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人生は花鳥風月 https://saga135.hatenablog.jp/

自分の趣味であるギャンブルや読書、水泳、魚釣り、ゲーム、動画鑑賞等を中心に世相や人生観、様々な事を綴っています。 言ってみれば何でもありなブログです。

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2021/01/18

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  • 短編日記小説 #1 無風景

    烈しい工事の機械音。車両の走行音。行人がスマホから上げられる会話や音楽。隣人が立てる、生活音を超える騒音。それら様々な、醜いだけの雑音、騒音が常態化した街、という空間に美を見出すのは至難の業であると思える。強いて挙げるならば、人に対しては癒しの効果しか齎さないであろう、可愛い雀の鳴き声ぐらいか。それは大仰に言えば、妖精の囁きにすら感じられなくもない。 冴えない面と陰に籠る内心を隠しながらする職場での挨拶は、無為な細風となって虚しく自然的に飛散したが、コンクリートの床に刻む尖った靴音と、比較的長身な体躯だけは、辛うじてその者の存在を顕示し得る。 人という生物が人ではない機械、或いはロボットとして…

  • GWを満喫する方法

    旭日の 光に泳ぐ 金魚達(笑) 世はGW真っ盛り。麗しく爽やかな蒼穹を仰いでいると、自ずと笑みが零れます。今程に翼を持つ鳥達を羨ましく思った事はありません。天高く飛翔するヒコーキ雲にも、抱き着きたくなります (*'▽') それにしても月日の流れは早いですよね。光陰矢の如しとは言いますが、気がつけば正月。気がつけば五月と。光陰矢の如しとは言いますが、それと同時に己が年齢も増して行く現実には、不遜でお目出度い自己憐憫が隠せません。それとは裏腹に胸に込み上げる、無意識な逸り気の萌芽も、所詮はそんな他愛もない懊悩から抜け出したい反動に因るもので、この連休が持つ、嫋やかで厳粛な才力の表れなのでしょうか。…

  • 祝 アクセス10000超え

    如月の 蒼穹(そら)にも泛ぶ 正月よ(憫笑) まだまだ寒い日が続きますが、皆様如何お過ごしでしょうか。暖冬なのか寒冬なのかはっきりしない天候に、精神までもが翻弄されているような気がします。 補正され美化された、都合の好いノスタルジア(追想)に浸る癖がある自分としては、毎年のように、一瞬にして過ぎ去ってしまう正月(年末年始)の、早々と厳粛を懐かしむ余り、未だしてその心は冬眠したような状態です(笑) この為体、正に汗顔の至りですね 😓 祝 10000超え ブログを始めて約二年での成果です。平均で見ても少ない部類だとは思いますが、この10000アクセスという数字自体には、素直に喜びを感じます。これも…

  • ないもの強請り

    秋雨は 天の涙か 冷笑か いやいや、皆さんお久しぶりです。最近は何かとバタバタしていて、ついブログ政策を疎かにしてしまいました。汗顔の至りです。(本当は暇なくせに 😅) しかし氷室京介はカッコいいですね(いきなり何の話やねん!) 昔から好きだたtのですが、今になってまた嵌っています。曲は勿論、歌い方、声、ルックス、表情、性格(分かりませんが素晴らしいと思います)、とにかく全てに、時代を超越したカッコ良さを感じます。自分もあういう男に成りたいと、憧れてしまいますね。高望みし過ぎでしょうけど(笑) という事で(どういう事やねん!?)、今日はないもの強請りというテーマで話して行きたいと思っているので…

  • 孤独の必要性と作り方 ~人付き合いとの関係性、その割合

    www.premiumcyzo.com 冷風に そよぐ桜の 美しさ(笑) 三寒四温とは言いますが、四月になっても肌寒い日が続きますね。暑さ寒さなんかに負けて男が勤まるんかい、という古い考え方を持った自分も居ますが、年の所為か、寒さが堪えるようになりました。情けない限りです 😴 という事で(どういう事やねんと)、今日は孤独という言葉についての持論を語ってみたいと思います。孤独を愛し、孤独を憎む。なかなか難しい話です。 気楽に、でも少し真面目に行ってみましょう^^ そもそも孤独とは 精神的なよりどころとなる人や、心の通じあう人などがなく、さびしいこと。 「自分がひとりである」と感じている心理状態を…

  • 晴れやかで趣のあるウォーキング ~放浪人or冒険家

    春うらら 鳴かぬ鶯 可愛けり(笑) 御無沙汰しております。やっとこさすばる文學賞への応募が終わりましたので、またブログ生活に舞い戻って参りました。 はてなブログこそ我が人生? saga見参 ! アホかという話ですわ(笑) それだけこのブログに対する思い入れが強いという話ですかね^^ それにしても月日の経ちよう、時間の経過というものは早い限りですね。年を取る毎にそういった、自身に対する憂いが込み上げて来ます。 今年に入って早や二(ふた)月が過ぎ、3月も半ばに差し掛かりましたと。この間にも世間では色んな事がありました。その詳細は忘れましたが 😴 あった事には相違ありません。 そんな中、自分は引っ越…

  • 阪神大震災27年 「神戸の壁」 ~テレビ初出演

    麗らかな 自然美さえも 無常かな 1.17。地元神戸民としては実に感慨深いものがあり、毎年この日が訪れるとどうしても胸が痛くなります。 震災について語り出せば何時間あっても足りないぐらい色んな思い出がありますが、今となっては遠い昔の話で、懐かしくさえ感じます。 一言にノスタルジックと言っても、そこには当然失われたものへ対する万感の思いがあり、憂愁に包まれる心の中に光を当てる事は容易ではないでしょう。 震災自体は勿論、今日はその辺の人の心情といったものを中心に語って行きたいと思います。 地震に依る衝撃 当時自分は18歳で、高校三年生でした。年が明けてもはや卒業を待つばかりのその時期は学校も殆ど休…

