生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて おやすみはにー♭
生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭
水に咲く花-01(4)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/5SuQRTpcEM— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月11日 「いいよ」 少しの間も、ためらいもなく、篠崎くんはうなずいた。わかっていたのに、やっぱり拍子抜けしてしまう。「いいよって、篠崎くん、わたしが言った言葉の意味、ちゃんとわかってる?」「そのつもりだけど」 あけすけな表情が、むしろわたし自身をあわてさせた。「世間一般のお付き合いをしましょうって、言ってるんじゃないんだよ」「いち子ちゃん、どうせまた何か悩んでるんでしょ? いいよ、俺でよけれ…
水に咲く花-01(3)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/VArtXIz0zS— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月10日 「このあいだ、駅で偶然会ったんだよ。うちの大学広いから、同じとこ通ってても、めったに会わないんだよね」「ふうん」「あからさまにそっけないな。いいじゃん、昔みたいに三人で会おうよ」 なにを気にする風でもなく、今度は鶏の唐揚げに手を伸ばす。「篠崎くん、おもしろがってるでしょ」 にらみつけたら、笑顔で返された。「片桐も今、彼女いないんだって」 わたしと別れた後、他の女子校に通うひとつ年下の…
水に咲く花-02(1)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/6I0zQkqd0p— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月12日 「それで今日ずっと、そんなうかない顔してたのか」 篠崎くんは笑って、なすのお漬物を口へはこんだ。わたしは鶏の唐揚げをほおばり、何よ、とふくれてみせる。「朝顔の白花って劣勢遺伝子のaabbでしょ。種ができたら、俺にも分けてよ。 そう言って、なすのお漬物をもう一切れ口の中へほうり込む。「なぐさめてるのか、けなしてるのか、全然わかんない」「どっちでもないって」「生物オタク」「なんとでも」 …
水に咲く花-01(1)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/gvQWAhTuge— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月8日 春先に蒔いた朝顔の種は、どの蔓も揃って白い花を咲かせた。赤でも青でも紫でもない、何の面白みもない白い花ばかり。 一年前、自宅浪人していたわたしは、気まぐれで毎朝の散歩を日課としていた。早起きして静かな住宅街を歩くと、普段は目にも留めないいろいろなものに出会った。毎朝おなじ時刻に家を出るのに、空の色は日々変化するし、季節によって聴こえてくる音も違った。 朝顔を見つけたのは、空気にかすかな…
夜のななふし-04(4)(終)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/kJADn9uCKh— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月6日 弱々しい電燈に誘われるようにして、公園のベンチに座った。登らなくていいの、とジャングルジムを指差して聞くと、首を横に振ってうつむいた。「どうして、あんなことしたの。」 口をつぐんで答えない。ハルキの言葉は遅れているというよりもむしろ、話そうとする気持ちが薄いのか。「食べれば。食べたかったんでしょう。」 コンビニ袋を手渡そうとすると、今度は首を大きく横に振った。「じゃあ、何で盗ん…
うた202001−4 まるこぽろ遙かジパング思ひ馳せ東方見聞録ぞ記したる ふつふつとホットケーキは焼けてゆきわたしのひそかもあまくただよふ 橙々はお祭り屋台照らす色おもちゃの指輪もきらきら灯る お題「思い出の味」 【kindle ことことこっとん】 マルコ・ポーロ 東方見聞録 古典案内 (現代教養文庫ライブラリー) 作者: 出版社/メーカー: インタープレイ 発売日: 2012/12/21 メディア: Kindle版 マルコ・ポーロ 東方見聞録 作者: 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2012/05/17 メディア: 単行本
楢﨑古都 夜のななふし-04(3)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/aK3U58wYLR— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月5日 「ハルキ、何持ってるの。」 店員からも私からも視線をそらして、ハルキは後ろを向く。「見せて。」 しがみつこうとするのを引きはがし、袋を持つ手を持ち上げた。抱きかかえられて見事につぶれてしまったかにパンが、ハルキの顔の前で揺れた。「お金を払わずに、勝手に持って来たの。」 コンビニから出て来た客が、私たちを見て見ないふりして通り過ぎて行く。ハルキは黙りこくってしまって、何も答え…
