第4章:縁起と“わたし”
帰宅後、ユウキは買ってきたばかりの本――『空と縁起の教え』をゆっくりと開いた。ページをめくるたびに、聞きなれない言葉が並ぶ。だが、「空」と違って、「縁起」という言葉には、どこか温かさのようなものを感じた。しばらく読み進めていると、ふと、こんな一文が目に入った。「一切のものは、独立して存在しない。存在は、縁(つながり)の中でのみ起こる。それが、縁起の教えである。」ユウキは思わず、本から目を上げた。縁起……縁によって起こる。つまり、今ここに自分がいるということも、無数の原因と条件が重なった結果なのだろうか?家族、友人、仕事、出会い、別れ。自分が“自分”だと思っていたものは、そのすべての関係性によって、ようやく成り立っていたものなのか。「じゃあ、“俺”って……どこにあるんだ?」ユウキは思わず、声に出していた。そ...第4章:縁起と“わたし”
2025/05/31 07:20