  • 通りゃんせ(宇江佐真理)を読み終えて

    足早に 通り過ぎゆく 正月よ(笑) 新年の御慶目出度く申し納め候。旧年中は格別の御厚情を賜わり忝く存じ奉り候。 本年も宜しくお願い致したく御座候。 遅ればせながら新年のご挨拶とさせて頂きます。 いやいや、それにしても例年同様、正月というものは呆気なく去って行きますね。早過ぎますわ。正に疾きこと風の如しです。 今にして思えば年末が懐かしいぐらいなのですが、そんな悲観的な事ばかり言っていてはいけません。いい加減前向きになりましょう (;^_^ また久しぶりの投稿になるのですが、ご無沙汰しておりました。皆様方におかれましては益々御健勝の事とお慶び申し上げます。 という事で(どういう事やねんと)、今日…

  • 汐の情景 最終話

    康明からの連絡は彼の母御が亡くなってから数日が経った、通夜も葬儀も終えた後だった。何故もっと早く知らせてくれなかったのかと訝る英和。たとえそれがここ最近の経緯に依るものであろうとも納得しかねる。 でもそんな事を言っている場合でもないこの状況は英和の足を急がせた。目に映るもの、心に感じるもの全てが虚しさだけを表しているようだ。ちらほらと咲き始めた彼の大好きな紅葉にさえ何も感じない。こんな時に限って進行方向へと追い風が吹いていたのは皮肉以外のなにものでもなかった。 康明の家は当然のように静まり返っていた。喪に服す彼の様子は凄まじいまでの憂愁感を湛えていたが、それ以上に伝わって来る彼の落ち着きの無さ…

  • 汐の情景 三十話

    時刻は既に午後11時を過ぎていた。街外れにぽつんと佇むこの店の賑やかな灯りは、外から見れば都会のオアシスのような感じに映るかもしれない。 英和がこれまで飲んでいた酒の量は余り好きではなかったビールを康明に付き合ってグラス2杯、あとは自分の好きな焼酎ばかりを5杯ほどと、そこそこのものであった。 でも彼はそこまで酔ってはいなかった。言うなればほろ酔い程度のものか。それは酒に強かったのではなく、寧ろ弱い方だからこそ思う存分酩酊出来なかっただけのような気もする。彼は元々賑やかな酒の席が余り好きではなく、そういう場所に自分が不似合いな人物である事を自覚していた。それでいながら酒屋などを訪れていた理由は言…

  • 汐の情景 二十九話

    約束していた次週の水曜日、英和は喫茶店のリフォーム工事に取り掛かる。マスターから頼まれていたのは壁の一部とドアの補修であったが、それだけでは余りにも味気なく、亦補修した所が却って目立ってしまいセンスに欠くという理由で、厨房を除く三方の壁面の腰壁までの高さを新しくやり直すという提案をしたのだった。 僭越ながらも謙虚に構える英和に対し、規模が大きくならない事を条件に快く承諾してくれるマスターの心根は有難かった。 予算を気にする英和は前に見た覚えのある杉の羽目板を拝借しに、今一度康明の母御が入院する病院を訪ねた。 母御も快く承諾してくれたが、その際に一言だけ告げるのだった。 「英君、家にあるもんなん…

  • 汐の情景 二十八話

    貧しいようで豊か。裕福なようで貧困。世の無常の中にも特に日本という国はそういう漠然性を帯びているような気がする。 それは好不況だけといった経済的な概念で表される単純なものだけでなく、人が皮膚感覚で覚える世界観のようなもので、個人差はあれど戦後目覚ましい発展を遂げて来た日本を客観的、総体的に見た場合、真に裕福な国だと言い切れる者など居ないようにも思える。 資源が余り取れない日本に景気の安定性を求めるのも或る意味では酷な話かもしれないが、だからといって外国を羨んだり、市場の近代化、西洋化だけを図ろうとする短絡的思考には嘲笑を禁じ得ない。 真のグローバリズム、国際化社会というものはあくまでも自国の文…

  • 汐の情景 二十七話

    仕事を辞めてからというもの、英和は毎日を暇潰しのような感覚で過ごしていた。それはともすると人生自体が暇潰しに過ぎないといった余りにも虚しい、惰性的で悲観的な考え方をも生じさせる。 それもその筈。仕事もせずギャンブルに明け暮れ、何の目的意識も持たない自堕落な日々を送る事は人間の精神を腐敗させるに十分で、意思も神経も何も通っていない、謂わば生ける屍同然なのである。 たとえギャンブルで儲けた所でそんなものはあくまでも偶然性に依って齎された一時的な幸運に過ぎず、仮に一攫千金を成し得たとしても真に心が充たされる事もなければ倖せを手に掴んだ事にも成らないだろう。 その辺の道理、理屈を理解しているからこそ苦…

  • ボートレースに見るスポーツ美学 ~人生観

    奔流に 抗う姿 美しく(含笑) 美に耽ると書いて耽美。自分の事を棚に上げて言うのも烏滸がましいのですが、ギャンブルの対象であるボートレースにまで美を追求してしまうのは不遜でしょうか。 所詮はギャンブル。そこに身を窶す者としては儲かれば良いだけの話のようにも思えますが、果たしてその限りでしょうか。自分にはそうは思えません。 何故か。たかがギャンブルされどギャンブルで舟券の買い方は無論の事、走っている選手達も当然プロのレーサーです。つまりはレース、競技な訳です。とするならば他のスポーツ同様、美的感覚を以て希(のぞ)まなければならないという論理も一応は成り立つと思います 😒 ま、今日は柔らかい話なの…