夜のななふし-04(2)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/rN5r9BcOFg— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月4日 玄関には鍵がかかっていた。冷えきった家の中に親父の姿はすでにない。マンションの玄関口にも、家の前にもハルキはいなかった。 連絡網の中から、送ってくれた子の家の電話番号を引き出す。ハルキがいないことは伏せて、帰って来たときの様子を聞いた。案の定、いつもと変わらなかったわよ、という返事が受話器から届く。どうしたの、何かあったの。いえ、何でもないんです。今日は有難うございました。ホームル…
夜のななふし-04(1)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/aBa6IJMjEx— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月3日 バスで来た道を戻る途中で、歩くのに飽きてファミレスに入った。昼時少し前で客足はまだまばらだった。迎えの時間まで長居することに決めて席につく。おかわり自由の薄いコーヒーと、いちばん安いトーストは、待つ間もなくすぐにはこばれてきた。 談笑が店内にさざめいている。なかには、背広を着てスポーツ新聞片手にモーニングセットを食べている男性客もいるが、大多数は女性客と子連れ客だ。出されたホット…
夜のななふし-03(3)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/Ij8AG3asoH— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月2日 ハルキを幼稚園へ送ると、私にはすることがなくなってしまう。バイトをする気にもならないし、金なら親父の不動産から毎月自動的に振り込まれてくる。 親父がいる部屋に戻る気はしなかった。かといって他に行くあてがあるわけでもない。電車に乗って歓楽街まで出てゆく気力もなかった。さしたる目的もなく、私は高校行きのバスに乗っていた。 駅とは逆方面へ向かうバスは、まだ遅い朝の通勤時ということもあっ…
夜のななふし-03(2)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/deUEt3e4AQ— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月2日 飲むの、と胸元にコーンスープを差し出したら、口を開けて頷いた。熱い缶を膝の上にのせ、袖口を手のひらまで引っ張り上げて両手で持つ。プルトップが開けられず、先に開けたもう一本を手渡してやると、吹く風に赤く染まった頬が控えめにゆるんだ。少しずつ飲んだコーンスープはかじかんだ手のひらを熱くし、食道を通って胃の中をじんわりと温めた。 ちらちらとこちらをうかがって行く通勤者たちを横目に、私た…
うた202001−3 閉めきりの部屋で過ごした二年間 隙間のきざし遠かつた朝 したためる所作も忘れた果たし状または恋文どれもゴシック ソナチネのような毎日でしたもう二度とふり返らない、さよなら お題「恋バナ」 【kindle ことことこっとん】 転職祝いに岩手申し込んだ📚 https://t.co/pyHSsXYQMp— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月17日 小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集 作者:桜庭 一樹 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2019/05/24 メディア: 単行本
うた202001−2 ひとしきりあなた想つて泣いたので小さな海を漕ぎだしてゆく 額縁に縫いとめられし少女たち囀りまでも時をこえゆく 胸のうち告げられずいま思い出は三十一文字のリズムとなつて 額縁に縫いとめられし少女たち囀りまでも時をこえゆく『 少 』 楢﨑古都 #うたの日 #tanka・・・#ルノワール展 #横浜美術館#ピアノを弾く少女たち・・・https://t.co/pFJISekcTM— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月12日 お題「好きな作家」 【kindle ことことこっとん】 ルノワール名画集 近代絵画 作者:オーギュスト ルノワール 出版社/メー…
夜のななふし-03(1)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/89H95OZO04— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月31日 ハルキは律儀に幼稚園へ通う。今朝も、昨日遅くまで起きていたくせに自分から起き出して私を揺すり起こした。暖房をかけっぱなしで寝た室内は充分過ぎるほど温もり、喉をひどく渇かせた。 二度寝しようとする私を再度揺すり起こし、起き上がったのを確認してからハルキは着がえはじめる。たんすにしまわれず床に散乱している服の中から、下着やら靴下やらを適当に選び出して身につける。私は壁にかかったし…
