「あ・・・あ・・」突然現れたキム・チョルに、高校生達は動揺を隠せない。愛想笑いを浮かべながらチョルに挨拶をする。「お・・おおキム・チョル!久しぶりだな」「・・誰だ」 「え?俺だよ、覚えてないか?前に・・」 「次は誰かって聞いてんだよ。早くしろよ」 早くもブチギレているチョルを見て、ミエたち三人は息を呑んだ。ひいいっ「こねーのか?」凄みながら一歩踏み出すチョル。高校生達は口元を引き攣らせながら後ずさった。「ちょ、ちょっと待ってくれよ。なんでこんなに怒ってんだ?」「とりあえず聞いてくれよ。何か誤解してるようだけど、俺らはただこの子らとゲームしてただけなんだって! ヒョンソクがゲーセンで会ったことあっから・・顔見知りで、そのついでにただ一緒に楽しく遊ん・・」 「顔見知りじゃないですけど!!」 ジョ・ハンがす...第九十五話②
バッ!ミエは一枚の写真に目を留めた。チョルの顎に乗せた自分の手の平に、鍵となる番号が見えたのだ。何度もにじんだ文字と写真の数字を見比べて、末尾は6だと確信する。ガチャッ!ピピピピピ!その番号を入力すると、音声案内に繋がった。「こちらは案内サービスです。音声録音をご希望の場合、ピーという音の後に・・・」「も、もしもし!?私だよ!ミエだよ!今ちょっと・・」ピタッそこでミエは口を噤んだ。喉まで出かかっているSOSを、チョルのことを思って押し留める。「えーっと・・ねぇ、今あんたどこにいる?」「あの・・なんで急に一人でいなくなっちゃったの?全く不思議ちゃんなんだから!だからポケベルに初連絡してみたの!あはっ」 「えっと・・私今塾の近くにいるんだ。もうすぐ着くよ。 分かるかな?あんたが前に行くなって言った・・。 あ、...第九十五話①
ミエの最大のピンチに、チョルが駆けつけた。しかしなぜチョルにこの場所が分かったのだろうか?その理由は、数十分前に遡る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・路地裏に身を潜めているミエ達。ホンギュがジョハンに、塾への道筋を説明しているところだった。「あの後ろ曲がってもまだ道があって」「うんうん」「あそこさえ通れたらすぐ塾だから」 ミエは、電話ボックス内で手のひらに書かれた判読不明な文字を睨んでいた。 「これは完全に詰んだわ・・」 「完全に消えてるのもあるし・・6・・8?」あ、でも前半は結構わかるかも・・ミエはまるで暗号解読士のように、滲んだその数字を読もうと試みていた。この数字さえわかれば、チョルに連絡ができる。 残りの痕跡で大体分かるような気もするんだけど・・ 問題はこの完全に消えてる部分・・書いてもらっ...第九十四話⑤
とうとう捕まってしまった中坊達。高校生らに囲まれて、ミエ達三人は連行された。ジョハンは青ざめながら思った。こ・・こんなことに・・もうちょっとなのに・・。もうちょっとだったのに・・!塾はもう目と鼻の先だったのに、運悪く捕まってしまったことを嘆いた。高校生達はニヤニヤと笑いながら言った。「お前ら暴れっぱなしだけど、お互いが無事にいられるかは気にしねーの? 笑えよ、笑えってば〜」 「俺らがいじめてるように見えんだろ〜?」 ミエは近くに助けを求めようと辺りを見回したが、警察はおろか大人の一人もいない。ホンギュも奥歯を噛み締めるのみだった。やがて彼らはゲームセンターに着いた。目の前にはパンチングマシーンがある。「さぁ始めますかぁ〜」「さっき言ったろ?3対3で勝てば逃してやるって!」バキッ!ゲーセン男がそれを殴ると、...第九十四話④