  • 汐の情景 二十六話

    陰と陽。速さ遅さ。強さ弱さ、脆さ。これら世に現存する様々な対照は相反性だけを表すものではなく、それ自体が二極一対、表裏一体で、どちらか片方だけでは成り立たない、片方だけが存在する事は不可能だろう。 だが普通の人間なら良い方だけを選び、悪い方にはなるべく目を向けようとしない。つまりこの時点でその者の弱さが表れている事は明白で、如何に人間の情が働いているとはいえ、その内なる弱さに意識的に目を向けない事には真の意味での進化は遂げられないとも思える。 言うは易し行うは難しでそう簡単に出来る事でもない。そこにこそ人の世の苦行とも言える幾多の障壁、困難があり、希もうが希むまいが次々に立ちはだかるバラエティ…

  • 汐の情景 二十五話

    まだ時間に余裕があった英和は帰る途中にそのまま村上と会う事にした。仕事の影響があるとはいえ、人と会う時は何時も夕暮れ時になる事を宿命と感じながら。 艶やかな髪を風に靡かせながら相変わらずの清々しい顔をして現れた村上の様子に不審な点はなかったが、微笑を浮かべながらも少し神妙な面持ちで相対する英和。 立ち話もなんだからという事で二人は取り合えず喫茶店に入る事にした。 窓際じゃないと落ち着かない英和も相変わらずだった。窓外から差し込む眩しい夕日は二人の顔を必要以上にライトアップし、その繊細な表情の変化までは見抜けない。でもそれが却って気を遣わせない材料になっていたのも事実で、気兼ねなく膝を交えて話を…

  • 汐の情景 二十四話

    一行は後味の悪い思いで店を出て、親方の指示で一度事務所に戻った。閑散とした夜半の誰もいない事務所には仕事に使われる資材や道具などが淋しく横たわっていた。 静寂に立ち尽くす一同に対し、親方は満を持して辛辣な表情で問い質す。 「お前ら、何時もこんな感じなんか? 俺の知らん所でクソ下らん人間関係でも構築しとんかいやオラ!? おー! どないやねん!?」 誰も答ようとしない中で、既に腹を括っていた英和だけが泰然たる態度で口を開く。 「親方、皆さん、本当にすいませんでした、この通りです、自分が辞めます、これでケジメをさせて下さい」 親方は溜め息をついて英和の顔をじっと見つめていた。どう見ても本心に違いない…

  • 汐の情景 二十三話

    工務店に新しい職人が入って来た。職人といっても素人の見習いで、大卒であるにも関わらず大工になりたいという単純な志望動機で入社して来たらしい。 村上健司というその男は実に礼儀正しく凛々しく聡明で、それでいながら可愛らしい顔立ちをしており、毅然とした態度で朗らかに話す姿は異性は勿論、男から見ても惚れ惚れするような爽快感を漂わせていた。 「初めまして村上健司です、宜しくお願いいたします」 眉目秀麗にして明朗快活。その溢れんばかりの美貌と陽気さに見惚れて口々に称賛の声をあげる職人達。ただその中に一人怪訝そうな顔つきで揶揄する者がいた。 「お前、来るとこ間違えたんちゃうか? ここはモデル事務所ちゃうでな…

  • 汐の情景 二十二話

    三章 風が吹き付ける。そして当たり前のように流れ去って行く。川水も、海の潮汐も、人も動物も時も、森羅万象全てが一時たりとも留まる事なく常に変化しながら生滅を繰り返し世の無常を物語っている。 不変性を夢見る者の心情に己惚れがあろうとも、そうありたいと願う心意気に偽りはなく、天為に準じ幾多の試練に立ち向かいながら己が信条を貫こうとする健気な姿にも美を感じなくはない。 歳月人を待たず。二十代に別れを告げもはや35になる年を迎えた英和は、その月日の流れる速さに戸惑い、亦儚むようにして良く言えば仙人、悪く言えば世捨て人のような情調で万感の思いを胸に秘めながら日々を過ごしていたのだった。 こんな風に物事を…

  • 今週のお題 ~私が三島由紀夫にハる10の理由

    はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由」 風吹けば 靡く心の 潔さ(憫笑) 晩秋の候、皆様方におかれましては益々御健勝のこととお慶び申し上げます。 今日は久しぶりにお題に挑戦してみたいと思います。アホの一つ覚えで小説ばかり書いていても肩がこりますしね。ま、楽に書く事が出来ていない時点で自分もまだまだ未熟だという話なんですよね。肩の力を抜いて行きましょう 😒 とはいえまた少々硬い話になる可能性は否定出来きないので悪しからず。 テーマは自分が尊敬してやまない三島由紀夫大先生についてですね。ハマる理由と言われてもはっきり言って理屈抜きな感性に依るものだと思う訳なのですが、せっかくな…

  • 汐の情景 二十一話

    英和としてはひとり酒に浸りたい気分だった。家ではなく店で。それは駅やパチンコ店などで感じる群衆の中の孤独感みたいなものだろうか。それを良質なもので提供してくれる場所も今では少なく感じる。 だがそれは裏を返せば自分の世界を見出し、確立する事が出来ない己が非才を反証するようなもので、予期しなかった直子の到来はそんな悲観的思考を緩和してくれる。 彼女はシャンパンカクテルなる洒落た飲み物を注文していた。その黄金色に輝く液体は正にシャンパンゴールドといった高貴な煌きを放ち、浮かび上がる無数の泡沫には化学的にも自然な浪漫が感じられる。 英和はこの炭酸の音を聴くのが好きだった。グラスに耳を当てるとハイボール…

