chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
長内那由多のMovie Note https://blog.goo.ne.jp/nayutagp01fb-zephyranthes

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

最新映画や海外ドラマ、Netflix配信作を中心とした映画レビュー。アカデミー賞予想記事も有り。半期毎に総括ベストテン記事も書いています。「ドラマも同じくらいの熱量で見ていなければ今の映画は語れない!」が最近の信条です。

長内那由多のMovie Note
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2017/03/20

arrow_drop_down
  • 『ベイビーガール』

  • 『エミリア・ペレス』

    カンヌ映画祭で主要キャスト4名に女優賞が与えられたのを皮切りに、アカデミー賞では非英語映画として歴代最多13部門でノミネートされた本作。カーラ・ソフィア・ガスコンがトランスジェンダーとして初のオスカー主演女優賞候補に挙がるなど話題に事欠かない本作だが、果たして2024年を代表する傑作かというと怪しいところだ。舞台はメキシコ、主人公リタ(そう、誰がどう見ても主演はゾーイ・サルダナである)はマフィアら犯罪者を弁護する悪徳弁護士。彼女は巨大ドラッグカルテルの麻薬王マニタスに誘拐され、驚くべきオファー受ける。抗争に疲れ果てた彼は自らの死を偽り、性転換して女性としての人生を歩みたいと言うのだ。『リード・マイ・リップス』『真夜中のピアニスト』『預言者』を手掛け、『ディーパンの闘い』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した...『エミリア・ペレス』

  • 【ポッドキャスト更新】第97回 映画はこれでいい『バッドランズ』『白夜』他

    少なくとも首都圏では劇場で見られる映画の選択肢が豊富にある。昨夏、全米で大ヒットしたホラー『ロングレッグス』がついに劇場公開。途中、ジャンルが変わる“転調”に対し巷では不評の様子だが、97年の黒沢清監督作『CURE』から逆引きすると…。2010年代の“スクリーミングクイーン”マイカ・モンローは、サバービアが窮屈そうな美少女から大人の俳優へと脱皮。(14:05頃より)テレンス・マリックの伝説的監督デビュー作『地獄の逃避行』がタイトル改め『バッドランズ』(原題)となってついに日本劇場初公開。ブルース・スプリングスティーンの名曲『ネブラスカ』のモデルにもなった殺人鬼カップルを描く本作。センセーショナルな題材ながら、一貫されるマリックの作風とは?(18:48頃より)1971年のロベール・ブレッソン監督作『白夜』も...【ポッドキャスト更新】第97回映画はこれでいい『バッドランズ』『白夜』他

  • 『ミッキー17』

    2020年、ハリウッドは韓国映画『パラサイト』に外国映画として初となるオスカー作品賞を与えた。長編デビュー作『吠える犬は噛まなない』からポン・ジュノの才能に心酔してきた我々からすれば、随分と遅い認知に思えたが、それでも天才監督に新たな栄誉が加わったことは素直に喜ばしかった。さぁ、オスカー監督というタイトルを得てハリウッドでどんな映画を撮るのか?決して駄作ではないものの、かつてワインスタインに苦しめられたハリウッドデビュー作『スノーピアサー』の雪辱を期待したのだが…。ハリウッドはポン・ジュノにキャリアワーストを撮らせたことを恥じるべきだ。ついでに本作を絶賛している北米批評家も恥じ入るべきだ。彼らはきっと『殺人の追憶』『グエムル』『母なる証明』に打ちのめされたことがないのだろう。ポン・ジュノのアイデアの枯渇を...『ミッキー17』

  • 『レイブンズ』

    TVシリーズ『将軍』が世界的大ヒットを記録。助演男優賞を獲得したゴールデングローブ賞では喜びを爆発させたスピーチがアワードシーズンの一種のトレンドになるなど、名実ともに“世界のアサノ”に昇り詰めた感のある浅野忠信。狡猾だがどこか憎めない“ファニーサムライ”藪茂役で認知した海外ファンも少なくないだろう。しかし長年、彼を見続けてきた日本の映画ファンにとっては、『レイブンズ』のようなインディペンデント映画で見せる野性味と繊細、孤高こそが本懐として映るハズだ。浅野が演じるのは写真家の深瀬昌久。1960〜90年代初頭にかけて多くの作品を発表し、74年にはニューヨーク近代美術館でも紹介されたアーティストである。そんな彼の創作衝動、ミューズとなった妻・洋子との愛憎関係、重度のアルコール依存を時系列順に描く本作は型通りの...『レイブンズ』

  • 『バッドランズ』

    1973年に公開されたテレンス・マリック監督のデビュー作は、長らく日本ではTV放映やレンタルビデオでしか見ることができず、マリック自身が続く78年の『天国の日々』を最後に20年間もディレクターズチェアを離れたことから“伝説のデビュー作”と呼ばれ続けてきた。2025年、日本での記念すべき劇場初公開に合わせ、タイトルを原題そのまま『バッドランズ』と改め、ついにその伝説が再検証されるに至った。映画は1957年〜58年にかけネブラスカで起こった実際の事件をモデルにしている(ブルース・スプリングスティーンの『ネブラスカ』も同じ出来事に材を得ている)。マーティン・シーン演じる清掃夫のキットは、サバービアの庭先でバトントワリングに興じる少女ホリーを見初め、2人は程なくして結ばれる。しかし25歳と15歳、家柄も異なる2人...『バッドランズ』

  • 『白夜』

    あぁ、これは映画館の闇に身を潜め見なくてはいけない映画だ。4Kでリマスタリングされたロベール・ブレッソン監督の『白夜』は、スクリーンを通じて1971年パリはセーヌ川のほとり、ポンヌフ橋の夜気が流れ込んでくる。主人公は画家のジャック。しゃにむにパリを練り歩き、理想の女性に巡り会ったと錯覚しては後を追う恋に恋する若者だ。ある夜、彼はポンヌフ橋の欄干から身投げしようとする若い娘マルトに出会う。聞けば彼女は愛し合った男が約束の1年を過ぎてもパリへ戻らないことに悲観していた。以来、2人は毎夜ポンヌフのたもとで互いの身の上を語り合っていく。わずか83分の映画にはたったこれだけのプロットしかない。だが、あと100分続いたって構わない至福の映画時間がここにはある。恋の予感と性愛への期待。言葉に優る映画の言語が散りばめられ...『白夜』

  • 『Flow』

    2024年、最も目の醒めるような映画体験はラトビアからやって来た。人類文明が水没した世界を1匹の黒猫が旅する。ここには安易な擬人化もなければ台詞もない。アニメーションの原初表現が動物たちに魂を宿らせ、観客を目覚めさせるのだ。映像技術の向上のみならず、アイデンティティポリティクスの時代を経てアニメーション映画のストーリーテリングは多様化したが、あまりにも多くのイシューを背負い、絵よりも言葉で語る“口数”が多くなり過ぎてはいないだろうか。2019年の前作『Away』をたった1人で撮り上げた1994年生まれギンツ・ジルバロディス監督の洗練にハリウッドも帽子を脱ぎ、本作はアカデミー賞の長編アニメーション映画賞に輝いた。驚くべきはそのカメラワークだ。猫の目線の高さが徹底され、多くの場面はカットが割られることなく、ま...『Flow』

  • 【ポッドキャスト更新】第96回 『セヴェランス』ワーク・ライフ・バランスとは?

    TVシリーズを最終回までネタバレ有りでお喋りする“TVシリーズ雑談回”。今回はAppleTV+で配信中の『セヴェランス』シーズン2について。究極のクリフハンガーで終わった前シーズンから3年。謎が謎を呼ぶ焦れったい展開は、TVドラマ史に残る名作に肩を並べようとしている?シーズン2は新しい要素を活かしきれていない?監督ベン・スティラーの作家性とは?真のテーマは階級闘争?マークのアウティは民主党支持者?ミルチックさんは敵じゃない?最終回で使われていた曲はあの名作映画の主題歌?そもそも労働と人生を切り離すことなんてできるの?自ずと長内の就業経験や、見聞きしたブラック企業の実態も話さずにはいられない今回。花粉症が極まっており、お聞き苦しい部分は何卒ご勘弁を!音声はこちらからもお聞き頂けます(Spotify)stan...【ポッドキャスト更新】第96回『セヴェランス』ワーク・ライフ・バランスとは?

  • 『ロングレッグス』

    ホラー映画は数あれど、オズグッド・パーキンス監督(父はあのアンソニー・パーキンス)の『ロングレッグス』はたじろくほど禍々しい。舞台は1993年。父親が妻と幼い娘を惨殺した後、自ら命を断つ事件が起こる。無理心中にも思える中、密室の現場にはロングレッグスなる人物からの暗号文が遺されていた。事件はこれ1つではなく、30年以上も前から一定のアルゴリズムによって繰り返されてきたのだ。新人FBI捜査官リーは霊的とも言うべき天性の直感に導かれ、謎の連続殺人鬼の行方を追う。暗褐色を基調とした室内シーンと、冬の曇天が続く屋外シーンを組み合わせた沈鬱な映像。優れた耳を持った映画作家ならではの音響設計。静寂をつんざくショック音は観客の生理を逆撫でし、一見彼とはわからないニコラス・ケイジに慄く。セルフパロディに陥ることのないケイ...『ロングレッグス』

  • 『レッド・ロケット』

    ショーン・ベイカーが勇猛果敢なフィルムメイカーであることは今更、言うまでもないが、それにしたって2021年の『レッド・ロケット』は肝が座っている。テキサスの田舎町、長距離バスから1人の男が降り立つ。彼の名はマイキー・セイバー。知る人ぞ知る、いや男なら1度は顔とアレを見ている人気ポルノ男優だ。彼はズンズン歩いていくと、1軒の家に押し入る。疎遠の実家か、昔の女か。顔を出したのは離婚すらしていない“元嫁”にして、幾つものヒット作を共に送り出したポルノ女優レクシーだ。ベイカーはマイキー役に本物のポルノ男優サイモン・レックスを起用し、呆れるほど痛快なキャラクターを作り上げた。マイキーは口八丁に手八丁でレクシー家に居座ると、今度は生活費を稼ぐため何とドラッグディーラーへ転身。昔取った杵柄と言うが、そんな程度で務まるの...『レッド・ロケット』

  • 『ガンニバル シーズン2』(寄稿しました)

    WEBメディア“Niew”に、『ガンニバル』シーズン2について寄稿しました。前シーズンを凌駕するバイオレンスアクションや、柳楽優弥と双璧を成す笠松将の好演、グローバルヒットを狙うTVシリーズ原作として、今後ますますの鉱脈となる週刊連載漫画に注目しています。ネタバレはないので、視聴前のイントロダクションにどうぞ!記事はこちら『ガンニバルシーズン2』(寄稿しました)

  • 『ニッケル・ボーイズ』

    近年、アメリカ映画は『ホールドオーバーズ』『パストライブス』といったオスカー候補作から、『チャレンジャーズ』『ツイスターズ』といったボックスオフィスの人気作まで、3人1組のスリーサムを多く描いてきた。1対1の関係にもう1人が加われば、それは自ずと社会を映すことになる。ハリウッドはアイデンティティポリティクスの時代において社会を啓蒙しようとしたが、そこには個人への眼差しが欠けていたように思う。弱く、不完全で、曖昧な個人の存在なくして人間を描くことはできない。僕はそう器用に自分の周りを見回すことなんてできない。究極的には眼の前の大切な誰かと、1対1でぶつかっていくことしかできないのだ。バリー・ジェンキンス監督『地下鉄道』で知られるコルソン・ホワイトヘッドの小説を新鋭ラメル・ロスが監督した本作は、徹底されたメソ...『ニッケル・ボーイズ』

