chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
長内那由多のMovie Note https://blog.goo.ne.jp/nayutagp01fb-zephyranthes

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

最新映画や海外ドラマ、Netflix配信作を中心とした映画レビュー。アカデミー賞予想記事も有り。半期毎に総括ベストテン記事も書いています。「ドラマも同じくらいの熱量で見ていなければ今の映画は語れない!」が最近の信条です。

長内那由多のMovie Note
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2017/03/20

arrow_drop_down
  • 【ポッドキャスト更新】第80回 2024年最重要作『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』

    https://open.spotify.com/episode/4sCYiwseyPXyH6ETosay7B?si=J6vmCg0nSQuMv82Fxg_7HATVシリーズを最終回までネタバレでお喋りする“TVシリーズ雑談回”。今回はHBO(日本ではU-NEXT)から配信中の『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』について。数々の名作ギャング映画へオマージュが捧げられた本作。しかし最も強い影響を受けているのは同じくHBO製作のあの傑作?コリン・ファレル自身も様々な映画の記憶で生きている『シュガー』な男?ギャングドラマの魅力はロケーションにこそ有り?ヴィクターはもう1人のジェシー・ピンクマン?ラストシーンの意味は実は公式アカウントが明らかにしている?同時期に最終回を迎えた『ディスクレーマー夏の沈黙』と実は...【ポッドキャスト更新】第80回2024年最重要作『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』

  • 『クラブゼロ』

    オーストラリアの名門私立校に新任教師ノヴァクがやって来る。地球にも人体にも優しい“意識的な食事”を提唱する気鋭の栄養学者だ。過食と添加物を強要する食品産業を否定した教育に、生徒たちは感化され、やがて食事を控え始めていく。そしてノヴァクは摂食ゼロのメソッド“クラブゼロ”の存在を明らかにする…。ジェシカ・ハウスナー監督の『クラブゼロ』を反社会的と取るか、鋭い社会批評と取るかはあなたの食習慣によって異なるかも知れない。だがアイデンティティポリティクスが生んだ“正しさの強要”が1つの結末を見た2024年、摂食を巡る本作はピリリと辛いどころかエグみがたっぷりだ。本質よりも“正しさ”に感化され易い者にとってデマは容易に真実となり、カルトへと変貌。異を唱える者は対話ではなく排除の対象となる。子どもたちは「正しい信念」と...『クラブゼロ』

  • 『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』

    ドナルド・トランプ陣営が大統領選挙前の公開を恐れ、上映中止を働きかけたと言われている『アプレンティスドナルド・トランプの創り方』。次期大統領を脅かす致命的な映画なのか?答えはNOだ。フェイバリットムービーに『市民ケーン』を挙げるなど、映画に対する見識はそれほど悪くないようにも思えるトランプ。本作をちゃんと見ていればそう腹を立てることもなかっただろう(イラン系デンマーク人監督アリ・アッバシの名前に「イラン!」と怒った可能性はあるが)。北欧ダークファンタジー『ボーダー』から『聖地には蜘蛛が巣を張る』、さらにはHBOのTVシリーズ『THELASTOFUS』ラスト2エピソード等、容易に作家性を見出しにくいカメレオン監督のアッバシは、トランプが家賃の取り立てに奔走していた1980年代を舞台に、大物弁護士ロイ・コーン...『アプレンティスドナルド・トランプの創り方』

  • 【ポッドキャスト更新】第79回 『ディスクレーマー 夏の沈黙』ナラティブとフォーム

    https://open.spotify.com/episode/6OTg4u5WIu0OPO3Z6HHn5p?si=V1Yuhnl4QXqK0d0AWtFFNw最終回までネタバレ有りでお喋りする「TVシリーズ雑談回」。今回はAppleTV+で配信中の『ディスクレーマー夏の沈黙』について。物語を読み解く重要なヒントは第1話早々に語られている?ケイト・ブランシェットにとって『TAR』との“連作”?イタリア編で思い起こすのはキュアロン初期のあの映画?なぜ常に太陽からの逆光が射し込んでいるのか?劇中に登場しない女性のナレーションはいったい誰なのか?エンドクレジットの最後にキュアロン代表作のセリフが引用されている?実験性の強いジャンル作品にも見える一方、これまでのキュアロン作品のテーマが反復されている?音声はこち...【ポッドキャスト更新】第79回『ディスクレーマー夏の沈黙』ナラティブとフォーム

  • 『ピアノ・レッスン』

    さぁ、襟を正して着席しよう。オーガスト・ウィルソンがピューリッツァー賞を受賞した1990年の戯曲『ピアノ・レッスン』の映画化だ。1911年、ミシシッピから始まる黒人一家の宿縁は、ウィルソンが一貫して描いてきた忍従と反骨、世代間の歴史認識の物語であり、アメリカ黒人史におけるギリシャ悲劇である。脚色も手掛けたマルコム・ワシントン監督はほとんど舞台中継さながらだったウィルソン原作『マ・レイニーのブラックボトム』よりも映像的翻案に成功しているが、黒人演劇の大家を前に気負いが過ぎるようだ。忙しなく動くカメラ、沈黙を恐れた劇伴、俳優たちも大劇場クラスの大熱演で、ワシントンは引き算を知らなすぎる(ちなみにマルコムの父、デンゼル・ワシントンはウィルソンの『フェンス』で監督、主演。今後のキャリアは巨匠の戯曲を映画メディアを...『ピアノ・レッスン』

  • 『ブリッツ ロンドン大空襲』

    1940年、ナチス・ドイツの電撃的な空襲攻撃(Blitz)に苦しめられるロンドン市街を舞台にした『ブリッツ』は、一見これまでのスティーヴ・マックィーン監督作に比べアンマッチな題材に思えるかもしれない。9歳の少年ジョージは集団疎開に出されるも母を想い、1人列車を飛び降りる。マックィーン版母をたずねて三千里?いいや、戦火のロンドンを彷徨う旅路はジョージに底なしの哀しみを突きつけ、マックイーンの筆致はディケンズを思わせる古典的な趣すらある。何よりジョージの存在はこれまで語られることのなかった第二次大戦下のロンドンに生きる黒人である。前作『スモール・アックス』に続き、ロンドン生まれの黒人スティーブ・マックイーンのアイデンティティの探求でもあるのだ。自ら脚本も手掛けるマックイーンは、戦争映画に描かれることのなかった...『ブリッツロンドン大空襲』

  • 『ノーウェア』

    1990年代“ニュー・クィア・シネマ”を牽引したグレッグ・アラキ監督の代表作。97年のビビッドな表現は性的な多様性が広く認知され始めた今日見ても、目の覚めるようなインパクトがある。巻頭、まるで4次元空間のように拡がるシャワールームや(主人公ダークはここで同級生の男子を思いながらマスターベーションしている)、壁一面にデザインアートが施された自室など、まるでロサンゼルスの陽光を浴びたペドロ・アルモドバルのような美術センスに面食らう。若者たちは性差に囚われることなく、互いを呑み込むようにキスとセックスを繰り返し、全編に渡って映画は祝祭的だ。しかし、ダークの眼の前に人類をアブダクトする宇宙人の姿が垣間見え、同級生の少女は理不尽な暴力に見舞われる。無事に大人になることもままならない死と隣り合わせの青春は、エイズ禍を...『ノーウェア』

  • 【ポッドキャスト更新】第78回 2024年最後の大作ハリウッド映画『グラディエーターⅡ』

    https://open.spotify.com/episode/5lkFmqPOl1ZtOeVsdrCWk5?si=3fSniaINTZmsXatgdxuTlQ2000年のアカデミー作品賞受賞作『グラディエーター』24年ぶりの続編が公開。初日に都心のIMAXで鑑賞した長内。場内の観客構成にびっくり?後に多くの作品へ影響を与えた前作。最大の功績はあのTVシリーズ?史劇映画ながら、歴史考証はほとんど無視の本作。戦国ファンタジーものとして楽しむべき?24年の時を経てリドリー・スコットも映画表現のストーリーテリングも変わった?今回はポール・メスカル、ペドロ・パスカル、そしてデンゼル・ワシントンの3トップ編成。最もアカデミー賞に近いのは誰?王道を往くテーマ性は、大統領選挙直後のアメリカで大ヒット間違いなし?音声は...【ポッドキャスト更新】第78回2024年最後の大作ハリウッド映画『グラディエーターⅡ』

  • 『クリスマスはすぐそこに』

    2022年、アルフォンソ・キュアロンはイタリアの俊英アリーチェ・ロルヴァケルとタッグを組み、ディズニープラスからクリスマス短編『無垢の瞳』をリリースしたが、今年はデヴィッド・ロウリーを監督に迎えた。『セインツ約束の果て』『さらば愛しきアウトロー』等、70年代アメリカ映画を彷彿とさせる作風の彼は、一方でディズニーの『ピートと秘密の友達』『ピーター・パン&ウェンディ』を手掛け、コンテンポラリーな『ア・ゴースト・ストーリー』『グリーン・ナイト』をフィルモグラフィに連ねるファンタジーの異才でもある。『クリスマスはすぐそこに』はなんとボール紙を使ったストップモーションアニメで、ロウリーの美意識とディズニーへの憧憬がクリスマス精神を謳っている。酸いも甘いも知った都会のハト役でナターシャ・リオンがあのダミ声を聞かせてく...『クリスマスはすぐそこに』

  • 『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』

    2000年に大ヒットを記録し、アカデミー作品賞にも輝いた『グラディエーター』は直後から続編制作が囁かれてきたが(主人公マキシマスは死んだというのに!)、紆余曲折24年を経てついに完成した。マキシマスとルッシラ王女の息子ルシウスが王位簒奪者の手を逃れ、遠くアフリカの地で成長。十数年の時を経て、グラディエーターとしてローマへ帰還する…歴史に詳しい観客は前作に続きまるで考証のないハリウッド史劇に目くじらを立てたくなる所だろうが、ドラゴンの出ない『ゲーム・オブ・スローンズ』くらいに思って大目に見てほしい。リドリー・スコットがVFXを用いて現代に復活させた『グラディエーター』『キングダム・オブ・ヘブン』『ロビン・フッド』ら史劇大作群なくしてGOTはなかっただろう。昨年も超大作『ナポレオン』を手掛けたばかり、御年86...『グラディエーターⅡ英雄を呼ぶ声』

  • 【御予約受付中】ポッドキャストの公開収録を行います

    ポッドキャスト番組“長内那由多のMovieNote”公開収録を行います。2024年の映画、TVシリーズから年間ベスト10を選出し、今年1年を振り返ります。前回、2024年1月に開催した『2023年ベスト10』回はまさかの2時間に及ぶ収録でしたが、今回は1時間〜1時間半の見込みです(たぶん)。師走の慌ただしい時期ですが、お気軽に遊びに来て頂ければ嬉しいです。長内那由多のMovieNote公開収録『2024年ベスト10』回日時2024年12月21日(土)、15:00開始(14:30開場)所Cafeearthカフェアースhttp://cafeearth2017.blog.fc2.com/(〒176-0005東京都練馬区旭丘1丁目56−13−101)※江古田駅南口旭丘文化通り(練馬総合病院へ行く道)を2分歩き、左...【御予約受付中】ポッドキャストの公開収録を行います

  • 【ポッドキャスト更新】第77回 なぜ其処に物語があるのか?『グレース』『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』他

    https://open.spotify.com/episode/4bf60BrgIx08EAl9CIrtE6?si=jJBLVYkzSv2Cj6JwR6mruA『THEPENGUINザ・ペンギン』で描かれる架空都市ゴッサムシティのリアリズムにあてられ、物語における“場所”の意味合いが気になって仕方ない今日この頃。本格マフィアドラマへと化けた本作に強い影響を与えているのは同じくHBO配信のあの傑作?(5:45頃より)何の予備知識もなしにロシア映画『グレース』を見た長内。この世の果てのようなロケーションに終末戦争後の近未来か、遥か彼方の銀河系かと首をひねっていると、おぼろげながら全体像が見えてくる。舞台となるコーカサス地方を地図で調べてみて。(9:40頃より)Netflixから配信中のガンダムシリーズ最新作...【ポッドキャスト更新】第77回なぜ其処に物語があるのか?『グレース』『機動戦士ガンダム復讐のレクイエム』他

