骨董商Kの放浪(32)
温泉市(いち)の情報を聞いた数日後の一月の下旬、僕は総長の家を訪れた。香港で買ってきた漢時代の蝉炉の代金を頂戴するためである。 正月三が日の過ぎた頃、僕は総長から電話をもらった。家に遊びに来ないかとのこと。そのとき僕は香港で仕入れたこの蝉炉を持って参じたのだった。案の定、総長はこれを大いに気に入り、値段を問わずお買い上げになったのである。僕とネエさんが想像していた、崩れるような笑顔が、このとき現出したのであった。 展示台の一箇所に作品を置き、二人してしばし見入ったあと、総長は優しいまなざしをそのままに、軽く首を傾げ訊いてきた。「Kさん、いったい、どんな味なんでしょうかねえ?」成虫か幼虫か判然と…
2023/01/27 22:02