愛の横顔 ~地獄変~ (二十三)静寂
ここで、老人のことばは終わりました。出席者のだれも、ひと言も声を発しません。静寂がこの場をとりしきっております。きょうは重陽の節句である、九月九日です。まだまだ残暑のきつい日々がつづいております。ふた間のへやを使っての大部屋でございます。二台のエアコンがフル回転しているとは申しましても、なにせ集まった人数が多うございます。あらためて申しますが、本日は大婆さまの三十三回忌でごす。最後の年忌法要として盛大に執り行っております。妙齢のご婦人がお迎えにあがられました。お孫さんでしょうか、切れ長の目をされていて鼻筋も清々しく、清楚な感じの娘さんでございます。「お父さん、またよそさまのお宅に上がり込んで、だめですよ。申し訳ありません、みなさん。お通夜の席をお騒がせいたしまして、ほんとうにもうしわございません」「おお。...愛の横顔~地獄変~(二十三)静寂
2024/07/31 08:02