  • 【ポッドキャスト更新】第95回 私はどう生きるのか『アノーラ』『名もなき者』『ニッケル・ボーイズ』『教皇選挙』

    https://open.spotify.com/episode/2ufLSSsqUQm3foRsA0dzNC?si=QAJp-Bo0S_aeGYjthwrqXwアカデミー作品賞ノミネート作が続々と公開され、2024年のアメリカ映画がいったい何を描いていたのかが朧気と見えてくる。(3:40頃より)オスカー5冠の『アノーラ』が初見時にはピンと来なかった長内。読み解くヒントはショーン・ベイカーの前作『レッド・ロケット』にある?アノーラは可哀想な娼婦ではない?イゴールはいったい何を象徴しているのか?ショーン・ベイカーが最も嬉しかったノミネートは編集賞?(16:47頃より)音楽的知見がなく、世間一般程度のボブ・ディランの知識しかない観客は『名もなき者ACOMPLETEUNKNOWN』をどのように見れば良いのか?シ...【ポッドキャスト更新】第95回私はどう生きるのか『アノーラ』『名もなき者』『ニッケル・ボーイズ』『教皇選挙』

  • 『アノーラ』

    あのショーン・ベイカーがオスカー独占。しかも個人で作品(プロデュース)、監督、脚本、編集の4冠は歴代最多。アメリカンインディーズ最後の雄と言っても過言ではない彼が随分と遠くまで来てしまったなぁと感慨もひとしおである。『アノーラ』はそんなベイカーの気質がメインストリームに結びついた代表傑作だ。舞台はNY、高級ストリップクラブのダンサー、アニーはロシア新興財閥の息子イヴァンに見初められ、“エッチなガールフレンド”として専属契約を結ぶ。オルガリヒの金を浪費する贅沢三昧の末、2人は旅行先のラスヴェガスで電撃婚。しかし彼らの仲を裂こうとイヴァンの両親はアルメニアンギャングを送り込む。もちろん、このプロットで底抜けのコメディだ。25歳でアカデミー主演女優賞に輝いたマイキー・マディソン演じるアニーは、ベイカー映画の集大...『アノーラ』

  • 【おしらせ】ポッドキャストをYouTube連携しました

    ポッドキャスト『長内那由多のMovieNote』をYouTubeに連携しました。これでYouTube他、Spotify、AmazonMusic、ApplePodcast、standFMからご視聴頂くことができます。お使いのプラットフォームからどうぞ。番組登録もよろしく!YouTubeチャンネルはこちらから【おしらせ】ポッドキャストをYouTube連携しました

  • 【ポッドキャスト更新】第94回 第97回アカデミー賞振り返り(with木津毅)

    https://open.spotify.com/episode/1hpRbHkUShnZbJ9Qb7LWlW?si=D2jMtlnlSo--QaUNI2Vv9Q第97回アカデミー賞終了直後、木津毅さんと行った緊急ライブ配信の模様をお届け。今年の盛り上げ番長はコールマン・ドミンゴ?007のトリビュートは映画産業への“追悼”だった?キーラン・カルキンのスピーチは昨年のエミー賞が伏線?今後のオスカーレース予想の鍵は英国アカデミー賞?今年のベストスピーチは?シャラメは“ディカプリオコース”に乗った?主演女優賞の結果はまさに『サブスタンス』?今年の主役はインディペンデント映画?予想編も合わせてどうぞ。音声はこちらからもお聞き頂けます【ポッドキャスト更新】第94回第97回アカデミー賞振り返り(with木津毅)

  • 【ポッドキャスト更新】第93回 第97回アカデミー賞受賞予想(ゲスト:木津毅)

    https://open.spotify.com/episode/3tXUOP26B2Ba9zLZQyeeQH?si=Kzw4fcoET6GHdpiCuLYEmQ当番組始まって以来、初のゲスト回!ライターの木津毅さんをお招きし、東京都練馬区江古田にあるcafeearthで行われた公開収録イベントの様子をお届け。長内と木津、それぞれアカデミー賞とはどんな距離感?アカデミー賞の楽しみ方とは?ストライキ後の稀に見る閑散の中で選ばれた10作品によるオスカーレース。ハリウッドが向かうべきは何処なのか?過去約10年のオスカーの沿革や仕組み、主要6部門をはじめとした各部門の注目作品、俳優の解説など盛り沢山。収録終盤には意外な乱入者も?!オスカー予想のみならず、上半期注目作品ガイドとしてもどうぞ!音声はこちらからもお聞き...【ポッドキャスト更新】第93回第97回アカデミー賞受賞予想(ゲスト:木津毅)

  • 【ポッドキャスト更新】第92回 ドキュメンタリー映画を見る『ノー・アザー・ランド』他

    https://open.spotify.com/episode/0SDkHve3xR0XQjr5DQVU22?si=SfiOekU8QgekV_wQPFuMEg毎年、この時期はオスカー候補作はじめ各アワードのノミネーションリストを頼りにドキュメンタリー映画を漁る長内。計9本もお喋りして早口になってしまったのは御愛嬌。各作品の再生時間とレビューは以下の通り。『ノー・アザー・ランド』『シュガーケイン』(12:20分頃)『InstrumentsofaBeatingHeart』(16:00分頃)『ザ・レディ・イン・オーケストラ』(20:40分頃)『フリーダ愛と痛みを生きた肖像』(23:34分頃)『ドーターズ』(26:40分頃)『イベリン彼が生きた証』(31:05分頃)『心の声を見つけてマケイラからの手紙』(35...【ポッドキャスト更新】第92回ドキュメンタリー映画を見る『ノー・アザー・ランド』他

  • 【3/1開催】ポッドキャストの公開収録を行います

    ポッドキャスト“長内那由多のMovieNote”公開収録イベントを行います。今回はなんと初のゲスト回!ライターの木津毅さんをお招きし、日本時間3月3日に迫ったアカデミー賞についてお喋りします。オスカー予想に始まり、アカデミー賞の楽しみ方、賞レースを取り巻くトピックなど盛り沢山の予定です。差し迫った開催ですが、ぜひともお気軽にお越しください!長内那由多のMovieNote公開収録『アカデミー賞特集』回日時2025年3月1日(土)、15:00開演(14:30開場)所cafeearthカフェアースhttps://x.com/cafeearth2017?t=qOpQufSKGWQjpdSujcKnoA&s=09(練馬区旭丘1丁目56−13−101)※江古田駅南口旭丘文化通り(練馬総合病院へ行く道)を2分歩き、左側...【3/1開催】ポッドキャストの公開収録を行います

  • 『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』

    アカデミー賞でもとりわけ政治的主張を帯びやすいのが長編ドキュメンタリー部門である。ロシアによるウクライナ侵攻が続くここ2年の受賞作だけを見ても『ナワリヌイ』『マリウポリの20日間』が続き、今年はどうやら本作に決まりそうだ。ヨルダン川西岸の村マサーフェル・ヤッタに暮らすバーセルと、イスラエルからやってきたユヴァル。2人の青年が2019年よりエスカレートする侵略の様子を収めた迫真のドキュメンタリーだ。1967年の第三次中東戦争以後、イスラエルは着々と領土を拡大した。1993年にオスロ合意が締結されるも、イスラエル入植者たちは一方的にパレスチナの人々を追い出し続ける(憎しみに満ちた入植者たちが、パレスチナ人に対する暴力装置として機能している様にゾッとさせられる)。岩山だらけのマサーフェル・ヤッタに現れたイスラエ...『ノー・アザー・ランド故郷は他にない』

  • 『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』

    記録ずくめの大成功を収めた前作『デッドプール&ウルヴァリン』から7ヶ月、久しぶりにMCU新作がお目見えだ。『マーベルズ』の壊滅的な大失敗の後、映画にテレビシリーズと拡大の一途を辿ったユニバースを軌道修正すべく選択と集中を迫られたマーベルは、“キャプテン・アメリカシリーズ”としては通算4本目となる『ブレイブ・ニュー・ワールド』に度重なる追加撮影を施した。従来であれば駄作の前兆とも取れるプロセスだが、どうやらそうでもなさそうだ。アベンジャーズを総動員してまで応援した民主党カマラ・ハリスの大統領選挙敗退後、目まぐるしく変動する世界情勢を鑑みた“加筆修正”だったのではないだろうか。協調路線を謳う元軍属の大統領ロス(ハリウッドでは“二期目”の大統領役ハリソン・フォード)と、何者かに洗脳された“影なき狙撃者”の暗躍に...『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』

  • 『ブルータリスト』(寄稿しました)

    Niewに『ブルータリスト』について寄稿しました。3時間35分の大作ゆえに鑑賞後は言語化しにくい本作。重層的なテーマを読み解くヒントは監督ブラディ・コーベットの過去作にある?そして偶然にも同時期公開となる『名もなき者/ACOMPLETEUNKNOWN』との精神的類似に注目しています。他、オスカーにノミネートされた各見どころを紹介。映画を観る前に読んでもらっても大丈夫。ぜひ御一読ください。記事はこちら記事内で触れている各作品のレビューはこちら『シークレット・オブ・モンスター』『ポップスター』『ワールド・トゥ・カム彼女たちの夜明け』この他、当ブログの年間ベスト10第1位に選出しています。『ブルータリスト』(寄稿しました)

  • 【ポッドキャスト更新】第91回 『セブン』『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』『阿修羅のごとく』

    https://open.spotify.com/episode/3NkTYNH9VVBC9VcrENP3K5?si=mWfTURmDSD6aQ-bI70Td0w旧作、新作、リメイク。1995年のデビッド・フィンチャー監督作『セブン』が4K、IMAXでリバイバル中。初めて劇場で観た長内は、両隣の客のある反応に気付き…。今回の目玉の1つは音響設計。後のフィンチャー作品へ引き継がれたある演出技法とは?(14:03頃より)MCU久しぶりの新作『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』が公開中。渋い評価の長内だが、キャストには満足している様子。サムとアベンジャーズメンバーの決定的違いとは?(23:43頃より)Netflixで配信中のTVシリーズ『阿修羅のごとく』は今年最初の傑作ドラマ。豪華4女優を迎えた...【ポッドキャスト更新】第91回『セブン』『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』『阿修羅のごとく』

  • 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

    ボブ・ディランの伝記映画はこれまで幾度となく企画されてきたが、ディラン以外の誰が彼の数奇なキャリアを捉え、人生を物語ることができるだろう?2007年にはトッド・ヘインズが6人の役者を擁してディランを演じさせ、『アイム・ノット・ゼア』と題したが、イライジャ・ウォルドによるボブ・ディラン評伝“DylanGoesElectric!”を脚色したジェームズ・マンゴールドもまた『ACOMPLETEUNKNOWN』と題した。フォークからエレキへ移行するキャリア初期5年間を通して、ディランの精神性と時代を超える芸術を再定義するのだ。1961年、ボブ・ディランはNYに降り立った。真っ先に向かったのは入院中であるウディ・ガスリーの見舞いだ。フォーク界の巨星はハンチントン病を患い、今や歌うこともギターを弾くこともできなくなって...『名もなき者/ACOMPLETEUNKNOWN』

