キム・チョルの視点から追った、キス事件の翌日と翌々日の顛末はこうであった。[こんな感じで各々の夜を過ごし][そしてまたここへ]こうして場面は元に戻る。チョルの胸中とミエの胸中を読者が知ったら、物語は再スタートである。現在の二人の関係性はどうであれ、今のミエは少し嬉しい。自分の誕生日のことを、チョルが知ってくれていると思っているからだ。しかしそんなワクワクとソワソワは、長くは続かなかった。 [しばらくして——] [ファン・ミエはモヤモヤしっぱなし]痺れを切らしたミエは、もう一度ユンヒに確認する。「ねぇ、確実にヤツのカバンにメモ入れたんだよね?」「うん、確実」 「昨日から何にもないけど?」 チョルはいつも通りか、それかそれ以上にそっけない。ずっとそっぽを向いている。 これが隣の席の女子の誕生日祝いを考えてい...第八十四話④
終礼の時間も、上の空だった。「みんな期末の準備は始めてるわね?時間はあっという間に過ぎるから・・」落ち着かない足が、小刻みに震える。ずっと思っている、「このまま消えてしまいたい」という思い。[・・そんなん無理だと分かってるけど]現実にはそんなこと出来ないことくらいわかっている。ただ何もなかったようには振る舞えない。密かに、ミエの方を窺った。若干眉間に皺を寄せたような表情で、前を向いている。けれどチョルの目は、どうしてもミエの唇に吸い寄せられた。横から見ているからか、今度はエラーが出なかった。だからチョルは、そのままじっと見ていたのだ。ミエがこちらに気づくまで。「さような・・」ドビュンッ!!!!即座に、またまたエラーが出た。チョルは光のように教室を駆け抜けると、そのまま家まで全速力で走った。「ただいま!」「...第八十四話③
一晩中転げ回ったチョルはというと・・。[いずれにせよ朝は来る] 見上げた空は、雲ひとつない青空だった。その青の中を悠々と飛ぶ、白い飛行機をぼんやりと見る。あまり眠れなかったので、チョルの目の下にはクマがあった。チョルは複雑な気持ちのまま、重い足を引き摺って学校へと歩く。気がついたら、もう正門が閉まる時刻だった。「お前達、あとちょっとで遅刻だぞ!早く教室入れ!」「キム・チョル!お前のことだぞ!」「すみません・・」教室の前まで来ると、いよいよ足が動かなくなった。暗く重たいオーラを背負いながら、じっとその場に立ち止まっている。ふと顔を上げて中を見ると、真っ先にあのおかっぱ頭が目に入って、パッと体を引っ込めた。けれどいつまでもこうしていても仕方がない。チョルはグッと奥歯を噛み締めると、遂に中へと足を踏み出した。不...第八十四話②
それでは、キム・チョル視点からのここ数日の流れを追ってみよう。[またあの日に戻るとしたら]あの日、とはもちろんあの事件があった日である。チョルの脳裏で、昼間の衝撃シーンがもう何回目かのリピートを始めた。チョルは無音で「うわああああああ!!」と叫びながら飛び起きる。ガバッ!!はぁ・・はぁ・・冷や汗が止まらない。体は小刻みに震えていた。こんなはずじゃなかった、と何度もチョルは思っていた。[いや・・俺はただ・・][約束してたから][だからビデオとか一緒に観ようとしただけなのに・・][なんで・・]そう思うたびに、また同じシーンがリピートする。ボスッ!![違う]バタバタバタ!!バタバタバタバタ!!![こんなん違う]無言の叫びを上げながらバタバタする息子の振動を感じながら、チョル母は心配そうに妹に聞いた。「ねぇファニ...第八十四話①
翌朝。登校中のミエだが、キョロキョロとあたりを見回しながら歩いている。数メートル先に、探していた背中が見えた。昨日のユンヒの電話を思い出し、ミエは鼻の穴を膨らませた。もしユンヒの話が本当なら、今頃チョルはミエの誕生日に頭を悩ませているはず・・。すると目の前に、こちらを見る人物がいた。デレた自分の顔を白けた顔で見るモ・ジンソプ——・・。そして後ろからは、大あくびのソ・ジス——・・・。「あ、ファン・ミエ。週番なのに遅刻じゃん。でもあんたの顔がまたウケる・・」ソ・ジスの話を最後まで聞く前に、ミエは教室へと急いだ。やはりあの男はよくわからない・・。 けれどそれ以上に、胸の中にワクワクと弾む星の存在を感じる。ミエは朝食の時、父親に誕生日のことを聞かれたことを思い返した。「ミエ、もうちょっとで誕生日だなぁ。何か欲しい...第八十三話⑤