  • 汐の情景 二十話

    無気力無関心な為人でありながら正月が大好きであった英和にとって、昨今の日本の正月感の稀薄さは憂うるに足る空虚な淋しさを投げ掛けているように感じられた。 自分が幼い頃は駒回しに凧あげ、歌留多に百人一首に羽根つき、餅つき、そして年末年始恒例の大型時代劇やかくし芸等々、如何にも正月と言わんばかりの風物詩が目白押しで一年を通しても一番気が逸る時でもあった。 それが今ではしめ縄すら余り見かけない。しめ縄を付けている車などは皆無といって良いだろう。勿論初日の出を拝む人達や初詣、雑煮、おせちなどは今でも遺ってはいるものの何処か物足りなさを感じてしまう。こんな風に昔を懐かしんでいる時点で彼も所詮は時代錯誤でネ…

  • 汐の情景 十九話

    数日後の或る朝、英和は仕事現場へ向かう道中に車を運転していた康明の様子を訝らずにはいられなかった。 口笛を吹きながら運転する彼のテンションは必要以上に高く感じられる。車中に流れる音楽のボリュームも何時もより大きい。違和感を覚えた英和は素直に問う。 「何や、えらい上機嫌やんけ、何かええ事でもあったんかいや?」 「ま~な」 康明はそれだけを答え軽快な捌きで車を走らせる。他人を干渉するのが嫌いな英和であってもこの耳を劈くような烈しい音楽を朝から聴かされるのは少々堪える。以前なら直ぐにでも文をつけていたであろう彼にも、親方が倒れてからは何処となく慎重な様子が窺える。 結局は何も言わなかったし言えなかっ…

  • 汐の情景 十八話

    まだ日も昇らない外の仄暗い景色はその寒さと共に英和の純粋な焦燥を煽って来る。夢から覚めたばかりの彼には未だに現実との区別がはっきりつかないのか、まるで夢の続きを演じさせられているような思いで康明から訊いていた病院に急行する雰囲気が感じられる。 折よく降って来た粉雪は夢で見たそれとは全く違う憂愁感だけを漂わせ、黒い地面と立ち並ぶ家々は当たり前の実社会を淡々と顕現させていた。 何の情緒も表さないこの雪を鬱陶しく感じた英和は無心に勤めながらひた走り、病院に辿り着く。近所でそこそこ有名なこの総合病院は規模は小さいながらも親切な対応に定評があり、時間外で更に面識のない英和に対してもその只ならぬ様子を察し…

  • 汐の情景 十七話

    「はぁ~......」 道中で先程から何度となく耳にする義久の溜め息。英和には単にパチンコに負けた悲嘆だけを表しているようには思えなかった。 人が時として覚える嫌な予感とは当たり易いものなのだろうか。逆に良い予感などは当たらないどころか、した事すら殆ど記憶にない。 それは取りも直さず英和という男の小心で悲観的な人物像が窺い知れる自明の理で、哀れむに足る苦労性など廃棄した方が良いというのが皮肉を込めた世間の一般論かもしれない。さりとて本能や理性、偶然必然を問わずそれを感じる事が出来る、元来人間に備わった性能というものも実に侮り難いもので、その性能無くしては備えあれば憂いなしという故事なども成り立…

  • 汐の情景 十六話

    何も考えなくていい。何も思わなくていい。何も感じなくていい。そんな心理状況になれる場所とはどんな所だろうか。 出来るだけ広く、殺風景で、綺麗でもなければ醜くもない大した印象を受けない場所とは。例えば見渡す限り緑が広がる一面の野原。樹々や草花さえもない荒野。何処までも続く砂漠。凪に見る静寂閑雅な海。幻想的な湖。一応は何処からでも見える青空。 無論それらにも人を無心にさせる完全な力などはない。でも多少なりともそんな気持ちに成りたい者の手助けにはなるだろう。 内外ともにシンプル好きであった英和には何時もそんな場所を求めて彷徨っていたような節があった。それこそが潔癖な証かもしれない。ただ人間には時とし…

  • 汐の情景 十五話

    夜の帷が下りる頃、恋人達の心には自然と愛の焔が灯される。先程の黄昏れに物足りなさを感じ、亦煽動されるようにして英和と直子はまた無意識の裡に人目を避けながら現世のエリシオンを目指して歩き出していた。 吹き付ける風は二人の共通意識と相乗し不規則な流れで辺りを巡回し、俄かに芽生えた静寂を打ち破らんとする意思は小規模ながらも鮮烈な嵐を呼び起こす。 部屋に入っても灯りを付けようとしない英和の思惑の大凡は直子にも理解出来ていた。如何にも気障ったらしい赴きではあるが、まずは互いの心情を確かめない事には身体が動かない。それは何も畏まって順番という形式的な段取りを遂行しようとしたのではなく、ただ単に時にはこんな…

  • 汐の情景 十四話

    或る日英和は仕事の休憩中に親方である康明の親御さんから苦言を受ける。 「英和君、ええ加減博打は辞めといた方がええで、お母さんも心配しとうと思うし」 仕事以外、いや仕事も含めて苦言を呈された事など初めてではなかろうか。だからこそその言葉には何倍もの力が感じられ、その胸に烈しいまでの戦慄を投げ掛けて来る。 英和はとてもじゃないが反論する気にはなれなかった。それは親方の温厚な人柄は言うに及ばず、良心の呵責も然ることながら、母の事を他者から言われた時に感じた想像以上の気恥しさ哀しさが募った自己憐憫に依るものだった。 その場に居た康明は言われている英和の顔を内心を探るような目つきで見つめていた。親方の前…