夜のななふし-02(2)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/xtaq61E21j— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月31日 エレベーターで降りていくときから私の腕にしがみついていたハルキは、公園へたどりつくとようやくその手を離した。つまらせた鼻を音を立ててすすり、私の顔を仰ぎ見る。水色のスモッグは、セーターの上から重ね着されているにも関わらずまったく着膨れしていなかった。まるで寸胴の袋をかぶせただけみたいな格好に見える。あごで、行っていいと指し示すと、ハルキはジャングルジムの方へ駆けて行った。 細…
夜のななふし-02(1)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/3sS0PUso6d— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月29日 「ユキちゃ、」 意志の弱いおびえたような声で、遠慮がちに私の名前を呼ぶハルキのことが、私は心の底から気に食わない。読んでいた雑誌をソファの足元へ放り、携帯電話の液晶画面に視線を落とす。わざとONにしたボタンの確認音が邪魔だった。「ユキちゃん、」「ちゃん付けで呼ぶな。」 あ、と声を漏らして口ごもり、目だけせわしなく動かして何か言いたそうな視線を投げかけてくる。言葉が遅れている、…
夜のななふし-01|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/7U5p9ROKmZ— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月28日 木製のベンチはところどころささくれ立っていた。枝のふりをしたななふしが、寄りかかった背もたれの上にいる。ゆらりとも動かぬ細長い体が、背景に似合わず目立った。 街灯に照らされたジャングルジムに、やせぎすの幼稚園児がへばりついている。このまま、おいて帰ろうか。ふと、マフラーに顔をうずめて本気で考え込む。けれど、そんな考えはすぐにため息とともに白くなって消える。私がほんとうにハルキをおい…
まるで、かなしみの羊水に溺れてしまったみたいだ。 ぬるい水にあおむけの体で浮き沈みしながら、依子はおもった。 たまに口元へかぶるプールの水はなめらかで、カルキ臭もやわらかい。たゆたっていると、コースを泳いでいくひとの水をかく音が、わずかな波とともにからだにつたわってくる。五感をすべて水の中へゆだねてしまうと、外界との接点は閉ざされて、自分自身の輪郭をも忘れてしまいそうになる。 身をひるがえして水中をすすんだ。すると、どこからともなく魚の気持ちに包まれて、依子は全身をうろこに包まれた生き物へと姿を変える。努めて物を考えず、深くもぐって水をかく。いま、依子がなりきっているものは、この世へ生まれでる…
うた202001−1 「うたの日」という、Web上でまいにち開催されている歌会に 今週投句したお歌のうち、気に入ったものを3つ。 歩いているとき、ふいに拾った感情や気づいた変化を 忘れずにいられたらいいのにって、ずっと思っていて。 見つけた情景を、半日かけて ていねいに歌にしていく工程は とても心地よくて、iPhone をいじる時間まで減った! つづくといいな ❥❥(๑′ᴗ‵๑) ❥❥ きみが今日見上げた冬の気高さを木々のつぼみも覚えるだろう いくらでも機会はあつた終はりまで味方になれず脱いだ制服 結ひあげる今日までの日々茜色やがて群青束の間の恋 お題「マイブーム」 【kindle ことことこ…
05 ◇ 缶ペンケースと鰯雲 ◇ (終)(この素晴らしい世界)楢﨑古都
05 ◇ 缶ペンケースと鰯雲 ◇ (終)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/jK59dtmSMr— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月27日 教室の窓際の席からは、真下にイチョウの木とツツジの植え込みが見える。 ユウは一人机に向かって、次の授業の予習をしているようだ。その左腕はギプスで固定され、彼の怪我がまだ完治していないことを周囲に見せつけている。彼は、僕と同じように屋上から飛び降りた。ただし、イチョウの木がクッションとなって、一命を取りとめたのだった。『お前、ほんとひねくれてんな』 頭の後ろに両…
04 ◇ 非日常的な屋上の俯瞰 ◇(この素晴らしい世界)楢﨑古都
04 ◇ 非日常的な屋上の俯瞰 ◇|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/MnLPVqzi1d— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月26日 学校は郊外の丘陵に建っていて、屋上からの景色もなかなかのものだった。 その瞬間のことは、いまでもよく覚えている。 体が風にさらわれるのを、僕は厭わなかった。片足を踏みだし、ほんの少し前方に重心を移す。あとは重力に任せればよかった。意識は、地面にたどり着く前に失った。『ふ、ざけんなよっ』 僕は咄嗟に叫んでいた。と同時に、落ちたはずのユウが、まだ屋上のへりに立ち尽くして…
03 ◇ 日常的な屋上の俯瞰 ◇(この素晴らしい世界)楢﨑古都
