映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ
最新映画や海外ドラマ、Netflix配信作を中心とした映画レビュー。アカデミー賞予想記事も有り。半期毎に総括ベストテン記事も書いています。「ドラマも同じくらいの熱量で見ていなければ今の映画は語れない!」が最近の信条です。
異色の宇宙人侵略映画『アンダー・ザ・スキン』から10年、ジョナサン・グレイザーが帰ってきた。最新作『関心領域』は2023年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得。アカデミー賞では作品賞はじめ5部門にノミネートされ、2部門に輝いた。その国際長編映画賞受賞スピーチで、グレイザーはイスラエルによるパレスチナ侵攻と、ハリウッドの新イスラエル姿勢を真正面から批判。『関心領域』のポストクレジットシーンとも言うべき決定的瞬間であった。示唆に富んだタイトルであり、観客にも自身の関心領域を幾重も拡大することが求められる映画だ。第2次大戦下、アウシュビッツ強制収容所の真隣りに暮らす所長ルドルフ・ヘスと家族の日常を盗み見るかのような本作には、観客を怠惰にさせる安易な説明は一切登場しない。カメラは各部屋の一点に置かれ(グレイザーの名を...『関心領域』
2021年にジョエル・コーエンが単独監督作『マクベス』を発表して以来、事実上コーエン兄弟としての活動停止しているジョエルとイーサン。インタビューによればケンカ別れでも何でもなく、互いに興味の方向性が変わったことに由来する、キャリアと年齢に起因したごく自然な活動停止だという。今回、弟イーサンの単独作『ドライブアウェイ・ドールズ』が発表されたことで、逆説的にコーエン兄弟というユニットの作家性が解き明かされているのが興味深い。振り返れば彼らの作風はシリアスとコメディ、クラシックフィルムとパルプノワールといったいくつもの対極的な要素が同居し、フィルモグラフィには犯罪劇もあればドタバタコメディも並ぶバラエティの豊かさだった。『マクベス』を観る限り、どうやらシネフィル気質の作風は兄ジョエルの趣味で、パルプノワールやナ...『ドライブアウェイ・ドールズ』
2023年のアカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされたこのドイツ映画は、学校教諭が見たら卒倒モノのスリラーである。小学校の低学年を担当するノヴァク先生は校内で多発する窃盗事件を受け、自身の財布を囮に監視カメラを設置する。果たせるかな、カメラには財布を抜き取ろうとする腕が映っており、ノヴァク先生は疑わしい人物を告発するのだが…。本作が長編4作目となるトルコ系ドイツ人監督イルケル・チャタクが義務教育の現場に象徴するのは戦中、戦後から現在へと繋がるドイツ史そのものだ。授業中、突如として押しかけてきた教員たちが男子と女子を選別し、財布を置いて移動を強要する様はまるでナチスによるユダヤ人狩りのようだ。学級委員を呼び出して疑わしい生徒を密告させようとする場面は戦後、東西冷戦によって監視社会となった東ドイツの秘密警...『ありふれた教室』
前作『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー作品賞はじめ4部門でノミネートされ、国際長編映画賞を受賞。一躍、日本を代表する映画作家となった濱口竜介の最新作は180分の前作から一転、わずか106分に凝縮され、文字通り観客を煙に巻くミステリアスな作品だ。長野県の山深い田舎町にグランピング場の建設計画が持ち上がる。企画、運営に携わるのは東京に本社を置く芸能事務所で、拙速な計画がここまで通ったのはどうやら政府の助成金を見込んでのことらしい。住民集会にはろくろく権限もない担当者が2名派遣されるばかりで、住民たちからの理路整然とした質問にも答えることができず、自ずと場は紛糾していく。見るべき場面はいくつもある本作だが、意外なことに最大のハイライトがこの説明会のシーンだ。『ドライブ・マイ・カー』でも繰り返された“素読み”を...『悪は存在しない』
1980年代に必殺技“アイアンクロー”で人気を博したエリック・フォン・ファミリーの伝記をショーン・ダーキンが監督するとなれば、通り一遍の実録映画になるはずがない。冒頭、寒々しいモノクロームで映し出される現役時代の父フリッツのヒールぶりに、スコセッシとデ・ニーロの傑作『レイジング・ブル』が頭をよぎるが、ダーキンが撮るリングは禍々しいまでに気味が悪い。後に“呪われた一家”と呼ばれる彼らにまるで何かが取り憑いているかのように見えるのだ。フリッツは6人の男子に恵まれるも(映画では1人省略されている)、5人が病死や自殺によって命を落としたのである。ダーキンは息子たち1人1人のキャラクター性よりも、フリッツを頂点とする家庭構造にこそ注目している。トレーニングから食事の管理はもちろん、プロモーターに転身したフリッツは息...『アイアンクロー』
絵本作家の千紗子は長年、絶縁状態にあった父がアルツハイマーに冒されたことを知り帰郷する。父はすでに我が娘もわからなく、やり場のない怒りを抱えた千紗子の介護は芳しくない。そんなある日、彼女は事故で記憶を失くした少年を保護。自分の子と偽り、共同生活を始めるのだが…。北國浩二の小説『嘘』を『生きているだけで愛』の監督関根光才が自ら脚色した本作は、原作のトーンを捉え切れているとは言い難い。文学調の書き言葉を役者に喋らせるだけのメソッドが確立されておらず、特異なシチェーションにリアリティを持たせることに失敗している。関根の演出、脚本の不手際を父親役の奥田瑛二、医師役の酒向芳ら偉大なる名優たちの自然主義的演技が救っていることが唯一の慰めだろう。『かくしごと』24・日監督関根光才出演杏、奥田瑛二、中須翔真、佐津川愛美、...『かくしごと』
