読書は意外と難しい. 薄い本ならまだしも,分厚い本ともなるとページを開く前からやる気が削がれてしまうものである. 意を決して読み始めたとしても,しばらくすると自分がどれくらい進んだのか気になってくる.そして本全体の中での自分の位置を確認し,「うわーまだこれだけしか進んでない」と嘆く.そうなるともう読む気にならなくなる. 読書に関して,われわれの多くは「本は読み切らなければならない」という謎の神話に取り憑かれているために以上のような考え方にいたってしまうのかもしれない.つまり,酷い場合には,われわれは本を読むために本を開くのではなく,本を読み終えるために本を開くという倒錯を犯しているのである.
われわれはやるべきこと,やらなければならないことをついつい先延ばしにしてしまう. 多くの場合,それはタスク自体が難しいからでは決してない.やればすぐに終わるとわかっていることでさえ,われわれはそれを先延ばしにしてしまう. 私自身も例に漏れずそういうprocrastinatorの1人なのであるが,意外といい感じの対策があるので今回はそれについてシェアできればと思う. 私自身これをAtomic Habitsという本の中で知った.その一部が次の記事で読めるので,関心のある方はこちらも見ていただきたい.本記事もこれを参考にしている. Atomic Habits: An Easy & Prove
【要約】A Puzzle about Belief, Reference, and Agency (Puzzles of Reference: Ch. 2)
Puzzles of Reference第二章の要約です.第一章の要約はこちら: Puzzles of Reference (Contemporary Introductions to Philosophy of Language) (English Edition) The Puzzle Kripkeの見解は次のようなものであった: 名前の内容(文の意味や文が言っていることに対する名前の寄与)とは,その指示対象に過ぎない.例えば,"Barack Obama"という名前の意味は,Barack Obamaという人物である. しかし,一見するとこの見解はクレイジーなものであるように思われる.という
不意に自分の黒歴史を鮮明に思い出して赤面したり,数少ないマイナスの商品レビューに強い影響を受けたり,人の欠点ばかりが目についたり...誰しも思い当たる節があるだろう.われわれ人間には,物事のマイナスの側面ばかりに気を取られてしまうという傾向が備わっている.心理学者たちはこれをネガティブ・バイアス(negativity/negative bias)と呼んでいる. 本記事では,このネガティブ・バイアスについて,この記事を参考にしながらまとめたいと思う. ネガティブ・バイアスとは何か ネガティブ・バイアスとは,ネガティブな刺激をポジティブなも刺激よりも容易に記憶し,ネガティブな出来事についてクヨクヨ
PlunkettのWhich Concepts Should We Use?: Metalinguistic Negotiations and The Methodology of Philosophyの要約です. Introduction 哲学的探究の大部分は,究極的には,現実の一部をよりよく理解することを目指している.例えば.自由意志が何なのかを知りたい人は,「自由意志」という語の意味ないしはその概念について知りたいのではなく,自由意志というものそれ自体を知りたいのである.つまり,われわれは自由意志を基礎づける(ground)もの,自由意志が何に付随する(supervene)のか,そしてそ
あなたの悪口を言っているのはペッパーくんである:誹謗中傷にどう対処すべきか
ネット上の誹謗中傷は深刻な問題となっている.相手の顔が見えないからであろうか,あるいは自分の顔が相手に見えていないからであろうか,ひとは直接その人を目の前にしているのだとしたら決して言わないようなことをネット上では言ってしまうものである. もちろんそうした人々は糾弾されるべきであるのだが,われわれはそのようにネット上で他人に対して中傷の言葉を投げつける人がいることを事実として認めた上で,そうした心ない罵詈雑言に対処するすべを身につけなければならないのかもしれない. 本記事では,まずわれわれはなぜ誹謗中傷に傷つくのかを見定めた上で,ネット上で他人に悪意のある言葉を投げかけてくる人々との付き合い方