  • 汐の情景 十三話

    海中に見る美しい光景。小魚の群れが一団となって素早く華麗に舞い上がる姿は見るものを圧倒する。 まるで鍛え上げられた騎馬隊のような、或いは入念な稽古を熟した踊り子のような。この魚群というものはそんな練習でもした上でここまでの舞台を演じているのだろうか、それとも意図せずに自然に身に付いた業なのだろうか。 鮮やかなに彩られた一団の姿は精妙巧緻にして優雅、勇ましくも繊細な優美な曲線を描きながら海の中を縦横無尽に踊り続ける。 天衣無縫とはこの事か。生まれたての天使がその澄み切った心根で表す有形無形の動作は正に天為とも言うべく神々しいまでの光を放ち、些かの邪念すら寄せ付けないであろう華奢ながらもしなやかで…

  • 立冬 ~読書週間

    晩秋に 凛と佇む 霜月よ(笑) いやいや、相変わらず短い春と秋という感じもしますが、移り行く四季にこそ日本特有の花鳥風月があると思えば謝意を示すに躊躇うものではありません^^ という事で(どういう事やねん!?)、久しぶりに小説以外の記事でも綴ってみようかなと思います。 といっても何時もの記念日ネタなんですけどね 😒 ま、今日11月7日は結構多くの記念、行事があるみたいですから書き応えはあるかなという所ですかね^^ 立冬 「立冬(りっとう)」は、「二十四節気」の一つで第19番目にあたる。現在広まっている定気法では太陽黄経が225度のときで11月7日頃。 「立冬」の日付は、近年では11月7日または…

  • 汐の情景 十二話

    二章 送る月日に関守なし。気がつけば春、気がつけば夏、秋、冬と、人という生命には情緒的にも少し呑気な感傷にふける習慣があるように思える。 それは当然年齢にも直接影響して来る訳で、数えで25歳になる春を迎えた英和は花見の時期が終わった頃合いを見計らって、少し離れた場所から散り行く桜の姿を呆然とした表情で独り眺めていた。 敢えて距離を取っていた理由の一つは荘厳な山々と同じく余り間近過ぎるとその美しさが損なわれるのではないかといった相変わらずの繊細な気質に依るもので、一つは一人で花見でもしているのかと思われる憐みを嫌う気恥しさから来るものだった。 優しい風にさえ攫われそうな一片の桜の葉は、その可憐に…

  • 汐の情景 十一話

    大会が終わって数日後、部活動が始まる前に顧問の先生が例の約束を果たしてくれる。てっきり大会場から帰る時に奢って貰えると高を括っていた英和はこの時間差攻撃を喰らわして来た先生のお手々に嫉妬してはいたものの、律儀に約束を果たそうとするその心意気には少なからず敬服していた。先生は言う。 「おう林田、奢ったるわ、食堂行こうや!」 まさかとは思ったが学校の食堂で奢ってくれるというのか。今学校に居る訳だからその可能性は十分予期出来たまでも、それを実行する先生の思惑とは一体何だったのだろうか。単に経済的な意味でそうせざるを得なかったのか、それとも初めからそのつもりで己がセンスをひけらかしたかったのか。 食堂…

  • 汐の情景 十話

    或る日英和は何時も通っていた銭湯でばったり義久と出会う。彼の底を見せぬ相変わらずの無表情な顔つきには未だに釈然としないものがあったが、どうせパチンコで負けたであろうと予測する英和は貸した金が返って来る事に期待はしなかった。 風呂場に入った時点で何か人の視線を感じる。他人に干渉する事を嫌う英和は毅然とした態度を崩さなかったが、知り合いの常連客の一人が声を掛けて来た。 「おい、お前そのケツどないしたんや? 真っ白やんけ!」 笑いながら訊いて来るその者に一瞬動じた英和だったが、よくよく自分の身体を見てみると確かに腰から下、股にかけての部分だけが真っ白になっている事に気付く。それは部活動で穿いていた水…

  • 汐の情景 九話

    後ろを振り返る事を嫌う者はいても、一度だけでも過去に戻りたいと思う者は結構な数で存在するのではなかろうか。 前向きな精神に虚勢を感じるとは言わないまでも、その人生に於いて只の一度も昔に戻りたくはないといった思想には多少なりとも無理があるように思える。 無論そこに災いの種が見え隠れするのなら立ち戻る必要性すら無い訳だが、たとえ一筋の光明でも見えれば自ずとそこへ向かってしまうのが人間心理だろう。 互いに息を合わすかのようにして後ろを振り返り、歩みを進め、向かい合う英和と直子はその目を見つめながらも言葉を失っていた。こんなシチュエーションに言葉を求める事がたとえナンセンスであろうとも何か一言でも口に…

  • 汐の情景 八話

    数ヶ月が経ち英和が高校一年生を終業した頃、家庭裁判所からの呼び出し状が届く。外はまだ少し寒い冬の面影を残し、吐く息の白さは一刻も早い春の到来を期待すると共に昨年度という過去に秘められた万感の思いを表すように自らを切なくさせる。 移り行く気節と同じく人間という生命も前に進む事しか出来ないのだろうか。無論過去に戻る事など出来よう筈もないのだが、少々潔癖な英和としてはたった一つの汚点がまるでその人生に土をつけたかのような大きな波紋となって何時までも圧し掛かって来るように感じずにはいられない。 この白い吐息のように人の心を真っ白にする事など所詮は不可能なのだろうか。それこそ生まれたばかりの赤子にでも戻…