ファン・ミエ、NeverDie。[けれど、意地を張れば空回るファン・ミエ]イライラMAXのまま、終礼は鳴った。チョルを逃がさないように、週番の仕事はソ・ジスに任せる。「あんたやっといて!」「ちょっと!あん・・」ドドド・・とチョルを追いかけたミエだったが、相手はミエを上回るスピードで逃げた。シュンッ!!肩を落として戻った教室では・・倒れたバケツから水が流れ出ているのに、気づかずにモップを掛けるソ・ジスの姿が・・。「あれ?いつ倒れたんだ?」結局掃除のやり直し。ミエは、もう全部嫌になってしまった。おでんを片手に黄昏れるミエに、ユンヒらが声を掛ける。「ね〜ファン・ミエ〜聞いてる?」「おーい!」「ほっといてよっ」そう言ってぐいっとやるミエに、ユンヒが「死にそうに暑いのにホット飲んでるよ」とヒソヒソ言った。何をやって...第八十三話④
不敵な笑みを浮かべた三人。[彼女らの作戦はこうだった]ユンヒはミエの肩に手を置くと、余裕の笑みでこう言った。「ミエ、あんたもうすぐ誕生日だよね?」「え?あ・・そうだね・・誕生・・」「うちらが自然に仕掛けてくるからさ、あんたはヨユーで待っててよ」「え、え?!何?何を待つって?」 ユンヒ達はそのまま、キャラキャラと笑いながら行ってしまった。ミエは口をあんぐりと開けたまま、ポカンと立ち尽くした・・。「・・・?」 ユンヒ達はそのまま廊下の一角に固まった。キム・チョルが、そこを通りかかるのを待つ。そしてすれ違うその一瞬を待って、さりげなく口を開いた。「あ〜もうすぐファン・ミエの誕生日だね」「そうだよね!何日だったっけ?」「え?知らないの?6月・・」 しかし誤算が一つ。 チョルは、イヤホンで音楽を聞いていたのだ...第八十三話③
教室に戻ったミエを待っていたのは、激怒した担任であった。「私の受け持ち授業の時だけ黒板消してないってことかしら?!」次の授業が始まる時間になっても、板書が消してなかったのだ。ミエはソ・ジスと並んで、大きなたんこぶを作って立っている。「すみませんでした」「ペナルティで週番してるのになんなのその態度は?!もう一週間やりたいの?今すぐ消しなさい!」 ”午前中の仕事はソ・ジスが全部やる”という約束だったはずだ。ソ・ジスは頭を下げた姿勢のまま、ボソッとミエに言った。「あ・・うっかりしてた」「ごめん」ミエが怒り&呆れに震えていると、ガラリとドアが開いた。「遅い!」「すみません」チョルは「すみませ」でソッコーで移動して、「ん」で席に座った。ミエのことを見ないようにして。担任が「教科書開いて」と言って、授業が始まろうとし...第八十三話②
なんとか職員室で反省を終えたミエは、教室で席についていた。授業が始まる前のそこは、ザワザワと騒がしい。チラッミエは隣の席をチラリと見た。そこにはチョルの姿はない。ふん、ウケるんだけど。さっき登校してたのにまだ来ないの?ソ・ジスとゴタゴタしていた時に、チョルは確かに登校して来ていたはずだ。けれどギリギリまで教室には姿を現さないつもりらしい。するとチャイムが鳴る数秒前、ようやくドアが開いた。ガラッビクッだんだんと近づいてくる足音に、なんだか胸がドキドキしてしまう。それを悟られないように、ミエはふんふんと咳払いをして誤魔化した。ドキンドキンドキンチョルが座った気配を感じて、ミエはさりげなく声を掛けた。「おはよ。なんで今頃来てんの?あと昨日なんで塾休ん・・」ガガガーーーーッ!なんとチョルはイヤホンをしたまま、...第八十三話①
ダダダダダ・・!ミエはゴミ袋をソ・ジスに押し付けて、キム・チョルの元へと走った。あの接触事故から二日後、ミエは彼に伝えたいことが山ほどあるのだ。 今日こそ捕まえてやんよ!! あいつ塾にも行かないし私がずっと連絡してたのに全部無視して・・ そうなのだ。あの事故があった日、まずチョルは塾を休んだ。ホンギュもびっくりしていた。「えっ?!キム・チョル欠席!?聞いてねーけど?!何があったんだ?!」部屋だって明かりがついているのに、まったくミエの呼びかけに応答しない。「ちょっと!キム・チョル!ちょっとぉ〜!出てこい!出てこいよぉ〜!」かくなる上は、電話攻撃も仕掛けた。「もしもし、チョル君のお宅ですか?私ミエですけど、チョル君は家に・・」ガチャッ!!ツーツーツー・・・[いやおかしいでしょ。なんで私にこんな仕打ち・・]ミ...第八十二話⑤
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