【ポッドキャスト更新】第53回 5月公開作リキャップ『マッドマックス:フュリオサ』『ありふれた教室』
5月の劇場公開作を振り返り。シリーズ最新作『マッドマックス:フュリオサ』を楽しみにしていた長内。ところがどうにも歯切れの悪い感想で…本作はジョージ・ミラーにおける『ファントム・メナス』?アベンジャーズ初期メンバーはみんな小悪党に転向中?アニャ・テイラー=ジョイのフィルモグラフィにおける共通点とは?(13:50頃より)ドイツ映画『ありふれた教室』は学校教諭は卒倒モノの1本。あらゆる描写にドイツの歴史が内包されている?現代ドイツ社会の縮図そのもの?劇中で言及される不寛容方式とは?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『マッドマックス』『マッドマックス2』『マッドマックス/サンダードーム』『マッドマックス:怒りのデス・ロード』『サラブレッド』『クイーンズ・ギャンビット』...【ポッドキャスト更新】第53回5月公開作リキャップ『マッドマックス:フュリオサ』『ありふれた教室』
第96回アカデミー短編ドキュメンタリー賞ノミネート作。結婚によって親戚同士となった2人のおばあちゃんは意気投合。まるで姉妹のような仲睦まじさで、互いの連れ合いが先立った今は一緒に暮らしている。眠る時はなんとベッドも同じだ。2人は人生観も死生観もまるで異なるが、人間がひとつ屋根の下で共に暮らすにはさほど重要でないのかも知れない。コロナ禍のロックダウン中に撮影された本作は孫ショーン・ワン監督が祖母たちへの愛を込めた、微笑ましいプライベートフィルムである。『世界の人々ふたりのおばあちゃん』23・米監督ショーン・ワン※ディズニープラスで配信中※『世界の人々ふたりのおばあちゃん』
【ポッドキャスト更新】第52回 本当に悪は存在しないのか?『悪は存在しない』『アイアンクロー』
舞台も終わり、見逃していた映画をガンガン観ている長内が4月劇場公開作を振り返り。1980年代に活躍したプロレス一家“フォン・エリック・ファミリー”を描く『アイアンクロー』は、実録伝記モノだけどホラー?監督ショーン・ダーキンのデビュー作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』とおなじく“カルト”集団についての映画?実は映画では描かれていないもう1人の兄弟が存在する?(9:30頃より)濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』が公開。なぜ村の住人は全員、棒読みで喋るのか?『ドライブ・マイ・カー』にも登場した濱口監督の演技メソッドにはいったいどんな意味があるのか?本作はイタリアのある気鋭映画作家の作品と似ている?本当に悪は存在しないのか?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『戦...【ポッドキャスト更新】第52回本当に悪は存在しないのか?『悪は存在しない』『アイアンクロー』
【ポッドキャスト更新】第51回 『リプリー』光と影のイタリア
TVシリーズを最終回までネタバレ有りでお喋りする“TVシリーズ雑談会”。今回はNetflixから配信中のリミテッドシリーズ『リプリー』を取り上げます。本作の主役は実はロバート・エルスウィットによるカメラ?なぜ全8話モノクロしたのか?脚本家として名を馳せたショーランナー、スティーヴン・ザイリアンの作風とは?この春はアンドリュー・スコット祭り?『ワーニャ』での凄さも解説。なぜリプリーは何度もカラヴァッジョの絵画を見ているのか?原作を同じにする映画『太陽がいっぱい』との決定的違いはなにか?今回のリプリーはソーシャルメディア時代の“並列化”された存在?ダコタ・ファニングが最終回で見せた巧みさとは?フレディ役で視聴者に違和感を残す俳優はなんとあの人の子供?上半期ベストの1本です!音声はこちらからもお聞きいただけます...【ポッドキャスト更新】第51回『リプリー』光と影のイタリア
20世紀フォックスのレガシーとも言うべき人気タイトル『猿の惑星』シリーズ最新作も、ディズニーの買収によって例外なく傘下20世紀スタジオからリリースされた。そう、この星を支配しているのは人間でもなければ猿でもなく、金を持ったミッキーマウスに他ならない。偉大なる名優アンディ・サーキスと監督マット・リーヴスによる前3部作(リーヴスが参加したのは2作目から)が目覚ましい成功を収めて間もないにもかかわらず、ディズニーは『スター・ウォーズ』同様、金のなる木に次の果実を実らせる必要があった。だが諸作同様、なんとも青にがく、不作である。『猿の惑星』シリーズの醍醐味とは時に薄ら寒くなるほどの風刺性であり、必ずしも親子で楽しめるファミリーアドベンチャーではないだろう。前作から数百年を経て猿たちの社会は細分化し、始祖とも言うべ...『猿の惑星キングダム』
【ポッドキャスト更新】第50回 『シュガー』私立探偵ほど素敵な商売はない
TVシリーズをシーズン最終回までネタバレ有りでお喋りする“TVシリーズ雑談会”。今回はAppleTV+で配信中の『シュガー』について。重大なネタバレは21:30以後に行っているため、そこまでは聞いてくれても大丈夫。ハードボイルド映画の韻を踏んだ、“映画についてのTVシリーズ”?映画と共に生きる人の目から世界を描いている?映画批評は人を救うのか?エイミー・ライアンの起用は出世作となったあの映画からの“引用”?TVシリーズ見ずして映画を語れない時代であることは、シュガーも承知?音声はこちらからもお聞きいただけます【ポッドキャスト更新】第50回『シュガー』私立探偵ほど素敵な商売はない