03 ◇ 日常的な屋上の俯瞰 ◇|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/O3QiCn5qQh— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月25日 ユウは散々小突かれ回されながら、屋上へ引っ立てられていった。 受験のない中高一貫校での毎日は、楽な分つまらない。それで、生徒たちは日々の学校生活を楽しくする為の遊びを思いついた。方法は簡単で、適当な標的を選び出し、貶める。たたそれだけだ。「謝る気があるんだったら、もっと端へ行けよ」 同級生たちに急き立てられて、足をもつらせながらユウは歩かされている。まったく、奴は泣き…
02 ◇ 日常的な教室の俯瞰 ◇(この素晴らしい世界)楢﨑古都
02 ◇ 日常的な教室の俯瞰 ◇|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/91ylln92MR— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月24日 僕はその光景の一部始終を、天井付近にうらうらと漂いながら見下ろしていた。『お前、相当性格悪いな。自分いじめてたやつがいじめられるとこ見て、面白いのかよ』『ふん、いい気味じゃないか』 僕の体は蛍光灯の無機質な明かりを透きとおしている。隣で一緒に浮いている、小学生くらいの背格好しかないがきんちょも同じだ。僕らは、生きている人間の目には映らない。『お前をいじめてたのは、こいつら全員だろ。…
01 ◇ 教室と花瓶の菊 ◇ (この素晴らしい世界)楢﨑古都
01 ◇ 教室と花瓶の菊 ◇|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/dwlBhPvYVt— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月23日 白い菊の花びらが窓際の机の上に散っている。午後の日差しを受けて、水垢の目立つ花瓶は小さなプリズムをつくっていた。 以前と変わらない、3年A組の日常風景。かかとを踏まれた上履きが、教室後ろの掃除ロッカーをくり返し蹴りつけている。そのたび、周囲で囃したてる声はいっそう沸きたつ。 やがて、ロッカーから一人の生徒が引きずりだされた。紺色の制服は埃で白く汚れ、ブレザーの袖口やズボンの裾はほころび…
ひさしぶりに大長編の夢を見たわたしたちは谷底に暮らしていたある日、共生していたはずの動物たちに異様な変貌があらわれ一瞬にしてこの世界でもっとも弱い種になったやがて肉体は溶けるように均一化され記憶は失われていったわたしたちは忘れていたこれが元の姿還りたいとは思わなかった— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月2日 他者との違いは極力ひた隠ししかし本能は愛を憶えていた結ばれる関係性は運命だった恐る恐るふれあって額を寄せくちづけを交わした彼女の愛、わたしの愛そのどちらにも嘘はなかった一方わたしたちの肉体はあまりに脆かった彼女の愛を、わたしの愛を求めあうほどわたしたちはこ…
ひそやかな相愛-03(終)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/0ek9wI2sJ5— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月22日 「どうぞ。」 どうせなら、一緒にミルクもねだっておくべきだったかしらん。「食べないの?」 食べさせて、くれないんですか? じっと淳之介顔を見つめ、小首を傾げる。「やっぱり拗ねてるな。いっそお前も一緒に、お婿さんでももらうかい」 なんてこと! そんなもの、いりません。 淳之介は半分に割ったクッキーをつまんで、私の鼻先に差しだした。ゆっくり口を開け、くわえる。彼の指先を噛んでしまわないように…
ひそやかな相愛-02|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/8035pga7xU— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月21日 「今晩は彼女が来てくれるよ」 さなえさんは淳之介の婚約者だ。たまに、わたしたちの部屋へも遊びに来て、一緒に料理をしたり、映画を観たりして過ごす。 じゃあ今日は、さなえさんがいらっしゃるまで、お散歩もおあずけということですね。 わたしは膝の上で、ふんと息を吹き、首を伸ばしてそっぽを向いた。拗ねてみせても、大抵は気づいてもらえないのだけれど。 さなえさんは線の細い人なのだけれど、なかなかアクティブ…
「ひそやかな相愛-01」|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note https://t.co/cY8N61fo7p— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月21日 傍らで、淳之介が寝そべっている。 銀色の細いフレーム。横顔に一筋の硬質をもたらし、手元を見据える眼差しに引き金をかけているもの。すべらかな肌をしている人だ。華奢な金属は、それゆえに寂と落ちついている。 わたしは彼のふところで、ふんと鼻を鳴らしてみせる。脇腹に頭をもたせかけ、両足を抱える。ソファーの沈みに身をまかせると、ぬくもりにまどろみが呼び起こされるようだ。 淳之介はページをめくる手をと…
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