ミエが読めない手のひらの番号に首を捻っている時、チョルはまだ街中にいた。コ・テグァンがその隣に立つ。「塾にはすっかり遅刻ですぞ」「あぁ、うん・・ありが・・」「だがおかげで小生もささやかなプレゼントを買うことができた」 「あ!」「早く行こう。バスが来た」そう言って駆け足になるチョル。カバンの中に入った飛行機が、カチャカチャと鳴る。真っ青に晴れた空に、街中の音楽が吸い込まれていく。コ・テグァンは、空を見上げながらポツリと呟いた。「ふぅむ・・誰かが呼ぶ声が聞こえる・・」ミエの叫びは、チョルではなくコ・テグァンの方に届いていたらしかった・・・。 <強いフリをしてみても>当のミエは、警察に電話しても取り合ってもらえなかった不条理を正に今嘆いていた。「てか何でずっとイタズラ電話だって言われんの?!一体誰が何を知って...第九十四話③
その頃のミエたちは・・・。「うわああああ〜〜〜!」絶賛非常事態継続中である。「おい待てっ!」「コラァ!中坊ども!」「逃げろっ!」「うわああ!」必死に走りながら、狭い路地へと逃げ込んだ。そこで足がもつれたミエは、派手に転んでしまう。「あっ!」「きゃっ!」「こっちだ!捕まえろ!」絶体絶命の大ピンチ。もうダメだ、と思ったその時!「起きろっ!」ふわっと体が持ち上がった。ミエはホンギュとジョ・ハンに支えられながら、なんとか再び走り出した。「待てーっ!高句麗!百済!新羅ーっ!」[早く走れっ!中坊たち〜!]違う中学の三人が、手を取り合って必死に走った。がんばれ、中坊たち! <黒騎士チャンス>結果、ミエたち三人は高校生を巻くことに成功した。高校生たちは、路地を一つ一つ、ゆっくりとした速度で歩きながらミエたちを探す。「あ...第九十四話②
<非常事態>ミエたちは言わずもがな非常事態だが、この人もまたそうであった。これは数時間前のチョル。ガク・テウクだと確信した人物を追いかけて、ようやく捕まえたと思ったのに・・・。結局勘違いの人違いで、チョルはペコペコと謝り倒した。相手はチョルのことを非常に怖がって、ダッシュで逃げていってしまった。申し訳ないやら恥ずかしいやら虚しいやらで、言葉もない・・。「・・・・・」顔を上げたチョルの目に、街の風景が映る。ふと、置いてきた三人のことが気にかかった。しかし今更合流する気にもなれなかった。「どこ行くの〜?」と聞いてくるミエの姿が浮かんだけれども。まぁ・・もう行っただろ・・はぁ・・・・上がった息が戻るにつれて、感情より理性が強まるにつれて、心が重たく凭れるようだ。ガク・テウクとか・・いいやもう・・塾行かな・・ ホ...第九十四話①
ホンギュは、地面に倒れている奴に掴みかかった。高速でパンチを繰り出す。「嘘かよ!マジでガク・テウクはいねーのか?!!」「騙されやがってよ、そもそもあいつと連絡取れるやつなんて誰もいねーよ。つーか鍛えたところでお前が勝てるわけなくね?」 太々しい態度の男に、ホンギュの堪忍袋の緒が切れた。 「あんだと!?」 「じゃあ試してみてやんよ!!」 パンチは男の頬にクリティカルヒット!「ぐっ・・おい、捕まえろっ!」「離せこの野郎!」「ぐあっ」一斉に飛びかかられたホンギュを目の当たりにして、ジョ・ハンも飛び出した。男の一人にタックルする。「うわああああああ!」これにはホンギュもビックリだ。「こいつらまとめて殺す!!」その瞬間、ホンギュとジョ・ハンはアイコンタクトを交わした。まるで相棒のように。「かかってこいっ!!」そこか...第九十三話④
突然の出来事に固まるホンギュ。彼が居る橋の下にいるミエもまた、口をあんぐりと開けて固まっていた。やがて、ゆっくりとホンギュの方を窺う。橋の反対側に、高校生たちも立ち止まっていた。彼らも顔を見合わせている。出遅れたモ・ジンソプは、一人青ざめてキョロキョロと周りを見回していた。「な、なんだ?!どうした?!」ネタバラシをされた男は、ネタバラシをした人物と仲間を交互に見た。橋の下にいるジョ・ハンのことだ。ジョ・ハンは大声でこれは罠だと言っていた。ガク・テウクは来ないのだ、と。バキッ!!全ての事情を把握したホンギュが、奴に蹴りを入れた。そのままくるっと方向を変える。「何してんだ!」「逃げろっ!」橋の下にいる、ミエとジョ・ハンにそう叫んだ。「ぐっ・・・」「ウワァァ!!」走るホンギュ、それを追う同級生達、橋の下で戸惑う...第九十三話③