  • 『ラビング 愛という名前のふたり』

    1958年、バージニア州に暮らすリチャード・ラビングは長年の恋人ミルドレッドから妊娠を告げられ、結婚を申し込む。しかし、当時の州法では白人と黒人による異人種間の結婚は禁止されていた。2人はワシントンで式を挙げた後、極秘裏にバージニア州での新婚生活を始める…。ジェフ・ニコルズが2016年に手掛けた『ラビング』は、BLMやMetooに代表される2010年代後半アイデンティティポリティクスの時代を先駆け、気鋭の先見性を証明している。だがニコルズの声はずっとひそやかだ。ただ愛し合う者と連れ添いたいと願うラビング夫妻の慎ましやかな人間性を捉え、彼らの目線を通じて時の公民権運動に併合されていく時代の転換点を描き出している。不器用ながら実直なリチャードに扮したジョエル・エドガートンは好調続きのフィルモグラフィでもとりわ...『ラビング愛という名前のふたり』

  • 【ポッドキャスト更新】第76回 昔のTVは怖かった『悪魔と夜ふかし』『アイズ・オン・ユー』

    https://open.spotify.com/episode/7uCmw0szIK7N0GGBO51Hfp?si=K6EEyt2qTaiWuoOtPaJ_bQ70年代のTV番組を題材にした映画2本。オーストラリア産ホラー『悪魔と夜ふかし』は生放送中に起きた恐ろしい事故を再現するファウンド・フッテージもの。昔はTVに“魔力”があった?ソーシャルメディア全盛時代には懐古趣味すぎる?名脇役デビッド・ダストマルチャンの記念すべき主演デビュー!(7:00頃より)Netflixで独占配信中の映画『アイズ・オン・ユー』はアナ・ケンドリックの監督デビュー作。視聴者参加型恋愛バラエティ番組に連続殺人鬼が出演していた驚愕の実話を映画化。トニー賞、アカデミー賞にもノミネートされてきた才媛が、監督としても才能を発揮?撮影はあ...【ポッドキャスト更新】第76回昔のTVは怖かった『悪魔と夜ふかし』『アイズ・オン・ユー』

  • 『悪魔と夜ふかし』

    1977年、人気深夜番組「ナイト・オウルズ」のハロウィンスペシャル収録中に起きた恐ろしい放送事故。この様子を収めたビデオテープが発見され…昨年の『トーク・トゥ・ミー』に続き、またしてもオーストラリアから活きのいいホラーがやってきた。コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズの監督コンビはハッタリ十分。当時のトークショーを模したこだわりのプロダクションデザインを得て、TVに猥雑で得体の知れない力があると思われていた時代を再現することに成功している。さらにはここに当時、世界を席巻していたオカルトブームをマッシュアップ。時代を知る観客には破顔もの、クライマックスで繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図は爆笑必至だろう。もっとも、TVを見なければ持ってすらいない現在の若い観客にはさっぱりな映画かも知れない。短い時間でわかり...『悪魔と夜ふかし』

  • 【ポッドキャスト更新】第75回 映画興行の両極『ウルフズ』『ビートルジュース ビートルジュース』

    https://open.spotify.com/episode/3ThZ3ZXIHRwxyx1xQ91627?si=u0-_IotrTKeMYf78KkcBMQ現代映画興行の両極を進んだ2作品。劇場公開から一転、配信スルーとなった『ウルフズ』がAppleTV+からリリース。既に続編制作が決まっている本作。劇場未公開=駄作ではない?狙っているのは“普通のハリウッド映画”?ブラピ&クルーニーにとって遅すぎた『明日に向って撃て!』?見逃すには惜しい1本だけど、実は重要な要素が欠けている?(11:34頃より)一方、36年ぶりの続編ながら特大級のヒットを記録したのが『ビートルジュースビートルジュース』。今年のフランチャイズ映画群では一番期待値の低かった本作。人気の理由は全盛期ティム・バートン映画の“再現”?マイケ...【ポッドキャスト更新】第75回映画興行の両極『ウルフズ』『ビートルジュースビートルジュース』

  • 『キャドー湖の失踪』

    2023年の米俳優組合、脚本家組合のストライキによって供給不足に陥っているハリウッド。そのしわ寄せは既に洋画興行が壊滅に瀕している本邦においてより深刻だ。幸いなことにストリーミングにはまだ見るべき作品が幾つかあるものの、ほとんど宣伝もなく膨大なライブラリに並列化されれば、一部のマニアによる相互扶助のような情報共有なしに陽の目を見る機会はないだろう。ましてやM・ナイト・シャマランがプロデュースする『キャドー湖の失踪』はネタバレ厳禁、全くの予備知識なしで見るからこそ楽しめる映画で、ここにはジャンルを書くことすら憚られる。1950年代に建てられたダムによって原生林と湿地帯に覆われたキャドー湖。近年、周辺地域では絶滅したはずの狼や蛾が目撃される異変が生じていた。ある日、8歳の少女アナが消息不明に。義理の姉エリーは...『キャドー湖の失踪』

  • 『アイズ・オン・ユー』

    有名俳優の優れた監督デビュー作が相次ぐ近年、今度は『マイレージ、マイライフ』や『ピッチ・パーフェクト』シリーズ、『シンプル・フェイバー』などでお馴染みアナ・ケンドリックが登場だ。『アイズ・オン・ユー』(原題=WomanoftheHour”)はケンドリックが利発な演技スタイルそのまま実に巧妙な演出力を発揮。しかも映画はこれまで彼女が見せてきたキュートな笑顔とは程遠い、身の毛もよだつようなスリラーだ。1978年、視聴者参加型バラエティ番組“デート・ゲーム”に推定130人を殺したとされるシリアルキラー、ロドニー・アルカラが出演していた恐ろしい実話の映画化である。時制をトリッキーなまでにシャッフルするイアン・マクドナルドの脚本は犯行のごく一部を詳らかにし、ケンドリックは扇状的になる事なく、犠牲者への厳粛な敬意を持...『アイズ・オン・ユー』

  • 『グレース』

    2022年のウクライナ戦争開戦以後、ロシアに対する国際社会の“海上封鎖”は経済分野に留まらず、2023年のカンヌ映画祭で出品を認められた露映画はイリヤ・ポボロツキー監督による本作『グレース』唯1本だったという。日頃、映画をジャンルや国籍で語りがちだが、何時とも何処とも知れない本作を見ると、「土地とそこに暮らす人」こそが映画における最も重要なファクターではと思えてくる。映画は前半1時間を過ぎるまでろくろく筋立てもわからない。赤茶けたキャンピングカーに乗って父娘が旅をしている。母を亡くしたばかりの年頃の娘にとって父親の存在は疎ましく、父はそんな娘と語らう術を持っていない。娘はポラロイドカメラで道行く人々を撮り、父は違法DVDを売って日銭を稼ぐ。「インターネットがあれば…」と娘がこぼす此処は終末戦争後の未来にも...『グレース』

  • 『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』(寄稿しました)

    リアルサウンドにU-NEXTで配信中のTVシリーズ『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』について寄稿しました。マット・リーヴス監督『THEBATMAN』から始まる新生バットマンシリーズのスピンオフ。大胆なアレンジによって往年のギャング映画、そして名作TVシリーズの系譜に連なろうとする2024年下半期必見の1本となっています。記事は本作に強い影響を与えた傑作『ザ・ソプラノズ哀愁のマフィア』との比較や、キャリアを更新するコリン・ファレル、クリスティン・ミリオティらの演技について検証した導入的内容です。ぜひとも御一読ください。記事はこちら記事内で言及している各作品のレビューはこちら『THEBATMAN-ザ・バットマン-』『デッドプール&ウルヴァリン』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』『ベター・コール・ソウル』『...『THEPENGUIN-ザ・ペンギン-』(寄稿しました)

  • 【ポッドキャスト更新】第74回 『窓際のスパイ シーズン4』スラウハウス課決算大放談!

    https://open.spotify.com/episode/71kK3sc0gTEwLMnvLbVDPC?si=YNjbbI6iQUafUDaxeyin1ATVシリーズをネタバレ有りで最終回までお喋りする“TVシリーズ雑談会”。今回はシリーズベストを更新した『窓際のスパイシーズン4』について。というか批評でも解説でもなく、単なるファンダムの駄話なので、シーズン完走済みの人はオフ会気分でご一緒にどうぞ!音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『窓際のスパイシーズン1』『パトリック・メルローズ』【ポッドキャスト更新】第74回『窓際のスパイシーズン4』スラウハウス課決算大放談!

  • 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

    全世界で社会現象級の大ヒットを記録した『ジョーカー』待望の続編、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』がまたしても大論争を巻き起こしている。ワールドプレミアとなったヴェネチア映画祭での賛否両論は北米公開と共に否へと振り切れ、歴史的な興行成績を収めた前作から一転、アメコミ映画史上ワーストとなる収益下降率を記録(あの『マーベルズ』や『ザ・フラッシュ』すら下回っている)。いったい何が起こっているのか?トッド・ヘインズ監督の新作を撮入直前にドタキャンし、映画そのものを潰してしまったホアキン・フェニックスの奇行だけでは説明にならないだろう。ファンダムに媚びたジャンル映画が跋扈し、スタジオも作家も観客を挑発するような野心を捨てた現在のハリウッドでは、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が戸惑いを持って迎えられたのは無理もない。...『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

  • 【ポッドキャスト更新】第73回 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を見た!

    https://open.spotify.com/episode/2jpQZACpOg0vmk0d1avvfI?si=WANQPiteQsOSleaLcx_ACw2024年下半期最大の問題作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。初日を見終えてのファーストインプレッションをお喋り。前作『ジョーカー』とはどのような映画だったのか?『フォリ・ア・ドゥ』は一級の技術で意図的につまらなく作られている?殺人×監獄×裁判ミュージカル映画は前例がある?今回も激ヤセして役作りをしているホアキン・フェニックスだが、まるで異なるテンションで演じている?『フォリ・ア・ドゥ』は観客を試す特大級のインスタレーションアート?映画を見た後にはジョーカーについて誰も語らなくなる?そもそもジョーカーなんて存在しなかった?音声はこちらからもお聞き...【ポッドキャスト更新】第73回『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を見た!