研究の示すところによると,われわれはすべきことを書き記した場合にパフォーマンスが向上するという.そしてこの効果こそ,われわれがTo-Doリストを活用する動機の一つであろう.しかしなぜ,To-Doリストにはそのような効果があるのだろうか. 本記事では,まず,こちらの記事を参考にしてTo-Doリストのご利益について説明した後,別の記事を参考にして,To-Doリストのダークサイドについての説明を行う. To-Doリストの心理学 本節は,To-Doリストに関するいくつかの研究を紹介しつつ,あなたのリストをより効率的なものにするための小さなヒントを提示する. われわれの多くは,タスクを終わらせることに苦
われわれを最も悩ませ,われわれの人生から多くの時間を奪い去ってゆくのは,実際にわれわれに起こる出来事ではなく,その可能性についてのわれわれ自身の考えである.これは人間に宿命づけられた悩みだと言える. エピクテトス曰く: 人間の心を乱すのは事物ではなく,事物についての意見である. また同じくセネカも: われわれを苦しませるものよりも,脅かすものの方が多く,われわれは事物のために悩むよりも,意見のために悩む方が多い. 最後にルソーの言も引いておこう: 私には威嚇の方が攻撃よりも恐ろしい.ことが起こればすぐに事実は想像を打ち消して,それが実際にある通りのものにしてくれる.そのときになってみれば,考え
【要約】Scepticism by Duncan Pritchard
Duncan PritchardのScepticismの一部の要約です. The Closure Principle フランスの首都の名前が 'P'から始まるということを知っているとしよう.このとき,あなたはマドリードがフランスの首都ではないということを知っているのではないだろうか( 'Madrid'は 'P'から始まらないから). この例で言われている事態は,〈もしもある命題を知っていて,その命題が他のある命題を含意することを知っているならば,その第二の命題も知っている〉というものである.これを「知っている」は知られている含意のもとで閉じていると言う. この原理はthe closure pr
ポモドーロ・テクニック(Pomodoro Technique)のすゝめ
時間のマネジメントは人類共通の課題だと言ってもよいであろう.そして,とりわけ在宅ワークが推奨されている今の時代においては時間のマネジメントの持つ重要性はますます大きくなりつつあるように思える. 実際に,多くの人が時間のマネジメントに関して悩みを抱えている.そうした悩みとは,例えば,自宅で勉強をしたり,何らかの作業をしたりするとき,自分が想定していた通りの進捗をうむことができないといったものである.われわれはよく知っている環境ではうまく集中できないようにできているのかもしれない.あるいは同じく時間のマネジメントに関する悩みとしては,試験勉強をしたり,ブログ記事のリサーチをしたりなど,明確なゴール
ポモドーロ・テクニック(Pomodoro Technique)のすゝめ
時間のマネジメントは人類共通の課題だと言ってもよいであろう.そして,とりわけ在宅ワークが推奨されている今の時代においては時間のマネジメントの持つ重要性はますます大きくなりつつあるように思える. 実際に,多くの人が時間のマネジメントに関して悩みを抱えている.そうした悩みとは,例えば,自宅で勉強をしたり,何らかの作業をしたりするとき,自分が想定していた通りの進捗をうむことができないといったものである.われわれはよく知っている環境ではうまく集中できないようにできているのかもしれない.あるいは同じく時間のマネジメントに関する悩みとしては,試験勉強をしたり,ブログ記事のリサーチをしたりなど,明確なゴール
先日,夕暮れ時に近所を散歩していると,子供たちの声が聞こえてきた.声のする方へ目をやると,保育園(幼稚園?)の園児たちが,お迎えにきた保護者に手を引かれながら,お友達に「また明日ー!」と手を振っていた. なぜなのか,その理由は定かではないが,こうした光景を見て「エモいわあ」と思ってしまった.また明日会いたいと思える友達が私にいないからなのか,それとも夕暮れというシチュエーションがそう感じさせたのかはわからない.ともかく,あの子たちの「また明日」には人を心を動かす力がこもっていたのである. これに対して,われわれ大人たちの発する「また明日」には明日への希望もなければ.人を動かす力もない. われわ
機械は考えることができるか:チューリングのイミテーションゲーム
最近,アラン・チューリングの論文"Computing Machinery and Intelligence(計算機械と知性)"を久々に読み返したので,その概要と些細な一言をここに記したい(チューリングの数奇な人生それ自体も語られるべき主題であろうが,ここではそれについては触れない.関心のある読者はアマゾン・プライムで視聴できる『イミテーション・ゲーム』をご覧いただきたい). なお,本記事は元の論文の内容を大幅に切り詰めているので,正確な議論が気になる方は原論文をあたって欲しい(全ての要約は同時に解釈であることを忘れてはいけない). Computing Machinery and Intelli
