「お前白血病だったら恋愛しちゃいけないって言うのか?」 ヒロ兄ちゃんの言葉が頭をかすむ。 そんな朝9時。 うむぅ〜 そんなこといってもなぁ… ヒロ兄ちゃんがあんなこというから朝から基本、不整脈だ。 …朝は不整脈にならないとも限らないが… とりあえず顔でも洗うかと部屋からでた。 「あら、早いじゃない?昨日遅かったのに」 母ちゃんが部屋から出てきたボクに台所から声をかける。 「お?あ…ぁあん…」 ドラマでも見ないこの怪しい返事。 「朝ご飯食べないと思って片付けちゃったわよ」 はや..
その日の夜、ヒロ兄ちゃんは自転車で家にやってきた。 その顔はもう赤い。 「昭宣、行くぞ!」 … 酔ってるんですか? ボクがまじめな話をしたいと言っているのに… あなた… 「行くって…どこ?」 「そりゃ…あれだ…ドコも休みか?」 「…うん」 「じゃぁ…お前は酒を家からかっぱらってこい」 「は?はぁ」 ビールと日本酒を店から持ち出し自転車に乗る。 「で、ドコ行くの?」 「ウチ」 「はぁ…」 10分後ヒロ兄ちゃんの家についた。 ヒロ兄ちゃんの家は代々医者の家系でいわゆるお金持ちってヤツだ。 ..
福岡に戻ってきて数日経った。 目の前には残りのおせち… そう、あっと言う間に年を越してしまった。 去年はいろいろあったな。 そして今年もいろいろあるだろう。 なんてこと考えたりしたりして… あれからまだマイとは連絡を取っていない。 だけどマイからはメールが来ていた。 『あけましておめでとう』 って。 一日遅れだけどメールしよう。 これくらいはね… あ…け…ま…して…お…め…で…と…う… っと 文字を打つのが遅いボク。 パソコンってのはなんでこう文字バラバラなのかね? ..
帰ってきた… 帰ってきたよ、福岡。 美容師になるまでは帰ってこないと決めたんだけど… 無理だった。 なんかそんな思いがボクを切なくさせた。 ただ、故郷というのはなんともいいものだね。 まあ福岡辺りだと東京とはたいして変わんないんだけどさ、ホームグラウンドってのはいいもんだね、なんか。 「おかえり」 ッて言ってもらってってるような気がする。 まずは何はともあれ実家へ。 ウチは酒屋と言っても造り酒屋とかじゃないから趣きみたいのは何も無い、ただ、ただ、ボロい。 入り口の水着のお姉ちゃんのポスターがボクを出迎えてくれた。 ..
そろそろ今年も終わる。 そんな中、雪も降ってきた。 しかし! ボクは今、暖かい。 どこがと言うと 頭が暖かい。 帽子がね、暖かいんですよ! そして心も暖かい。 ボクは腕を組み、窓に映った自分を見ながら 「あんだねぇ、そんなことばっか言ってっからダメなんだよぉ!」 と、テリー伊藤のマネ。 に… 似てる! サングラスがあれば… そんなことはさておき… 今日もやってきました。 マルク..
ボクは外を見ていた。 あれから何日経ったのだろう。 友達やマイなど見舞いに来てくれたらしいが無理言って看護婦さんに断わってもらっている。 腫れぼったい目ではさすがに会えないからな… というより、会いたくない。 今のボクにはボーっと外を見る意外なかった。 パソコンにも目を通さずただボーっと… いつもの抗がん剤治療は続いている。 最近ようやく髪の毛が抜けてきた。 心構えがあったせいかそんなに落ち込むほどではなかった。 ただ、力が入らない。 何か持つにも『ポロ』っと落ちたり… そんなこんなで外を見るしか無かった。 ..
汗… この抗がん剤治療に慣れる日はいつ来るのだろう。 力の入らない手にはじっとりと汗が滲む。 そんなこんなで今日の治療も終わった。 いやぁ、痛みとか副作用とかそういった辛さは無い。 しかし、いろんなものを刺されたり、飲んだりといった反復が余計ボクの具合を悪くさせてるんじゃないかって思うんです。 とゆうか細胞殺してるからね… しかし、やらなくては… 髪の毛とかすぐ抜けてくると思ってたんだけどそうでもないみたい。 ただ、坊主ってのはどうにも伸びるのが早いらしい。 ジョリジョリ感も無くなってきた。 ボクは今、マリモですな。 こ..