2023年に亡くなった脚本家、山田太一の代表作『異人たちとの夏』を『荒野にて』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイが現在のロンドンを舞台に脚色、監督した本作は、原作にヘイの作家性が接近、肉薄し、まるで山田と対話するかのような理想的な映像化である。ロンドンの中心部、人気のない高層マンションに暮らす脚本家のアダムは、これまでのヘイ作品の主人公と同様、寄る辺のない孤独に苛まれている。アダムの新作のテーマは”両親”。しかし彼らはアダムが12歳の頃、交通事故で他界してしまった。両親の面影を求め、郊外の生家を訪ねるとそこには亡くなった80年代当時の姿のまま、2人が暮らしている。数十年ぶりの再会に喜び合う3人。アダムはゲイである自身のセクシャリティを両親はどう思っていたのか確かめようとしていく。1973年生まれ、今年51歳...『異人たち』
2019年の長編監督デビュー作『レ・ミゼラブル』でカンヌを圧倒し、脚本を手掛けた2022年のNetflix映画『アテナ』で世界中の度肝を抜いたラジ・リは、今や“フランスのスパイク・リー”とも言うべき重要監督の1人だ。フランス郊外団地に追いやられてきた人々の烈火のような怒りを撮らえるラジ・リは、再び自身が生まれ育った街モンフェルメイユの団地“バティモン5”を舞台に、現代フランス社会の問題を炙り、文字通り映画を発火直前までヒートアップさせていく。冒頭、団地を空撮するダイナミズムが今や“フランス郊外団地映画”とも言うべきジャンルを確立したラジ・リならではスペクタクルだ。カメラが団地の一室に入り込むと、そこでは葬儀が行われている。様々な国籍の多様な文化が凝縮され、移民二世、三世が新たなフランス社会を築く中、行政は...『バティモン5望まれざる者』
【ポッドキャスト更新】第49回 天下統一の夢『SHOGUN 将軍』
TVシリーズをネタバレありで最終回までお喋りする“TVシリーズ雑談回”。今回はディズニープラスで配信中のFX作品『将軍』について。本エピソード収録後、FXはエミー賞獲得を目指してリミテッドシリーズから連続ドラマシリーズへとカテゴリーを変更。日本人俳優の歴代最多ノミネートが実現?いやいや、主要部門の独占受賞もあり得る?シリーズの魅力を興奮気味に解説する長内(今回、鼻詰まりがひどく、お聞き苦しくてスイマセン)。しばしば『ゲーム・オブ・スローンズ』と比較される本作。鞠子さまはデナーリスを供養した?藪重さまは実はシオン枠?そして何処にも当てはまらないのが藤さま!?GOTとの決定的な違いは真田広之が象徴する洗練と夢幻美?最終回、なぜ按針は夢を見ているのか?音声はこちらからもお聞きいただけます【ポッドキャスト更新】第49回天下統一の夢『SHOGUN将軍』
【寄稿しました】『ピークTV 米ドラマの黄金期』(寄稿しました)
共同通信社を通じて『ピークTV米ドラマの黄金期』という全6回の短期連載を寄稿しています。ここ約10年を振り返り、今からでも観るべきTVシリーズ12本を紹介していきます。第1回Netflixの躍進『ストレンジャー・シングス』『ザ・クラウン』第2回“ニュークラシック”の誕生①『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』第3回“ニュークラシック”の誕生②『ゲーム・オブ・スローンズ』『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第4回映画スターの誕生はTVシリーズから『トゥルー・ディテクティブ』『クイーンズ・ギャンビット』第5回新たなる物語、複雑化する文脈『パチンコ』『地下鉄道』第6️回PeakTVは終わったのか?『メディア王華麗なる一族』『一流シェフのファミリーレストラン』埼玉新聞4/11より愛媛新聞4/12より茨城新聞...【寄稿しました】『ピークTV米ドラマの黄金期』(寄稿しました)
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カンヌ映画祭で主要キャスト4名に女優賞が与えられたのを皮切りに、アカデミー賞では非英語映画として歴代最多13部門でノミネートされた本作。カーラ・ソフィア・ガスコンがトランスジェンダーとして初のオスカー主演女優賞候補に挙がるなど話題に事欠かない本作だが、果たして2024年を代表する傑作かというと怪しいところだ。舞台はメキシコ、主人公リタ(そう、誰がどう見ても主演はゾーイ・サルダナである)はマフィアら犯罪者を弁護する悪徳弁護士。彼女は巨大ドラッグカルテルの麻薬王マニタスに誘拐され、驚くべきオファー受ける。抗争に疲れ果てた彼は自らの死を偽り、性転換して女性としての人生を歩みたいと言うのだ。『リード・マイ・リップス』『真夜中のピアニスト』『預言者』を手掛け、『ディーパンの闘い』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した...『エミリア・ペレス』
少なくとも首都圏では劇場で見られる映画の選択肢が豊富にある。昨夏、全米で大ヒットしたホラー『ロングレッグス』がついに劇場公開。途中、ジャンルが変わる“転調”に対し巷では不評の様子だが、97年の黒沢清監督作『CURE』から逆引きすると…。2010年代の“スクリーミングクイーン”マイカ・モンローは、サバービアが窮屈そうな美少女から大人の俳優へと脱皮。(14:05頃より)テレンス・マリックの伝説的監督デビュー作『地獄の逃避行』がタイトル改め『バッドランズ』(原題)となってついに日本劇場初公開。ブルース・スプリングスティーンの名曲『ネブラスカ』のモデルにもなった殺人鬼カップルを描く本作。センセーショナルな題材ながら、一貫されるマリックの作風とは?(18:48頃より)1971年のロベール・ブレッソン監督作『白夜』も...【ポッドキャスト更新】第97回映画はこれでいい『バッドランズ』『白夜』他