  • 『プリシラ』

    1959年9月13日、プリシラは父の転勤先である西ドイツで兵役中の人気スター、エルヴィス・プレスリーと出会う。プレスリー24歳、プリシラ14歳の時だった。人気歌手との交際は世界中の女性が羨むシンデレラストーリーだったが、『ヴァージン・スーサイズ』『ロスト・イン・トランスレーション』『マリー・アントワネット』と常に囚われの少女を描き続けてきたソフィア・コッポラは、プリシラにも同じ憂鬱を見出している。心だけ連れ去られたかのような音信不通の遠距離恋愛生活。プリシラの心を繋ぎ止めようとするエルヴィスの甘い言葉は尊大な自己愛にも裏打ちされている。8年の長すぎる春を終えれば今度は妻、そして母親として彼女はプレスリーの実家グレイスランドに囚われ続けていく…。2024年『シビル・ウォー』『エイリアン:ロムルス』で動的存在...『プリシラ』

  • 『ウィル&ハーパー』

    パンデミック只中の2021年、ウィル・フェレルはサタデー・ナイト・ライブ時代からの盟友であるコメディ作家アンドリュー・スティールに「女性へ性別移行した」と告げられる。間もなく還暦を向かえる彼にいったい何があったのか?2024年、再会したアンドリューはハーパーと名を変え、女性として生活していた。かつては安いビールにロードトリップ、場末のバーで見ず知らずの人々との交流を楽しんだハーパーは、果たしてトランスジェンダーとなった今も同じ楽しみを享受することができるのか?ウィルとハーパーは旧交を温めるべく17日間の旅に出かける。念の為、言っておくとほとんど劇映画のような体裁の『ウィル&ハーパー』はドキュメンタリーだ。2人はNYでSNL時代の同期たちと再会し、ワシントンDCを経てアイオワはじめ地方部へと移動していく。ロ...『ウィル&ハーパー』

  • 【ポッドキャスト更新】第72回 風はまだ吹いているか?『ザ・バイクライダーズ』『シンパサイザー』

    https://open.spotify.com/episode/1BUR2KzNaqivHGOlocd9Au?si=AtZ08tFQREKR1F38nNOa4A全く異なるが、同じ時代を舞台にしている2作品。U-NEXTからパク・チャヌク監督の最新TVシリーズ『シンパサイザー』が配信中。複雑な時代設定は予習必須?チャヌクが大好きなジャンルはスパイもの?彼のフィルモグラフィーに共通するテーマとは?今年3月のオスカー授賞式で物議を醸したダウニーJr。その胸の内とは?ゲスト監督を務めるのはチャヌクに劣らぬケレンたっぷりなあの鬼才!(14:25頃より)アメリカ映画最重要監督の1人、ジェフ・ニコルズの最新作『ザ・バイクライダーズ』が11月29日より劇場公開。シカゴのバイカー達は如何にして凶悪なギャング集団に変貌した...【ポッドキャスト更新】第72回風はまだ吹いているか?『ザ・バイクライダーズ』『シンパサイザー』

  • 『ビートルジュース ビートルジュース』

    今年は期待値の低かったハリウッドフランチャイズが軒並み批評、興行面で結果を出しているのが嬉しい誤算で、36年ぶりの続編となる本作『ビートルジュースビートルジュース』も本稿執筆時点で2億ドルを超える特大ヒットを記録している。精細を失って久しいティム・バートン監督を筆頭に、キャリア復調とはいえ今年73歳のマイケル・キートン、52歳のウィノナ・ライダーが再演する座組はハリウッドの懐古主義がありありと伺えるのだが…。結論から言うと『ビートルジュースビートルジュース』は先行した『ツイスターズ』、『エイリアン:ロムルス』のような絶賛すべき続編ではないが、バートンがかつて最も独創的なヒットメーカーであったことを思い出させてくれるには十分な1本だ。前作『ビートルジュース』はヒットこそしなかったものの、後にカルト化。なによ...『ビートルジュースビートルジュース』

  • 『ウルフズ』

    日本劇場公開中止の報せが出た時は「ついにブラピ、ジョージ・クルーニー主演作でもスクリーンにかからない時代か…」と惜しむ声がSNS上で多く聞かれたが、いざAppleTV+での配信が始まれば誰も話題にしていない感がある『ウルフズ』。宣伝を一切しないAppleだから仕方がないと言えばそれまでだが、配信スルーを嘆くだけではなく、数百円程度の月額費を払って見届けてやるのも映画ファンの矜持というものだろう。勘違いしないでほしいのは、劇場未公開で終わるような駄作ではないことだ。『スパイダーマン:ホームカミング』に始まるシリーズ3部作を大成功に導いたジョン・ワッツは、おそらく考えうる限りの創作的自由を得て脚本・監督を兼任。シワが目立つようになったブラピとクルーニーに比べればオースティン・エイブラムスの扱いが随分と小さく、...『ウルフズ』

  • 【ポッドキャスト更新】第71回 主観でしか語ることができない『喪う』『One Day/ワン・デイ』

    Spotifyの音声はこちらNetflixで配信中の『喪う』は3人姉妹が父親を看取る物語。監督アザゼル・ジェイコブスが参照しているのは日本未公開のあの映画?ほとんど室内から出ない本作、それでもウディ・アレン、バームバック、そしてスパイク・リーに連なる“NY映画”?オスカーレースへの期待も高まる3女優で、一番可能性が高いのは近年大活躍のあの人?(16:05分頃より)同じくNetflixのTVシリーズ『OneDay/ワン・デイ』に自分の物語を見出してしまった長内。2011年のアン・ハサウェイ主演映画版はなぜ失敗したのか?恋愛と人生とは?結局のところ、人は主観でしか語ることができない。歯切れの悪い自分語りは御愛嬌。音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『喪う』『ロシアン...【ポッドキャスト更新】第71回主観でしか語ることができない『喪う』『OneDay/ワン・デイ』

  • 『One Day ワン・デイ』

    もし今から2011年製作の壊滅的なメロドラマ映画『ワン・デイ23年のラブストーリー』を見ようとしているなら、30分×14話の時間を確保してNetflixのTVシリーズ版『OneDayワン・デイ』を見るべきだ。1988年、大学卒業パーティで出会ったエマとデクスターの20年間を描くデヴィッド・ニコルズの小説を、たった1時間47分の劇映画で描くには土台無理があった。イギリス中産階級育ちの文系エマにはハリウッドスターのアン・ハサウェイが配役され、ジム・スタージェスはデクスター役になんら人間的深みを見出すことができなかった。映画を見終えた後には「こんな人に20年も費やして…」と身も蓋もない感想しか残らなかったのは悲劇としか言いようがない。そう、エムとデックスは必ずしも親しみやすい人物ではない。エマは利発なばかりに時...『OneDayワン・デイ』

  • 【ポッドキャスト更新】第70回 プロレスラーになりたくて『極悪女王』

    NetflixでTVシリーズ『極悪女王』が配信中。1982年生まれの長内にとって、物心ついた頃には既にお茶の間でもお馴染みの存在だった“ダンプ松本”。彼女が何者かも知らず、日本の女子プロレス史にも疎いライト層にはうってつけの入門編?女優陣のアンサンブルも光る本作。長内が最も燃えたのはあの人?ダンプ松本の覚醒はヴィラン誕生秘話を描いたあの映画と同じ?リミテッドシリーズ全盛の2024年。本作はひと際、短い全5話構成。現代のストーリーテリングはさらに早くなっている?友情、反目、合流、分裂などなどを繰り返す彼女たちは現代アイドルグループの先駆け?音声はこちらからもお聞きいただけます【ポッドキャスト更新】第70回プロレスラーになりたくて『極悪女王』

  • 『エイリアン:ロムルス』

    監督、主演女優がノータッチのシリーズ第3弾『クワイエット・プレイス:DAY1』や、28年前の誰も覚えていない大ヒット作の続編『ツイスターズ』、そしてすっかり路頭に迷ってしまった挙げ句のシリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』と、今年のサマーシーズンはハリウッドの正気を疑うようなタイトルばかり。ところがフタを開けてみればいずれも入念な企画開発がされた堂々たる娯楽映画で、特大級のヒットに繋がったのは嬉しい誤算であった。本作『エイリアン:ロムルス』は当初、ディズニープラスでの配信スルーが予定されていたものの、『ドント・ブリーズ』で知られるウルグアイ出身のホラー監督フェデ・アルバレスの熱意によって撮影初日に劇場公開が決まったという。シリーズの大ファンであるアルバレスはエイリアンをプレデターと戦わせるような事もしなけ...『エイリアン:ロムルス』

  • 『喪う』

    末期がんの父を看取るため、3人姉妹が実家に集う。長女と次女は家を出て久しく、後妻の連れ子である三女がこれまで父の面倒を見てきた。共に家族として過ごした時期はあれど、今やほとんど他人である彼女らにとって“家族”の概念は異なり、父との思い出にも差異がある。アザゼル・ジェイコブスが監督、脚本を務める『喪う』(=原題“HisThreeDaugthers”)は誰もが経験し、誰にでも起こり得る体験を描いた小品だ。今年はハリウッド映画が入念な企画開発で何とか生命維持に成功しているが、市井の人々の機微を描くささやかな“アメリカ映画”がどうにも恋しくてたまらなかった。映画のほとんどは父のアパートで進む。白を基調としたプロダクションデザイン、窓から臨むNYの光景にベルイマン影響下のウディ・アレン作品や、その系譜に連なるノア・...『喪う』

  • 【寄稿しました】新星スター、グレン・パウエル特集

    リアルサウンドにグレン・パウエルについて寄稿しました。2024年は主演作『恋するプリテンダー』『ツイスターズ』『ヒットマン』が公開され、いずれも批評、興行面で大成功を収める“ハットトリック”を達成。今年、最注目俳優の魅力について振り返っています。御一読ください。記事はこちら記事内で言及されている各作品のレビューやポッドキャスト解説はこちら⇛『トップガンマーヴェリック』『恋するプリテンダー』https://open.spotify.com/episode/7pwMkLs0VwyDpcGc8sPVAA?si=nMORqLpuT66sTP5EGosScQ『ツイスターズ』https://open.spotify.com/episode/63smwvbnV6HSaLTSrdUkTm?si=NtO5zdkFQQ61Q...【寄稿しました】新星スター、グレン・パウエル特集

  • 【ポッドキャスト更新】第69回 現在(いま)を映す邦画『ナミビアの砂漠』『Cloud クラウド』

    北米圏の映画、TVドラマを中心に観ているため、邦画についてはフォローが弱い長内。それでも9月公開の2本が気になった。山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』が公開中。観客によって全く異なるフィーリングを抱く本作。自ずと自分語りになってしまい…。これは日本版『TheWorstPersonintheWorld』(=邦題『わたしは最悪。』)なのか?無軌道な放蕩は男の特権として独占されてきた?映画の転調の合図はあの気鋭監督作品常連の2女優?(14:45分頃から)9月27日より黒沢清監督の最新作『Cloudクラウド』が公開。ネットに潜む悪意を描く本作、そもそも前提条件が間違ってない?黒沢もまたクリストファー・ノーラン同様、スマホを持っていない?『回路』のver.2024?アカデミー賞向きじゃない?『ナミビアの砂漠』と並び現在...【ポッドキャスト更新】第69回現在(いま)を映す邦画『ナミビアの砂漠』『Cloudクラウド』

  • 【ポッドキャスト更新】エミー賞を振り返る

    今回はおまけエピソード。『将軍』の歴史的大勝を様々な角度から振り返る。シーズン1で卒業となった多くのメインキャストにとっては最高の結果?私たちが真田広之のスピーチに号泣している間、さらなるドラマが起こっていた!?大傑作『TheBear』S2はなぜコメディシリーズ部門作品賞で敗北したのか?日本では3年も塩漬けされている『Hacks』はいよいよ上陸?各ノミネート作品についての解説は以下からどうぞ。『リプリー』https://open.spotify.com/episode/57DqREQLPJMHRkBAwrcP0O?si=pAT7nQE1QKalaWUlzwRz1Q『将軍』https://open.spotify.com/episode/6FWfeLh1lcVttkgbB6y1Xh?si=PWZrrhK7T...【ポッドキャスト更新】エミー賞を振り返る

  • 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

    アメリカ大統領が自らの3期目を認める憲法改正を行ったことから内戦が勃発。テキサス、カリフォルニアによる“西部連合”がワシントンDCへ向けて進軍を開始する…アメリカ国民にとって血の気が引くようなタイトル『シビル・ウォー』と題された本作は、監督アレックス・ガーランドが大統領選挙の年に物議を醸す衝撃作だ。だが『エクス・マキナ』『アナイアレイション』『DEVS』『MEN』など、常に理性的な先見性を発揮してきたガーランドがいたずらに扇状的な映画を撮るはずもない。先述した基本設定は劇中ほとんど説明されず、トランプにもバイデンにも見える大統領の党派性も判然としない。そもそも民主、共和の票田であるテキサスとカリフォルニアが同盟を結び、分離独立を目指すことが起こり得るのだろうか?シリコンバレーのPaypalマフィア、ピータ...『シビル・ウォーアメリカ最後の日』

  • 『ナミビアの砂漠』

    無軌道に生きる21才の女性カナの日常を描いた山中瑶子監督作『ナミビアの砂漠』は、観客によって全く異なるフィーリングをもたらすユニークな映画だ。冒頭、カナは友人の待つ喫茶店へ向かっている。長い手足をバタつかせるような河合優実が演じるカナは、運ばれてきた飲み物に紙ストローが添えられていると毒づく。友人は何やら話しているが、隣りの男たちの「ノーバンしゃぶしゃぶ」の話題が耳に入って一向に集中できない。『ナミビアの砂漠』では実のある会話が一切描かれない。プロットを進めるためのやり取りや、キャラクターの心情を語る作劇上、必要なダイアログも存在しない。いや、そもそも主人公には劇映画に見合った然るべきドラマも貫通行動もない。恋人相手に嘘をつき、暴力を振るい、タクシーの窓からゲロを吐く。「映画なんて観てどうすんだよ」と観客...『ナミビアの砂漠』