  • 【おしらせ】メディア出演〜TV、ラジオ番組で映画を紹介しました

    1/26放送、「有働Times」で今年のアカデミー賞ノミネートについて取材を受けました。『名もなき者ACOMPLETEUNKNOWN』『サブスタンス』を中心に紹介しています。告知が遅くなってスイマセン。TVerで見られるかも?また2/17放送、J-WAVEの「GRANDMARQUEE」では『ブルータリスト』を紹介しています。番組の様子はradikoやSpotifyから聞くことができます。【おしらせ】メディア出演〜TV、ラジオ番組で映画を紹介しました

  • 【ポッドキャスト更新】第90回 2月公開注目作①『セプテンバー5』『聖なるイチジクの種』『ブルータリスト』

    https://open.spotify.com/episode/0RZl6djzAvCUQULmeAXyd2?si=-T86elQFRkW-ZBSNe0MVxAアカデミー賞直前、注目作が渋滞する2月前半公開作から3本を紹介。『セプテンバー5』は2024年、最も過小評価された1本?充実の演技陣で最も目を引いたのは忘れられたあの二枚目俳優?本作の重要なサブテキストは2005年のある傑作映画?(8:00頃より)『聖なるイチジクの種』は長内も2024年ベスト10の1本に選出したパワフルな1本。ゴリゴリの社会派映画に見えるけど、実はサスペンス・アクション?キャラクターを単純化しない脚本の妙、日々憔悴する父親の身にいったい何が起きていたのか?(13:05頃より)アカデミー賞10部門ノミネート作『ブルータリスト』が先...【ポッドキャスト更新】第90回2月公開注目作①『セプテンバー5』『聖なるイチジクの種』『ブルータリスト』

  • 『フリーダ 愛と痛みを生きた肖像』

    メキシコが生んだシュルレアリスム作家フリーダ・カーロ。遺された手記や写真、フィルム等の貴重な資料から彼女の生涯を辿ったドキュメンタリー。若くして負った大事故の傷、国民的画家ディエゴ・リベラとの波乱万丈な結婚生活、そんな心身のストレスと相対しながら生まれていったシュールな自画像…彼女の肉筆から人物像を読み解く語り口は紋切り型かもしれないが、初めてフリーダを知る観客には的確に機能するだろう。彼女の伝記映画ではサルマ・ハエック主演『フリーダ』が有名だが、今再び映像化するなら主演にメリッサ・バレラはどうだろうか。鮮烈な美を放つ若きフリーダの写真には、彼女が生きた激動の時代と、トロツキーら多くの著名人と関係を結んだ愛への希求を思わずにはいられなかった。『フリーダ愛と痛みを生きた肖像』24・米監督カルラ・グディエレス...『フリーダ愛と痛みを生きた肖像』

  • 『ドーターズ』

    受刑者たちが自らの娘を招き、ダンスパーティーを催す更生イベントの様子を追ったドキュメンタリー。プログラムは彼らに父親の責任を自覚させ、再犯率を5パーセントにまで抑える実績がある一方、長年に渡り父親不在の環境で育った娘たちには複雑な想いが募る。映画は刑期満了まで数ヶ月〜30年と幅のある受刑者たちの罪状を明かすことなく、彼らの贖罪にのみ注目していく。プログラムの参加者全員が黒人であることに注目してほしい。面会すら従量課金サービスと化す“刑務所ビジネス”が、黒人への差別と偏見から機能していることはエヴァ・デュヴァネイ監督の『13th』でも看破されていた。本作はそんな刑務所の現状をジャーナリスティックに描く一方、父を想う少女達の姿をリリカルな映像美で綴っている。5歳の少女オーブリーの健気さは涙を誘うが、3年という...『ドーターズ』

  • 『シュガーケイン』

    1800年代末、カナダ政府の同化政策によって先住民族の子ども達がカトリック系寄宿学校に送られた。この制度は約100年間に渡って続くことになり、近年校舎跡からは多くの無名墓が発見され、恐るべき実態が明らかとなる。第97回アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている本作は、“もう1つの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』”とも言うべき衝撃作だ。寄宿学校では神父たちによる虐待が繰り返され、不審死が相次いだという。そして少女たちへの性的暴行の結果、生まれた赤ん坊たちが焼却炉に送られ、遺棄されるまでが徹底的に管理運営されていたのだ。映画は地域住民4世代に渡る苦しみを追い、観客に布教の名の下の文化的侵略と虐殺の事実を突きつける。心して見てもらいたい。『シュガーケイン』24・加監督ジュリアン・ブレイブ・ノイ...『シュガーケイン』

  • 『野生の島のロズ』

    ディズニーの寡占により、多様性とは程遠く思えるハリウッドのアニメーション市場。そんな中、『リロ・アンド・スティッチ』でブレイク後、ドリームワークスを拠点とするクリス・サンダース監督は今や頼もしい名匠の1人だ。『ヒックとドラゴン』シリーズで名を知られる彼の新作はピーター・ブラウンの『野生のロボット』を原作に、無人島へ漂着した1体のロボットが主人公。海辺で目覚めたロボットには高度なAIが搭載されており、彼女(そう、女性である!)は自然環境に適応すると動物の言葉すら解せるようになっていく。ハリウッドでは映画の内外問わず敵扱いされるAIだが、ここで描かれるのは初めての子育てだ。とある事故をきっかけにロボットは渡り鳥のヒナを育てることになる。教科書通りに進まないのが子育てであり、自分1人ではとてもままならず、また自...『野生の島のロズ』

  • 『リプリー』

    パトリシア・ハイスミス原作"リプリー”シリーズがTVシリーズ史上、類を見ない野心で再映像化された。前作『ナイト・オブ』で脚本家としてのみならず、映像作家としての才能も成熟させたスティーヴン・ザイリアンが今一度、名撮影監督ロバート・エルスウィットとコンビを組み、全8話をモノクロームで撮り上げてしまった。1カット足りとも無駄のない映像美はおよそスマートフォンでの視聴を想定していない極上である。物語は今更、言うまでもないだろう。ケチな詐欺師のトム・リプリーは富豪グリーンリーフ(本作では名脚本家、監督のケネス・ロナーガンが演じている)から放蕩息子を連れ戻すように頼まれ、イタリアへと渡る。同原作の映像化ではルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』が最も有名だが、ザイリアンはドロンの美しさはおろか、...『リプリー』

  • 【ポッドキャスト更新】第89回 最近見たTVシリーズ4本

    https://open.spotify.com/episode/367EiDFGamhVsvx3bRdj7c?si=R-dfVzkKT-u-Gunz-pYaaw言及するタイミングがなかったTVシリーズ4作品についてお喋り。U-NEXTで配信中、偏愛の『サムバディ・サムウェア』はシーズン3で完結(打ち切り)。幸せな日常にある孤独や寂寥に目を留めた繊細な今シーズン。キーとなるのは冬のカンザスロケーション?(9:18頃より)Netflixで配信中『グランパは新米スパイ』は傑作コメディ『グッド・プレイス』のチームが再結集。予告編を見て「あれ、この話知ってるぞ…」となった長内。実はあの作品のリメイク?(16:20頃より)大ヒットシリーズ第2弾『イカゲーム』シーズン2が配信中。前シーズン同様、今回もローカルであり続...【ポッドキャスト更新】第89回最近見たTVシリーズ4本

  • 『Instruments of a Beating Heart』

    山崎エマ監督によるドキュメンタリー『小学校それは小さな社会』の短縮版『InstrumentsofaBeatingHeart』が第97回アカデミー短編ドキュメンタリー賞ノミネートされた。世田谷区の公立小学校に密着した山崎は、そこで間もなく2年生となる女の子アヤメに注目する。新1年生の入学式で行われる器楽演奏に向けてパートのオーディション、合奏練習が行われるのだ。小学1年生の演奏とはいえ、担当教師の指導は熱が入ったもので、生徒の統制も取れている。ところがアヤメは練習不足から合奏中に失敗。皆の前で教師から叱責を受け、大粒の涙をこぼす…。日本の小学校に通った経験がある人なら、誰もが覚えのある場面だろう。6年間で徹底的に教え込まれたのは協調と連帯、定められたルールを遵守する集団意識だ。山崎は何時の段階で“日本人らし...『InstrumentsofaBeatingHeart』

  • 『イベリン 彼が生きた証』

    マッツ・スティーンは生まれながらデュシェンヌ型ジストロフィーを患い、25歳の若さで生涯を閉じることになる。幼少期から車椅子での生活を余儀なくされ、思春期の大半を自室でのTVゲームに費やした。両親は我が子が友情や恋、社会と関わることなく世を去ったことに打ちひしがれる。ある日、マッツが残したブログパスワードからネット上に訃報を知らせると、驚くことに多くの哀悼メールが送られてきた。マッツはオンラインゲーム上で多くの友人を作り、全く別の人生を歩んでいたのだ。世界的な人気オンラインゲーム『ワールド・オブ・ウォークラフト』の世界でマッツは"イベリン”という名前で生きていた。表向きは“私立探偵”を名乗っていたようだが、その実はお悩み相談だったようだ。外の世界を知らないからこそ親身なイベリン=マッツのアドバイスに多くの人...『イベリン彼が生きた証』

  • 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』

    ※このレビューは映画の重要な展開に触れています庵野秀明とスタジオカラーが満を持して挑むガンダムシリーズ最新作は、開始1秒で重力に魂を引かれたオールドファンを仰け反らせる。なんと1979年の第1作『機動戦士ガンダム』第1話、『ガンダム大地に立つ』がそっくりそのまま再現されるのだ。アヴァンシークエンスが終わると、連邦軍のV作戦をキャッチしたシャア率いる3機のザクがサイド7に潜入する。うるさ型のファンはここで気付くだろう。1979年、もとい宇宙世紀0079にシャアはサイド7に入っていない。部隊は開発中の連邦軍モビルスーツを発見。シャアは白い機体に乗り込む。こいつ、動くぞ!本気か?歴史は塗り替えられる。一年戦争はジオン軍の勝利に終わる。『ジークアクス』の真の物語が始まるのはここからだ。未だ正式な放映日はアナウンス...『機動戦士GundamGQuuuuuuXBeginning』

  • 『心の声を見つけて マケイラからの手紙』

    マケイラは染色体異常により先天的に言葉を発することができない自閉症だという。彼女は文字盤からコミュニケーションを得る術を見つけると、内なる天性の文才を発揮していく。マケイラがイメージする声に近しい声優がナレーションを務め、美しい映像で家族に宛てられたビデオレターである本作は、24分間、観る者を愛で包み込む。しかし、彼女ほど裕福でもなければ声も術も持たない、多くの子どもたちを思わずにもいられないのである。第97回アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門ショートリスト選出作品。『心の声を見つけて:マケイラからの手紙』24・米監督ジュリオ・パラシオ※Netflixで独占配信中『心の声を見つけてマケイラからの手紙』

  • 『セプテンバー5』

    1972年9月5日、ミュンヘンオリンピックが行われている最中、イスラエル選手団がパレスチナゲリラ“黒い9月”に襲撃された。選手村の窓から顔を出す不気味なテロリストの映像は世界中に生中継され、衝撃を与える。何度も映像化されてきたこの事件を、新鋭ティムール・フェールバウム監督は米abc現地調整室内に舞台を限定して描いた。問いかけるのは2020年代における報道倫理だ。SNSの台頭により旧来的なジャーナリズムが“オールドメディア”とも呼称される昨今、『セプテンバー5』は眼前の事件を物語と謳う全てのメディアを射程にしている。今日的なテーマを端的に語るフェールバウムによって、ミニマルな脚本、緊迫感に満ちた演技アンサンブル、スピーディーな編集の3拍子が揃い、実に引き締まった90分である。事件の中継を行ったのはオリンピッ...『セプテンバー5』