2020年、ハリウッドは韓国映画『パラサイト』に外国映画として初となるオスカー作品賞を与えた。長編デビュー作『吠える犬は噛まなない』からポン・ジュノの才能に心酔してきた我々からすれば、随分と遅い認知に思えたが、それでも天才監督に新たな栄誉が加わったことは素直に喜ばしかった。さぁ、オスカー監督というタイトルを得てハリウッドでどんな映画を撮るのか?決して駄作ではないものの、かつてワインスタインに苦しめられたハリウッドデビュー作『スノーピアサー』の雪辱を期待したのだが…。ハリウッドはポン・ジュノにキャリアワーストを撮らせたことを恥じるべきだ。ついでに本作を絶賛している北米批評家も恥じ入るべきだ。彼らはきっと『殺人の追憶』『グエムル』『母なる証明』に打ちのめされたことがないのだろう。ポン・ジュノのアイデアの枯渇を...『ミッキー17』
TVシリーズ『将軍』が世界的大ヒットを記録。助演男優賞を獲得したゴールデングローブ賞では喜びを爆発させたスピーチがアワードシーズンの一種のトレンドになるなど、名実ともに“世界のアサノ”に昇り詰めた感のある浅野忠信。狡猾だがどこか憎めない“ファニーサムライ”藪茂役で認知した海外ファンも少なくないだろう。しかし長年、彼を見続けてきた日本の映画ファンにとっては、『レイブンズ』のようなインディペンデント映画で見せる野性味と繊細、孤高こそが本懐として映るハズだ。浅野が演じるのは写真家の深瀬昌久。1960〜90年代初頭にかけて多くの作品を発表し、74年にはニューヨーク近代美術館でも紹介されたアーティストである。そんな彼の創作衝動、ミューズとなった妻・洋子との愛憎関係、重度のアルコール依存を時系列順に描く本作は型通りの...『レイブンズ』
1973年に公開されたテレンス・マリック監督のデビュー作は、長らく日本ではTV放映やレンタルビデオでしか見ることができず、マリック自身が続く78年の『天国の日々』を最後に20年間もディレクターズチェアを離れたことから“伝説のデビュー作”と呼ばれ続けてきた。2025年、日本での記念すべき劇場初公開に合わせ、タイトルを原題そのまま『バッドランズ』と改め、ついにその伝説が再検証されるに至った。映画は1957年〜58年にかけネブラスカで起こった実際の事件をモデルにしている(ブルース・スプリングスティーンの『ネブラスカ』も同じ出来事に材を得ている)。マーティン・シーン演じる清掃夫のキットは、サバービアの庭先でバトントワリングに興じる少女ホリーを見初め、2人は程なくして結ばれる。しかし25歳と15歳、家柄も異なる2人...『バッドランズ』
あぁ、これは映画館の闇に身を潜め見なくてはいけない映画だ。4Kでリマスタリングされたロベール・ブレッソン監督の『白夜』は、スクリーンを通じて1971年パリはセーヌ川のほとり、ポンヌフ橋の夜気が流れ込んでくる。主人公は画家のジャック。しゃにむにパリを練り歩き、理想の女性に巡り会ったと錯覚しては後を追う恋に恋する若者だ。ある夜、彼はポンヌフ橋の欄干から身投げしようとする若い娘マルトに出会う。聞けば彼女は愛し合った男が約束の1年を過ぎてもパリへ戻らないことに悲観していた。以来、2人は毎夜ポンヌフのたもとで互いの身の上を語り合っていく。わずか83分の映画にはたったこれだけのプロットしかない。だが、あと100分続いたって構わない至福の映画時間がここにはある。恋の予感と性愛への期待。言葉に優る映画の言語が散りばめられ...『白夜』
2024年、最も目の醒めるような映画体験はラトビアからやって来た。人類文明が水没した世界を1匹の黒猫が旅する。ここには安易な擬人化もなければ台詞もない。アニメーションの原初表現が動物たちに魂を宿らせ、観客を目覚めさせるのだ。映像技術の向上のみならず、アイデンティティポリティクスの時代を経てアニメーション映画のストーリーテリングは多様化したが、あまりにも多くのイシューを背負い、絵よりも言葉で語る“口数”が多くなり過ぎてはいないだろうか。2019年の前作『Away』をたった1人で撮り上げた1994年生まれギンツ・ジルバロディス監督の洗練にハリウッドも帽子を脱ぎ、本作はアカデミー賞の長編アニメーション映画賞に輝いた。驚くべきはそのカメラワークだ。猫の目線の高さが徹底され、多くの場面はカットが割られることなく、ま...『Flow』
TVシリーズを最終回までネタバレ有りでお喋りする“TVシリーズ雑談回”。今回はAppleTV+で配信中の『セヴェランス』シーズン2について。究極のクリフハンガーで終わった前シーズンから3年。謎が謎を呼ぶ焦れったい展開は、TVドラマ史に残る名作に肩を並べようとしている?シーズン2は新しい要素を活かしきれていない?監督ベン・スティラーの作家性とは?真のテーマは階級闘争?マークのアウティは民主党支持者?ミルチックさんは敵じゃない?最終回で使われていた曲はあの名作映画の主題歌?そもそも労働と人生を切り離すことなんてできるの?自ずと長内の就業経験や、見聞きしたブラック企業の実態も話さずにはいられない今回。花粉症が極まっており、お聞き苦しい部分は何卒ご勘弁を!音声はこちらからもお聞き頂けます(Spotify)stan...【ポッドキャスト更新】第96回『セヴェランス』ワーク・ライフ・バランスとは?