  • 『Cloud クラウド』

    黒沢清もクリストファー・ノーラン同様、スマートフォンを持っていないのか?それとも『回路』以来、使っているのは箱型PCか?ネットに蔓延る個別の悪意が集団意識を形成する恐怖…現代社会を映したと謳うプロダクションノートとは裏腹に、『Cloudクラウド』はあまりにも観念的、概念的で、黒沢が果たしてどこまで現実の事象を理解しているのか疑わしい所ではある。だが、映画にはそんな作劇上の違和感を超えた不気味さが湛えられ、悪寒と笑いが観る者を襲うのだ。菅田将暉演じる主人公吉井は昼はクリーニング工場で働いている。とりたてて自己主張のある性格ではないが、勤勉な仕事ぶりで上司(荒川良々)の評価もいい。しかしこれは彼にとって必要最低限の“つなぎ”に過ぎない。自宅は各所で買い付けた物品の段ボールが山積みとなり、ほとんど倉庫のようにな...『Cloudクラウド』

  • 【ポッドキャスト更新】第68回 『エイリアン:ロムルス』シリーズ全7作を振り返る

    『エイリアン:ロムルス』大ヒットを記念して、エイリアンシリーズ全7作品を振り返る。古参ファンからも好評の『ロムルス』は、シリーズの“伝統”をどのように受け継いだのか?ジャンル映画にそぐわない性格俳優のアンサンブルが魅力?影響下にある大人気ゲームシリーズとは?監督フェデ・アルバレスの出世作『ドント・ブリーズ』は構造が同じ?『エイリアン』初期4部作の柱はホラーでもクリーチャーでもなく、リプリーのキャラクターアークに有り?デヴィッド・フィンチャーが今も『エイリアン3』を恨んでいることは、“あの映画”からも明らか?やっぱり『プロメテウス』はトホホな映画?『エイリアン』第1作目と6作目『コヴェナント』でリドリー・スコットのフィルモグラフィを俯瞰できる?来年配信、シリーズ最新作『エイリアン:アース』を手掛けるのはあの...【ポッドキャスト更新】第68回『エイリアン:ロムルス』シリーズ全7作を振り返る

  • 『シンパサイザー』

    パク・チャヌクが初めて手掛けたTVシリーズ『リトル・ドラマー・ガール』は、どうにも借り物感の強い仕上がりだった。原作はジョン・ル・カレ。売れない舞台女優がモサドにリクルートされ、テロリストの愛人として潜入する…所々にチャヌクらしい美意識が見受けられたものの、トレードマークとも言える偏執性はほとんどなく、雇われ仕事に見えてしまった(ブレイク前のフローレンス・ピューが主演を務めている意味では一見の価値はあるのだが)。聞けばチャヌク自身は“スパイもの”というジャンルが大好きで、最近のインタビューでも好んで見ているのがAppleTV+の『窓際のスパイ』だという。落ちこぼれスパイチームのサスペンスコメディとチャヌクの親和性は不明だが、なるほど、彼がこのジャンルを好む理由はよくわかる。『復讐者に憐れみを』から始まる“...『シンパサイザー』

  • 『デリヴァランス 悪霊の家』

    アカデミー脚色賞に輝いた『アメリカン・フィクション』は、中流階層に生まれ育った黒人作家が自らの人種をネタに悲劇の物語を書いたことから大騒動に発展する。そんなステレオタイプを拡める“貧困ポルノ”のネタ元は、2009年にやはりアカデミー脚色賞に輝いたリー・ダニエルズ監督の『プレシャス』だった。この映画で一躍注目を集めたダニエルズはその後も『大統領の執事の涙』『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』など、黒人の苦難の歴史を描き続ける。実際に起きた事件に着想を得た最新作『デリヴァランス』はさしずめ『プレシャス』のホラー版といった趣だが、本当に怖いのは壊滅的なまでの映画の仕上がりだ。エボニーは3人の子供と年老いた母を連れ、新居へと引っ越してくる。元アルコール中毒で前科もある彼女は夫に捨てられ、日々の支払...『デリヴァランス悪霊の家』

  • 【ポッドキャスト更新】第67回 9月公開の必見作『ヒットマン』『ぼくのお日さま』

    リチャード・リンクレイター監督、グレン・パウエル主演『ヒットマン』が9月13日より公開。『恋するプリテンダー』『ツイスターズ』に続く“グレパ2024年ハットトリック”の3本目。グレパは実は思っていた以上に器用な演技派?“ビフォア”シリーズにも連なる実存についてのラブコメディ?共演アドリア・アルホナの大ブレイク作?“漂白”されてしまったハリウッドへのアンチテーゼ?2024年、最もセクシーな映画?(11:45分頃より)同じく9/13より公開されるのが奥山大史監督作『ぼくのお日さま』。『チャレンジャーズ』と対になるスリーサム×冬映画?なぜ冬の北海道が舞台なのか?人生におけるある季節とは?大人の青春、純愛願望を打ち砕くアンチノスタルジー映画?今年ベスト級の傑作!音声はこちらからもお聞き頂けます番組内で言及している...【ポッドキャスト更新】第67回9月公開の必見作『ヒットマン』『ぼくのお日さま』

  • 『ヒットマン』

    2024年、『恋するプリテンダー』『ツイスターズ』を大ヒットに導いた“グレパ”ことグレン・パウエル。ブレイクイヤーを決定付ける“ハットトリック”が今年3本目の主演作『ヒットマン』だ。テキサス生まれ、35才の俳優はマシュー・マコノヒー以来のセックスシンボルとしてハリウッドのトップに上り詰めるのか?はたまた絵に描いたような口角でニヤける第2のトム・クルーズとなるのか?どちらにも当てはまるかもしれないが、彼の本質は実はもっと意外な所にある。出世作『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』はじめ、いくつもの映画でコラボレートしてきた恩師リチャード・リンクレイターと再タッグを組んだパウエルは、この奇妙キテレツな実話を共同で脚本化し、これまでと全く異なる演技レンジを披露しているのだ。パウエル演じる主人公ゲイリーはニューオー...『ヒットマン』

  • 『ぼくのお日さま』

    1996年生まれ、今年28才の奥山大史監督作『ぼくのお日さま』は愛さずにはいられない映画だ。わずか90分の上映時間中、この作品が好きで堪らなくなり、繰り返し見ずにはいられなくなる。小学6年生のタクヤと中学1年生のサクラの間に芽生える、まだ名前も付かない感情を描いた本作を巷にあふれるノスタルジー消費として終わらせてはいけない。2人の間に立つ唯一の大人、荒川(素晴らしい池松壮亮)を通じて人生に1度しか訪れない“ある季節”を描く本作は、観る者に深い余韻を残すのだ。北海道に長い長い冬がやって来た。全てが雪に閉ざされ、人はじっと春の訪れを待つしかない。屋外スポーツができなくなった子どもたちは慣れないスケート靴に履き替えると、アイスホッケーに興じる。タクヤにはどっちだって変わりないことだ。田舎の子供にとって運動が苦手...『ぼくのお日さま』

  • 【ポッドキャスト更新】第66回 『The Bear』シーズン3と見逃すには惜しい配信映画2本

    見逃すには惜しい配信限定映画についてお喋り…の前に、見終えたばかりの『一流シェフのファミリーレストラン』もとい『TheBear』シーズン3を。これまでシリーズを絶賛してきた長内も“新装開店”にはやや戸惑い気味の評価。シーズン毎に異なる語り口はカーミーの経営方針と同じ?今回のテーマは過去にも語られてきたあの台詞に集約されている?人気コメディドラマが陥る問題とは?シーズン3を象徴するのは実はワンオペで頑張っているエブラ?長内によるベストエピソードも発表。(11:00頃より)そのまま同じくディズニープラスから配信されている映画『ヤング・ウーマン・アンド・シー』を紹介。主演のデイジー・リドリーはエグゼクティブプロデューサーも兼任。実は本作こそが『スター・ウォーズ』シークエル3部作で語られるべきナラティヴだった?リ...【ポッドキャスト更新】第66回『TheBear』シーズン3と見逃すには惜しい配信映画2本

  • 『フォールガイ』(寄稿しました)

    ウェブメディア“NiEW”に映画『フォールガイ』のレビューを寄稿しました。作品自体への評価はやや厳しめなものの、昨今ハリウッドで取り沙汰されている「アカデミースタント賞」の設立と、スタントマン出身監督の台頭、そしてアクション映画のトレンドの変遷から本作の背景について考えています。御一読ください。記事はこちら記事内で触れている各作品のレビューはこちら『バービー』『オッペンハイマー』『インサイド・ヘッド2』『ツイスターズ』『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』『ワイルド・スピード/スーパー・コンボ』『ブレット・トレイン』『フォールガイ』(寄稿しました)

  • 『私のトナカイちゃん』

    2024年上半期、Netflix最大の話題作は無名の新人による小さなTVシリーズだった。1989年生まれ、今年35才のリチャード・ガッドはお笑い芸人を目指していた。シニカル過ぎる笑いは箸にも棒にもかからず、パブでバイトを続けるうだつの上がらない日々。そこへ1人の女性客が現れる。周囲から見ても明らかなほど落ち込んでいる彼女は、パブに来たにもかかわらずお酒を飲む金すらない。見かねたガッドが温かいお茶を差し出すと、気を良くした彼女は身の上を話し始めた。名前をマーサといい、仕事は弁護士で、クライアントは政財界の大物ばかりと言う。しかし身なりはとてもエリートとは思えないみすぼらしさで、顧客と撮った写真は雑なコラ画像だ。パブで隣り合えばすぐにも席を立ちたいところだが、ガッドは自分に向けられたマーサの好意が心地よく、親...『私のトナカイちゃん』

  • 【ポッドキャスト更新】第65回 夏休み映画終盤戦『インサイド・ヘッド2』『フォールガイ』『ホールドオーバーズ』

    夏休みもあとわずか。現在劇場公開中のサマームービーについてお喋り…の前に、6月から公開していた『ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ』をようやく観た長内。公開から2ヶ月近く経ち、都内のスクリーン数も随分減ったものの、なんと満席。なぜ1970〜71年の舞台設定なのか?ポール先生はどうして歴史教師の設定なのか?アンガスとの交流は何を意味するのか?映画のエンディングにも触れていますので御注意を。(9:14頃から)今年ナンバーワン大ヒットのピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』。ライリーの頭の中に現れる新しい感情たちは何を意味するのか?なぜ古い感情たちは幽閉されてしまうのか?ピクサーの作風の変遷とは?実は大人にこそグサリと刺さる映画?新キャラのボイスキャストはあの若手俳優?(16:21頃より)ライアン・ゴズリ...【ポッドキャスト更新】第65回夏休み映画終盤戦『インサイド・ヘッド2』『フォールガイ』『ホールドオーバーズ』

  • 『推定無罪』

    1990年にアラン・J・パクラ監督、ハリソン・フォード主演で映画化もされたスコット・トゥローの小説『推定無罪』を2024年に“再演”するなら、その意味を求めたくなるところだろう。シカゴの腕利き検事ラスティは同僚キャロリンを殺害した容疑で告訴される。現場にはいくつもの物証と、スマートフォンには最期の日、ラスティから送られた30通ものメールが残されていた。2人は不倫関係にあり、その関係はラスティが強い執着を寄せる泥沼状態にあったのだ。だが目撃者もなければ凶器もなく、ラスティの有罪を決定づけるものは何1つない。果たして彼は殺人者なのか?それとも無罪か?『ロードハウス』に続いて今年2本目の主演作となるジェイク・ギレンホールを筆頭に、実生活の義兄ピーター・サースガードや、ルース・ネッガ、ビル・キャンプ、エリザベス・...『推定無罪』