  • 汐の情景 七話

    幼い頃に夢や将来像を訊かれる事はよくあると思えるが、英和が夢見ていたものとは一体何だったのだろう。 思い起こしてもこれといったものは浮かんで来ない。強いて言えばバスや電車、船の運転手に、野球やサッカー選手などの如何にも男子が謳いそうな定番の夢を発表していた覚えはある。でもその何れもが本気で抱いていた訳でもなく、あくまでも惰性で口にした余りにも漠然とした夢であった。 無気力無関心だった彼に元々夢や目標などは皆無だったのかもしれないし、それを持たなければいけないような概念的な風潮自体に疑いを秘めていた可能性もある。 それがここに来てとても人前で堂々と語る事は出来ないであろう、夢と呼ぶには浅ましく不…

  • 汐の情景 六話

    翌日も晴天だった。まだ少し眠気が残る英和ではあったが早朝の肌寒さはその身体に程好い刺激を与え、吸い込む空気は何時になく新鮮に感じる。 日も昇らない静寂に包まれた街並みに人影などは無いに等しく、車さえも殆ど走っていない状況は英和が乗る自転車を普段の何倍もの速さですいすい移動させる。そうなれば信号などを守る筈もなく、何の障壁も感じられない彼の心は自由を掴んだように小躍りし開放感に充たされていたのだった。 家からの距離はちょうど1kmぐらいだろうか。一瞬にしてバイト先の新聞販売店に辿り着いた英和は店主や皆と軽快に挨拶を交わし、予め段取りされていた広告を折り込んだ山積の新聞の束を専用の自転車の前カゴと…

  • 汐の情景 五話

    景色が人の心に齎す影響力を数字に表す事は不可能と思える。無論そんな必要性などないとも思えるが、自然の情景は言うに及ばず、たとえ人為的なものであっても見惚れてしまうほどの深い感動を覚えてしまう事が人間の性ではなかろうか。 幸か不幸か結局雨までは降らなかったものの、その曇り空は夜にもなれば尚更暗い漆黒の闇を映し出す。深淵に沈む三人の中で唯一美術の才があった康明は、その光景を儚むような切ない表情で眺めていた。 些かの余裕さえもなかったこの現状にあって彼の能力は殊の外際立って見える。英和がそれに気付いた理由はそれこそ語るまでもないこれまでの付き合いで知り得た康明の為人と、互いに一筋の光を見出したような…

  • 汐の情景 四話

    天為とも呼べる気象が思いも依らぬ意思表示をする事は往々にしてあるだろう。正に小春日和であったここ数日の穏やかな気候が俄かに曇り始めたのは何かの兆しを示唆するものなのだろうか。 とはいえ雨や嵐でもないこの現状は憂慮するにも及ばず、快活に過ごす皆の様子は決して卑屈さを表してはいない。だがその精神にも無論完全性などは保障されず、常に何かを警戒したがる英和のような繊細な人物の神経は、この薄曇りの空模様にこそ言い知れぬ不安を抱くのだった。 この日も気が進まないまでも一応登校した彼は、相変わらず同級生達の輪の中には入って行こうとせず孤高を決め込んでいた。内面的にかなり潔癖であった彼は既に周りから敬遠される…

  • 汐の情景 三話

    地元の者ばかりで形成されている公立中学と違い、色んな地域の者が通う高校は柵がないという点では幾分気楽な感じがする。 それまではどちらかと言えば自分に固執し過ぎていたような英和も羽を伸ばすといっては大袈裟だが、比較的自由奔放に高校生活を送っていたのだった。 とはいえ相変わらず団体行動が嫌いな彼は自ら輪の中に入って行こうとはせず、高々数人、或いは一人だけで行動する事が多く、恋人は疎かこれといった友人も作らないその様は他者から見れば孤独と戯れているように映っていたかもしれない。 今日もまた退屈な授業が始まる。1時間目から6時間目、放課後の部活動ときっちりとした時間割の下に一日の行程が組まれている学校…

  • 汐の情景 二話

    一緒に銭湯に行こうと提案して来た義久という男は英和に輪をかけて大人しい性格で、恐らくは喧嘩など一度たりともした事がないであろう平和主義に徹する信条は今の時代には敬服に値するものかもしれない。 それを証拠に英和とは保育所からの付き合いであったにも関わらず口論をした事すらないほどだった。でも誰にでも話を合わせられるような器用な人物でもなく、彼なりの拘りがあった事は言うまでもない。 当時はまだ銭湯が選ぶほど多く存在しており何処へ行っても良かったのだが、二人は家から一番近くにあった大藤湯に行く事にした。この店は比較的客が少なく、何時も悠々と風呂に浸かる事が出来、一目を気にせず色んな話に花を咲かせる二人…

  • 汐(しお)の情景 一話

    一章 秋の夕暮れ時に吹き付ける少し冷たい海風は頬に心地よい刺激を与えてくれる。遙か彼方に佇む真っ直ぐな水平線と、薄っすらと覗く美しい稜線は幻想的に映る。 細めた目で遠くを眺めながら黄昏れていると自ずと切ない気持ちになり、向こう岸に見える淡路島はまるで異国のようにも思えて来るのだが、明石海峡大橋を渡る車とそれをも追い越さんばかりに疾風の如く飛び行く鴎の姿には現実と幻の世界を結ぶ魔法のような力を感じなくもない。 陽が沈み切る前の赤みを帯びた満潮時の海原は穏やかな波の中にも速い潮の流れを以て繊細な水面の動きを悟らせてはくれない。その上を悠然と泳ぐ船は遅いスピードながらも確実に進んでいて、消え行くまで…