ホラー映画は数あれど、オズグッド・パーキンス監督(父はあのアンソニー・パーキンス)の『ロングレッグス』はたじろくほど禍々しい。舞台は1993年。父親が妻と幼い娘を惨殺した後、自ら命を断つ事件が起こる。無理心中にも思える中、密室の現場にはロングレッグスなる人物からの暗号文が遺されていた。事件はこれ1つではなく、30年以上も前から一定のアルゴリズムによって繰り返されてきたのだ。新人FBI捜査官リーは霊的とも言うべき天性の直感に導かれ、謎の連続殺人鬼の行方を追う。暗褐色を基調とした室内シーンと、冬の曇天が続く屋外シーンを組み合わせた沈鬱な映像。優れた耳を持った映画作家ならではの音響設計。静寂をつんざくショック音は観客の生理を逆撫でし、一見彼とはわからないニコラス・ケイジに慄く。セルフパロディに陥ることのないケイ...『ロングレッグス』
ショーン・ベイカーが勇猛果敢なフィルムメイカーであることは今更、言うまでもないが、それにしたって2021年の『レッド・ロケット』は肝が座っている。テキサスの田舎町、長距離バスから1人の男が降り立つ。彼の名はマイキー・セイバー。知る人ぞ知る、いや男なら1度は顔とアレを見ている人気ポルノ男優だ。彼はズンズン歩いていくと、1軒の家に押し入る。疎遠の実家か、昔の女か。顔を出したのは離婚すらしていない“元嫁”にして、幾つものヒット作を共に送り出したポルノ女優レクシーだ。ベイカーはマイキー役に本物のポルノ男優サイモン・レックスを起用し、呆れるほど痛快なキャラクターを作り上げた。マイキーは口八丁に手八丁でレクシー家に居座ると、今度は生活費を稼ぐため何とドラッグディーラーへ転身。昔取った杵柄と言うが、そんな程度で務まるの...『レッド・ロケット』
WEBメディア“Niew”に、『ガンニバル』シーズン2について寄稿しました。前シーズンを凌駕するバイオレンスアクションや、柳楽優弥と双璧を成す笠松将の好演、グローバルヒットを狙うTVシリーズ原作として、今後ますますの鉱脈となる週刊連載漫画に注目しています。ネタバレはないので、視聴前のイントロダクションにどうぞ!記事はこちら『ガンニバルシーズン2』(寄稿しました)
近年、アメリカ映画は『ホールドオーバーズ』『パストライブス』といったオスカー候補作から、『チャレンジャーズ』『ツイスターズ』といったボックスオフィスの人気作まで、3人1組のスリーサムを多く描いてきた。1対1の関係にもう1人が加われば、それは自ずと社会を映すことになる。ハリウッドはアイデンティティポリティクスの時代において社会を啓蒙しようとしたが、そこには個人への眼差しが欠けていたように思う。弱く、不完全で、曖昧な個人の存在なくして人間を描くことはできない。僕はそう器用に自分の周りを見回すことなんてできない。究極的には眼の前の大切な誰かと、1対1でぶつかっていくことしかできないのだ。バリー・ジェンキンス監督『地下鉄道』で知られるコルソン・ホワイトヘッドの小説を新鋭ラメル・ロスが監督した本作は、徹底されたメソ...『ニッケル・ボーイズ』
https://open.spotify.com/episode/2ufLSSsqUQm3foRsA0dzNC?si=QAJp-Bo0S_aeGYjthwrqXwアカデミー作品賞ノミネート作が続々と公開され、2024年のアメリカ映画がいったい何を描いていたのかが朧気と見えてくる。(3:40頃より)オスカー5冠の『アノーラ』が初見時にはピンと来なかった長内。読み解くヒントはショーン・ベイカーの前作『レッド・ロケット』にある?アノーラは可哀想な娼婦ではない?イゴールはいったい何を象徴しているのか?ショーン・ベイカーが最も嬉しかったノミネートは編集賞?(16:47頃より)音楽的知見がなく、世間一般程度のボブ・ディランの知識しかない観客は『名もなき者ACOMPLETEUNKNOWN』をどのように見れば良いのか?シ...【ポッドキャスト更新】第95回私はどう生きるのか『アノーラ』『名もなき者』『ニッケル・ボーイズ』『教皇選挙』
あのショーン・ベイカーがオスカー独占。しかも個人で作品(プロデュース)、監督、脚本、編集の4冠は歴代最多。アメリカンインディーズ最後の雄と言っても過言ではない彼が随分と遠くまで来てしまったなぁと感慨もひとしおである。『アノーラ』はそんなベイカーの気質がメインストリームに結びついた代表傑作だ。舞台はNY、高級ストリップクラブのダンサー、アニーはロシア新興財閥の息子イヴァンに見初められ、“エッチなガールフレンド”として専属契約を結ぶ。オルガリヒの金を浪費する贅沢三昧の末、2人は旅行先のラスヴェガスで電撃婚。しかし彼らの仲を裂こうとイヴァンの両親はアルメニアンギャングを送り込む。もちろん、このプロットで底抜けのコメディだ。25歳でアカデミー主演女優賞に輝いたマイキー・マディソン演じるアニーは、ベイカー映画の集大...『アノーラ』
ポッドキャスト『長内那由多のMovieNote』をYouTubeに連携しました。これでYouTube他、Spotify、AmazonMusic、ApplePodcast、standFMからご視聴頂くことができます。お使いのプラットフォームからどうぞ。番組登録もよろしく!YouTubeチャンネルはこちらから【おしらせ】ポッドキャストをYouTube連携しました
https://open.spotify.com/episode/1hpRbHkUShnZbJ9Qb7LWlW?si=D2jMtlnlSo--QaUNI2Vv9Q第97回アカデミー賞終了直後、木津毅さんと行った緊急ライブ配信の模様をお届け。今年の盛り上げ番長はコールマン・ドミンゴ?007のトリビュートは映画産業への“追悼”だった?キーラン・カルキンのスピーチは昨年のエミー賞が伏線?今後のオスカーレース予想の鍵は英国アカデミー賞?今年のベストスピーチは?シャラメは“ディカプリオコース”に乗った?主演女優賞の結果はまさに『サブスタンス』?今年の主役はインディペンデント映画?予想編も合わせてどうぞ。音声はこちらからもお聞き頂けます【ポッドキャスト更新】第94回第97回アカデミー賞振り返り(with木津毅)
