もとやんの藁草履
もとやんは茂平の漁師で、漁業とわらじを編むのを業としていた。普通の茂平の漁師は、半農半漁で、収入も労働時間も、ほぼ漁業半分、農業半分で生活していた。もとやんは農業をせずに毎日、稲わらで草鞋を編んでいた。もとやんは無口な男で、浜にいるときも無口だった。自宅で草鞋を編むでいる時も、もちろん無口だった。子供たちも、もとやんを不思議な感じで見ていた。もとやんは、中年だったが、独身の身の様子だった。その当時、独身で一人家族の家は珍しかった。もとやんとは年に一度話す機会があった。それが城見小学校の運動会の前の日。5円玉を持ってもとやんの家に入る。そこには、もとやんが黙々と手と足を使って藁仕事をしている。家の土壁には、もとやんが作った草鞋が紐に結んで何足も壁中に吊ってあった。そこで、もとやんと何か話したはずだが記憶がな...もとやんの藁草履
2023/07/31 10:28