治療4日目。 昨日のショックをまだ引きずっている。 あの後、パソコンを見るとマイから何通かメールが来ていた。 メールの題だけ上げるこうだ… 一通目 『ディズニーランド楽しかったね』 二通目 『福岡に着いたかな?』 三通目 『チャコと散歩してたら』 四通目 『今年は私も福岡のおじいちゃんの家に行こうかな』 五通目 『お母さんに会ったよ』 … 返信もしなかったのにこんなにメールくれるなんて… ただ、返信が出来ないボクがいる。 な..
10章 再会 治療も3日目に入った。 あれから毎日治療の日々だがまだそんなに副作用という感じはない。 ただ、力が入らない。 力が入らないとネガティブな方向に走りがちになってしまう。 この治療のこと。 家族との血液の照合のこと。 こうまでやることないとそうなりますよ。 早くパソコン来ないかなぁ… ボクは治療までの間、病院を散歩することにした。 カラカラと点滴の掛かっているヤツを杖代わりにしながら休憩室に行ってみた。 とりあえず椅子に腰掛けテレビを見る。 … こういう時のテレビってつまんないよなぁ。 ..
数時間後、ボクの初めての治療が始まった。 普通に病室にいるボク。 あれ? ビニールとかが掛かってる部屋は? あそこじゃないの? どうやら違うらしい。 カラカラとやってくる洋服掛けのようなアレ。 点滴とかのヤツね。 スゴい色の液体の袋。 これが抗がん剤!! さすががん細胞を殺すだけのことはある。 「じゃあこの薬を飲んで下さいね、これは副作用を抑える薬で…」 多い! 抗がん剤より多いじゃん。 でも飲むしかない。 飲んだ後、鎖骨の下にプスッと..
病院に着くとそこには家族全員がそろっていた。 「昭宣、手続きもうすましといたから」 と母ちゃんがよってきた。 「…」 親父はいつものように何も言わない。 寡黙… 腕組み… それが親父スタイル。 こんなときだってその姿勢を崩さない。 「アキ、ヒロシはどこ?」 と言ったのは兄貴。 兄貴とヒロ兄ちゃんは同級生で仲がいい。 頭の出来は天と地の差があるが… そして、あなたより遅く来たボクが居場所を知るはずが無い。 「病室は?」 2人ともあえて病気のことを聞かない感じがむずがゆい。 とりあえず病室へ… ..
ボクはその日、朝早く目が覚めた。 窓から外を見る。 特に何もない。 そしてこんなにじっくり窓から外を見るなんてこと今まで無かった。 今日で当分この光景ともお別れ… そう思うとこの何も無い外もなんだか愛おしく思えた。 とりあえず部屋を片っ端から掃除してみた。 「お前らとも当分お別れだ」 と、カットの練習用のマネキン(一恵、次美、参子…)を並べて独り言… 「がんばってね、昭宣…」 一恵たちの声が聞こえる気が… 「おお、まかせとけ、ボク…がんばるよ」 空しいなんて言わせない。 でも、押し入れにしまうボク..
朝、6時半。 まだ少し薄暗い駅。 「うぅ、さすがに寒くなってきた…」 手をさすりながら待ち合わせの改札に向かう。 そこにはもうマイが待っていた。 「おはよう」 「おはよう」 久しぶりに会ったような気がする… まぁ、今まで毎日見てきたからな… 少し髪を切ったのかな? 少し大人びて見える… 「あ、髪切ったの?」 と言ったのはマイ。 「へへへ…」 と言って帽子を取ってみせた。 ぴかーん! 「坊主!どうしたの?」 どうしたのって言われてもねえ… 「へへへ…」 ..
ボクは退院し、家に向かう電車の中携帯を見ていた。 母ちゃんはとりあえず福岡にこれからの用意をしてくると朝早く帰っていった。 マイ 080〜 maimaiakiyopi@〜 その下にある『送信』を押せずにいる。 なんて言おう。 今回のこと知ってる訳だし言わないわけにはいかない。 でも、言ったらマイが遠退く気がして… デートのために退院した訳だし… ただ、ボーっと携帯を眺めていた。 そのまま家に着いた。 携帯は『マイ』を表示し続けている。 入院中のメールで明日ミッキーに会いにいく約束をしていた。..
病室に戻る廊下 母ちゃんは黙ったままボクの後ろを歩いている。 急性骨髄性白血病… 名前からしてヤバい雰囲気が漂っている。 先生の話をもう一度頭の中で繰り返す… 「急性骨髄性白血病というのはね、骨髄にある血液を作る細胞ががん化してしまう病気です」 「そうすると正常な血液が作れなくなってしまう」 血液が…作れない… 「血液を作る細胞を芽球というのだが、がん化した芽球が増殖し続けていく訳です」 「治療はまず化学療法というのを行います、この治療で白血病細胞をひたすら減らします」 髪が抜けたりする..
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