われわれ人間は理性的な動物である.われわれは自分自身とそれ以外の畜生たちを区別するメルクマールをこのようにときとして理性に求める.「理性的」ということで暗黙裏に前提されているのは,感情ないしは本能に支配されることなく,冷静かつ論理的に判断を下す能力をわれわれ人間はもっている,ということであろう. しかし心理学の分野では,われわれの判断はそれほど合理的なものではないということを示すような実験結果が蓄積されている.社会心理学者Jonathan Haidtは彼の著書The Righteous Mind(邦訳『社会はなぜ左と右にわかれるのか──対立を超えるための道徳心理学』)において,様々な研究結果を
本記事はStanford Encyclopedia of PhilosophyのRudolf Carnapの項目内のSupplementの要約です. 解明 Explication 「解明」は1945年に,そして,Meaning and Necessity (1947)において導入され,Logical Foundations of Probability (1950)の第一章においてより詳細に説明されている. また,カルナップの解明についての理解は,数学における定義の方法論的役割についてにKarl Megnerの考えに影響を受けている.以下では,解明をより一般的な仕方で説明し,それからカルナップ
あなたの周りにはおそらく1人や2人くらい話の面白い人がいることだろう.会うたびに最近あったおもしろエピソードを話してくれるような人間である ちなみに,私には友達が1人もいないのでそういう人は身の回りにはいないのだが.トホホ. そういうの面白い話を聞いて,われわれはこのように思う:「この人はいつも面白い出来事に遭遇しているなあ」 しかし,本当にそうなのだろうか?つまり,話の面白いひとは,面白い話のねたを持っているからこそ面白いのか?もしそうなのだとすれば,われわれの多くにとってはそれこそが面白くない話である.人と違った経験をしなければ面白い話ができない──あるいは,面白いブログを書くことができな
あなたの周りにはおそらく1人や2人くらい話の面白い人がいることだろう.会うたびに最近あったおもしろエピソードを話してくれるような人間である ちなみに,私には友達が1人もいないのでそういう人は身の回りにはいないのだが.トホホ. そういうの面白い話を聞いて,われわれはこのように思う:「この人はいつも面白い出来事に遭遇しているなあ」 しかし,本当にそうなのだろうか?つまり,話の面白いひとは,面白い話のねたを持っているからこそ面白いのか?もしそうなのだとすれば,われわれの多くにとってはそれこそが面白くない話である.人と違った経験をしなければ面白い話ができない──あるいは,面白いブログを書くことができな
【要約】Conceptual Engineering (Bad Language: Ch. 5)
本章でわれわれがフォーカスするのは,会話の相手が,ある語がどのような意味を持つべきかについて同意しないようなケースである. まずはいくつかの例から始め,それから,根底にある理論をより詳細に論じていく. Introduction to Conceptual Engineering: We Care about What Words Mean ある語が持ちうる意味があまりに多く,どれを選ぶのかが重要なものであるような例: 「レイプ rape」に関する論争:多くの場所,そして多くの時代で,「レイプ」とは夫が妻をレイプするということが不可能であるような仕方で使われている(つまり,「レイプ」の意味からし
生産的であることは義務ではない:コロナ禍におけるプロダクティビティ
2020年,コロナウイルスの感染拡大により,多くの人が在宅ワークを強いられることになった. そして多くの人がこの機会を有効活用して,普通ではできなかったことにチャレンジし始めた.どうやら世界中でパンを焼くことが流行っているらしいということを知ったときは微笑ましい気持ちになったものだ(このホームベーカリー現象とでも呼べるものについては,のちに記事にするかもしれない.あるいはしないかもしれない). 人類あるある:家にいる時間が長くなるとパンを焼く. しかし,こうした現象にはダークサイドが存在する.つまり,多くの人は生産性(プロダクティビティ)を意識するあまり,それにプレッシャーを感じてしまっている