https://open.spotify.com/episode/3tXUOP26B2Ba9zLZQyeeQH?si=Kzw4fcoET6GHdpiCuLYEmQ当番組始まって以来、初のゲスト回!ライターの木津毅さんをお招きし、東京都練馬区江古田にあるcafeearthで行われた公開収録イベントの様子をお届け。長内と木津、それぞれアカデミー賞とはどんな距離感?アカデミー賞の楽しみ方とは?ストライキ後の稀に見る閑散の中で選ばれた10作品によるオスカーレース。ハリウッドが向かうべきは何処なのか?過去約10年のオスカーの沿革や仕組み、主要6部門をはじめとした各部門の注目作品、俳優の解説など盛り沢山。収録終盤には意外な乱入者も?!オスカー予想のみならず、上半期注目作品ガイドとしてもどうぞ!音声はこちらからもお聞き...【ポッドキャスト更新】第93回第97回アカデミー賞受賞予想(ゲスト:木津毅)
第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したムスチスラフ・チェルノフ監督は、スピーチの開口一番こう言った「私はここに立って、この映画を撮りたくなかったと言う初めての映画人です」。彼らAP通信取材班はウクライナ紛争開戦直後マリウポリ入りし、病院に密着取材する。徐々に包囲網が狭まる中、病院に担ぎ込まれてくるのはその大半が子供だ。戦争は本人の心身はもちろんのこと、居合わせた人々にも深い傷を与える。治療のかいなく命を落としていく子どもたちを前に、医療従事者たちは無力感に苛まれる。開戦当初、私達が度々目にした現地映像はチェルノフ監督らチームによるものだった。ロシア軍によってインターネット通信も遮断された中、果たして彼らはマリウポリで起きている現実を世界に発信することができるのか?後半、映画は手に汗握る脱出...『マリウポリの20日間』
TVシリーズ雑談回は最新シーズン4『ナイト・カントリー』の配信が始まった『トゥルー・ディテクティブ』シリーズについて。シーズン1が始まった2014年は、TVシリーズにとって地殻変動的な年だった?マコノヒーはもちろんのこと、ウディ・ハレルソンの人物造形も格別?シーズン2は過小評価されすぎ?なぜ『トゥルー・ディテクティブ』シリーズの人気は少しずつ下がっていったのか?シーズン1が持っていた魅力とは何か?再び人気を盛り返した『ナイト・カントリー』に足りないのはT・ボーン・バーネットと銃撃戦だけ?真の主役は夜間シーンのカメラ?“元祖”トゥルー・ディテクテイブ、ジョディ・フォスターが大復活?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『トゥルー・ディテクティブ』シーズン1『トゥルー...【ポッドキャスト更新】第48回『トゥルー・ディテクティブ』シリーズを振り返る
世界興収2億ドルを突破し、Netflixのグローバルチャートでもトップを走る“ANYONEBUTYOU”が邦題『恋するプリテンダー』となってついに日本上陸だ。“邦高洋低”となって久しい日本の映画市場で、ロマンチックコメディが劇場公開されるのは珍しいこと。そもそもストリーミングプラットフォームが隆盛を極めて以後、ハリウッドでも随分と軽視されてきたジャンルである。新進の若手スターを充てがい、誰にもヒットを期待されない映画が大量にネットの海へと放流されてきた。だが振り返れば低予算でも息の長いロングヒットを狙い、ネットがない時代に口コミだけを頼りに語り継がれるの花形ジャンルの1つでもあったハズだ。『プリティ・ウーマン』『ノッティングヒルの恋人』『ベスト・フレンズ・ウェディング』『ユー・ガット・メール』etc.…今...『恋するプリテンダー』
「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト」出版記念で特集上映された1981年のアベル・フェラーラ監督作『天使の復讐』。公開当時、大酷評されたがその後カルト化。HBOのTVシリーズ『ユーフォリア』をはじめ、近年の話題作には本作の影響が垣間見える?当時の荒廃したNYのランドスケープはヒロインのみならず、ある者の心象を描いている?この時代の映画にはまだニューシネマの名残りがあった?人はある境界を超えると、もう元の場所には戻れなくなってしまうのだ。(13:50頃より)山田太一の『異人たちとの夏』をアンドリュー・ヘイが脚色した『異人たち』もまた、現在のロンドンを舞台に人間普遍の孤独が描かれる。幼い頃に死んだ両親との対話はセルフケアなのか?シャーロット・ウェルズ『aftersun/アフターサン』との共鳴も興味深い。ポ...【ポッドキャスト更新】第47回都市を漂泊する者たち『天使の復讐』『異人たち』
ヒット作や受賞作ばかりが“名作”ではない。公開当時に酷評され、現在では当然ストリーミングでも観ることが叶わない『天使の復讐』は、後に多くの作品へ影響を及ぼしたカルトムービーだ。サム・レヴィンソンによる『ユーフォリア』で女子高生が主演ゾーイ・タマリスの尼僧姿を仮装していた他(そんなZ世代いるのか?)、スタイリングの洗練と殺人鬼の組み合わせは『キリング・イヴ』のヴィラネル、プロットラインはエメラルド・フェネル監督作『プロミシング・ヤング・ウーマン』への影響が色濃く見られる。縫製会社がひしめくNYの工場街。御針子として働くろうあの女性サナは、1日で2度も強姦される。“物言えぬ”女性に向けられた性的搾取の眼差しは今も変わらぬ光景であり、サナは警察に行くこともできないまま内に恐怖を抱き、やがて銃を手に夜の街へと繰り...『天使の復讐』
多くの映画が劇場公開されることなくストリーミングの広大な海に放流されていく昨今、映画ファンにもそんな潮目を読む根気が必要だ。1992年生まれ、今年32歳のルディ・マンキューソが監督、主演、脚本、音楽、振付を手掛けたデビュー作『ミュージック』は、新たな才能に心踊らせれる。冒頭、若い男女がダイナーで会話をしている。男は上の空気味で、彼女の話が頭に入っていない。彼にとっては周囲の雑音が気になって仕方ないのだ。人の気配や厨房の雑音…次第にそれはリズムを刻み、音楽となって人々が一斉に踊り始める。主人公ルディは周囲の環境音がリズムやメロディとして認知される“共感覚”の持ち主なのだ。マンキューソの半自伝である本作は、そんな才能を持った彼の目線から世界を描く青春ミュージカル映画である。YouTuber出身のマンキューソは...『ミュージック僕だけに聴こえる音』