  • 『聖なるイチジクの種』

    “不屈”という言葉はモハマド・ラスロフにこそ相応しい。現代イラン映画の名匠は2020年『悪は存在しない』でベルリン映画祭金熊賞を受賞するも、過去作が反体制的であるという理由からイラン政府に出国を禁じられ、懲役刑を言い渡された。ラスロフは後にイランを脱出、現在はヨーロッパを拠点としている。そんな彼の新作『聖なるイチジクの種』は体制や社会規範に疑問を突きつけ、国籍を問わず観る者を揺るがす力作だ。ラスロフの手腕は並々ならぬ緊迫感に満ちており、167分という長尺を少しも緩ませない。冒頭、1人の男が秘密裏に1丁の拳銃を受け取る。イラン政府に務めるイマンは昇進を果たし、護身用にと銃を入手したのだ。予告編ではこの銃の紛失が重要なストーリーラインとして語られているが、実際には映画が1時間を過ぎてからのプロットであり、ラス...『聖なるイチジクの種』

  • 『陪審員2番』(寄稿しました)

    2月3日発売、月刊シナリオ3月号の連載“洋画時評”でクリント・イーストウッド監督最新作『陪審員2番』をレビューしています。『ミスティック・リバー』『真夜中のサバナ』『トゥルー・クライム』、そして『ダーティハリー2』を経由して巨匠の作家性に触れています。お近くの書店で見かけた際はぜひお手にとってみて下さい!『陪審員2番』についてはポッドキャスト“年間ベスト10回”でも言及しています。『陪審員2番』24・米監督クリント・イーストウッド出演ニコラス・ホルト、トニ・コレット、ゾーイ・ドゥイッチ、クリス・メッシーナ、J・K・シモンズ、ガブリエル・バッソ『陪審員2番』(寄稿しました)

  • 『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』

    御歳75歳、スペインを代表する世界的巨匠ペドロ・アルモドバルは一向に枯れない。前作『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』でイーサン・ホーク、ペドロ・パスカルというハリウッドスターを招き、60分の短編にゲイネスを迸らせた。一転、シーグリッド・ヌーネスの原作“WhatAreYouGoingThrough”を自ら脚色した『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、NYを舞台に老いと死を語る英語劇である。聞けば近年、アルモドバルは語学力を上げており、国際映画祭の場では全て英語で受け答えをしているという。逆説的にアルモドバル映画をアルモドバル映画たらしめていたのはスペインの風土と言葉、ラテンの気質であったことを再確認した。常連アルベルト・イグレシアスの流麗なスコアに、トレードマークとも言えるカラフルな原色のプロダクションデザイ...『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』

  • 2024年ベスト10

    【TVShow】2024年にシーズン完走した作品から選出。詳しい選評についてはリアルサウンドへの寄稿をどうぞ。※記事はこちら10.『OneDay/ワン・デイ』製作ニコール・テイラー9.『私のトナカイちゃん』製作リチャード・ガッド、他8.『シュガー』監督フェルナンド・メイレレス、他7.『シンパサイザー』監督パク・チャヌク、他6.『エクスパッツ~異国でのリアルな日常~』監督ルル・ワン5.『リプリー』監督スティーヴン・ザイリアン4.『SHOGUN将軍』製作レイチェル・コンドウ、他3.『窓際のスパイ』シーズン4製作ウィル・スミス2.『ディスクレーマー夏の沈黙』監督アルフォンソ・キュアロン1.『THEPENGUINーザ・ペンギンー』製作ローレン・ルフラン【MOVIE】今年も頑なに“原則、2024年に世界初公開された...2024年ベスト10

  • 【ポッドキャスト更新】第88回 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』を見た!

    https://open.spotify.com/episode/6hREDTqjboqRCxlpdKAsc9?si=O71AkJMiTO-VH61aQizqwQ自称“重力に魂を引かれたオールドガンダムファン”の長内が、噂を聞きつけてシリーズ最新作『機動戦士GundamGQuuuuuuX』を鑑賞。ネタバレ全開、どっぷりと考察沼に浸かってお喋りするのであしからず。1年戦争史を塗り替える衝撃の35分。クライマックスは、ファーストではなく『逆襲のシャア』?なぜ本編の時代設定が宇宙世紀0085年なのか?『機動戦士Zガンダム』は企画当初、タイトルが『逆襲のシャア』だった?初回約3話が1本の映画にまとまった本作。生まれたグルーヴと特殊な作風は、ハリウッド発のスーパーヒーローアニメ映画に由来している?ジークアクスは『Z...【ポッドキャスト更新】第88回『機動戦士GundamGQuuuuuuX』を見た!

  • 【おしらせ】2024年の映画について対談しました

    WEBメディア「Niew」でライターの木津毅さんと対談した内容が掲載されています。2024年の上半期、下半期でそれぞれ映画やTVシリーズについて総括しています。木津さんとは互いにポッドキャスト上でメンションを送り合うなど親交があるのですが、注力している分野が異なるので幅広く網羅した内容になっていると思います。読み応えがある記事になっていますので、ぜひとも御一読ください。上半期編はこちら記事内で言及している各作品のレビューはこちらをどうぞ↓『オッペンハイマー』『落下の解剖学』『チャレンジャーズ』『悪は存在しない』『ロードハウス/孤独の街』『異人たち』『天使の復讐』『恋するプリテンダー』『パストライブス/再会』『コヴェナント/約束の救出』『ミュージック~僕だけに聴こえる音~』『哀れなるものたち』『美と殺戮のす...【おしらせ】2024年の映画について対談しました

  • 『サンセット・サンライズ』

    Covid-19による世界的パンデミックは多くの創作物に影響を与えた。しかし、少なくとも映画やTVシリーズがマスクと手洗い、ソーシャルディスタンスの光景を描くことはなかったように思う。全く存在しないものとしてストーリーを進めた作品もあれば、事後として言及した作品や心象風景に留めた作品もある。『サンセット・サンライズ』は3・11から10年の節目を迎える三陸地方の架空の町を舞台にしているが、パンデミックと震災では普遍性がまるで異なる。日本は世界的に見ても珍しいマスク着用文化の国だが、コロナ禍の騒動を一種のシチェーションコメディとして描くのは笑いの瞬発力として随分鈍い。より観客の心を揺さぶるのは3・11を回想する女川出身、中村雅俊の東北弁による味わい深いモノローグだったりするのだ。『あまちゃん』から11年を経た...『サンセット・サンライズ』

  • 『リアル・ペイン 心の旅』

    前作『僕らの世界が交わるまで』で俳優としての個性を監督作へと転化させたジェシー・アイゼンバーグが、早くも第2作を発表だ。自身のルーツを辿る個人史に普遍性を与える手腕は早くも熟練監督のそれであり、しかもここには俳優たちの素晴らしいアンサンブルがある。TVシリーズ『サクセッション』の最終シーズン4でエミー賞主演男優賞を受賞したキーラン・カルキンは、ローマン・ロイさながらのキャラクターで再び見る者の心を揺さぶってくれる。デヴィッド(アイゼンバーグ)とベンジー(カルキン)は仲の良い従兄弟同士。最愛の祖母を亡くし、傷心を抱えた2人は彼女のルーツを訪ねるべくポーランドへと旅に出る。心配性で気遣いの人であるデヴィッドを十八番の“神経質なユダヤ人”像で演じるアイゼンバーグに対し、自由奔放、周囲の目を気にせず、しかし新生の...『リアル・ペイン心の旅』

  • 『セヴェランス』(寄稿しました)

    リアルサウンドにAppleTV+で配信中のTVシリーズ『セヴェランス』について寄稿しました。いよいよ待望のシーズン2が配信開始。未見の方へ向けたイントロダクション的な内容ですが、シーズン1から時間が経っているだけにリキャップとしてもぜひ御一読ください。記事はこちら『セヴェランス』22〜・米監督ベン・スティラー、他出演アダム・スコット、アダム・スコット、ザック・チェリー、ブリット・ロウアー、ジョン・タトゥーロ、クリストファー・ウォーケン、パトリシア・アークエット※AppleTV+で配信中『セヴェランス』(寄稿しました)

  • 【ポッドキャスト更新】第87回 演技メソッドから読み解く『アプレンティス』『リアル・ペイン』

    https://open.spotify.com/episode/2dgi4BplmFbSRhFVRTtc7o?si=jpdutONRQBiYsr5Hy3G_0g『アプレンティスドナルド・トランプの創り方』が1月17日より公開。意外や真っ当なアメリカ批評映画?トランプが学ぶ3つのテクニックはあの人もこの人も使ってる?ちょっと前まではハリウッド映画も80年代から現在(いま)を検証できていた?ジェレミー・ストロング演じるロイ・コーンはケンダル・ロイのその後?(14:45頃より)『リアル・ペイン心の旅』が1月31日より公開。監督、脚本、主演を務めるジェシー・アイゼンバーグはウディ・アレンの後継者?キャラクターの背景がほとんど語られない本作。『サクセッション』ファンであればより一層行間が増す?今年のアカデミー助演...【ポッドキャスト更新】第87回演技メソッドから読み解く『アプレンティス』『リアル・ペイン』

  • 『ラクパ・シェルパ:エベレストの女王』

    未だ見ぬ驚くべき人物と巡り会えるのがドキュメンタリーの魅力の1つだ。ラクパ・シェルパが女性として最多9回のエベレスト登頂記録を持つことを、世界中の多くの人が知らなかった。本作はさらに10回目となる登頂に密着しながら波乱の人生を解き明かしていく。ネパールの少数民族シェルパに生まれたラクパは、多くがお見合い結婚をする風習の中、山を愛し、性別を偽ってエベレスト登山者の荷物運びとして青春時代を送る。そしてネパール人女性として初となるエベレスト登頂と生還に成功。多くの人が自尊心を得るためスポーツや芸術に取り組むが、ラクパにとってそれはエベレストの登頂だったのだ。以後、彼女は人生の困難に直面する度に山と対峙していく。天真爛漫、エネルギッシュなラクパに誰もが魅せられずにいられない。しかし一度、山を降りればアメリカの小都...『ラクパ・シェルパ:エベレストの女王』

  • 『ザ・レディ・イン・オーケストラ:NYフィルを変えた風』

    魅力的な人物を魅力的に撮らえることは劇映画、ドキュメンタリー問わず容易なことではない。モリー・オブライエン監督は自身の叔母であるオリン・オブライエンについて35分のドキュメンタリーを撮った。オリンは今年90歳。レナード・バーンスタインに見初められ、NYフィル初の女性奏者となったコントラバスの名手だ。洋服も小物も目の醒めるようなブルーを好み、年齢を感じさせない快活さで日々、後進の育成に励む。子供はおらず、独身。モリーにとっては自立した理想の芸術家だ。オリン・オブライエンの両親はサイレントからトーキーにかけて活躍した映画俳優ジョージ・オブライエンとマルゲリーテ・チャーチル。ハリウッドスターの華やかな生活と没落を見たからこそ、オリンは“助演”であるコントラバスに魅せられたという。モリーが抱いた叔母への憧れが伝わ...『ザ・レディ・イン・オーケストラ:NYフィルを変えた風』

