山と河にて (18)
大助は、美代子と別れて帰宅した夜、彼女の身辺に起きた複雑な事情を思案して、彼女の行く末を心配するあまり、精神的な疲労と寂寞感から、家族に詳しい内容も説明せずに自室に引きこもり床に入ったが、思考が整理出来ず寝付かれないままに真剣に考えた。それは、経済的に未熟な自分では、今は、彼女を幸せな生活に導けないが、彼女が自分を信じて献身的に尽くしてくれる愛情と、老医師であるお爺さんの自分に寄せる期待に背かぬ様に努力することで、何時の日かは、彼女の夢を叶えてあげることが、自分に与えられた男の責任だと堅く心に誓った。彼が寝静まったころ。母親の孝子は娘の珠子を部屋に呼んで、お茶を飲みながら静かな声で、美代子の家庭事情から、二人が別離したことを教え、大学生になったとはいえ、我が子ながらよく厳しい環境に耐えて一切表情に表さずに...山と河にて(18)
2023/09/26 04:37