  • 『インサイド・ヘッド2』

    記録的不入りが嘆かれていた2024年サマーシーズンを救ったのは13才の少女だった。子供の中にある喜び、悲しみ、不安、怒り、嫌悪といった感情を擬人化する独創的なアニメーション『インサイド・ヘッド』の続編だ。前作から9年が経てピクサーが安易なフランチャイズをやるワケがない。より複雑でやっかいな思春期感情の登場に子供の観客は目を見張り、大人は懐かしいやら恥ずかしいやら。劇場は今年一番の大盛りあがりだ。13才になったライリーは成績優秀、スポーツ万能、おまけに心優しい少女に育ってくれた。前作を知る僕らはその成長に目を細めてしまうところだが、近年のピクサーは一貫して子を持つ親の視点で描かれ、ヨロコビ達はいわば育ての親そのものである。ある日、感情司令部にシンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィら新たな感情たちが現れ、ヨロコ...『インサイド・ヘッド2』

  • 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

    「過去が現在(いま)を作る」とは歴史教師ポール・ハナムの言葉だ。慇懃でウンチクが大好きな彼はおまけに体臭もキツく、同僚からも生徒からも嫌われている。そして演じるのはポール・ジアマッティだ。こんな人物が映画の主人公になり得るのか?スーパーヒーローばかりが立ち並ぶ現在のハリウッドでは難しいかも知れないが、本作の舞台となる1970〜71年は複雑な人物を描いた映画ばかりだった。『BIRDSHIT』『ハズバンズ』『ラスト・ショー』『ダーティ・ハリー』『わらの犬』…アレクサンダー・ペイン監督は冒頭、70年当時のユニバーサルのロゴやオープニングクレジットを出し、画面にスクラッチまで付ける手の込みようだが、これは単なる懐古趣味ではない。アメリカ映画が見失いかけている人間洞察への回帰だ。クリスマス、全寮制の名門校では多くの...『ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ』

  • 『ツイスターズ』

    1996年のパニックディザスター映画『ツイスター』。原案マイケル・クライトン、製作総指揮スティーブン・スピルバーグ、監督ヤン・デ・ボン(『スピード』)という、当時のビッグネームが揃ったこの作品は年間興行収入第2位となる4億9447万ドルを記録する大ヒットとなった。しかし、この年の年間ランキングを見渡せば1位には『インデペンデンス・デイ』など、批評的に見向きもされなかった作品ばかりが並び、アカデミー賞ではハーベイ・ワインスタインのミラマックス社によるインデペンデント作品が台頭。ハリウッドメジャー凋落の始まりだったと位置づけることもできる。もはや誰も覚えていなければ、誰も期待していない続編を約30年ぶりに製作する…企画がアナウンスされた当初はハリウッドのジリ貧ぶりに目眩を覚えたが、いや待ってほしい。『ツイスタ...『ツイスターズ』

  • 『デッドプール&ウルヴァリン』

    「俺ちゃんはマーヴェルの救世主だ!」またいつもの大口かって?ちっとも!20世紀フォックスからディズニーへ移籍しての第1弾『デッドプール&ウルヴァリン』は近年、いいとこなしのMCUにとってホンモノの救世主となった。オープニング興収は歴代6位となる2億1140万ドルを記録し、これはR指定映画として歴代最高。最近、すっかり見放されていた批評家からも概ね好評だ。これがMCU復活のきっかけになるのか?それはまだわからない。既に軌道修正を始めていたMCUは2024年の劇場公開作を本作1つに絞り込み、選択と集中はラインナップのクオリティを上げ、来る『アベンジャーズ』シリーズ最新ヴィランにロバート・ダウニー・Jrを再招聘するなど話題性にも事欠かない。「マルチバース設定なんかやめろ!」「シリーズ第3弾なのに説明だけでこんな...『デッドプール&ウルヴァリン』

  • 【ポッドキャスト更新】第63回 『ツイスターズ』は今年一番のサマームービー!

    ひょっとしてこれは…と勘が働き、『ツイスターズ』は初見で4D吹替版を選んだ長内。そもそも4D上映の形式の違いって知ってる?ここ10年弱の4D映画体験を振り返りつつ、それらを遥かに凌駕する『ツイスターズ』4Dに大興奮!(10:15分頃より)さて映画本編について。原案映画『ツイスター』が公開された1996年前後がハリウッドメジャー凋落の始まりだった?緊急速報から始まるディザスター、そして…と一連の描写は日本の観客が一番共感できる?ここ約10年で最もアメリカのカントリーサイドを肯定的に描いた映画?パニック映画ではなく、自然現象に魅せられた人々による気象ロマン映画?恋愛モノでないからこそ成功しているトライアングル?デイジー・エドガー=ジョーンズはジュリア・ロバーツ以来の逸材?音声はこちらからもお聞き頂けます番組内...【ポッドキャスト更新】第63回『ツイスターズ』は今年一番のサマームービー!

  • 『ファンシー・ダンス』

    2010年代後半の政治的、人種文化的急変期を経てハリウッドは多くの才能と物語を発見することになるわけだが、とりわけ目覚ましいのがネイティヴ・アメリカンの存在だ。テイラー・シェリダンが居留区で起きた殺人事件を描いた『ウインド・リバー』からは既に7年が過ぎ、その後ネイティヴ・アメリカンのティーンを主人公にしたTVシリーズ“ReservationDogs”や『トゥルー・ディテクティブナイト・カントリー』、人気シリーズ最新作『プレデターザ・プレイ』から大作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』までが相次いだ。一連のムーブメントで最も重要なプレーヤーが、ネイティヴ・アメリカンにルーツを持つ女優として初めてオスカーにノミネートされたリリー・グラッドストーンだろう。惜しくも受賞こそ逃したものの、オスカーノミネート作の半...『ファンシー・ダンス』

  • 『ヤング・ウーマン・アンド・シー』

    ディズニーは伝統的に作り続けてきた実写映画の良作をストリーミングのライブラリに埋もれさせることなく、北米では劇場公開に踏み切った。ダイアナ・ナイアド(『ナイアド』)から遡ること約100年前、トゥルーディ・イーダリーなる若者が単独で英仏海峡を泳ぎきった実話の映画化だ。現在とは全く異なる時代を生きた女性である。映画冒頭の1905年、NY。港湾内に停泊していた大型船で火災が発生し、多くの人が犠牲となる。その大半は女性だった。この時代、女性は泳ぎを学ぶことすら無益とされ、ほとんどの女性が岸まで泳ぐことを断念した結果の事故だったのだ。事件を聞いたトゥルーディの母ガートルードは夫の反対を押し切り、娘たちに水泳を学ばせる。しゃんとした佇まいにこの母にしてこの娘ありと思わせてくれるジャネット・ハインが素晴らしく、『ヤング...『ヤング・ウーマン・アンド・シー』

  • 【ポッドキャスト更新】第62回 TVシリーズ6〜7月期をリキャップ『ザ・ボーイズ シーズン4』『推定無罪』

    2024年6〜7月期に配信されたTVシリーズをリキャップ。Amazonプライムビデオで配信中の人気シリーズ『ザ・ボーイズ』はシーズン4に突入。なんと言っても“けしからん”作風が最大の魅力?ドラマが“中指”を立てている相手とは誰なのか?シーズンファイナルは現実のあの事件とリンク?昨今、ハリウッドを支えるアジア系俳優の躍進は本作がひと足早かった?(12:55頃より)AppleTV+から配信中の『推定無罪』は1990年にハリソン・フォード主演で映画化もされた小説の再映像化。ショーランナーである大ベテラン、デヴィッド・E・ケリーが手掛けた近作との関連は?ジェイク・ギレンホールを筆頭とした演技派陣には意外なコネクションがある?ホン通りに作っても面白く仕上がらない典型?AppleTV+のヤバすぎる視聴者数とは?音声は...【ポッドキャスト更新】第62回TVシリーズ6〜7月期をリキャップ『ザ・ボーイズシーズン4』『推定無罪』

  • 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン シーズン2』(寄稿しました)

    リアルサウンドに『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2全話のリキャップを寄稿しました。海外ドラマをエピソード単位で批評する記事は本邦では稀。見どころの紹介やシーンの分析、原作小説との比較など多岐に渡る視点から書いています。ぜひ御一読ください。第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話シーズン1の全話リキャップはこちらからどうぞ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴンシーズン2』(寄稿しました)

  • 『マスターズ・オブ・ザ・エアー』

    『プライベート・ライアン』以後、『バンド・オブ・ブラザース』『ザ・パシフィック』とTVシリーズのフォーマットで第二次大戦を描いてきたスティーヴン・スピルバーグとトム・ハンクス。これまでのHBOからのAppleTV+へとプラットフォームを鞍替えし、第3弾をリリースだ。第二次大戦下、ドイツ本土への空爆を行った“第100爆撃隊”を主人公とする群像劇にオースティン・バトラー、カラム・ターナー、バリー・コーガンら現代ハリウッドのエースパイロット級俳優が揃った。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ虐殺といった“戦時下”である現在、時に娯楽作として消費されてきたジャンルはいったい何を描くのか?ミリタリーオタクでもあるスピルバーグ、ハンクスらしく、これまで映像化される機会の少なかった爆撃機部隊の描写が目を引く...『マスターズ・オブ・ザ・エアー』

  • 『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』

    Netflix史上最強のカルト作とも言われた『TheOA』の打ち切りから4年。ブリット・マーリング、ザル・バトマングリによる待望の新作は、彼らの奇想をストリーミングプラットフォームのアルゴリズムに乗せようとする苦心作だ。少女探偵ダービー・ハートはテック企業創業の億万長者に招かれ、アイスランドの人里離れた高級ホテルにやってくる。そこには各界著名人のほか、かつて彼女とコンビを組んでいたアマチュア探偵ビルの姿があり…アガサ・クリスティ風の密室殺人ミステリーと平行して、ドラマはダービーとビルの別離のきっかけとなった過去の殺人事件を描いていく。ジャンル不定の難解さにNetflixすら匙を投げた『TheOA』の打ち切りを経た故か、マーリングとバトマングリは一定レベルに作品を留める必要があったのかもしれない。無難が過ぎ...『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』

  • 『アソーカ』

    遠い昔、遥か彼方の1977年。後に『エピソード4新たなる希望』と名付けられる『スター・ウォーズ』第1作目が公開された頃、人々はオビ・ワン・ケノービの口から語られる“クローン戦争”と呼ばれる大戦や宇宙の守護者であるジェダイの騎士、アナキン・スカイウォーカーを殺したダース・ベイダーの存在に未だ見ぬ銀河の深淵を想い、それはファンセオリーと公式見解の入り混じった口承伝説として語り継がれていった。『スター・ウォーズ』は少なくともこの時点ではミステリアスなフォースを持っていた。『エピソード6ジェダイの帰還』の直後に位置するTVシリーズ『アソーカ』は、フランチャイズの新たな方向性を決定付ける重要な転換点だ。かつては長編実写映画を全作見ていればスター・ウォーズファンを名乗ることができたが、今やディズニープラスに乱立するT...『アソーカ』

  • 【ポッドキャスト更新】第61回 暑い夏には娯楽映画!『セーヌ川の水面の下に』『デッドプール&ウルヴァリン』『ポライト・ソサエティ』

    厳しい暑さの続く毎日、こんな時は気軽に見られる娯楽映画が欲しくなるところ。Netflixで配信中『セーヌ川の水面の下に』は珍しいフランス産サメ映画。実はオリンピック開催中に観るのが最適なアンチ・パリ五輪映画?この映画でサメが食べているものとは?(7:00頃より)『デッドプール&ウルヴァリン』はMCU久しぶりの大ヒット作。第4の壁を破るメタ構造が売りのデップー。今回はネタにしているのは映画産業そのもの?虚無の世界とはいったい何を描いているのか?いきなり出てきたあの人って誰?いやいや、それって楽屋ネタじゃね?(21:19頃より)8/23より『ポライト・ソサエティ』が劇場公開。ロンドンに暮らすパキスタン系移民2世のヒロインは、将来スタントウーマンになるのが夢。ところが最愛のお姉ちゃんが悪い男と婚約して…移民2世...【ポッドキャスト更新】第61回暑い夏には娯楽映画!『セーヌ川の水面の下に』『デッドプール&ウルヴァリン』『ポライト・ソサエティ』