  • バス旅シリーズは面白い

    人知れず 秋を儚む 天意かな(笑) 真に春秋の短さを感じているのは人間よりも寧ろ天、自然であるような気もしないではないのですが、実際にはどうなのでしょうか。 皆様お久しぶりです。ようやく落ち着いたのでまたブログに復帰しようと思います。 宜しくお願いします^^ 今日は自分が大好きな「元祖ローカル路線バス乗り継ぎの旅」を始め「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」や、「太川蛭子の旅バラ」、「路線バスvs鉄道」、「路線バス陣取り合戦」等、旅バラ、水バラ、一連のバス旅シリーズについての感想を綴って行きたいと思います。 元祖ローカル路線バス乗り継ぎの旅 結論から言うとやはりこれが一番ですね。蛭子さんのキャラク…

  • 久しぶりのブログ

    和やかな 秋の夜長に 居ながらも 憂い漂う 我が心なか(笑) いやいや、まだまだ残暑が厳しいとはいえ、外の景色からは哀愁を帯びた秋の美しい漂いを感じます。自分としてはこの秋という素晴らしい季節を毎年3回は繰り返して欲しいと願うばかりなのですが、そんな甘い話はありません 😓 時の流れにさえも抗いを隠せない稚拙な感情はなかなか消えてくれませんが、それほどまでに優美な情景を際限なく映し出してくれる日本の四季を感じられる事は本当に有難くも贅沢な話で、改めて謝意を示したいと思います 😁 という事で(どういう事やねん?)久しぶりにブログを執筆する訳ですけど、大した話題も無いのでちょっと気になったニュースで…

  • 総裁選の行方 ~現代人の精神年齢

    秋雨に 霞む時代の 先行きよ(笑) いやいや、それにしてもよく降る雨ですね。自分は雨が好きな方なのでいっそもっと烈しく降って日本列島を沈めてしまえと思わないでもありませんが、そんな事を言ってはいけません。 女心(男心?)と秋の空とは言いますが、気候同様に所詮は人の心も無常なのでしょうか。であるなら尚更その中に一貫性を見出したいとも思ってしまう訳ですが、変化なくして進化なしとも言いますし、自分のような頑なな人間は多角的、多面的考察力の必要性に葛藤し続ける人生ではあります(笑) 総裁選の行方 www.ohbsn.com 結論から言えば何しとんねんって感じですかね。政界の動揺は今に始まった事でもあり…

  • 今週のお題 ~もっとサボりましょう^^

    今週のお題「サボる」 鳴き止みて 想うは蝉の 憂いかな(笑) いよいよ8月も終わりまするなぁ~。今にして思えば蝉が煩く鳴いていた頃が懐かしいぐらいですけど、極めて寿命の短い蝉は一体何を思って毎年毎年勇ましく鳴き続けているのでしょうね。決して鳴く事をサボらない蝉の姿には尊敬の念を抱くばかりであります。 無論今年も夏らしい事など何一つしなかった自分ではありますが、夏の終わりというものには毎年のように淋しさ、切なさを感じずにはいられません。 という事で(どういう事やねん?)今週のお題に挑みたいと思います^^ サボった経験談 これはいくらでもあります。元々ナマクラ(怠け者)な自分は人生サボってなんぼと…

  • イージーパンツの日 ~お知らせ(夢)

    降り続く 雨の下にも 仏の座(笑) いやいや、よく降る雨ですけど皆様方におかれましては益々ご健勝のこことお慶び申し上げます。 さて、もはや盆も過ぎた今となっては正月を目指して歩みを進めるしかないとも思えるのですが、そう急いてもいけません。日々を大切に生きて行く事こそが肝要である事は言うまでもありません。 そこで着目すべきはやはり記念、行事ですね。一日足りとて絶えることなく紐帯されるこの記念日は正に日本的美学であり、一日一日を感謝して生きて行く心の糧を持たせてくれます。それは無論前向きな精神を育み、更には花鳥風月に至ります。 という事で(どういう事やねん!?)早速進めて行きましょう^^ イージー…

  • 哂う疵跡 十二話

    正式に社長の座に就いた一弘ではあったがその表情に明るさは感じられなかった。彼の心に翳を落とすものの正体がグループの逼迫した経営状況である事は言うまでもないのだが、それと同等の重さを持っていたものは他ならぬ幸正の存在であろう。 幸正が一弘に与えた助言は二つだった。一つは今直ぐ会社を畳んで財産を全て売却し一から再出発する事。二つは因縁のある丸新興産と手を組み共存共栄を図る事。 何れも承服しかねる実に馬鹿馬鹿しい話なのだが、一番の気掛かりは幸正が何故そこまでして西グループの経営に干渉するのかという不可解な点であった。 グループを潰してただ腹いせがしたいだけなのか、それともまたよからぬ事でも企んでいる…

  • 哂う疵跡 十一話

    会長は悔やんでいた。一弘に止められたとはいえ何故幸正などを易々と入れてしまったのか。いや、奴が現れてしまったというその因果自体を。 その後幸正は強引に追い出されはしたものの、一弘の胸の内には彼が口にした事がはっきりと刻み込まれてある。兄と違って人の好い一弘は幸正の事が忘れないだろう。それは次期社長となった今の彼には余りにも大きな問題で、グループの行く末も危ぶまれる事は言うまでもない。 「やはり是が非でも一将を引き留めておくべきだったかぁ」 暗澹たる思いで呟く会長の一彦にはもはや次なる策が無かったのだった。悔いても及ばぬ事ながらも悔いずにはいられない。これも人間の性なのかもしれない。 「何故そん…