  • 『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』

    このユーモア、このサービス精神こそアードマンだ。ストップモーション・クレイアニメの老舗が最新作で見せるのは、トム・クルーズ級の映画娯楽の追求である。代表傑作『ペンギンに気をつけろ!』のヴィラン、フェザー・マッグロウが厳重警戒の刑務所(=動物園)から脱獄。再びウォレスとグルミットの前の立ちはだかる。普段はドクター中松レベルの発明しかできないウォレスがAppleよろしくなAI庭師ロボ開発、大騒動に発展するのは今日的なウィットが効いているし、クライマックスはほとんど『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』級の一大アクションが展開(念のため言っておくが、これ粘土だからね!)。大人も子供も楽しめる一級の娯楽作品だ。『ウォレスとグルミット仕返しなんてコワくない!』24・英監督ニック・パーク、マーリン・クロシン...『ウォレスとグルミット仕返しなんてコワくない!』

  • 『ダーティハリー2』

    1971年の『ダーティハリー』は大ヒットを記録したものの、“ニューシネマの女神”とも言われたポーリン・ケイルを始め、多くの批評家から警察権力、体制を礼賛していると批判された。『ダーティハリー2』は68年のイーストウッド主演作『奴らを高く吊るせ!』のテッド・ポストが監督を務め、脚本に後の『サンダーボルト』を手掛けたマイケル・チミノが参加するなど、“イーストウッド映画”としての文脈が色濃い続編である。法の裁きを免れた凶悪犯が次々と殺害される事件が発生。白昼堂々、車両を停止させての犯行にハリー・キャラハンは交通警官が関わっているのではと気付く。警察内部に暗躍する私刑集団との戦いは“人は人を裁けるのか?”というイーストウッド終生のテーマでもあり、これは『陪審員2番』まで反復されていくこととなる。「法律を守る。腐っ...『ダーティハリー2』

  • 『真夜中のサバナ』

    90年代のイーストウッドは毎年のようにベストセラー原作映画を量産し、職人監督として脂が乗り切っていた時期でもあった。1994年に発表されたジョン・ベレントのノンフィクション『真夜中のサバナ』もまたセンセーションを呼んだ小説だったが、97年の映画版は期待に反してヒットに至らなかった。フリーライターのケルソー(ジョン・キューザック)は一代で財を築いた富豪ジム・ウィリアムズ(ケヴィン・スペイシー)に招かれ、ジョージア州サバナを訪れる。透明の犬を散歩する男、妖艶なドラッグクイーン、ブードゥー魔術を操る浮浪者…まるで南部のツイン・ピークスとでも言いたくなるフリークスばかり。とりわけケルソーの興味を引いたのはウィリアムズ邸で起きた殺人事件だ。ジムが口論の末、若い男娼を射殺したのである。南部ゴシックは物語が脇道に逸れる...『真夜中のサバナ』

  • 『恐怖のメロディ』

    クリント・イーストウッドの監督デビューとなる1971年作。ストーカーの恐怖描くスリラー監督としての技量が発揮されている事はもちろん、この偉大な映画作家のあまりに歪な女性観が如実に現れている点でも興味深い1本である。イーストウッドが演じるのはKRML(後に市長も務めたカーメルのローカル局)のDJデイブ。深夜にジャズと詩の朗読を流すこの番組に、毎夜エロール・ガーナーのバラード『ミスティ』をリクエストしてくるリスナーがいる。デイブが放送を終え、いつものバーで酒を飲んでいると、隣り合わせた女が声をかけてきた。彼女=イブリンこそが“ミスティの女”なのだ。ほんの火遊びのつもりでデイブは彼女と一夜を共にすると…。瞬時に恐ろしい形相へと豹変するイブリン役ジェシカ・ウォルターの怪演は53年を経た今でも観客を震え上がらせるに...『恐怖のメロディ』

  • 『セカンドステップ 僕らの人生第2章』

    魔法使いたちが歌い踊り、剣闘士が血の雨を降らせ、CGの大海原がうねりを上げる…まったく私たち観客、すなわち“普通の人々”を描いたアメリカ映画はどこに行ってしまったんだ?そりゃあジェイソン・シュワルツマンでは華には欠ける。しかし、男やもめのユダヤ教先唱者が第2の人生を歩み始めるネイサン・シルヴァー監督・脚本の『セカンドステップ』は妙に心地が良く、しかも観客の気を引くスリルも兼ね備えているのだ。ベン(シュワルツマン)は地元のシナゴーグに務める先唱者。1年前、妻が不慮の事故死を遂げ、以来ミサでの先唱ができなくなってしまった。今は実家に出戻り、口うるさい母親たち(『逆転のトライアングル』ドリー・デ・レオンと、今や“ユダヤのおかん”とも言うべきキャロライン・アーロンが抜群に可笑しい)に再婚を促されている。そんなある...『セカンドステップ僕らの人生第2章』

  • 『アンデッド 愛しき者の不在』

    映画『ぼくのエリ200歳の少女』や『ボーダー二つの世界』で知られるスウェーデンの人気作家ヨン・アイビデ・リンドクビストが自身の小説を脚色した最新作。これまでトーマス・アルフレッドソン、アリ・アッバシら異才の出発点となってきたリンドクビスト映画だが、今回共同脚本を手掛けるテア・ビスタンダル監督といい、誰が撮っても同じトーン&マナーを共有する“リンドクビスト映画”になるのが唯一無二の個性だろう。スウェーデンの曇天の下、ここには吸血鬼、獣人、そして生ける屍ら闇の者が棲んでいるのだ。現代のオスロ。沈鬱な面持ちの老人が若い女性の部屋へやって来て、食事の支度を始める。2人の間にはいったいどんな関係があるのか。リンドクビスト作品には北国気質特有の口数の少なさがあり、私たちは少ないディテールから人物と物語を読み解いていか...『アンデッド愛しき者の不在』

  • 『モンキーマン』

    人気俳優の監督デビューは2024年も跡を絶たず、今度は『スラムドッグ・ミリオネア』『LION』『グリーン・ナイト』などで知られる英国の演技派デヴ・パテルが登場。映画は何とハードなバイオレンスアクションだ。当初はNetflixへの配信スルーが検討されていたが、映画を見たジョーダン・ピールがエグゼクティブプロデューサーとして合流。晴れて劇場公開され、スマッシュヒットを記録した(当初パテルは脚本、主演を担当し、監督にはニール・ブロムカンプがオファーされていたという)。パテル演じるキッドは猿のマスクに身を包み、闇闘技場で殴られ役に徹するヒールファイター。しかし、彼の内には故郷を焼き、母を殺した警察署長への復讐心が渦巻いている。『モンキーマン』はパテルにとって単なる監督デビュー作ではなく、自ら語るべき物語だった。イ...『モンキーマン』

  • 『ルックバック』

    藤本タツキの傑作コミック『ルックバック』のアニメ化はわずか58分の短編ながら興収20億円突破するスマッシュヒットを記録し、米アカデミー賞長編アニメーション部門のエントリー資格も獲得した。口数が多く、テーマを背負い過ぎているメインストリームのアニメとは異なり、よりアニメーション表現の原初的な悦びを持ち、全ての絵描きに捧げられた物語はオスカー投票権を持つ多くのアニメーターの心を打つのではないだろうか。今季賞レースで最も応援したい1本だ。東北の田舎町。小学4年の女の子・藤野は学校新聞に4コマ漫画を描いている。他愛もないが、子供達には可笑しくてたまらない。ところが不登校の京本が隣の段に4コマを寄せてきた。セリフはない。ボケもオチもない。一見、ストーリーすらないように思える。だが漫画を描けるほどに読み漁ってきた藤野...『ルックバック』

  • 【ポッドキャスト更新】第86回 第97回アカデミー賞予想(ノミネート編)

    https://open.spotify.com/episode/3a2BrKWPmiwlOOPPeyAF8T?si=S9lbo4-PRXWEEMUIC6wk6Q今年もやります、アカデミー賞予想。オスカーウォッチャーとしてはオッズが最も高いうちに…と2024年末に収録。今年の賞レースの特徴、各作品・俳優の概説、オスカー受賞までの仕組みなど様々な角度から分析。2025年陽春は賞レース狙いの作品が次々と公開されるため、上半期カタログガイドとしてもどうぞ。音声はこちらからもお聞き頂けます【ポッドキャスト更新】第86回第97回アカデミー賞予想(ノミネート編)

  • 『ロボット・ドリームズ』

    “文字数”の多いメインストームの大ヒットアニメーション映画よりも、2024年最も心動かされたのは102分間無言の『ロボット・ドリームズ』だ。サラ・バロンの同名コミックを原作とする本作はファニーで、とびきり切ない珠玉の1本である。マンハッタン。大都会の片隅に暮らすドッグは何処の都市にも存在する埋没した若者だ。冷凍食品と深夜番組で寂しさを紛らわす夜、彼はCMでやっていた“お友だちロボット”を衝動買いする。自分1人では動かせない重量のパッケージからパーツを取り出し、組み立てればさぁ完成。ロボはどんなことでも共有し、楽しんでくれる最高の親友だ。互いに手を取って街に繰り出し、夏は一緒にビーチで泳ぐ。ところが砂浜でロボが動かなくなった。壊れてしまったらしい。翌日、ドッグが工具を持って再び訪れるとシーズンは終わり、ビー...『ロボット・ドリームズ』

  • 【ポッドキャスト更新】第85回 2024年落ち穂拾い

    https://open.spotify.com/episode/01WDwptoyieg0gToHgAAa0?si=QMiWiXvSRZmg6SqXJEImAg年間ベスト選出のため、年末にいくつもの作品を見た長内。このまま言及しないのは勿体ない…ということで2024年の“落ち穂拾い”を駆け足に。カンヌ映画祭監督週間inTokyoで上映された『グッド・ワン』は、北米批評家の間でも年間ベストに挙げられた1本。親に反抗することなく、“GoodOne”(=良い子)のまま思春期を送った人にはグッと刺さるはず。(7:43頃より)Netflixで配信中の『セキュリティ・チェック』はお正月休みにぴったりな“普通のハリウッド映画”。トニー・スコットを引き合いに出すのは憚られるが、最後までたっぷり楽しめる。(11:00頃よ...【ポッドキャスト更新】第85回2024年落ち穂拾い

  • 『レベル・リッジ』

    例年、アワードシーズンに賞狙いの“決め球”をリリースするNetflixが、2024年は『EmiliaPerez』『Maria』の配信を北米エリア中心に絞り込み、振り返れば随分と良策に乏しい1年だった。これが2023年の全米俳優組合、脚本家組合のストライキに起因する一過性の事象と思いたいが、現在Netflixはスポーツ中継のライセンス獲得および新たな会員層の発掘に勤しんでいる。映画ファンにとってアートハウス系映画の救世主と信じられてきた同社も元を辿ればレンタルビデオチェーンに前身を持つ。2024年は“普通のハリウッド映画”の供給者としての側面が強かった。では膨大なアーカイブに傑作を埋もれさせるわけにはいかない。『ブルー・リベンジ』『グリーンルーム』などを手掛けてきたジェレミー・ソルニエ監督の『レベル・リッジ...『レベル・リッジ』