ジリ貧のハリウッドは相も変わらず続編、リメイクの量産に勤しんでいるが、今度は誰も振り返らない1989年のパトリック・スウェイジ主演作『ロードハウス孤独の街』に手を出した。ラジー賞では5部門にノミネートされた駄作なら、さすがにオリジナルを下回るような事にはならないと踏んだのだろう。結果は大当たりだ。監督ダグ・リーマンと主演ジェイク・ギレンホールは『ロードハウス』を極上のB級映画へと仕上げ、123分間なんともいい湯加減が続くチルな1本である。近年『アンビュランス』『コヴェナント』など、“普通のハリウッド映画”に意識的なギレンホールは終始ニヤケ顔のゴキゲンっぷりだ。闇ボクシングに生きる主人公ダルトンを紹介する冒頭部からいい力の抜け具合である。彼の名を聞くやむくつけきの大男は逃げ出し、ナイフで刺されてもどこ吹く風...『ロードハウス孤独の街』
リアルサウンドに『トゥルー・ディテクティブ』シリーズについて寄稿しました。最新シーズン4『ナイト・カントリー』の配信に先駆け、シリーズを振り返る内容ですが主にシーズン1を中心に書いています。TVシリーズに地殻変動が起きていた2014年オンエア当時の光景や、現在ではすっかり定着した映画俳優、映画作家によるリミテッドシリーズへの参入、そしてその後のシリーズと決定的に異なるシーズン1の魅力などについて解説しています。御一読下さい。記事はこちら記事内で言及されている各作品のレビューはこちら『トゥルー・ディテクティブシーズン3』『ハウス・オブ・カード野望の階段』『FARGO/ファーゴ』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ムーンライト』『グリーンブック』『トゥルー・ディテクティブ』(寄稿しました)
80年代にマイケル・ジャクソンの『今夜はビート・イット』や『BAD』の替え歌で一世を風靡したパロディ歌手ウィアード・アル・ヤンコビックが自らプロデュースした自伝映画を真に受けてはいけない。厳格な父の元で育てられたヤンコビックは幼くして「将来は有名な曲のパロディを唱う歌手になりたい!」と夢を抱き(そんな子供がいるのか?)、田舎を飛び出していく。1979年、ザ・ナックのヒット曲『マイ・シャローナ』をサンドイッチ作りの曲に替え歌した『マイ・ボローニャ』を自主制作し、これがラジオを通じてブレイク。しかし、替え歌では本物のミュージシャンと認められない焦りが、ヤンコビックを追い詰めていく。1984年『今夜もイート・イット』を発表。ところが程なくしてマイケル・ジャクソンが『今夜もビート・イット』を発売し、MVまで丸っき...『こいつで今夜もイート・イットアル・ヤンコビック物語』
今回はひと足早く5月劇場公開の注目作2本をネタバレなしで紹介。世界中で特大級のヒットを記録した『AnyonebutYou』が邦題『恋するプリテンダー』となって5/10に日本上陸。ラブコメ映画久々の大当たりに期待してみると…まったく新しくない?ポリティカル・コレクトネス以前、90年代まではハリウッド製ラブコメが世界の共通言語、文化だった?(12:00頃より)ラジ・リ監督の最新作『バティモン5望まれざる者』が5/24より公開。ラジ・リは現代フランス映画最重要監督の1人?“郊外団地スペクタクル映画”というジャンルを確立?2010年代に急速に変化したヨーロッパの景色とは?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『リアリティ』『ユーフォリア』『トップガンマーヴェリック』『レ・...【ポッドキャスト更新】第46回5月公開の注目作『恋するプリテンダー』『バティモン5望まれざる者』
アカデミー賞で作品賞と脚本賞にノミネートされたセリーヌ・ソン監督の長編デビュー作『パストライブス』は、情感あふるる珠玉の映画だ。上映時間はオスカー受賞作『オッペンハイマー』の約半分にあたる106分。ゆったりと贅沢に時間を使ったソンの演出は大作偏重気味の昨今において、観客に真のストーリーテリングの豊かさを実感させてくれるだろう。24年前、ソウルに暮らす12歳のノラとヘソンは互いに想いを寄せ合う。まだこの感情に名前も付かない年頃で、やがてノラの海外移住によって別離が訪れる。『パストライブス』は厳密に言えばロマンス映画には分類されないかも知れない。将来の夢はノーベル賞を取ることと目を輝かせ、海外移住に胸踊らせるノラと、後に兵役に就き、国内の大学へ進学するヘソンは既に恋愛における同じ時間軸に存在していない。12年...『パストライブス再会』
今年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作『マリウポリの20日間』が4月26日より劇場公開。ロシア軍の迫る中、マリウポリで決死の取材を試みたAP通信記者たち。悲惨な戦場の現実を伝えるドキュメンタリーである一方、手に汗握る後半部の構成力に舌を巻く。映画とは何か?オスカー受賞時「この映画を撮りたくなかった」とスピーチした監督チェルノフの言葉が頭を過る。(9:54頃より)2022年のヴェネチア映画祭金獅子賞受賞作がようやく日本公開。ローラ・ポイトラス監督の『美と殺戮のすべて』は「生き延びることがアートだった」と語る写真家ナン・ゴールディンの生涯を追いながら、個人と社会、アートと政治の関係性を浮かび上がらせていく。オピオイド危機についてはNetflixのTVシリーズ『ペイン・キラー』が詳しいのでこちらもどうぞ。...【ポッドキャスト更新】第45回ドキュメンタリー映画3選『マリウポリの20日間』『美と殺戮のすべて』他
映画館に行く時間が取れないため、自宅で新作配信映画を観る長内。WOWOWで日本初公開の映画『こいつで、今夜もイート・イットアル・ヤンコビック物語』を。ヒット曲の替え歌で一世を風靡したアル・ヤンコビックの自伝映画もパロディになっている?(9:00頃より)PrimeVideoで配信中の『ロードハウス孤独の街』は89年のパトリック・スウェイジ主演作をダグ・リーマン監督、ジェイク・ギレンホール主演でリメイク。丁度よい湯加減の“普通のハリウッド映画”にゴキゲン!(16:52頃より)同じくPrimeVideoで配信中の『ミュージック僕だけに聴こえる音』は拾い物の好編。共感覚を描いたミュージカル青春ラブコメディ。埋もれさせておくのはもったいない。音声はこちらからもお聞き頂けます【ポッドキャスト更新】第44回家で映画を観るのもいいぞ『ロードハウス』『ミュージック』『こいつで、今夜もイート・イットアル・ヤンコビック物語』