てっきり逃げたかと思われたファン・ミエがまだ居たことに、ホンギュはもうわけが分からなかった。何お前??なんなん??ミエもミエで、ジェスチャーを送り続ける。ダメダメ!ダメだったら!とにかく「ダメ」のサインを送り続けるミエ。やはりホンギュにはいまいち伝わっていない。けれどミエは表現を変えて、メッセージを伝えようと頑張る。「うー!」マジでなんなん・・とホンギュは引き気味だ。「おいとにかく帰れ!危ないから早く!」とうとうそういうジェスチャーを残して、ホンギュは進み出してしまった。[あーダメー!!]ミエ、大ピンチ! <ドタバタ劇場>「あー!ダメだったら!どうしよう!どうすればっ」高架下にいる三人の方を見ても、解決策は浮かばない。ここにいるだけでは、ホンギュを止めることは出来ないのだ・・!ミエは視線でこのようなメッセ...第九十三話②
時は少し戻り、まだホンギュ一行がこちらに来る前。ジンソプはただ隠れていただけではなかった。やむを得ず、警察に電話しているのだ。プルルル、とコール音が聴こえる。ジョ・ハンは手を合わせながら、ずっと何かをぶつぶつ言っている。「あの、もしもし、警察ですか?」「ジンソプ君どうしたの?」「シーッ」 「今セモ川にいるんですけど・・」ソワソワ・・「はい、そうです。橋があって・・集団での喧嘩がちょっと・・いや僕らじゃなくて・・。・・ってかちょっと静かにしてくれよ!ミエの友達くんよ!」いまいち集中できない状況で、ジンソプは必死に説明した。しかし電話先の警察はどこか懐疑的なようだ。「いや違います、イタズラ電話じゃないです!え?さっき同じ通報があって何事もなかった?いや、それは僕は知らないですけど・・ はい?僕は学生じゃないで...第九十三話①
一行は”ガク・テウクとの待ち合わせ”の場所へと向かっていた。かつて取り巻きだった奴らは、ニヤニヤと笑っている。後方からついていくホンギュが、念を押して確認する。「ガク・テウクは来るんだろうな?」奴らはギクッとした後、取り繕うように言った。「当たり前だろこのクソが!」「来なかったら死ぬことになるからな?」「嘘言うわけないだろ?!お前が殴られるの見たくて来てんだ。 ガク・テウクが、お前がちょっと変わったって聞いて、気になって確認したいんだとよ!」 「は?ふざけんな」「早くついてこい!」 ホンギュは余裕そうに振る舞っていたが、実は汗が止まらなかった。心拍数がとんでもなく速い。握る拳に力が入った。あと数十分もすれば、この手でテウクを殴れるのだ。いよいよだ・・!奴らが、「お前今日誕生日なんだって?最高じゃん誕生日に...第九十二話④
”6月15日ファン・ミエの誕生日何が欲しい?”のメモを見て、ベ・ホンギュはしばし固まった。すると次の瞬間、ガチャッとドアが開いてチョルが顔を出す。「おい、ホンギュも飲み物いる?」「や!俺はいいや!」そう言って手を引っ込めた拍子に、丸めたメモがどこかへ飛んで行った。「なんか落としたぞ?」「え?だな!拾うわ!チョルは早く行ってこいよ!」「あぁ」 パタン ドアが閉まると同時に、ホンギュはメモが飛んで行った辺りを探し回った。 「おい、なんだよどこいった?!どこ入っちまったんだ?!」 机の下、段ボールの隙間、思い当たる場所は全て見てみたのに、メモは忽然と姿を消した。「こんなことある?!摩訶不思議かよ!・・じゃなくて!」・・てことは何? じゃあ豆子と俺の誕生日パーティーを一緒にやろうと思って、提案してるってこと?チョ...第九十二話③
