中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(29)
「街路にて」。短い詩だが、魅力的な行に満ちている。すべてが緊密な関係にあり、この一行を選ぶのがむずかしいのだが。その子は漂って行く、街路を、あてどなく、全体のなかでは印象が薄い行かもしれない。「漂っていく」と「あてどなく」はつきすぎているというか、同じことを別のことばで言い直しているだけだ、と批判的なことばを書こうとして、私の意識はふと立ち止まる。「違う」と、私のなかのだれかが告げる。もう一度、読み直す。すると。その子が、くっきりと見えてくる。この詩の主役。「彼」でも「青年」でもなく、「その子」。「あの子」でも、「この子」でもない。「その」という中途半端な位置にいる。しかし、「その」ということばを思わずつけてしまう、引きつける力がある。カヴァフィスは、「その子」を直接知らないかもしれない。しかし、その姿を...中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(29)
2023/08/31 23:08