※ランキングに参加していません
可愛い可愛い恋人とその愛犬の写真を前にして、俺の気持ちは複雑だった。今日は2月18日、つまりは恋人の誕生日。日付が変わったと同時にたくさん愛を伝えて普段大事なところで甘えてこない恋人のために目一杯甘やかす予定だったのに、その前日になって実家に帰るから夜しか会えない、なんて言われるだなんて。俺も誕生日は実家に帰って祝ってもらっていたし、きっとチャンミンもそういうつもりなのだろうから俺が口を出せる立場で...
マンションから近いからと2人で歩いてやってきたスーパーは、意外にもその辺にある庶民的なスーパーみたいで値段も良心的だった。食費は雇用主であるチョンさんが支払うことになっているけれど、値段が高かったらあまり買うのも気が引けるし作れる料理も限られてきてしまうからちょっとホッとした。「チョンさんは好きなものありますか?」カートを押しながら野菜コーナーを物色する。俺が押すから、と言ったチョンさんからなかば...
「おかえりなさいっ」ガチャッとドアが開く音にパタパタと玄関に向かう。時刻はもうすぐ18時になろうというところ。荷解きをとっくに済ませた僕は、チョンさんの家だからそれ以上何もすることもできずに暇を持て余していたのだ。「…ただいま」チョンさんは勢いよく出てきた僕に目を丸くしたあと、小さく笑いながら靴を脱いだ。僕が鞄を受け取ると、コートを脱いでネクタイを緩めはじめたチョンさん。そのスマートな動作に、僕が女...
今日の俺の大事なミッション。それは、彼に名前を教えてもらうこと。いくら彼が天使だからって本当にそう呼ぶわけにもいかないし、というか名前で呼び合える仲になるかどうかは別問題なんだけれど、やっぱり好きな人の名前は知りたいものだ。彼がレジにいるときにタイミングよく会計に行って、胸に付けているバッジで名前を確認する。それが俺の作戦。そもそも彼がレジにいないと成立しないし、いたとしても他にもスタッフはいるか...
「すみません、今度のコンサートのことでチャンミンと相談したいことができちゃって。...
身体に何かがのし掛かるような感覚にぼんやりと意識が浮上する。窮屈なはずなのに温かくて気持ちいい。暗闇の中うっすらと目を開ければユノさんの綺麗な寝顔。一気に寝起きの頭が覚醒してその距離の近さに後ろに仰け反れば、寝ているはずなのに逃がさないとでも言うようにぎゅっと腕に力を入れるユノさん。「ああああ…もう、格好良すぎる…」今すぐ叫び出したいのを我慢して、声を押し殺して小さくなって悶える僕。ちらっと僕の頭の...
「まあ、部屋はそんな感じで。今日は説明だけの予定だし、ゆっくり荷物の整理でもしたらいい」一通りぐるっと回って説明を受け、リビングに戻ってきたチョンさんと僕。そこでふと説明を受けていない部屋があることに気が付いてチョンさんに尋ねる。「あの、あそこは何になってるんですか?」「ああ…あそこは俺の寝室。会社の書類とかも置いてあるから、片付けはしなくていいよ」「あ、はい」「…一緒に寝たかったら入ってきてもいい...
僕には好きな人がいる。2つ上の学年の、チョン・ユンホ先輩。高校の入学式の日。友達のキュヒョンと学校で待ち合わせる予定だったのに迷ってしまって、間に合わないかもと半泣きになっていたら、たまたま通りかかったチョン先輩が助けてくれたんだ。別れ際、入学おめでとう、そう言って爽やかに笑ったチョン先輩の顔が忘れられない。それから毎日先輩の姿を探してしまって、登下校の時や先輩のクラスがグラウンドで体育をしている...
男の名前はチャンミンと言うらしい。ユノはチャンミンに自分の名前を教えなかった。どうせ今夜限りもう会うことはないだろうから教える必要はないと。そう言えばチャンミンはケチだなあ、と笑った。チャンミンのアパートはユノがいたコンビニから歩いて5分ほどの、繁華街の通りを抜け東に進んだところにあった。繁華街とは違い閑散としていて、空気が冷たい。こんな静かな夜を過ごすのは久しぶりだと、ユノは思った。辿り着いたの...
ギラギラとしたネオンが彩る繁華街。カラオケやゲームセンターもあり昼は若者たちで賑わっているけれど、夜が近づくにつれ風俗の勧誘、男に媚びるため着飾った女たちや酔っ払いが増え、そこは常識が通用しない無法地帯になる。普通の人であれば夜は近寄ろうともしないであろう、そんな街。その一角、ちょうど街の入り口となる場所にあたるコンビニのゴミ置場の隣に、ユノは壁にもたれるようして座っていた。ふう、と溜め息をつきヒ...