【要約】Construction and Analysis by P. F. Strawson
StrawsonのConstruction and Analysisの要約です.簡単なまとめから: ・分析という方法について.初期の分析は翻訳ないしパラフレーズだった.・日常言語学派(イギリス学派)と理想言語学派(アメリカ学派)の関係について.これらは必ずしも対立しなければならないような関係にあるわけではない. 論理実証主義やムーア,ヴィトゲンシュタインなどはみな分析をしていた.しかし,「分析」ということでなにが意味されているのかは,それぞれ異なっていると言える. また,哲学的分析とは一体,なにを分析するものなのか?その候補としては,例えば,以下のようなものが挙げられるだろう. 文文の意味(命
【要約】Replacing Truth by Kevin Scharp
本記事の内容は,Kevin Scharp, Replacing TruthのIntroductionの要約です. Replacing Truth: Introduction 日常的な会話においては,嘘つきのパラドックスのようなものは生じない. しかし,例えば真理の概念はそのようなパラドックスをもたらすものであるため,哲学者を悩ませてきた.本書では,このような事態は真理概念それ自体が欠陥を抱えているものであるために生じるものであり,それゆえ,特定の目的のためにはその概念をより良いもので置換すべきだと主張される. 真理概念をダウンプレイする思想家は古代から現代まで存在する(プロタゴラスやリチャード
努力の大切さは至る所で説かれており,われわれはみな,成功には努力が欠かせないものであるということは理解している(あるいは理解していると思っている).しかし最近目に付く(あるいは耳にする)のは,「努力ができるということもまた才能の一部なのだ」という言葉である. これは本当なのだろうか?本記事では「努力できることも才能」の背後に隠された意図について考えてみようと思う. 努力の大切さについて オリンピック選手があれほどの卓越したスキルを身につけているのは,彼ら・彼女らの血の滲むような努力の結果であり,また,チェスの世界チャンピオンが世界チャンピオンであるのは,起きている時間のほとんどを(ひょっとする
文豪の作品を(お得に)スラスラと読破する:Audibleのすゝめ
現代人は何もしていないという状態が大嫌いである.一昔前(あるいはふた昔前?)では考えられなかったことであるのかもしれないが,人は,例えば,信号待ちのわずかな時間でさえ,ただ待っているということに耐えきれず,ついついスマホを触ってしまう.自宅にいるときにも,トイレにまでスマホを持っていくという人もいるかもしれない. 私のスマホのスクリーンタイムは大体一日三十分から一時間程度なのだが,おそらく平均と比べればだいぶ短い方だと思う. この記事によれば,10代から30代のひとは1日に五時間前後スマホを使っていることになる.中にはこうした事実に愕然として,どうにかこの時間を有効活用できないものか,と考える
睡眠薬に頼るべきではない理由(ではどうすれば眠りにつけるのか)
三文でまとめると:・睡眠薬には様々な副作用がある.・睡眠薬の服用と服用者の死亡率や癌の発症率との間には相関関係が存在する.・睡眠薬を使わずに眠るためには,認知行動療法が有効であるとされている. 睡眠薬の害について 導入 私は以前,ひどい不眠に悩まされていた.早く寝なければならないと強く思えば思うほど眠りにつくことは難しくなり,布団の上で呻吟しては時間だけが過ぎて行く. 一方で,世間では睡眠の重要性が強調されている.われわれはしばしば,次のような言葉を耳にする: 八時間は寝ましょう.睡眠は体を回復させてくれるだけでなく,記憶の定着をもしてくれるエライものなのです. われわれが睡眠の大切さを耳にす
Puzzles of Reference Ch. 1: Introduction to Kripkeanism and the Rejection of Fregeanism 物騒な例だが,ビルを殺したいとしよう.ビルを殺すためには何をしなければならないだろうか.ビルを殺すためのTo-Doリストは以下のようなものになるだろう: ビルが誰なのかを調べるビルがどこにいるのかを調べるビルに接近する(殴り殺すなら手の届く範囲まで.射殺するなら銃の届く範囲まで.) もしもあなたが魔法使いならば,こうしたことをせずともなんらかの魔法を使ってビルを殺すことができるかもしれない.しかしあなたは(おそらく?)魔
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