  • 【ポッドキャスト更新】第84回 1月公開作『サンセット・サンライズ』『アンデッド 愛しき者の不在』

    https://open.spotify.com/episode/48uT1M3UFdU20fID1y3oRG?si=hV3z5RmSR5m7fRq5fsvELw2025年1月17日公開の2作品を紹介。『サンセット・サンライズ』はパンデミックをきっかけに東北地方へ移住したサラリーマンが主人公のコメディ。でもコロナ禍はフィクションの題材にならない?普遍性を持ったモチーフとは?クドカンにとって『あまちゃん』から10年後のアンサー?菅田将暉のチャームだけで成立している映画?(11:00頃より)ノルウェー映画『アンデッド愛しき者の不在』は『ぼくのエリ200歳の少女』『ボーダー二つの世界』の原作者リンドクヴィストの最新映画化。誰が撮っても同じ“リンドクヴィスト映画”?世界観を同じとするユニバース?リンドクヴィスト作...【ポッドキャスト更新】第84回1月公開作『サンセット・サンライズ』『アンデッド愛しき者の不在』

  • 『ディスクレーマー 夏の沈黙』(寄稿しました)

    2025年1月6日発売の月刊シナリオ2月号に『ディスクレーマー夏の沈黙』のレビューを寄稿しています。お近くの書店で見かけた際はぜひお手にとってみてください。ポッドキャストでも解説しています音声はこちら『ディスクレーマー夏の沈黙』24・米監督アルフォンソ・キュアロン出演ケイト・ブランシェット、ケヴィン・クライン、サシャ・バロン・コーエン、レスリー・マンヴィル、コディ・スミット=マクフィー※AppleTV+で配信中『ディスクレーマー夏の沈黙』(寄稿しました)

  • 『セキュリティ・チェック』

    空港を舞台に『ダイ・ハード』と『フォーン・ブース』を掛け合わせたクリスマス・スリラー…安易な企画書が目に浮かぶようだが、“普通のハリウッド映画”が枯渇した2024年、『セキュリティ・チェック』は貴重な1本かもしれない。公開初週の3日間で大金を稼がなければハリウッドは映画に価値を見出さなくなってしまった。週末の2時間、娯楽を供給してくれるポップコーンムービーは今やストリーミングの広大なアーカイブに漂うばかりだ。『ジャングル・クルーズ』『ブラックアダム』と大手ビッグバジェットを任されるまでに成長したジャウム・コレット=セラが久しぶりにジャンルムービーへと帰還し、職人技を披露する本作は週末の気だるい時間を十二分に埋めてくれる。クリスマスイブ、帰省客でごった返すロサンゼルス国際空港(Lax)は空港職員が1年で最も...『セキュリティ・チェック』

  • 『グッド・ワン』

    思春期に両親の離婚や危機に直面し、反抗期を迎えることなく良い子(=GoodOne)であり続けた人には他人事と思えない映画だろう。大学進学を目前にし、間もなく親元から巣立とうとしている少女サムは、両親の離婚後も父とトレッキングを続けてきた。今回は3日間数十キロに及ぶ行程で、父の親友で俳優くずれのマットも同行する。年頃の女の子が父親と、しかも親族ではない中年男性と共に山林でキャンプをする。それだけでも十二分に父親を労る気遣いが見受けられるが、加えてサムは嫌な顔1つ見せない。彼女が長い年月GoodOneであり続けてきたことがよくわかる。脚本を手掛け、本作が長編初監督となるインディア・ドナルドソンが同性のサム(素晴らしい新人リリー・コリアス)のみならず、父やマットら不完全な大人たちへ向ける人間洞察は深い。父は愛情...『グッド・ワン』

  • 『ヴァラエティ』

    米インデペンデント映画の重要な先駆者、ベット・ゴードンの長編監督第1作が日本で劇場初公開された。1970年代後半から80年代前半に、NYアンダーグラウンドで興った“ノーウェイブ”に位置する女性監督である。彼女が撮らえたストリートの文化風俗史的価値はもちろんのこと、この時代に少なくなかった女性映画作家の存在は今日のアメリカ映画史において見過ごされがちである。ゴードンについては近年、ローラ・ポイトラスがやはりノーウェイブの重要な証人である写真家ナン・ゴールディンを追ったドキュメンタリー『美と殺戮のすべて』でも言及しており、『ヴァラエティ』の公式スチルを担当し、カメオ出演を果たしているのがゴールディンその人だった。クリスティーンはポルノ映画館のチケット売り場に仕事を見つける。長身、ブロンドの彼女に男たちは気まず...『ヴァラエティ』

  • 『ザ・バイクライダーズ』(寄稿しました)

    『ザ・バイクライダーズ』のレビューは月刊シナリオ2025年1月号の連載『洋画時評』に掲載されています。その他、ポッドキャストでも解説しています。『ザ・バイクライダーズ』23・米監督ジェフ・ニコルズ出演ジョディ・カマー、トム・ハーディ、オースティン・バトラー、マイク・フィスト、デイモン・ヘリマン、ボイド・ホルブルック、マイケル・シャノン、エモリー・コーエン『ザ・バイクライダーズ』(寄稿しました)

  • 【ポッドキャスト更新】第83回 夜の世界に全てがあった『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』『ヴァラエティ』

    https://open.spotify.com/episode/6tDB7guOzuyYYGUgu5MEWS?si=E9aTsJP7TH6xIYb1_bNlwg2025年1月31日公開『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』はペドロ・アルモドバル監督の最新作。これまでアルモドバル映画たらしめてきた要素とは何か?老いと死をテーマにしているけど、75才の巨匠は全く枯れていない?英語圏でアルモドバル映画を再現できる俳優はティルダ・スウィントンだけ?(10:25頃より)同日に観た1983年の映画『ヴァラエティ』が『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』と結びつくように感じた長内。劇中、ティルダが言っていた「あの時代、夜の世界に全てがあった」とは80年代NYを指している?ティルダの役柄のモデルになったのはあの伝説的写真家?ベット・ゴ...【ポッドキャスト更新】第83回夜の世界に全てがあった『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』『ヴァラエティ』

  • 【ポッドキャスト更新】第82回 『ブリッツ ロンドン大空襲』『自由を愛した男』

    https://open.spotify.com/episode/402U0ut52SVrnxidTEVsO5?si=gpPPdzTBTEm4uznqqftX1w11月から配信されているストリーミング限定映画2本についてお喋り。スティーヴ・マックィーン監督『ブリッツ』はAppleTV+で配信中。これまでのイギリス映画にはない、新しい第二次大戦映画?ロンドン版“この世界の片隅に”?実はあの監督へのアンサー映画?クライマックスに頭をよぎるのはシアーシャ・ローナンの実質的デビュー作であるあの傑作?(13:35頃より)Amazonプライムビデオで配信中の『自由を愛した男』はメラニー・ロラン監督最新作。近年、精力的に新作を撮り続けているロラン。彼女もまた“普通の娯楽映画”に意識的?映画作家としてのシグネチャーは?『...【ポッドキャスト更新】第82回『ブリッツロンドン大空襲』『自由を愛した男』

  • 『胸騒ぎ』

    『スピーク・ノー・イーブル』の原作映画がオランダ、デンマーク合作の“ヨーロッパ映画”だからって、何も高尚な読み解きをする必要はない。他者の懐にするりと潜り込み、全てを奪い取るサイコパスの恐ろしさを描いている?強権的な政治に搾取される衆愚のメタファー?ミヒャエル・ハネケの『ファニーゲーム』から思想性を取り除いたような本作に、そんな擁護は不要だろう。ほとんど憎悪のようなクライマックスにあなたは(例えウォーキズムにかぶれていなくても)「けしからん!」と声を上げるかもしれない。『スピーク・ノー・イーブル』が原作映画のエッセンスを巧みに抽出していることがよくわかる。一方、ハリウッドリメイクではよくわからなかったディテールが『胸騒ぎ』では明らかであり、不思議なことにこの2作は前後編のような関係になっているのが面白い。...『胸騒ぎ』

  • 『自由を愛した男』

    俳優監督が百花繚乱の今日、中でも精力的に新作を撮り続けているのがフランスのメラニー・ロランだろう。多くの映画作家が望む作品に着手できなければ、ろくに劇場公開も叶わない時代に、ロランはAmazonに軸足を置いてストリーミング限定作品を次々と手掛けている。そして彼女も数少ない懸命な映画人と同様、“普通の娯楽作”に意識的だ。2021年の勝負作『社会から虐げられた女たち』を経て、2023年はNetflixでキャッツアイ風の怪盗モノ『ヴォルーズ』を、そして今年はAmazonPrimeVideoから本作『自由を愛した男』をリリースだ。1980年代にフランスに実在した義賊強盗ブルーノ・スラクの人生を“芸術的観点から脚色した”とする本作は、その美男子ぶりから人気を博したというスラクのキャラクター性や破滅的なアウトロー像に...『自由を愛した男』

  • 【ポッドキャスト更新】第81回 12月公開作『クラブゼロ』『スピーク・ノー・イーブル』

    https://open.spotify.com/episode/3rJhcVn4uF6JdsJVnRXAso?si=iOfRZiPjTkSkfFsXR-apHQ12月公開の注目作2本をネタバレなしで紹介。(4:05頃より)12月6日公開『クラブゼロ』はゾッとする心理ホラー。新任栄養学教師が提唱する“新しい食事法”によって、生徒たちは次第に感化され…“正しさ”と同調圧力のウォーキズムに対する揶揄?今日の恐怖の対象はアイデンティティの差異?(9:05頃より)12月13日公開の『スピーク・ノー・イーブル異常な家族』は偶然知り合った2組の家族が、週末を郊外で共に過ごすことになり…日本では2024年に公開された映画『胸騒ぎ』のリメイク。オリジナル版に「けしからん!」と腹を立てた人ほど溜飲が下がる?ジェームズ・マカ...【ポッドキャスト更新】第81回12月公開作『クラブゼロ』『スピーク・ノー・イーブル』

  • 『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』

    「EV車になんか乗りやがって!」古今東西、都会人が異郷で受難に見舞われる映画は数多く存在してきたが、2024年の憎悪の1つは“意識の高さ”のようだ。2022年のデンマーク、オランダ合作映画『胸騒ぎ』をリメイクした本作を、拙速なハリウッドリメイクと侮ってはいけない。ブラムハウスはジェームズ・マカヴォイ、マッケンジー・デイヴィス、それに素晴らしいスクート・マクネイリー(今年はエイミー・アダムス主演『ナイト・ビッチ』にも出演する大活躍)ら芸達者を揃え、緻密なプロダクションデザインと110分という然るべきランタイムで週末にピッタリなホラー映画を作り上げた。ここで描かれるのはこけおどしのジャンプスケアーではなく、観客を不安に陥れる厭な空気だ。ロンドン在住のアメリカ人、ダルトン一家はイタリア旅行中にとあるイギリス人家...『スピーク・ノー・イーブル異常な家族』

