鴎外の「ヴィタ・セクスアリス」断章
鴎外を動かしこの小説を書かしめたのは情熱でも苦悩でもなく好奇心だ。主人公の金井は科学者さながら自己を振り返り、観察し、記録する。そして作中に描かれる過去の金井もまた性的事象を科学者のように冷徹に見聞し、自ら体験し、記録する。そこがこの作品をユニークにし、また物足りなくもする。鴎外の悠々たる余裕派的態度はその客観的でそれ故に超然たる科学者的姿勢に由来するようだ。 自然科学的観点から人間的事象を記録するのは自然主義と同じだが、鴎外のこの作品は、例えば田山花袋の「蒲団」と同様に性欲を主題としながらも、両者はかなり趣を異にする。何故か。両者の気質・生い立ち・状況にその理由がありそうだ。 十四の頃、主人…
2023/03/24 20:20