[果たして・・]一足先に隠れたモジンソプに続いて、ミエたちも身を隠す。「早く早く!何!?両サイドから来てんの?!」土手側からは高校生(ヨンミン先輩含む)、そして橋側からは高句麗中生(ベ・ホンギュ含む)。[さて・・][さてさて・・]・・という気になるところで、場面はキム・チョルの方へと転換する。 チョルは”6月15日ファン・ミエ誕生日何欲しい?”のメモを見て、目を丸くしているところだ。数秒の後、チョルは勢いよく立ち上がった。ガタッバッ!チョルはそのまま後ろの二人の方を振り返った。なんとも微妙な表情で。[彼らの運命は・・?!] あっちでもこっちでも運命の歯車が勢いよく回転する。そしてここで、もう一度時を戻すことにしよう。[ストップ!] チョルがあのメモを目にしたところでストップ。なぜチョルは、あのメモをジョ...第九十二話②
時は少しだけ戻る。ミエたちが河原近くの土手に到着した頃に。”大魔王のダチ”とちょい悪の先輩が喧嘩するならどこか、と考えた末、モ・ジンソプの勘を頼りに、三人はこの場所に辿り着いた。「この辺が高句麗中と先輩の学校の近くなんだけど・・」「多分薄暗いような場所で落ち合うよね?」 「出来るだけ鉢合わせしないとこ・・バレたくないし・・。その猿?っぽい子とだけ先に会えれば良くない?」 どこかテキトーなジンソプに、ピリピリしたミエが言い返す。 「てか場所特定して待たなきゃ意味ないって!河原ってどんだけ広いと思ってんの?!」 「つーかそんなん分かんないって!俺は平和主義だし」「ふざけないでよ!」するとそこに、ひょっこりこの人が現れたのだった。「えっと・・この辺・・じゃないかな?」「え?マジで?」突然出現した謎の少年に、ソ...第九十二話①
一方こちらはファン・ミエサイド。ここでミエたちは・・・ゴソッスッ「伏せて!」もし連中が来ても、見つからない場所に身を隠していた。「髪を触るな髪を!」「あんた頭高すぎるよ!バレるって!」「しーっ!しーっ!静かに!」ソンイの嗜めで声を潜める。シーン・・しかしそのまま数分間待っても何事もないので、今度はミエが頭を上げた。「誰も来ないんだけど」「ムカつく!だからなんで髪を触るんだよ!」「うるさい!自分の友達がどこに集まるのかも知らないなんて!役立たず!」 「しーっ!髪の毛大丈夫だよ」「嘘だっ」 「ねぇ、合ってるよね!?」 そしてミエは、隣にいる人物に話しかけた。そう、実はこの場にいるのはソンイ、ジンソプ、ミエの三人だけではない。「ここに来るので合ってるんだよね?」「お・・おそらく・・」四人目のその人物とは、ジョ・...第九十一話④
数メートル先に、パーカーを被った奴を見つけた。加速する。バッ!チョルは奴の肩に手を伸ばした。怒りで熱くなった、その指先で———・・・・! 「おいっ!この・・っ!」しかし振り向いたその人物は、ガク・テウクとは全くの別人なのだった・・!「なっ・・何でしょうか・・?」 よくよく見れば、背だって体格だって全然違う。チョルは全身全霊平謝りだ。「すみませんっ・・人違いを・・」「いえ・・はい・・いえ・・はい・・いいえ・・」 こんなはずでは・・・。燃え盛っていた怒りが、急激に冷えて行くのを感じる・・。 そしてチョルは、そのまま帰宅して自転車で塾に来た。底まで落ちたテンションは、そう簡単には上がらない。「はぁぁ・・・・」チョルは大きなため息をついて、カバンに突っ伏していた。やばいぞどうかしてる・・なんでアイツがここに...第九十一話③