  • 『ポライト・ソサエティ』

    ニダ・マンズール監督の長編デビュー作『ポライト・ソサエティ』は、あなたがロンドンに暮らすパキスタン系ムスリムのZ世代でなくても、笑みがこぼれ、愛さずにはいられなくなる1本だ。リア・カーンはロンドンに暮らす10代の女の子。将来の夢はスタントウーマンになること!日々、中二病をこじらせたセリフを言い放ち、自慢のスタント技を動画撮影している。当然、両親は気乗りしない表情で、学校(女子校)でも周囲から浮きまくっている。そんな彼女の唯一の理解者が芸大に進学した姉リーナだ。ところが、リーナは学校を休学してからというもの、ふさぎ込みがち。そんなある比、母が縁談を持ち込んで…。女の子だってカンフー映画もおバカコメディも大好き!『ポライト・ソサエティ』はありとあらゆるポップカルチャーをごった煮した楽しさがあり、BGMにはなん...『ポライト・ソサエティ』

  • 【ポッドキャスト更新】第60回 アルバカーキの空に『フェラーリ』『ポーカー・フェイス』『シビル・ウォー』

    まったく関連がないようで、ある1つの傑作で繋がる3本(何かわかる?)。マイケル・マン、8年ぶりの新作『フェラーリ』がついに劇場公開。巨匠の復活に心躍らせるも、これは81歳の新境地なのか?それとも老境ゆえの筆圧の弱さなのか?“男の映画”の作家と言われてきたマンが、果たして自身のフィルモグラフィーを解体する必要はあるのか?(10:41頃より)ライアン・ジョンソンがショーランナーを務めるTVシリーズ『ポーカー・フェイス』は『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』など倒叙ミステリ好きにはたまらない1本。そこにジョンソンの作風であるノワールテイストも加われば、嬉しいことに『ブレイキング・バッド』と同じ空の下にある作品に。酒焼けガスガス声の主演ナターシャ・リオンが最高!(24:41頃より)10/4公開、アレックス・ガーランド...【ポッドキャスト更新】第60回アルバカーキの空に『フェラーリ』『ポーカー・フェイス』『シビル・ウォー』

  • 2024年上半期ベスト10

    【MOVIE】1、『オッペンハイマー』監督クリストファー・ノーラン2、『マッドマックス:フュリオサ』監督ジョージ・ミラー3、『デューン砂の惑星PART2』監督ドゥニ・ヴィルヌーブ4、『関心領域』監督ジョナサン・グレイザー5、『哀れなるものたち』監督ヨルゴス・ランティモス6、『異人たち』監督アンドリュー・ヘイ7、『チャレンジャーズ』監督ルカ・グァダニーノ8、『悪は存在しない』監督濱口竜介9、『美と殺戮のすべて』監督ローラ・ポイトラス10、『ロードハウス孤独の街』監督ダグ・リーマン遅れること半年以上を経て、ようやく2023年最重要作の1本『オッペンハイマー』が日本公開された。同年ワールドリリースを基準とする当ブログの年間ベスト10では選外となるため、ここでしか1位に挙げる機会がない。公開前からソーシャルメディ...2024年上半期ベスト10

  • 『セーヌ川の水面の下』

    好事家から見ても、フランス産のサメ映画は希少では?Netflixのローカルプロダクツ『セーヌ川の水面の下に』は巻頭こそ北太平洋で始まるものの、以降はタイトル通り、パリ五輪の開会式会場にもなっているセーヌ川で繰り広げられる。おいおい、サメは淡水魚なのか?疑問はごもっとも。海洋プラスチックと気候変動で遺伝子異常を起こしたサメが、なんと単独でも生殖可能という設定だ。しっかり時事性を取り入れても、お高く止まらないのがエスプリか。サメ映画の伝統として行政の長の無能を描くのは定番が過ぎるため、ここでは気候変動の危機を訴えるため人食いサメを保護しようとするウォーキズムが餌食になる。“サメ映画”だろうが、夜のセーヌ河岸やカタコンベなど観光名所が映るといい気分になってしまうもので、そんなナメた態度でゆるゆる見ていたら映画は...『セーヌ川の水面の下』

  • 【ポッドキャスト更新】第59回 2024年上半期ベスト10(映画編)

    2024年1月1日から6月30日までの間に見た映画を対象にベスト10を選出。同時代性を重視した年間ベストとはやや異なり、ここではシンプルに感動し、ショックを受けた映画が多く並ぶ。映画はあくまで観客の主観的な体験であり、ソーシャルメディアや政治的正しさに惑わされず、自分だけの映画を見つけてほしい。“普通の(良質な)ハリウッド映画”こそ評価しなくてどうする?詩的な芸術空間を映画館に現出させていたのはドキュメンタリー映画?意外や、映画ファンが大盛りあがりした作品に長内はノれていなかった?大絶賛した作品もいざ並べてみれば下位に収まり、上半期は大豊作だった?映画館での共有体験とは?話題になったあの映画について、どこにも言及していないのはなぜ?再見することで評価がガラリと変わったあの作品、トップ3は番組収録中にまさか...【ポッドキャスト更新】第59回2024年上半期ベスト10(映画編)

  • 『墓泥棒と失われた女神』

    2014年作『夏をゆく人々』でカンヌ映画祭グランプリ、2018年作『幸福なラザロ』で同映画祭脚本賞に輝き、2022年には短編『無垢の瞳』がアカデミー短編映画賞にノミネートされるなど、注目作が相次ぐイタリアの俊英アリーチェ・ロルヴァケル監督の最新作。その才能にマーティン・スコセッシやアルフォンソ・キュアロンらがプロデュースを買って出るなど、今や自国に留まらない注目の才能であり、本作もまたイギリスの最旬若手ジョシュ・オコナーが自らラブコールを送り、ロルヴァケルが彼に当てて役柄を書き直したという。オコナーはまさに身一つでロルヴァケル映画に飛び込み、全編イタリア語でセリフを披露。映画を異化する彼の存在感によって、ロルヴァケルのフィルモグラフィが転換点を迎えた。特定の時代性を帯びず、都市を離れた農村で繰り広げられる...『墓泥棒と失われた女神』

  • 【ポッドキャスト更新】第58回 2024年上半期ベスト10(TVシリーズ編)

    2024年1月1日から6月30日までにシーズン完走したTVシリーズからベスト10を選出。同時代性を重視した年間ベスト10とは異なり、上半期は単純に好みを優先。昨年、各所で“PeakTVは終わった”と言われたが(長内も言いました)、いやいや、まったくそんなことはない大豊作。日本関係のあの作品、異色のコメディ、人気シリーズの最新作、そして世界中で話題を呼んだ衝撃作などなどバラエティ豊富。ベスト10のほとんどは当ポッドキャストの各エピソードで詳しく解説しているので、そちらもどうぞ。冷房の効いた室内で良質なTVドラマを見ながら酷暑を乗り切りましょう。音声はこちらからもお聞きいただけますランキングの各作品は当ポッドキャストで個別にも紹介しています『ファーゴシーズン5』『mr.&mrs.スミス』『リハーサル』『ザ・カ...【ポッドキャスト更新】第58回2024年上半期ベスト10(TVシリーズ編)

  • 『フェラーリ』

    前作『ブラックハット』から8年ぶりとなるマイケル・マン監督の最新作は、度重なる主演俳優の交代劇に見舞われ、構想から実に30年を経たことで筆圧を弱めてしまった感はある。創業から10年を迎えた1958年のフェラーリに焦点を絞る本作は、伝記ドラマに彼らしいモチーフが垣間見える一方、常に“男性的”と評されてきた作風を自ら解体している。常に男と男の対決を描いてきたマンが、今回フェラーリの好敵手に選んだのは妻ラウラ。男の戦いの影で度々、涙を呑まされてきた女が、ここではフェラーリの喉元を締め付け、文字通りに生殺与奪を握っている。愛人との間に息子をもうけ、二重生活を送るフェラーリにラウラは銃を突きつけるのだ。エキセントリックな役柄が堂に入ったペネロペ・クルスはレパートリーの安易な再演に留まらず、まさに大女優の貫禄である。...『フェラーリ』

  • 『お母さんが一緒』

    ホームドラマチャンネルで放映されたTVシリーズの再編集版である本作が、奇しくも寡作の名匠・橋口亮輔9年ぶりの劇場長編映画となった。TVシリーズゆえバジェットの制約があり、ペヤンヌマキの原作戯曲から空間的な拡がりは得られていないものの、しかし橋口ならではの演出術で極上のアンサンブルが楽しめる1本である。3人姉妹が母親を連れて、親子水入らずの温泉旅行にやってくる。子供時代から家族旅行が機能しなかった彼女らにとって、中年のそれはなおのことだ。長女の弥生は東京で働くキャリアウーマンで、婚期はとうに逃して久しい。次女の愛美は若い時分にルックスをもてはやされたものの、30代も半ばとなる今はろくに定職も就かず、フラフラしている。唯1人、実家に残った三女の清美は誰にも知られずに結婚の準備を整えていた。タイトルロールでもあ...『お母さんが一緒』

  • 『Shirley シャーリィ』

    1948年、短編小説『くじ』が注目を集めたばかりのシャーリィ・ジャクソンは新作に取りかかろうとしていた。しかし一向に筆は進まず、彼女は極度のうつ症状に悩まされる。ある日、大学教授の夫スタンリーの助手を務めるべく、若い夫婦が下宿にやってくる。妻ローズはシャーリィの大ファンだが、そう易々と心を開いてもらうことはできない。作家と読者の間で起こるインスピレーションの相互作用を、ジョセフィン・デッカーはシャーリィ・ジャクソン小説さながらの心理ホラーとして描いている。シャーリィは地元で起きた女子大生失踪事件に強い執着を抱くも、一向にヒロインの顔をイメージすることができない。デッカーの演出は触感的で、人物に肉迫するカメラがシャーリィとローズの間に生まれる連帯を捉えていく。エリザベス・モスほどフィルモグラフィの形成に自覚...『Shirleyシャーリィ』

  • 『クワイエット・プレイス:DAY1』

    居ようが居まいが、何度だって柳の下のドジョウを狙うのがハリウッドである。ジョン・クラシンスキーが監督としての才能を開花させた『クワイエット・プレイス』シリーズは、音を出せば即死という設定に寄り掛かることなく、子役に至るまで誠実な芝居を見せる俳優陣によって、家族の再生を描いた傑作ホラーだった(第2弾には『オッペンハイマー』でオスカーに輝く直前のキリアン・マーフィーも出演)。第1〜2作が興行的に大成功を収め、本シリーズの参照元と見られるTVゲーム『THELASTOFUS』のTVシリーズ化も大ヒットした今、これ以上何かやる余地があるのか?シリーズ第3弾は監督、脚本に『PIG』のマイケル・サルノスキを迎え、大都市NYを舞台にエイリアンによる地球侵略“DAY1”を描く。シリーズの世界観を拡げるべく、丁寧な企画開発が...『クワイエット・プレイス:DAY1』

  • 【ポッドキャスト更新】第57回 7月公開の新作映画

    6月末〜7月公開の注目作をまとめて紹介。現在劇場公開中、シリーズ第3弾『クワイエット・プレイスDAY1』は監督も主演も異なるスピンオフだが、拾い物の1本。今まで以上にグッと来る、泣けるホラー映画?ルピタ・ニョンゴ演じる主人公に影響を与えたのは急逝したあの俳優?(10:30頃)7月5日より公開中の『Shirleyシャーリイ』の主演はエリザベス・モス。『ハンドメイズ・テイル』以来、一貫したフィルモグラフィーとは?(15:21頃)7月12日公開『お母さんが一緒』は寡作の名匠、橋口亮輔監督9年ぶりの新作。兄妹あるあるな展開に笑う?それとも居心地が悪くなる?俳優たちのくんずほぐれつの共演は橋口演出の真骨頂。(21:05頃)7月19日公開『墓泥棒と失われた女神』はイタリアの俊英アリーチェ・ロルヴァケルの新作。これまで...【ポッドキャスト更新】第57回7月公開の新作映画

