トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』下村隆一訳、翻訳編集:畑中麻紀
岩山全体がぐらぐらゆれて、あたり一面がふるえ、彗星が恐怖のさけび声をあげました。それとも、悲鳴をあげたのは地球のほうだったのでしょうか。(p.208) ムーミン小説の第一作目(『小さなトロールと大きな洪水』はとりあえず置いておいて)の『ムーミン谷の彗星』では、冒頭から、ムーミン谷の美しくおだやかな風景が描かれている。ムーミン谷、よさげなところだなあ。自然がきらきらしていて、まばゆいなあ。そんな牧歌的な思いを抱いて読み進めた矢先に、ムーミン谷の様相は一変してしまう。 すべてが、灰色なのです。空や川ばかりではありません。木々も、地面も、家も。あたり一面が灰色で、この世のものと思えないほど、気味わる…
2023/03/25 00:57