72 / 老いの小文
文月の末、河内を立ち、西国街道を西へ。昆陽(伊丹)、大蔵谷(明石)、加古川、正條(たつの)を過ぎ、片山(備前市)から道を北へとって和気の宿にたどりついた。金剛川の堤防から正三角形の和気富士を眺める。この炎天の中、よくぞここまで来たものよと、ようやく旅人の心地がする。汗拭きし旅人見上ぐ和気の富士普段なら岡山に出て倉敷を見物し、備中高松城から津山に向かうのが常ではあるが、それでは興趣がなかろうと、岡山藩の三大河川の一つである吉井川に沿って北上。夕景になって、招きを受けた赤磐郡周匝(すさい)村の旧友の館に着いた。周匝は本来「しゅうそう」と読み〈まわりをとりまく〉の意である。村の周りを山に囲まれているからか、あるいは、吉井川とその支流吉野川の合流点にあることから川に囲まれている意でついた地名であろう。江戸時代には...72/老いの小文
2023/07/31 13:53