた。王の兄さんが大男をなだめるように何か言った。大男は土間につばを吐いてしぶしぶと腕を緩めたが、幸太を放しはしなかった。 「私は頌世。弟、頌張が大切なもの持って逃げた。私たちは取り返す。」 「兄さんへの土産じゃと言うとったぞ」 「わたし、兄さん。吉林は兄さんいな…

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