チョルがいなくなった。しかも先ほど聞こえてきたあの通話・・・。「大魔王のダチがイ・インウクのこと舐めてっから、今回手ぇ貸して欲しいって頼まれたんだよ」[・・・え?][そういえばどこかで聞いたことのある名前だと・・]チラッと見ただけだが、表示された名前はどこかで知ったそれだったように思う。今セモ駅周辺にいると、メッセージを送ってきていた。「ヨンミン先輩」すると突如、以前チョルと一緒に図書館に行った時のことが思い出された。モ・ジンソプと数人が一緒にいたのを、ミエは目撃していた。[あれ?そういえば声も・・]そうだ、どこかで聞いた声だと思った。自販機で小銭を拾おうと屈んでいた時に聞いた声だった。「くそっ・・大魔王」「最近完全に良い子ちゃんだな」「わざわざ会いに行ったのに、頑固でよぉ」「てかガク・テウクぶっ飛ばしと...第九十一話②
モ・ジンソプの通話が聞こえてしまったミエは、いてもたってもいられず駆け出した。ダッ!ジンソプが慌てて追いかける。「ちょっ・・ちょいまちちょいまち!俺も今知ったとこだから!俺には関係ないことだから!ちょっと待っ・・」 ミエがチョルの元に駆けつけると、そこにはソンイしかいなかった。 ソンイもまた、すごく慌てている。「あっ二人とも!」「どうしたの?!二人も何かあったの?!」「えっ?二人もって・・チョルは?!」「チョルも私に「先に行け」って言って、急に走って行っちゃったの」「どうしたんだろう?!」急展開な事態の前で、ミエの頭に?が並ぶ。はぁはぁと肩で息をしながら、嫌な予感が胸の中に広がって行くのを感じる・・・。 <なんでここに来た?> 一方こちらは走り出したキム・チョル。まぁまぁの人通りのある歩道を、全速力で駆...第九十一話①
ファン・ミエはトイレ、モ・ジンソプは電話で場を離れたので、キム・チョルとハン・ソンイはお店の外に出て二人を待った。少し沈黙が落ちたが、やがてソンイがチョルに話し掛ける。「学校はどう?」「え?」「去年より面白い?」「ん・・」「まぁ・・ちょっとは・・」「やっぱり?そんな感じに見えるよ。良かった!」ソンイはそう言ってにっこり笑った。去年同じクラスだった時よりもずっと、チョルが楽しそうに見えたから。「ミエって面白いでしょう?だってミエといる時、すごく楽しそうだもん」去年、誰も怖がって声を掛けてこなかった中で、唯一チョルを気にしていたのはソンイだった。だからこそチョルの変化は、ソンイにはお見通しなのだ。他の人から同じことを言われたら突っぱねただろうが、チョルはソンイには素直な表情を見せた。自分自身にすら否定したその...第九十話④
ハッ白昼夢に現れたミエの残像を、チョルは頭の中で振り払う。今はファン・ミエのことを考えている状況じゃない。チョルは電話ボックスから出た。早いとこ済ませて塾に・・すると、少し離れた場所から視線を感じた。ヒソヒソと「大魔王・・」と聞こえる。それは百済中の男子だったが、通りを挟んだ反対側に高句麗中の制服を着た男女もいた。彼らもまたチョルを見て「大魔王だ」とヒソヒソする。ビクッ思わずチョルは右頬の傷を隠すように顔に手をかざし、顔を背けた。サッどこか後ろめたいような虚無感が、心の中に迫り上がる。以前も感じた事のある感情だ。あれはミエがジンソプとピアスを探しに街に出たので、隠れて二人を尾行した時のことだ。たった一人でいる時よりも、雑踏の中に一人でいる方が孤独感を感じた。自分は、幸せそうな同年代の人達とあまりにも違う。...第九十話③
ひとしきり笑った後、ジンソプが言った。「どうする?」「え?」「いやファン・ミエ、もう一回撮る?」 「せっかく払い戻ししてきたのに、そのスキに二人で撮ってんだもん。大魔王、何気にズル賢いよね〜」 「はぁ?撮らねーし・・」「どうしたい?じゃあ撮らなくてもいい?」 この場の空気が、もうプリクラは撮らなくていいという雰囲気に傾いた。ソンイが残念そうに俯く。「あ・・」「あっ!撮りたいっ!」それを阻止すべく、ミエは全力で手を挙げた。チョルが「えっ・・」と顔を青くする。「撮りたい撮りたい!また撮りたいよ!撮ろ撮ろ!」「あ、あんたはポケベル確認しに行きなよ」ミエはチョルにそう言って、ソンイとジンソプの背を押してプリクラ機の中へと入った。内情を知らないチョルには、何が何やら・・・。 再び機械にお金を入れ、三人で画面を覗き込...第九十話②