マンションの最上階、チョンさんのリビングは大きなガラス張りになっていた。周りより一層高いタワーマンションだからか、他のマンションやビルが小さく見えるくらいだ。玄関に入った時点ですごい部屋なんだろうなあと覚悟はしていたけれど、扉を開けて目の前に広がる光景に思わず興奮してしまった。「わ、すごいです…っ、ねえ、チョンさん!」リビングに案内された僕は窓際に立ち、振り返ってチョンさんに話しかけた。するとチョ...
そりゃあ好きな人からチョコレートを貰えるのは男のロマンだけれど、本音を言えばチョコレートより君自身が欲しいだなんて俺が思っていること、君は知っているのだろうか。_ _ _ _ _いつもありがとうございまーす、なんてニコニコしながら、リボンがかけられたカラフルな包みをスタッフに配るチャンミン。それを椅子に座りながら横目で見る俺。もちろん義理だと分かっていても、受け取った男性スタッフがデレデレしているように見...
まるで猫みたいだな、と思った。気まぐれで普段は誰も寄せ付けないくせに、お腹が空いたときだけ甘えてくる。そんな君に翻弄されるのも、悪くはないのだけれど。_ _ _ _ _小腹が空いたから講義と講義の合間に立ち寄った、学食の隅にある売店。お昼時は賑わっているけれど、ピークを過ぎてしまえば閑散としていて、次の講義まで時間が空いている学生たちがまばらにいるだけ。俺は最近ハマっているスナック菓子とバナナ牛乳を手に取...
甘ったるいキャンディみたいな声色で、君はいつだって俺を突き落とすようなことを言う。「また振られたんですよお」待ち合わせ時間を少し過ぎてバーに着いた頃には、チャンミンはすでに何杯か飲んでいたようで、呂律が若干怪しくなっていた。酔っ払って絡まれたりすると危ないから、俺が来るまでは飲むなって言ったのに。俺とチャンミンは同じ大学の先輩後輩で、高校も一緒だったからそれでなんとなく話すようになって。卒業したら...
俺の名前はチョン・ユンホ。32歳。親の会社を継いで社長をやっている。毎日なかなか忙しく、これといった趣味もない。暇ではないけれど楽しみもないような、そんな生活を送っていた。そんな俺にもどうやら転機がきたようだ。車を降りて、コンビニの前で深呼吸をする。コンビニに入るくらいで緊張する奴なんて、きっと周りを探しても俺くらいしかいないんじゃないだろうか。昨日からずっと、このコンビニで出会った彼のことを考えて...
触れ合う指先の熱で、僕は今日も生きていることを実感するんだ。「ヨボセヨ、ユノ」「チャンミナ」午前1時38分。電話から聞こえる少し不機嫌そうな声に、思わずくすりと笑ってしまった。「なに笑ってんだよ、チャンミナ」「いえ…誕生日、おめでとうございます」ゆっくりそう言うと電話越しでも彼の表情が柔らかくなるのが分かる。ああ、その笑顔を今年も隣で見たかったなあ。でも今年は実家に帰るって言うから。彼の大切な家族なん...
思えばこれは初恋だったのかもしれない。15歳で芸能界デビューしたチャンミン。どこに行っても弟のように可愛がられていたチャンミンは、年月が経つにつれ美しく清廉な男に成長した。番組の共演者や他のグループの女の子たちから電話番号を聞かれたり、食事に誘われることも少なくはなかった。可愛い女の子が自分に好意を持ってくれるのは嬉しい。そう思っていても。それでも、チャンミンの中での一番はずっとユノだった。根っから...
俺は自炊ができない。だから家で食べるご飯はもっぱらスーパーのお惣菜や弁当を買う。仕事終わりにスーパーに寄って、夜ご飯と次の日の朝ごはんを買う。それが日常。毎日忙しいし、パパッと食べられるものならそれで充分。「何も残ってない…」いつもより帰る時間が遅かったからだろうか。会社までの通り道にあるスーパーにはお惣菜と言える類のものは綺麗さっぱり何も残っていなかった。それなら、と仕方なくパンの売り場も見てみ...
10月も半ばにさしかかり、夜もだいぶ涼しくなってきた。…さむい。剥き出しの肩に触れる冷たい空気で目を覚ましたチャンミンは、まだ夜も明けない暗闇の中で毛布を探した。足元でぐしゃぐしゃになっていたそれを広げて、つい先ほどまで熱を分け合った隣にいるその人にもかけてやる。彼は軽く身じろぎしたけれど、チャンミンの方に寝返りをうつことはない。ー絶対に、だ。いつから、どうして、こんな関係になってしまったんだろう。...
「ブログリーダー」を活用して、ニカさんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。