会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。
コード進行の換算をした計算ページ 「あれ、真似しようとしてもうまくできないぜ」 ダニエルは茶化すように僕の弾き方を真似するが、確かにうまくできないようだ。そしてにやりと笑った。それは僕をこれから育てようとしてくれるにあたって、少しは筋があると見込んだせいかもしれなかった。 このギター教室が始まって、これからどうなるのかまったくもって想像できていなかったが、課題曲の「Por Ella」をきっかけにギターに相当にのめり込むことになった。 僕はギターと同時にスペイン語も習っていたから、流行している歌で好きな曲は歌詞をしっかり聞くようにしていた。この曲はラブソングだけど、もともとロベルト・カルロスはブ…
Por Ellaの歌詞とコード進行を書いた初めての弾き語り用ノート コードを実際に鳴らしながら曲を弾くための練習曲も自分で用意する。僕が授業に持って行ったカセットテープを彼は預かり、次の授業までにコード進行を書いて用意してくれていた。このやりとりは僕が彼からギターを習った半年間、ずっと続いた。 最初に選んだのは当時ラジオで聞いて好きになった「Por Ella(ポル・エジャ)」という曲だ。ブラジル人歌手のロベルト・カルロスが、1990年にリリースした。僕がメキシコに留学したのが1991年だからよくラジオで流れていた。たぶん、母国語のポルトガル語でも歌っているのだろうが、僕は聞いたことがない。スペ…
誕生日プレゼントにもらったハーモニカ ダニエルは、大きな体に似合わない、小さなギターだけを持っていた。僕のギターと同じ下から3弦がナイロン、上側の3弦が金属性の弦が貼ってある、いわゆるガットギターとかクラシックギターと言われるものだ。彼の少したっぷりとしたお腹の上で、その小さなギターは大きな音を立てる。アパートは天井が日本の家屋より高いのと、空気が乾燥しているせいで、よく音が響くのだ。 「あんたがハーモニカ吹いているの、聞こえてたぜ」 僕は高校の時に友達から誕生日にプレゼントされた、トンボ製のハーモニカでYou Are My Sunshineを我流で吹いていた。そして僕のアパートは敷地内でも門…
石壁のアパートに、乾いたギターの音が響き渡る それから幾月が経過した1月のある日、僕は自分の誕生日に大家さん家族とダニエルを招いて食事会を催した。僕は限られた材料で自分にできる和食をふるまった。親子丼を作ったように覚えている。 その1週間ほど前、僕はオアハカの中心部にある市場の小さな楽器店でクラシックギターを買った。でもギターは憧れているだけで、別に弾けるわけではなかった。ただ、吸い込まれるようにして、メキシコ製のギターをどうしても欲しくなって買っただけだった。弾けるわけではなかったが、その楽器店でつま弾いたナイロン弦は、深いやさしい響きをしていた。 ダニエルは僕の家に来ると僕が弾けないのに僕…
市場には郷土料理を食べさせる食堂がたくさんある。 「ダニエルからギターを習う」という連載を本日より開始します。 僕がメキシコに学生のときに出会ったミュージシャンからギターを習う話です。 ダン・デル・サントというミュージシャンのことを知っている日本人はほとんどいない。ニューヨーク出身のイタリア系アメリカ人で、プロフェッショナルのギタリストでありシンガーソングライターだ。 彼に出会ったのは僕が21歳の時だ。ちょうどメキシコのオアハカ州にアパートを借りてスペイン語を勉強していた頃で、1992年にさかのぼる。僕は大学を休学し、スペイン語を何とか現地で身につけようと、なるだけ日本人が集まらない田舎町で、…
僕のパソコンの壁紙はこの旅の後から牧場の月夜になった これがサン・イシドロ・チチウィスタンという村の、とある牧場で過ごした三泊四日の一部始終だ。 チアパス州奥地の森の中に、どうして遠いヨーロッパから人がやってくるのかと、最初は不思議に思ったが、今ではその理由がよく分かる。 「イタリアからメールが来てね、新年をここで過ごしたいって」 ステファニーは僕がメキシコシティに帰る最終日の朝も、メールで入ったこの牧場のリピーターからの宿泊依頼に、あわただしく返答していた。 一度この場所を訪れた人にとってこの牧場は、まるで仲のいい親戚の家みたいにいつでも戻れる場所の一つになるのかもしれない。このイタリアの夫…
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