  • 【おしらせ】連載始まりました『月刊シナリオ〜洋画時評』

    12月3日発売の月刊シナリオ1月号から「洋画時評」というコーナーで連載を開始しました。日本映画のシナリオを掲載する専門誌に劇場公開映画、配信映画、そしてTVシリーズという現在において広義の意味の“洋画”を接続していきます。月刊シナリオ公式サイトはこちら最大公約数を狙ったWEBメディアでの執筆に行き詰まりを感じていた今日この頃。ここでしか読めない、ここに行けば読めるという独自の連載を展開していきたいと考えています。全国津々浦々の書店で映画雑誌のコーナーに1〜2冊は置いてあるかと思います。お近くの本屋さんで見かけた際はぜひお手にとってみてください。第1回目はジェフ・ニコルズ監督、オースティン・バトラー、ジョディ・カマー、トム・ハーディ共演『ザ・バイクライダーズ』のレビューです。ポッドキャストでの解説はこちらを【おしらせ】連載始まりました『月刊シナリオ〜洋画時評』

  • 【ポッドキャスト更新】第80回 2024年最重要作『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』

    https://open.spotify.com/episode/4sCYiwseyPXyH6ETosay7B?si=J6vmCg0nSQuMv82Fxg_7HATVシリーズを最終回までネタバレでお喋りする“TVシリーズ雑談回”。今回はHBO(日本ではU-NEXT)から配信中の『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』について。数々の名作ギャング映画へオマージュが捧げられた本作。しかし最も強い影響を受けているのは同じくHBO製作のあの傑作?コリン・ファレル自身も様々な映画の記憶で生きている『シュガー』な男?ギャングドラマの魅力はロケーションにこそ有り?ヴィクターはもう1人のジェシー・ピンクマン?ラストシーンの意味は実は公式アカウントが明らかにしている?同時期に最終回を迎えた『ディスクレーマー夏の沈黙』と実は...【ポッドキャスト更新】第80回2024年最重要作『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』

  • 『クラブゼロ』

    オーストラリアの名門私立校に新任教師ノヴァクがやって来る。地球にも人体にも優しい“意識的な食事”を提唱する気鋭の栄養学者だ。過食と添加物を強要する食品産業を否定した教育に、生徒たちは感化され、やがて食事を控え始めていく。そしてノヴァクは摂食ゼロのメソッド“クラブゼロ”の存在を明らかにする…。ジェシカ・ハウスナー監督の『クラブゼロ』を反社会的と取るか、鋭い社会批評と取るかはあなたの食習慣によって異なるかも知れない。だがアイデンティティポリティクスが生んだ“正しさの強要”が1つの結末を見た2024年、摂食を巡る本作はピリリと辛いどころかエグみがたっぷりだ。本質よりも“正しさ”に感化され易い者にとってデマは容易に真実となり、カルトへと変貌。異を唱える者は対話ではなく排除の対象となる。子どもたちは「正しい信念」と...『クラブゼロ』

  • 『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』

    ドナルド・トランプ陣営が大統領選挙前の公開を恐れ、上映中止を働きかけたと言われている『アプレンティスドナルド・トランプの創り方』。次期大統領を脅かす致命的な映画なのか?答えはNOだ。フェイバリットムービーに『市民ケーン』を挙げるなど、映画に対する見識はそれほど悪くないようにも思えるトランプ。本作をちゃんと見ていればそう腹を立てることもなかっただろう(イラン系デンマーク人監督アリ・アッバシの名前に「イラン!」と怒った可能性はあるが)。北欧ダークファンタジー『ボーダー』から『聖地には蜘蛛が巣を張る』、さらにはHBOのTVシリーズ『THELASTOFUS』ラスト2エピソード等、容易に作家性を見出しにくいカメレオン監督のアッバシは、トランプが家賃の取り立てに奔走していた1980年代を舞台に、大物弁護士ロイ・コーン...『アプレンティスドナルド・トランプの創り方』

  • 【ポッドキャスト更新】第79回 『ディスクレーマー 夏の沈黙』ナラティブとフォーム

    https://open.spotify.com/episode/6OTg4u5WIu0OPO3Z6HHn5p?si=V1Yuhnl4QXqK0d0AWtFFNw最終回までネタバレ有りでお喋りする「TVシリーズ雑談回」。今回はAppleTV+で配信中の『ディスクレーマー夏の沈黙』について。物語を読み解く重要なヒントは第1話早々に語られている?ケイト・ブランシェットにとって『TAR』との“連作”?イタリア編で思い起こすのはキュアロン初期のあの映画?なぜ常に太陽からの逆光が射し込んでいるのか?劇中に登場しない女性のナレーションはいったい誰なのか?エンドクレジットの最後にキュアロン代表作のセリフが引用されている?実験性の強いジャンル作品にも見える一方、これまでのキュアロン作品のテーマが反復されている?音声はこち...【ポッドキャスト更新】第79回『ディスクレーマー夏の沈黙』ナラティブとフォーム

  • 『ピアノ・レッスン』

    さぁ、襟を正して着席しよう。オーガスト・ウィルソンがピューリッツァー賞を受賞した1990年の戯曲『ピアノ・レッスン』の映画化だ。1911年、ミシシッピから始まる黒人一家の宿縁は、ウィルソンが一貫して描いてきた忍従と反骨、世代間の歴史認識の物語であり、アメリカ黒人史におけるギリシャ悲劇である。脚色も手掛けたマルコム・ワシントン監督はほとんど舞台中継さながらだったウィルソン原作『マ・レイニーのブラックボトム』よりも映像的翻案に成功しているが、黒人演劇の大家を前に気負いが過ぎるようだ。忙しなく動くカメラ、沈黙を恐れた劇伴、俳優たちも大劇場クラスの大熱演で、ワシントンは引き算を知らなすぎる(ちなみにマルコムの父、デンゼル・ワシントンはウィルソンの『フェンス』で監督、主演。今後のキャリアは巨匠の戯曲を映画メディアを...『ピアノ・レッスン』

  • 『ブリッツ ロンドン大空襲』

    1940年、ナチス・ドイツの電撃的な空襲攻撃(Blitz)に苦しめられるロンドン市街を舞台にした『ブリッツ』は、一見これまでのスティーヴ・マックィーン監督作に比べアンマッチな題材に思えるかもしれない。9歳の少年ジョージは集団疎開に出されるも母を想い、1人列車を飛び降りる。マックィーン版母をたずねて三千里?いいや、戦火のロンドンを彷徨う旅路はジョージに底なしの哀しみを突きつけ、マックイーンの筆致はディケンズを思わせる古典的な趣すらある。何よりジョージの存在はこれまで語られることのなかった第二次大戦下のロンドンに生きる黒人である。前作『スモール・アックス』に続き、ロンドン生まれの黒人スティーブ・マックイーンのアイデンティティの探求でもあるのだ。自ら脚本も手掛けるマックイーンは、戦争映画に描かれることのなかった...『ブリッツロンドン大空襲』

  • 『ノーウェア』

    1990年代“ニュー・クィア・シネマ”を牽引したグレッグ・アラキ監督の代表作。97年のビビッドな表現は性的な多様性が広く認知され始めた今日見ても、目の覚めるようなインパクトがある。巻頭、まるで4次元空間のように拡がるシャワールームや(主人公ダークはここで同級生の男子を思いながらマスターベーションしている)、壁一面にデザインアートが施された自室など、まるでロサンゼルスの陽光を浴びたペドロ・アルモドバルのような美術センスに面食らう。若者たちは性差に囚われることなく、互いを呑み込むようにキスとセックスを繰り返し、全編に渡って映画は祝祭的だ。しかし、ダークの眼の前に人類をアブダクトする宇宙人の姿が垣間見え、同級生の少女は理不尽な暴力に見舞われる。無事に大人になることもままならない死と隣り合わせの青春は、エイズ禍を...『ノーウェア』

  • 【ポッドキャスト更新】第78回 2024年最後の大作ハリウッド映画『グラディエーターⅡ』

    https://open.spotify.com/episode/5lkFmqPOl1ZtOeVsdrCWk5?si=3fSniaINTZmsXatgdxuTlQ2000年のアカデミー作品賞受賞作『グラディエーター』24年ぶりの続編が公開。初日に都心のIMAXで鑑賞した長内。場内の観客構成にびっくり?後に多くの作品へ影響を与えた前作。最大の功績はあのTVシリーズ?史劇映画ながら、歴史考証はほとんど無視の本作。戦国ファンタジーものとして楽しむべき?24年の時を経てリドリー・スコットも映画表現のストーリーテリングも変わった?今回はポール・メスカル、ペドロ・パスカル、そしてデンゼル・ワシントンの3トップ編成。最もアカデミー賞に近いのは誰?王道を往くテーマ性は、大統領選挙直後のアメリカで大ヒット間違いなし?音声は...【ポッドキャスト更新】第78回2024年最後の大作ハリウッド映画『グラディエーターⅡ』

  • 『クリスマスはすぐそこに』

    2022年、アルフォンソ・キュアロンはイタリアの俊英アリーチェ・ロルヴァケルとタッグを組み、ディズニープラスからクリスマス短編『無垢の瞳』をリリースしたが、今年はデヴィッド・ロウリーを監督に迎えた。『セインツ約束の果て』『さらば愛しきアウトロー』等、70年代アメリカ映画を彷彿とさせる作風の彼は、一方でディズニーの『ピートと秘密の友達』『ピーター・パン&ウェンディ』を手掛け、コンテンポラリーな『ア・ゴースト・ストーリー』『グリーン・ナイト』をフィルモグラフィに連ねるファンタジーの異才でもある。『クリスマスはすぐそこに』はなんとボール紙を使ったストップモーションアニメで、ロウリーの美意識とディズニーへの憧憬がクリスマス精神を謳っている。酸いも甘いも知った都会のハト役でナターシャ・リオンがあのダミ声を聞かせてく...『クリスマスはすぐそこに』

  • 『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』

    2000年に大ヒットを記録し、アカデミー作品賞にも輝いた『グラディエーター』は直後から続編制作が囁かれてきたが(主人公マキシマスは死んだというのに!)、紆余曲折24年を経てついに完成した。マキシマスとルッシラ王女の息子ルシウスが王位簒奪者の手を逃れ、遠くアフリカの地で成長。十数年の時を経て、グラディエーターとしてローマへ帰還する…歴史に詳しい観客は前作に続きまるで考証のないハリウッド史劇に目くじらを立てたくなる所だろうが、ドラゴンの出ない『ゲーム・オブ・スローンズ』くらいに思って大目に見てほしい。リドリー・スコットがVFXを用いて現代に復活させた『グラディエーター』『キングダム・オブ・ヘブン』『ロビン・フッド』ら史劇大作群なくしてGOTはなかっただろう。昨年も超大作『ナポレオン』を手掛けたばかり、御年86...『グラディエーターⅡ英雄を呼ぶ声』

  • 【御予約受付中】ポッドキャストの公開収録を行います

    ポッドキャスト番組“長内那由多のMovieNote”公開収録を行います。2024年の映画、TVシリーズから年間ベスト10を選出し、今年1年を振り返ります。前回、2024年1月に開催した『2023年ベスト10』回はまさかの2時間に及ぶ収録でしたが、今回は1時間〜1時間半の見込みです(たぶん)。師走の慌ただしい時期ですが、お気軽に遊びに来て頂ければ嬉しいです。長内那由多のMovieNote公開収録『2024年ベスト10』回日時2024年12月21日(土)、15:00開始(14:30開場)所Cafeearthカフェアースhttp://cafeearth2017.blog.fc2.com/(〒176-0005東京都練馬区旭丘1丁目56−13−101)※江古田駅南口旭丘文化通り(練馬総合病院へ行く道)を2分歩き、左...【御予約受付中】ポッドキャストの公開収録を行います

