両作品ともに、鈴木さんの経験が色濃く反映されている。文章表現も巧みだ。鈴木涼美,2023,浮き身,新潮社.(5.31.24)浮き身 鈴木涼美新潮社ドラッグとセックスにまみれ、アンニュイにただよう主人公の造形が良い。村上龍の『限りなく透明に近いブルー』や、山田詠美の『ベッドタイムアイズ』、『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』を想起させる内容だが、セックス、ドラッグ&ロックンロール(R&B)のうち、ロックンロール(R&B)の部分がなく、登場するのは日本人だけだ。主人公の、ひたすら気だるく暗い心象風景の描写が続く。本作に登場する男たちは、「黒髪」、「顔長男」、「細眉」、「ボーイ」等々、名前をもたない。女がみな固有の名前をもつのと対照的だ。鈴木さんが、はなっから男を見切っていることがわかる。男の欲望を内面...浮き身、グレイスレス