カシャッカシャッ「カメラあそこにある!」カシャッチョルの方にもたれかかるミエを、チョルはリュックを掴んでしゃんと立たせる。「ふざけるなって!」「ふざけてないし!カメラ見ろって言ってんの!」やがてチョルは、観念したように前を向いた。再びシャッターのカウントダウンが始まる。「1〜2〜」思ったより真面目なその面持ちを、思わずじっと凝視するミエ・・。カシャッカシャッカシャッ仕切り直した二人のプリクラは、なんとか成功をおさめたのだった。しかしプリクラはこれで終わりではない。 <ただ撮ればいいんじゃなかったの?>続いて画面には、いくつかのフレームが現れた。「写真のフレームを選んでね〜」 「えっ20秒以内に?ねぇどうする?!なんかいっぱいあるよ!?ハートにする?!ハートに!」 「アホかお前は!やめろ変人!」 チョルに...第九十話①
ミエの人生初プリクラの出来はというと・・・・。ハジメテノ・・・プリクラ・・大暴れした誰かさんのせいで、全ての写真がブレていた。誰かさんは後ろめたそうに、壁の方を向いている。「あっちゃー何これ」「ミエ、魂完全に抜けちゃってる」「キングコングが暴れたからなぁ〜」「もう一回撮れば・・」 「い・・嫌・・!」 ソンイの言葉にすぐそう反応しかけたチョルであったが、目を点にしたままのミエの姿を見て、その先の言葉を飲み込む。「わ・・わかったよ!撮ればいいんだろ撮れば!」[ミエ、この子撮るってよ]<これどうなっちゃったの?>なんとか希望は繋がって、四人はもう一度プリクラを撮り直すことになった。しかし小銭を入れようとした矢先、機械が不具合を起こした。「あれ?これどうなったの?」「あー硬貨吸い込まれちゃったかな、この機械どこの...第八十九話⑤
セモ駅前のバス停で降りた三人。街は若者で賑わっていた。ジンソプとミエはチョルに言われるがまま、目的の場所へ連れられて行くと・・・。「遅刻かと思ったけど、私の方が早かったね!けど会えて良かった!」そこに居たのはハン・ソンイだった。以前ソンイと問題集を一緒に選びに行くという約束をしていたことを、すっかり忘れていたジンソプ・・・。 「けどどうしてミエには伝えてなかったの?びっくりしたでしょう?」「ううん!大丈夫だよ!てかあの人たちにほとほとむかついてたし!」チョルがボソッとリマインドする。「四人で遊ぼうって言ってたろ?」「いや・・今日は・・デー・・」 ジンソプがそう口にしようとした時、ソンイが振り返った。ジンソプを見て、嬉しそうに笑う。今日はミエとのデートだから、と断れる空気では既になかった。この男、空気を読む...第八十九話④
モ・ジンソプが心の中でメラメラと炎を燃やしているとは露知らず、ミエはチョルに何度もポケベルの番号を教えてとせがんでいた。根負けしたチョルが、とうとう首を縦に振る。ゴソゴソ「はいペン!」「早くして!もう降りなきゃだから!」ミエはそう言って手の平を差し出した。チョルは呆れたようにペンのキャップを外す。「また変なことを・・」「あはは!くすぐったー」「揺れる。じっとしてろ」バスの振動で震える文字が、ミエの手の平に踊る。「念の為もう一回言うけど、普段つけもしねーんだぞ?」「読みにくいなら後で・・・」気乗りしないチョルとは裏腹に、ミエは終始嬉しそうだった。二人を繋ぐその数字を、誇らしげにチョルに見せる。「ほらっ!もう逃げらんないからねっ!」まるで恋する乙女の笑顔のミエ。ジンソプの恋愛アンテナが反応した。もちろんチョル...第八十九話③