2021年の『消えない罪』でハリウッドデビューし、今年はシアーシャ・ローナン主演『TheOutrun』がサンダンス映画祭で話題を集めたノラ・フィングシャイトの長編初監督作は、天才子役ヘレナ・ツェンゲルのパフォーマンスによって爆発的なエネルギーを得た1本だ。9歳の少女ベニーは幼児期の虐待のトラウマから怒りと暴力衝動を抑えることができず、実の親からも見捨てられ、児童養護施設をたらい回しにされていた。彼女に残された道は隔離病棟での薬物治療か、アフリカでのリハビリという名の厄介払いか。いずれにせよ、未だ幼い少女に課されるにはあまりにも酷な処置である。タイトルの“システム・クラッシャー”とは、「あまりに乱暴で行く先々で問題を起こし、施設を転々とする制御不能で攻撃的な子供を指す隠語」とあるが、言葉の定義は問題を表面化...『システム・クラッシャー』
リアルサウンドにクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』のレビューを寄稿しました。制御できない力、主人公に取り憑く亡霊といったノーラン映画おなじみのモチーフから、性格俳優をずらりと敷き詰めたキャスティングの魅力、映画ではケネス・ブラナーが演じた学者ニルス・ボーアの視点から描いた戯曲『コペンハーゲン』について、そして私たち観客の1人1人が厳然たる違いを意識せずにはいられない本作のテーマなどについて触れています。ぜひ御一読ください。記事はこちら文中で触れている各作品のレビューはこちら『シンドラーのリスト』『インセプション』『TENETテネット』『ミッドサマー』『聖なる証』『アンカット・ダイヤモンド』『リコリス・ピザ』ポッドキャストでも解説をしています『オッペンハイマー』(寄稿しました)
ポッドキャスト最新回ではアカデミー作品賞、脚本賞の2部門でノミネートされたセリーヌ・ソン監督作『パストライブス再会』を中心に恋愛映画についてお喋りをしています。音声はこちらかもお聞き頂けます実はロマンス映画が大好きな長内。楽しみにしていた『パストライブス再会』がついに公開。でも思っていたのとちょっと違った?見た人の数だけ感情移入できるポイントが違う映画?pastlives=前世というタイトルは何を指しているのか?自身の人生と恋愛観も引き寄せずにはいられない映画。いつしか番組は恋愛談義となり、とめどないまま長内の生涯のお気に入りである『ビフォア・サンセット』や、昨年のフェイバリット『別れる決心』など、大好きなロマンス映画のトークへ。今回はまったりとお聞きください。番組内で言及している各作品のレビューはこちら...【ポッドキャスト更新】第43回
ついに日本公開されたクリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』についてお喋りをしています。音声はこちらからもお聞き頂けます3時間を怒涛の勢いで駆け抜けるストーリーテリングはオッペンハイマーの思考スピード?人類が愚行を重ね、転落する早さ?観客を脱落寸前まで振り回し、しがみつかせるため?制御できないが、使わずにはいられない力がノーラン映画には度々登場している?俳優がノーラン演出を超えた瞬間に傑作が誕生?フローレンス・ピュー演じるジーン・タトロックは『インセプション』のマリオン・コティヤール枠?日本では奇しくも同時期公開の『DUNEPART2』との共通点も多々ある本作、大きな違いは脇役のキャスティングに有り?なぜヒロシマ、ナガサキの惨状が描かれないのか?『オッペンハイマー』は“政治的プラカード”を...【ポッドキャスト更新】第42回『オッペンハイマー』天才科学者は核分裂の夢を見るか?
「生き延びることがアートだった」現代写真芸術の最重要人物の1人、ナン・ゴールディンは自身の半生を振り返り述懐する。幼い頃、姉が自殺。両親との不和を抱えた彼女は程なく家を出て、フリースクールへと通学。既存の社会システムから外れていくことでアーティストとしての才能を育んでいく。彼女のポートレートは人物に密着し、赤裸々で、時に痛みを伴うような美しさがある。青春時代からクィアカルチャーで生きてきた彼女はやがてエイズ禍に直面、その作家性は時の政治と対峙していく。ローラ・ポイトラス監督はゴールディンのスライドショーをふんだんに取り入れ、この先鋭的アーティストを紹介しながら前作『シチズンフォー』と同様、個人と社会の対比、接続、そして権力の偏執性を浮き彫りにしていく。撮影当時2018年、ゴールディンはフォトグラファーであ...『美と殺戮のすべて』
リアルサウンドに『デューン砂の惑星PART2』のレビューを寄稿しました。奇しくも日本では連続公開となるクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』との関連性からアメリカ映画の潮流の変化を読み、映画後半から見え始めるヴィルヌーヴの作家性に注目しています。御一読ください。記事はこちら前作のレビューはこちら記事内で触れている各作品のレビューはこちら『ブレードランナー2049』『ボーダーライン』『ユーフォリア』『デューン砂の惑星PART2』24・米監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ出演ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、オースティン・バトラー、ジョシュ・ブローリン、フローレンス・ピュー、デイヴ・バウティスタ、クリストファー・ウォーケン、レア・セドゥ、ステラン・スカルスガルド、シャーロット・ランプ...『デューン砂の惑星PART2』
今回はAppleTV+で配信されたTVシリーズ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』を中心にお喋りしています。ビッグネームが揃った大作ですが、イマイチ高高度まで到達しない。この他、4月27日より全国順次公開されるドイツ映画『システム・クラッシャー』、日本では配信スルーに終わった好編『神さま聞いてる?これが私の生きる道?!』を紹介しています。音声はこちらからもお聞き頂けます番組内で言及されている各作品のレビューはこちら『マッドバウンド哀しき友情』『この茫漠たる荒野で』『WANDA』『私、オルガ・ヘプナロヴァー』『スウィート17モンスター』【ポッドキャスト更新】第41回『マスターズ・オブ・ザ・エアー』の低空飛行、他2本