  • 『シング・ストリート 未来へのうた』

    ジョン・カーニーの2015年作は1985年を舞台にした半自伝的作品である。一貫して市井の人々と音楽の関係を慎ましやかに、しかし大きな筆致で描いてきたカーニーが、自身の少年時代となればフィルモグラフィーで最もドラマチックになるのが微笑ましい。大不況により父親(『ゲーム・オブ・スローンズ』の“小指”ことエイダン・ギレン)が失業。家計の見直しを迫られた彼らは養育費を削ることになり、主人公コナー少年は公立校へと転校する。カトリック系の校風とはいえ、お世辞にも柄が良いとは言えない荒みようで、コナーはさっそくイジメの標的になる。そんなある日、校舎の前で日がな誰かを待つ美少女が気にかかり、コナーは咄嗟に「バンドをやってるから、PVに出ない?」と声をかけてしまう。バンドどころか、音楽なんてやったことがないのに!異性の気を...『シング・ストリート未来へのうた』

  • 『フローラとマックス』

    自伝的青春映画『シング・ストリート』、アンソロジーTVシリーズ『モダン・ラブ』を経て、ジョン・カーニーが再びアイルランドの市井に帰ってきた。ダブリンに暮らすシングルマザーのフローラは17歳の時に息子マックスを産み、彼が思春期を迎えた今も遊び方は変わらない。そんな母をマックスが快く思うわけもなく、2人の間は月並み以上にコミュニケーションが断絶している。元バンドマンの夫イアンはよそに女を作って別居中だ。あたしの人生、いったい何なんだ?誰かに好かれたい。誰かに尊敬されたい。往々にして芸術行為のきっかけは俗っぽいものである。フローラはYouTubeで見つけたアメリカ在住のイケメンミュージシャンから、ギターのレッスンを受け始める。はじめこそ軟派な気持ちで始めたフローラだが、上達し、内なる芸術性を発見する喜びに目覚め...『フローラとマックス』

  • 【ポッドキャスト更新】第56回 重力に魂を引かれたオールドファンによるガンダム話

    いつかはやるだろうと思っていた“ガンダム回”がまさかこんな形で実現しようとは…各ストリーミングプラットフォームでの配信が始まった『機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM』を観て、機嫌の悪い長内。これは映画なのか“コンテンツ”なのか?日本の映画興行はファンダムカルチャーなのか?SEEDは20年前から創り手も観客も成長していないのか?ノスタルジーに浸ることが“娯楽”なのか?いや、そもそも何をやってもいいのがガンダムシリーズであり、SWに先駆けたフランチャイズの成功だったのでは?ぶつぶつと文句を言いながら、話は長内のフェイバリット『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』へ。ガンダムファンが見ても難解な映画?感情移入できない登場人物ばかり?後に『エヴァンゲリオン』を生んだ重要作?アニメ映画に作家性は必要ない?ガンダム史上...【ポッドキャスト更新】第56回重力に魂を引かれたオールドファンによるガンダム話

  • 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

    見渡せば日本国内の映画興行収入ランキングはアニメ作品が大半を占め、わずかな実写作品(ここに洋画が入ってくることはなくなった)も元を辿ればマンガ原作。昨今、“映画”の定義は大きく様変わりした。TV版からのファンが初日に押しかけて爆発的なオープニング記録を作り、配給側も度々の入場者特典でブーストをかけて興収を上積み。“映画”を専門としてきた批評家が迂闊に論じることも叶わない市場構造であり、かつて社会現象を引き起こし、シリーズの人気を不動のものとした1982年作『機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙編』の23億円を大きく上回る『SEEDFREEDOM』の成功に、筆者はまったくもって理解が及ばない状況だ。2002年に始まったTVシリーズ『機動戦士ガンダムSEED』、04年の続編『SEEDDESTINY』に続く20年ぶ...『機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM』

  • 【ポッドキャスト更新】第55回 夏が来る!『チャレンジャーズ』

    2024年上半期の会心作『チャレンジャーズ』がひっそり公開中。「c'mon!」とゼンデイヤが絶頂に達するまでの3Pセックス映画?テニスコートで踊り狂うダンスムービー?3人はあの夏のオーガズムを目指している?夏とエロスの作家ルカ・ダァダニーノの作品はすべて暑さの種類が違う?グァダニーノ映画において悪天候は急展開の兆し?ノーテンキに思えて、実は絶対的な相手に恋をしてしまった切ない青春映画?同じく上半期の秀作『パストライブス』との意外な関係性とは?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『チャレンジャーズ』『パストライブス』『君の名前で僕を呼んで』『サスペリア』(2018)『胸騒ぎのシチリア』『僕らのままで/WEAREWHOWEARE』『ボーンズアンドオール』『ウエスト・...【ポッドキャスト更新】第55回夏が来る!『チャレンジャーズ』

  • 『マッドマックス:フュリオサ』

    世界中で大熱狂をもって迎えられたシリーズ30年ぶりの新作『マッドマックス怒りのデス・ロード』から早9年。フュリオサを主人公とするプリクエル『マッドマックス:フュリオサ』に心のV8エンジンを鳴らして待ち侘びたファンは多いだろうが、まずはその回転数を抑え、偉大なるジョージ・ミラーの声に耳を傾けてもらいたい。『フュリオサ』は狂騒的な『怒りのデス・ロード』と全く異なるタイプの映画であり、こちらのチューニングを誤ればその真価を見失いかねない。全米ボックスオフィスでは期待値を大きく下回り、シリーズの終了が事実上確定したかのような報道だが、たった週末3日間で映画の価値を決めてしまうハリウッドの悪しき慣習には困ったものである。『フュリオサ』は『怒りのデス・ロード』で創り上げられた世界観を補強・拡大し、壮大な叙事詩として語...『マッドマックス:フュリオサ』

  • 『チャレンジャーズ』

    夏の夜にじわりと汗がにじめば、そこには性と欲望の芳香が漂う。夏とエロスの作家ルカ・グァダニーノがハリウッドの若手トップ女優ゼンデイヤを主演に迎え、あられもなくメインストリームに現れた。3人のテニスプレーヤーの十数年に及ぶ痴情のもつれは、政治的正しさによって漂白されたハリウッドではしばらくお目にかかれていないエロチシズムだ。ゼンデイヤ演じるカリスマ的テニスプレーヤー、タシ・ダンカンは相手選手を完膚なきまでに叩きのめすと、「c'mon!」と雄叫びを上げる。彼女がエクスタシーに達するのはコート上で最高のプレーを披露した瞬間。しかし彼女は練習中の事故により選手生命を絶たれてしまう。次にタシが絶頂に達するのは映画がクライマックスを迎える時だ。そう、人は1度達したオルガリズムの頂きを求めてリレーションシップを繰り返す...『チャレンジャーズ』

  • 【ポッドキャスト更新】第54回 『関心領域』を定める邪悪さ

    『関心領域』を観るためには、私たちの関心領域も拡げなくてはならない。監督ジョナサン・グレイザーのキャリアを振り返る。誰もが1度は見たことがあるジャミロクワイ『ヴァーチァル・インサニティ』に既に原型がある?前作『アンダー・ザ・スキン』も人間の残忍さの話?2023年のMVPはザンドラ・ヒュラー?『関心領域』は映画館での鑑賞が必須?邸宅にいるお手伝いさん達は何者なのか?暗視カメラに映っていた少女は何をしていたのか?“関心領域”とは何を意味するのか?壁の向こうを映したサブテキストには『サウルの息子』や『シンドラーのリスト』もどうぞ。音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『アンダー・ザ・スキン』『サウルの息子』『シンドラーのリスト』『落下の解剖学』『関心領域』【ポッドキャスト更新】第54回『関心領域』を定める邪悪さ

  • 『関心領域』

    異色の宇宙人侵略映画『アンダー・ザ・スキン』から10年、ジョナサン・グレイザーが帰ってきた。最新作『関心領域』は2023年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得。アカデミー賞では作品賞はじめ5部門にノミネートされ、2部門に輝いた。その国際長編映画賞受賞スピーチで、グレイザーはイスラエルによるパレスチナ侵攻と、ハリウッドの新イスラエル姿勢を真正面から批判。『関心領域』のポストクレジットシーンとも言うべき決定的瞬間であった。示唆に富んだタイトルであり、観客にも自身の関心領域を幾重も拡大することが求められる映画だ。第2次大戦下、アウシュビッツ強制収容所の真隣りに暮らす所長ルドルフ・ヘスと家族の日常を盗み見るかのような本作には、観客を怠惰にさせる安易な説明は一切登場しない。カメラは各部屋の一点に置かれ(グレイザーの名を...『関心領域』

  • 『ドライブアウェイ・ドールズ』

    2021年にジョエル・コーエンが単独監督作『マクベス』を発表して以来、事実上コーエン兄弟としての活動停止しているジョエルとイーサン。インタビューによればケンカ別れでも何でもなく、互いに興味の方向性が変わったことに由来する、キャリアと年齢に起因したごく自然な活動停止だという。今回、弟イーサンの単独作『ドライブアウェイ・ドールズ』が発表されたことで、逆説的にコーエン兄弟というユニットの作家性が解き明かされているのが興味深い。振り返れば彼らの作風はシリアスとコメディ、クラシックフィルムとパルプノワールといったいくつもの対極的な要素が同居し、フィルモグラフィには犯罪劇もあればドタバタコメディも並ぶバラエティの豊かさだった。『マクベス』を観る限り、どうやらシネフィル気質の作風は兄ジョエルの趣味で、パルプノワールやナ...『ドライブアウェイ・ドールズ』

  • 『ありふれた教室』

    2023年のアカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされたこのドイツ映画は、学校教諭が見たら卒倒モノのスリラーである。小学校の低学年を担当するノヴァク先生は校内で多発する窃盗事件を受け、自身の財布を囮に監視カメラを設置する。果たせるかな、カメラには財布を抜き取ろうとする腕が映っており、ノヴァク先生は疑わしい人物を告発するのだが…。本作が長編4作目となるトルコ系ドイツ人監督イルケル・チャタクが義務教育の現場に象徴するのは戦中、戦後から現在へと繋がるドイツ史そのものだ。授業中、突如として押しかけてきた教員たちが男子と女子を選別し、財布を置いて移動を強要する様はまるでナチスによるユダヤ人狩りのようだ。学級委員を呼び出して疑わしい生徒を密告させようとする場面は戦後、東西冷戦によって監視社会となった東ドイツの秘密警...『ありふれた教室』

  • 『悪は存在しない』

    前作『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー作品賞はじめ4部門でノミネートされ、国際長編映画賞を受賞。一躍、日本を代表する映画作家となった濱口竜介の最新作は180分の前作から一転、わずか106分に凝縮され、文字通り観客を煙に巻くミステリアスな作品だ。長野県の山深い田舎町にグランピング場の建設計画が持ち上がる。企画、運営に携わるのは東京に本社を置く芸能事務所で、拙速な計画がここまで通ったのはどうやら政府の助成金を見込んでのことらしい。住民集会にはろくろく権限もない担当者が2名派遣されるばかりで、住民たちからの理路整然とした質問にも答えることができず、自ずと場は紛糾していく。見るべき場面はいくつもある本作だが、意外なことに最大のハイライトがこの説明会のシーンだ。『ドライブ・マイ・カー』でも繰り返された“素読み”を...『悪は存在しない』

  • 『アイアンクロー』

    1980年代に必殺技“アイアンクロー”で人気を博したエリック・フォン・ファミリーの伝記をショーン・ダーキンが監督するとなれば、通り一遍の実録映画になるはずがない。冒頭、寒々しいモノクロームで映し出される現役時代の父フリッツのヒールぶりに、スコセッシとデ・ニーロの傑作『レイジング・ブル』が頭をよぎるが、ダーキンが撮るリングは禍々しいまでに気味が悪い。後に“呪われた一家”と呼ばれる彼らにまるで何かが取り憑いているかのように見えるのだ。フリッツは6人の男子に恵まれるも(映画では1人省略されている)、5人が病死や自殺によって命を落としたのである。ダーキンは息子たち1人1人のキャラクター性よりも、フリッツを頂点とする家庭構造にこそ注目している。トレーニングから食事の管理はもちろん、プロモーターに転身したフリッツは息...『アイアンクロー』

