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  • 鴨歩きの正しいステップ

    * 夢から醒めようとする反動のせいか、挙動が少しおかしい。タクシーはエナメルでできていて、とてもキュートだ。でも、おれでないだれかからの指令でとてつもない悪意に変わる。ポケットは空っぽ。なにもない空白のようで、おもわず眼をそむける。砂丘がつづく夜の街でたったひとりの男を見た。歩道橋からこちらにむかって叫ぶ。キャデラックの卵巣から電波を受信しました。何卒、よろしくお願いします。ナニトゾ。ひらかれた街区に車は駐まって、おれはそこで現実に立ち返り、その醜さに驚く。たじろいだおれの眼にきみは映っていただろうかと訝る。せっかくの花がすべて枯れてしまったから、虐殺の支度をしよう。そうおもって、運転手にいっ…

  • 夜でなく、夢でもない。

    * 屈辱の痼りを解きほぐしてくれるような他者がいない。積年の悪夢、そして中年の危機がわたしを追いかけている。なんだって、そんなていたらくに墜ちてしまったのか。じぶんの手を汚してまで生きてきたせいか、もはや他人のおもいを汲みとってやる情というものが非情へと変わる。わたしは臆病者、そして闖入者である。アルコールなしの生活をようやく1年過ごした。それはわたしが死ぬための準備だ。 さっきまで障碍者支援センターの担当者が坐っていたスツールに腰掛ける。そしていままでやってきた表現の世界についておもいを巡らした。わたしは無名の作家だったし、歌人だった。せまい世界のなかでしか通用しないものを書き綴ってきた。あ…

  • 彷徨

    * ゆかこというなまえとともに棄て去りぬわが青春の疵痕なども 木馬飛ぶ夢も醒めたり寝汗拭く長男ゆえのさみしさらしさ 花曇る街の静寂を駈けてゆく 罪や穢れのただなかにゐて 葉桜を手にとり給えきみの手でいずれ儚いわれの陥穽 ひとびとが河の姿で流れゆく未明の街の御伽噺よ たが母も腐れゆくなり鉄条網わが指刺さぬ一瞬のこと 世の光りわれを照らせと祈るのみ遙かな野火に癒されながら 救いなど求むる心勝るとき一羽の小鳥撃ち落としたり なだらかな地平の上を泳ぐ雲 われもいつか飛ばん ひとの死のもっとも暗い場所を掘る わが一生を忘れるために 森深くありたりひとり岩に坐すいずれ迎える臨終に寄せ 過去よりも信ずるもの…

  • たとえば夢が

    たとえば夢が足にからみつく整形外科の窓まで 跳びあがるくらいの勢いでおれは此処にやって来た 緑色の玻璃が砕け散った場所までやって来た すべてがそれらしいだけのつくりもの すべてがうわべだけの世界から あなたの心臓を突き抜け やはりだれもおれを理解しないという点で なし崩しの和解を交わした 真昼の月が眩しすぎるからというだけの理由で扼殺された男 かれの亡霊とともにひとびとが駅を急ぐなか たったひとつきりのあこがれを喪った いまだにその疵が癒えないのはぜんぶあなたのせいだ だからおれは水鉄砲で武装して病院の物干しを跳躍するんだ いつだったか、あなたがおれを指して嗤ったことやなんか、 古い屈辱のなか…

  • 歌誌『帆 han』第2号、オンデマンド先行販売

    謹啓、皆様へ。 歌誌『帆 han』をオンデマンドにて先行販売します。下記のリンクから発注できます。よろしくお願いします。 www.seichoku.com 歌誌「帆(han)」第2号 2023春 ★★★★★大人になんか解ってたまるものか──序/中田満帆(2)★特集○鷹枕可歌集(4)★★★めぐって、めぐって、/奏多めぐみ(18)ロゴス・スペルマティコスの生活と意見/安西大樹(22)救いを(ハイティーン短歌)/如月(27)光りになれない/中田満帆(31)鉄条網/帛門臣昴(42)リスキリング/佐野勉(45)詠み人知らず/高代あさ(48)物化生地/きのゆきこまち(51)★★★短歌の流行、流行の短歌/花…

  • 歌集準備稿(1)

    ヘンリー・ミラー全集 * わがための墓はあらずや幼な子の両手にあふる桔梗あるのみ いつぽんの麦残されて荒れ野あり わが加害 わが反逆 暴力をわれに授けし父老いる 赦さるることなきわれの頭蓋よ 青すぎる御空のなかをからす飛ぶ 去りぬおもいを飛びぬけながら 葉桜もちかくなるかな道のうえ鳩の骸をふいに眺むる 平鰤の刺身を友にして夜は輝くばかり女のように ひだまりのなかで瞑目する晌たしらしさにだまされていて 蛇泳ぎ毒撒く父のうしろにてもっともやさしいときを失う 母性といえば空箱おもうくらいの朝が来てひとりのギター爪弾くばかり 父権といえばわれを受け入れるもの ただしく去勢されてゆくわれも 愛語なきまま…

  • 供物狩り

    * 倖せという字を棄てる野辺に真っ赤な花が咲くとき 咎人のわれが触れよとするまたたきに鳥の一羽が去ってしまった 河枯れる陽だまりありぬ牛またぐ子供のかずを数える真昼 なみだぐむ玉葱姫よかなしみは心のなかにいつもあるべし 幼さがほまれとなりぬ少年は今宵カレーの王子さま 夕月の朧気なるを見つむるにひとはみな煙になるべし わが腿の火傷の痕よいままさに発光せし夜半の厨 なつのべに帰るところもなきがまま寄る辺を探すわれのさみしさ ゲートにて凭るるわれよ黒人の肩にゆれたる水瓶を見る 意志のないふりをつづけて文鳥の一羽が檻を飛びだしてゆく 国もなくなまえもあらじ一群の学名なぞを考える夜 自由欲しからば死ね─…

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