突然ではあるがここで、モ・ジンソプの人生を振り返る。 [モ・ジンソプ16歳] [イケメン] [思ったより中途半端な人生] [顔は良いけど勉強はできなくて] [人気はあるけど恋愛は上手くいかない] [フィジカルもいいけど、選手になるほどじゃないし] [家はまぁまぁ平凡で] 「母さんただいま〜」「おかえりー」「ばあちゃんただいま」 「兄ちゃんおかえり!」「ただいま〜」 [友達は常にいっぱいいるけど、なんか変な奴らばっかり] 優れた容姿を持って生まれた割に、ジンソプの人生は案外平凡であった。 携帯のアドレスに入った連絡先は星の数ほどあるが、全てが指先でスクロールされていく。 女の子にまとわりつかれながら、ジンソプは見慣れないアドレスから送られたメールに目を通した。 あ〜なんかノリで番号交換しちゃった子ね。テ...第八十九話②
ジンソプの挑発で、今やチョルのイライラは爆発寸前である。ハラハラするミエであったが、ジンソプは想定内とばかりにミエの背中を突いてこう言う。「ね?分かったでしょ?」場の空気を乱してまでそんなことをしていたジンソプに、半ば呆れたようなミエ。けれどジンソプは、先ほどのチョルの反応で二人の関係を確信していた。この二人・・確実に・・その心情がミエにも移る。ミエはごくりと唾を飲み込み、チョルの方を窺った。するとまたバスが急ブレーキを踏んだ。キキッ!ふわっ衝撃で足が浮き、ミエは転びかかった。チョルの左手が、瞬時にミエの襟首を掴む。ガシッ!そしてミエの左手も、チョルの(ダブダブの)ズボンを掴んだ。・・・・・。顔を見合わせた二人は、同時に互いへの罵声を口にした。モ・ジンソプは居た堪れずに手で顔を隠して俯く・・・。「この変人...第八十九話①
揺れるバスに乗りながら、ミエの心情も揺れ動いていた。なぜ今ここにキム・チョルがいるのか、自分なりに解釈する。思い出すのは、以前ジンソプとピアスを探しに街に出た時のことだ。ジンソプにいじめられていると勘違いしたチョルが、変装して後をつけてきた時の。[この前は誤解があってああしてたとしても][今回は・・なんで?]チラッと見上げたキム・チョルは、やがてミエの視線に気づいたが、すぐに目を逸らしてしまった。ピキ・・心の奥底で燻っていたチョルへの苛つきに、また火がつくような気持ちがする。あんたマジでわがまま野郎だよね?!ふふふ・・・と低い声で笑うミエの隣で、ジンソプもまた笑いを漏らしていた。「ふふふ・・・・」ジンソプは頸動脈をキメたチョルへの苛立ちも手伝って、イケメン攻撃を仕掛けることにした。「ねぇミエ、ちょっと俺の...第八十八話④
終礼のチャイムが鳴る。ミエはユンヒらと共に廊下に出た。結局チョルからのアクションは何もないままだ。ミエの方を振り返りもせず、チョルは遠ざかって行く。そしてミエは気乗りしないまま、”約束”のためにモ・ジンソプの元へと向かったのだった。 「何なん〜?」「なに屠殺場に連れてこられた牛みたいな顔してんの?そっちが勝手に今日って決めといてさぁ」不満そうなモ・ジンソプと、不本意を顔に出したミエは二人ともアンハッピーである。「あ・・いい・・いや・・・」「いいのか嫌なのかハッキリしなよ」「俺このせいで今日の約束キャンセルしたんですけどー?」 ミエは自虐的な気持ちで口を開く。「違うんだ・・・ちょっと聞いてよ・・チョル・・じゃなくてキムがさ、デートも何も、別に私になんて興味ないからさ・・。 こんなん、あんたにとっても時間の無...第八十八話③
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