  • 『かくしごと』

    絵本作家の千紗子は長年、絶縁状態にあった父がアルツハイマーに冒されたことを知り帰郷する。父はすでに我が娘もわからなく、やり場のない怒りを抱えた千紗子の介護は芳しくない。そんなある日、彼女は事故で記憶を失くした少年を保護。自分の子と偽り、共同生活を始めるのだが…。北國浩二の小説『嘘』を『生きているだけで愛』の監督関根光才が自ら脚色した本作は、原作のトーンを捉え切れているとは言い難い。文学調の書き言葉を役者に喋らせるだけのメソッドが確立されておらず、特異なシチェーションにリアリティを持たせることに失敗している。関根の演出、脚本の不手際を父親役の奥田瑛二、医師役の酒向芳ら偉大なる名優たちの自然主義的演技が救っていることが唯一の慰めだろう。『かくしごと』24・日監督関根光才出演杏、奥田瑛二、中須翔真、佐津川愛美、...『かくしごと』

  • 【ポッドキャスト更新】第53回 5月公開作リキャップ『マッドマックス:フュリオサ』『ありふれた教室』

    5月の劇場公開作を振り返り。シリーズ最新作『マッドマックス:フュリオサ』を楽しみにしていた長内。ところがどうにも歯切れの悪い感想で…本作はジョージ・ミラーにおける『ファントム・メナス』?アベンジャーズ初期メンバーはみんな小悪党に転向中?アニャ・テイラー=ジョイのフィルモグラフィにおける共通点とは?(13:50頃より)ドイツ映画『ありふれた教室』は学校教諭は卒倒モノの1本。あらゆる描写にドイツの歴史が内包されている?現代ドイツ社会の縮図そのもの?劇中で言及される不寛容方式とは?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『マッドマックス』『マッドマックス2』『マッドマックス/サンダードーム』『マッドマックス:怒りのデス・ロード』『サラブレッド』『クイーンズ・ギャンビット』...【ポッドキャスト更新】第53回5月公開作リキャップ『マッドマックス:フュリオサ』『ありふれた教室』

  • 『世界の人々 ふたりのおばあちゃん』

    第96回アカデミー短編ドキュメンタリー賞ノミネート作。結婚によって親戚同士となった2人のおばあちゃんは意気投合。まるで姉妹のような仲睦まじさで、互いの連れ合いが先立った今は一緒に暮らしている。眠る時はなんとベッドも同じだ。2人は人生観も死生観もまるで異なるが、人間がひとつ屋根の下で共に暮らすにはさほど重要でないのかも知れない。コロナ禍のロックダウン中に撮影された本作は孫ショーン・ワン監督が祖母たちへの愛を込めた、微笑ましいプライベートフィルムである。『世界の人々ふたりのおばあちゃん』23・米監督ショーン・ワン※ディズニープラスで配信中※『世界の人々ふたりのおばあちゃん』

  • 【ポッドキャスト更新】第52回 本当に悪は存在しないのか?『悪は存在しない』『アイアンクロー』

    舞台も終わり、見逃していた映画をガンガン観ている長内が4月劇場公開作を振り返り。1980年代に活躍したプロレス一家“フォン・エリック・ファミリー”を描く『アイアンクロー』は、実録伝記モノだけどホラー?監督ショーン・ダーキンのデビュー作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』とおなじく“カルト”集団についての映画?実は映画では描かれていないもう1人の兄弟が存在する?(9:30頃より)濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』が公開。なぜ村の住人は全員、棒読みで喋るのか?『ドライブ・マイ・カー』にも登場した濱口監督の演技メソッドにはいったいどんな意味があるのか?本作はイタリアのある気鋭映画作家の作品と似ている?本当に悪は存在しないのか?音声はこちらからもお聞きいただけます番組内で言及している各作品のレビューはこちら『戦...【ポッドキャスト更新】第52回本当に悪は存在しないのか?『悪は存在しない』『アイアンクロー』

  • 【ポッドキャスト更新】第51回 『リプリー』光と影のイタリア

    TVシリーズを最終回までネタバレ有りでお喋りする“TVシリーズ雑談会”。今回はNetflixから配信中のリミテッドシリーズ『リプリー』を取り上げます。本作の主役は実はロバート・エルスウィットによるカメラ?なぜ全8話モノクロしたのか?脚本家として名を馳せたショーランナー、スティーヴン・ザイリアンの作風とは?この春はアンドリュー・スコット祭り?『ワーニャ』での凄さも解説。なぜリプリーは何度もカラヴァッジョの絵画を見ているのか?原作を同じにする映画『太陽がいっぱい』との決定的違いはなにか?今回のリプリーはソーシャルメディア時代の“並列化”された存在?ダコタ・ファニングが最終回で見せた巧みさとは?フレディ役で視聴者に違和感を残す俳優はなんとあの人の子供?上半期ベストの1本です!音声はこちらからもお聞きいただけます...【ポッドキャスト更新】第51回『リプリー』光と影のイタリア

  • 『猿の惑星 キングダム』

    20世紀フォックスのレガシーとも言うべき人気タイトル『猿の惑星』シリーズ最新作も、ディズニーの買収によって例外なく傘下20世紀スタジオからリリースされた。そう、この星を支配しているのは人間でもなければ猿でもなく、金を持ったミッキーマウスに他ならない。偉大なる名優アンディ・サーキスと監督マット・リーヴスによる前3部作(リーヴスが参加したのは2作目から)が目覚ましい成功を収めて間もないにもかかわらず、ディズニーは『スター・ウォーズ』同様、金のなる木に次の果実を実らせる必要があった。だが諸作同様、なんとも青にがく、不作である。『猿の惑星』シリーズの醍醐味とは時に薄ら寒くなるほどの風刺性であり、必ずしも親子で楽しめるファミリーアドベンチャーではないだろう。前作から数百年を経て猿たちの社会は細分化し、始祖とも言うべ...『猿の惑星キングダム』

  • 【ポッドキャスト更新】第50回 『シュガー』私立探偵ほど素敵な商売はない

    TVシリーズをシーズン最終回までネタバレ有りでお喋りする“TVシリーズ雑談会”。今回はAppleTV+で配信中の『シュガー』について。重大なネタバレは21:30以後に行っているため、そこまでは聞いてくれても大丈夫。ハードボイルド映画の韻を踏んだ、“映画についてのTVシリーズ”?映画と共に生きる人の目から世界を描いている?映画批評は人を救うのか?エイミー・ライアンの起用は出世作となったあの映画からの“引用”?TVシリーズ見ずして映画を語れない時代であることは、シュガーも承知?音声はこちらからもお聞きいただけます【ポッドキャスト更新】第50回『シュガー』私立探偵ほど素敵な商売はない

  • 『異人たち』

    2023年に亡くなった脚本家、山田太一の代表作『異人たちとの夏』を『荒野にて』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイが現在のロンドンを舞台に脚色、監督した本作は、原作にヘイの作家性が接近、肉薄し、まるで山田と対話するかのような理想的な映像化である。ロンドンの中心部、人気のない高層マンションに暮らす脚本家のアダムは、これまでのヘイ作品の主人公と同様、寄る辺のない孤独に苛まれている。アダムの新作のテーマは”両親”。しかし彼らはアダムが12歳の頃、交通事故で他界してしまった。両親の面影を求め、郊外の生家を訪ねるとそこには亡くなった80年代当時の姿のまま、2人が暮らしている。数十年ぶりの再会に喜び合う3人。アダムはゲイである自身のセクシャリティを両親はどう思っていたのか確かめようとしていく。1973年生まれ、今年51歳...『異人たち』

  • 『バティモン5 望まれざる者』

    2019年の長編監督デビュー作『レ・ミゼラブル』でカンヌを圧倒し、脚本を手掛けた2022年のNetflix映画『アテナ』で世界中の度肝を抜いたラジ・リは、今や“フランスのスパイク・リー”とも言うべき重要監督の1人だ。フランス郊外団地に追いやられてきた人々の烈火のような怒りを撮らえるラジ・リは、再び自身が生まれ育った街モンフェルメイユの団地“バティモン5”を舞台に、現代フランス社会の問題を炙り、文字通り映画を発火直前までヒートアップさせていく。冒頭、団地を空撮するダイナミズムが今や“フランス郊外団地映画”とも言うべきジャンルを確立したラジ・リならではスペクタクルだ。カメラが団地の一室に入り込むと、そこでは葬儀が行われている。様々な国籍の多様な文化が凝縮され、移民二世、三世が新たなフランス社会を築く中、行政は...『バティモン5望まれざる者』

  • 【ポッドキャスト更新】第49回 天下統一の夢『SHOGUN 将軍』

    TVシリーズをネタバレありで最終回までお喋りする“TVシリーズ雑談回”。今回はディズニープラスで配信中のFX作品『将軍』について。本エピソード収録後、FXはエミー賞獲得を目指してリミテッドシリーズから連続ドラマシリーズへとカテゴリーを変更。日本人俳優の歴代最多ノミネートが実現?いやいや、主要部門の独占受賞もあり得る?シリーズの魅力を興奮気味に解説する長内(今回、鼻詰まりがひどく、お聞き苦しくてスイマセン)。しばしば『ゲーム・オブ・スローンズ』と比較される本作。鞠子さまはデナーリスを供養した?藪重さまは実はシオン枠?そして何処にも当てはまらないのが藤さま!?GOTとの決定的な違いは真田広之が象徴する洗練と夢幻美?最終回、なぜ按針は夢を見ているのか?音声はこちらからもお聞きいただけます【ポッドキャスト更新】第49回天下統一の夢『SHOGUN将軍』

  • 【寄稿しました】『ピークTV 米ドラマの黄金期』(寄稿しました)

    共同通信社を通じて『ピークTV米ドラマの黄金期』という全6回の短期連載を寄稿しています。ここ約10年を振り返り、今からでも観るべきTVシリーズ12本を紹介していきます。第1回Netflixの躍進『ストレンジャー・シングス』『ザ・クラウン』第2回“ニュークラシック”の誕生①『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』第3回“ニュークラシック”の誕生②『ゲーム・オブ・スローンズ』『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第4回映画スターの誕生はTVシリーズから『トゥルー・ディテクティブ』『クイーンズ・ギャンビット』第5回新たなる物語、複雑化する文脈『パチンコ』『地下鉄道』第6️回PeakTVは終わったのか?『メディア王華麗なる一族』『一流シェフのファミリーレストラン』埼玉新聞4/11より愛媛新聞4/12より茨城新聞...【寄稿しました】『ピークTV米ドラマの黄金期』(寄稿しました)

  • 『マリウポリの20日間』

    第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したムスチスラフ・チェルノフ監督は、スピーチの開口一番こう言った「私はここに立って、この映画を撮りたくなかったと言う初めての映画人です」。彼らAP通信取材班はウクライナ紛争開戦直後マリウポリ入りし、病院に密着取材する。徐々に包囲網が狭まる中、病院に担ぎ込まれてくるのはその大半が子供だ。戦争は本人の心身はもちろんのこと、居合わせた人々にも深い傷を与える。治療のかいなく命を落としていく子どもたちを前に、医療従事者たちは無力感に苛まれる。開戦当初、私達が度々目にした現地映像はチェルノフ監督らチームによるものだった。ロシア軍によってインターネット通信も遮断された中、果たして彼らはマリウポリで起きている現実を世界に発信することができるのか?後半、映画は手に汗握る脱出...『マリウポリの20日間』

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、長内那由多のMovie Noteさんをフォローしませんか?

ハンドル名
長内那由多のMovie Noteさん
ブログタイトル
長内那由多のMovie Note
フォロー
長内那由多のMovie Note

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用