『奇想天外』 篠原嶺葉
1908年(明41)大学館刊。正続2巻。明治後期の新聞小説は、読者の興味を引こうとして題名を奇異なものにすることが流行した。 嵐の夜に渋谷の森の中で一人の代議士がピストルで殺害された。その死体をヒロインが発見するのだが、関係者たちほぼ全員それぞれ別の理由でその付近にいたことがわかる。しかし警察の捜査では犯人は探し出せなかった。物語の背景にあるのは日清戦争で、1894~95年の一年半の期間である。この戦争については今となっては人々に忘れられているが、当時は「帝国開闢以来の大戦争」と考えられ、国内党派間では主戦論と和平論とが熱く議論されていた。間諜(スパイ)の活動も活発で、ヒロインに横恋慕する朝鮮…
2022/12/30 20:03