  • 【ポッドキャスト更新】第77回 なぜ其処に物語があるのか?『グレース』『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』他

    https://open.spotify.com/episode/4bf60BrgIx08EAl9CIrtE6?si=jJBLVYkzSv2Cj6JwR6mruA『THEPENGUINザ・ペンギン』で描かれる架空都市ゴッサムシティのリアリズムにあてられ、物語における“場所”の意味合いが気になって仕方ない今日この頃。本格マフィアドラマへと化けた本作に強い影響を与えているのは同じくHBO配信のあの傑作?(5:45頃より)何の予備知識もなしにロシア映画『グレース』を見た長内。この世の果てのようなロケーションに終末戦争後の近未来か、遥か彼方の銀河系かと首をひねっていると、おぼろげながら全体像が見えてくる。舞台となるコーカサス地方を地図で調べてみて。(9:40頃より)Netflixから配信中のガンダムシリーズ最新作...【ポッドキャスト更新】第77回なぜ其処に物語があるのか?『グレース』『機動戦士ガンダム復讐のレクイエム』他

  • 『ラビング 愛という名前のふたり』

    1958年、バージニア州に暮らすリチャード・ラビングは長年の恋人ミルドレッドから妊娠を告げられ、結婚を申し込む。しかし、当時の州法では白人と黒人による異人種間の結婚は禁止されていた。2人はワシントンで式を挙げた後、極秘裏にバージニア州での新婚生活を始める…。ジェフ・ニコルズが2016年に手掛けた『ラビング』は、BLMやMetooに代表される2010年代後半アイデンティティポリティクスの時代を先駆け、気鋭の先見性を証明している。だがニコルズの声はずっとひそやかだ。ただ愛し合う者と連れ添いたいと願うラビング夫妻の慎ましやかな人間性を捉え、彼らの目線を通じて時の公民権運動に併合されていく時代の転換点を描き出している。不器用ながら実直なリチャードに扮したジョエル・エドガートンは好調続きのフィルモグラフィでもとりわ...『ラビング愛という名前のふたり』

  • 【ポッドキャスト更新】第76回 昔のTVは怖かった『悪魔と夜ふかし』『アイズ・オン・ユー』

    https://open.spotify.com/episode/7uCmw0szIK7N0GGBO51Hfp?si=K6EEyt2qTaiWuoOtPaJ_bQ70年代のTV番組を題材にした映画2本。オーストラリア産ホラー『悪魔と夜ふかし』は生放送中に起きた恐ろしい事故を再現するファウンド・フッテージもの。昔はTVに“魔力”があった?ソーシャルメディア全盛時代には懐古趣味すぎる?名脇役デビッド・ダストマルチャンの記念すべき主演デビュー!(7:00頃より)Netflixで独占配信中の映画『アイズ・オン・ユー』はアナ・ケンドリックの監督デビュー作。視聴者参加型恋愛バラエティ番組に連続殺人鬼が出演していた驚愕の実話を映画化。トニー賞、アカデミー賞にもノミネートされてきた才媛が、監督としても才能を発揮?撮影はあ...【ポッドキャスト更新】第76回昔のTVは怖かった『悪魔と夜ふかし』『アイズ・オン・ユー』

  • 『悪魔と夜ふかし』

    1977年、人気深夜番組「ナイト・オウルズ」のハロウィンスペシャル収録中に起きた恐ろしい放送事故。この様子を収めたビデオテープが発見され…昨年の『トーク・トゥ・ミー』に続き、またしてもオーストラリアから活きのいいホラーがやってきた。コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズの監督コンビはハッタリ十分。当時のトークショーを模したこだわりのプロダクションデザインを得て、TVに猥雑で得体の知れない力があると思われていた時代を再現することに成功している。さらにはここに当時、世界を席巻していたオカルトブームをマッシュアップ。時代を知る観客には破顔もの、クライマックスで繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図は爆笑必至だろう。もっとも、TVを見なければ持ってすらいない現在の若い観客にはさっぱりな映画かも知れない。短い時間でわかり...『悪魔と夜ふかし』

  • 【ポッドキャスト更新】第75回 映画興行の両極『ウルフズ』『ビートルジュース ビートルジュース』

    https://open.spotify.com/episode/3ThZ3ZXIHRwxyx1xQ91627?si=u0-_IotrTKeMYf78KkcBMQ現代映画興行の両極を進んだ2作品。劇場公開から一転、配信スルーとなった『ウルフズ』がAppleTV+からリリース。既に続編制作が決まっている本作。劇場未公開=駄作ではない?狙っているのは“普通のハリウッド映画”?ブラピ&クルーニーにとって遅すぎた『明日に向って撃て!』?見逃すには惜しい1本だけど、実は重要な要素が欠けている?(11:34頃より)一方、36年ぶりの続編ながら特大級のヒットを記録したのが『ビートルジュースビートルジュース』。今年のフランチャイズ映画群では一番期待値の低かった本作。人気の理由は全盛期ティム・バートン映画の“再現”?マイケ...【ポッドキャスト更新】第75回映画興行の両極『ウルフズ』『ビートルジュースビートルジュース』

  • 『キャドー湖の失踪』

    2023年の米俳優組合、脚本家組合のストライキによって供給不足に陥っているハリウッド。そのしわ寄せは既に洋画興行が壊滅に瀕している本邦においてより深刻だ。幸いなことにストリーミングにはまだ見るべき作品が幾つかあるものの、ほとんど宣伝もなく膨大なライブラリに並列化されれば、一部のマニアによる相互扶助のような情報共有なしに陽の目を見る機会はないだろう。ましてやM・ナイト・シャマランがプロデュースする『キャドー湖の失踪』はネタバレ厳禁、全くの予備知識なしで見るからこそ楽しめる映画で、ここにはジャンルを書くことすら憚られる。1950年代に建てられたダムによって原生林と湿地帯に覆われたキャドー湖。近年、周辺地域では絶滅したはずの狼や蛾が目撃される異変が生じていた。ある日、8歳の少女アナが消息不明に。義理の姉エリーは...『キャドー湖の失踪』

  • 『アイズ・オン・ユー』

    有名俳優の優れた監督デビュー作が相次ぐ近年、今度は『マイレージ、マイライフ』や『ピッチ・パーフェクト』シリーズ、『シンプル・フェイバー』などでお馴染みアナ・ケンドリックが登場だ。『アイズ・オン・ユー』(原題=WomanoftheHour”)はケンドリックが利発な演技スタイルそのまま実に巧妙な演出力を発揮。しかも映画はこれまで彼女が見せてきたキュートな笑顔とは程遠い、身の毛もよだつようなスリラーだ。1978年、視聴者参加型バラエティ番組“デート・ゲーム”に推定130人を殺したとされるシリアルキラー、ロドニー・アルカラが出演していた恐ろしい実話の映画化である。時制をトリッキーなまでにシャッフルするイアン・マクドナルドの脚本は犯行のごく一部を詳らかにし、ケンドリックは扇状的になる事なく、犠牲者への厳粛な敬意を持...『アイズ・オン・ユー』

  • 『グレース』

    2022年のウクライナ戦争開戦以後、ロシアに対する国際社会の“海上封鎖”は経済分野に留まらず、2023年のカンヌ映画祭で出品を認められた露映画はイリヤ・ポボロツキー監督による本作『グレース』唯1本だったという。日頃、映画をジャンルや国籍で語りがちだが、何時とも何処とも知れない本作を見ると、「土地とそこに暮らす人」こそが映画における最も重要なファクターではと思えてくる。映画は前半1時間を過ぎるまでろくろく筋立てもわからない。赤茶けたキャンピングカーに乗って父娘が旅をしている。母を亡くしたばかりの年頃の娘にとって父親の存在は疎ましく、父はそんな娘と語らう術を持っていない。娘はポラロイドカメラで道行く人々を撮り、父は違法DVDを売って日銭を稼ぐ。「インターネットがあれば…」と娘がこぼす此処は終末戦争後の未来にも...『グレース』

  • 『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』(寄稿しました)

    リアルサウンドにU-NEXTで配信中のTVシリーズ『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』について寄稿しました。マット・リーヴス監督『THEBATMAN』から始まる新生バットマンシリーズのスピンオフ。大胆なアレンジによって往年のギャング映画、そして名作TVシリーズの系譜に連なろうとする2024年下半期必見の1本となっています。記事は本作に強い影響を与えた傑作『ザ・ソプラノズ哀愁のマフィア』との比較や、キャリアを更新するコリン・ファレル、クリスティン・ミリオティらの演技について検証した導入的内容です。ぜひとも御一読ください。記事はこちら記事内で言及している各作品のレビューはこちら『THEBATMAN-ザ・バットマン-』『デッドプール&ウルヴァリン』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』『ベター・コール・ソウル』『...『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』(寄稿しました)

  • 【ポッドキャスト更新】第74回 『窓際のスパイ シーズン4』スラウハウス課決算大放談!

    https://open.spotify.com/episode/71kK3sc0gTEwLMnvLbVDPC?si=YNjbbI6iQUafUDaxeyin1ATVシリーズをネタバレ有りで最終回までお喋りする“TVシリーズ雑談会”。今回はシリーズベストを更新した『窓際のスパイシーズン4』について。というか批評でも解説でもなく、単なるファンダムの駄話なので、シーズン完走済みの人はオフ会気分でご一緒にどうぞ!音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『窓際のスパイシーズン1』『パトリック・メルローズ』【ポッドキャスト更新】第74回『窓際のスパイシーズン4』スラウハウス課決算大放談!

  • 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

    全世界で社会現象級の大ヒットを記録した『ジョーカー』待望の続編、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』がまたしても大論争を巻き起こしている。ワールドプレミアとなったヴェネチア映画祭での賛否両論は北米公開と共に否へと振り切れ、歴史的な興行成績を収めた前作から一転、アメコミ映画史上ワーストとなる収益下降率を記録(あの『マーベルズ』や『ザ・フラッシュ』すら下回っている)。いったい何が起こっているのか?トッド・ヘインズ監督の新作を撮入直前にドタキャンし、映画そのものを潰してしまったホアキン・フェニックスの奇行だけでは説明にならないだろう。ファンダムに媚びたジャンル映画が跋扈し、スタジオも作家も観客を挑発するような野心を捨てた現在のハリウッドでは、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が戸惑いを持って迎えられたのは無理もない。...『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

  • 【ポッドキャスト更新】第73回 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を見た!

    https://open.spotify.com/episode/2jpQZACpOg0vmk0d1avvfI?si=WANQPiteQsOSleaLcx_ACw2024年下半期最大の問題作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。初日を見終えてのファーストインプレッションをお喋り。前作『ジョーカー』とはどのような映画だったのか?『フォリ・ア・ドゥ』は一級の技術で意図的につまらなく作られている?殺人×監獄×裁判ミュージカル映画は前例がある?今回も激ヤセして役作りをしているホアキン・フェニックスだが、まるで異なるテンションで演じている?『フォリ・ア・ドゥ』は観客を試す特大級のインスタレーションアート?映画を見た後にはジョーカーについて誰も語らなくなる?そもそもジョーカーなんて存在しなかった?音声はこちらからもお聞き...【ポッドキャスト更新】第73回『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を見た!

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、長内那由多のMovie Noteさんをフォローしませんか?

ハンドル名
長内那由多のMovie Noteさん
ブログタイトル
長内那由多のMovie Note
フォロー
長内那由多のMovie Note

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用