  • 哂う疵跡 十話

    神なびの みむろの山を秋ゆけば 錦たちきる心地こそすれ。一将の進んだ道は決して神聖なものとは言えないが、烏滸がましくもこの歌のような心持にさせてくれる秋という気節自体が神聖であり実に有難い限りである。 その天為に応えるべく日々精進して行く人々の有り様も見事なもので、万物を美しく彩る秋そのものが美の象徴であるとも思える。 一将はその後も直向きに任侠道に励み、組への忠誠心を高めその身を律し、何時の間にか一端の極道へと成長していたのだった。 彼の素晴らしい所は己が出世だけではなく、新参者であるにも関わらず誰からも恨み妬みを買っていない事に尽きるだろう。それどころか組内でも既に求心力のある一将はもはや…

  • 盆の締め括り 総括 ~新たなる旅立ち

    送り盆 浮世に廻る 儚さよ(笑) いやいや、この前始まったばかりの盆ももはや終わりとは、本当に早いです。自分としては相変わらず世の無常を感じずにはいられないという所なのですが。 とはいえ何時までも嘆いている訳にも行かず、ブログを執筆する事に依って心にめりはりをつけたいと思う次第です^^ 総括 まずは総括ですね。これを忘れてはいけません。物事には順番というものがあってこれを飛ばして次の段階に進む事は出来ない、いや、してはいけないと思う所なのですが、どうも現代社会はこの総括を忘れているような気がしますね~ 😔 ま、愚痴はよしましょう。要は自分がそう心掛ければ良いだけの話ですね。 その壱 終戦記念日…

  • 哂う疵跡 九話

    また一つ橋を渡り終えた二人は互いの身体に内在する力を分け与えるよう、そして倍増させて行くような逞しい男女に成長して行く。 一将の凛々しくも愛らしく、豪胆にも堅実な為人は優子を安心させ、優子の聡明でお淑やかながらも威風堂々と事にあたる荘厳な佇まいは一将を心強くさせる。 男女の営みが織りなす世界には情愛や傾慕は言うに及ばず心身ともに人を強くさせるといった恩恵までもが含まれているような気もする。それを体現する事に依って更なる力が生まれる事こそが万物の成長であって美しい流れでもある。 一夜を明かした二人は朝露に濡れた葉から零れ落ちる一滴の汗を窓外に眺めながら肩を寄せ合い語り始める。 「何時になく熱かっ…

  • 哂う疵跡 八話

    森羅万象。樹木が限りなく茂り並ぶ森羅、万物のあらゆる現象である万象。是れ全ては宇宙に存在する一切の現象であってものでもある。然るに有形無形に象られる人の心の赴きには常が無いと解釈する事も出来るのであるとすれば、今回一将が執った所業も決して浅はかなものでも無いような気もしないでもない。 だがその真意を探ろうとする親の気持ちはどう扱えば良いものだろうか。一将は別に若気の至りでした事では無い。その想いだけでも理解して欲しくて文を認めていたのだった。 続きを読む父一彦の表情は次第に険しくなって来る。 『自分が赴く場所は極道の世界です、でも決して親不孝をする気などはありません、あくまでも修行であり自らに…

  • 盆に聴きたい曲

    納涼の 優美漂う お盆かな(笑) いよいよ本格的な盆に入りましたかぁ~。ついこの前七夕が来たと思っていましたが、この早い月日の流れこそが無常観の現れなのでしょうか。 何れにしてもこの盆と正月こそが日本の美の神髄にして花鳥風月ですよね ✨ もはや他の記念日や行事などは要らない感じもしますが、そんな事はありません。 という事で今日は盆や帰省に因んだ曲について語って行きたいと思います。五輪ピックは堂々と開催しておきながら帰省は控えるよう促しているお上にも憤りを隠す事が出来ませんが、ならばせめて心だけでも故郷へ帰ったような想いにさせてくれる曲が聴きたいと思い付いたものです。 でははりきって行きましょう…

  • 哂う疵跡 七話

    多少なりとも優しく感じ始めた陽射しに大人しく聴こえる蝉の鳴き声。風に揺らめきながら色を変えて行く樹々や草花の涼やかな様子は人の心を和らげ、快活に登校する子供達の姿は元気を与えてくれる。 まだまだ残暑が厳しいこの時期ではあるが夏の到来を喜ぶ童に対し、その残り香を愛おしむ大人達の姿は未練がましくも憂愁に充ちている。 大切な仕事とはいえ多忙にかまけて今年も夏らしい事を何もしなかった一将は、まるでその事に報いるかのように明るい面持ちを保ったまま両親の下を訪れるのだった。 相変わらず悠然と構えている父一彦と、依然として変化が見られない浪費家だった母沙也加の変わり様は一将を安心させる。そんな両親の心持に負…

  • 哂う疵跡 六話

    宇佐美組長の功と、両親に報いたいという一将の志も虚しくグループの経営状態は悪化の一途を辿っていた。 無論その理由は低迷し続ける景気に依る所が大きかったのだが、もっと言えば時代の流れそのものにあると言っても過言ではないような気もする。千変万化する世の中にあって常に安泰を保障される業種など幾つある事か。だがそれに挑むからこその企業経営であり、そこにこそ人の真価が問われるのである。 一将は仮にグループが廃業に追い込まれようとも、その矜持だけは持ち続けたいと深く胸に刻むのであった。 まだまだ残暑が厳しい中にあって一将はまた自ら色んな場所へと営業に赴いていた。古くから付き合いのある得意先や新規開拓を求め…

  • もし諸葛亮孔明が源平合戦に参戦していたなら

    頑なな 心和らぐ 夏の喜雨(笑) いやいや、連日の酷暑の中に見る雨は本当に有難いものです。心安らかに迎える盆。これこそが日本の美の神髄であり花鳥風月だと思う所であります^^ という事で今日はあの天才軍師、諸葛孔明がもし源平合戦に参戦していたならばどうなっていたか? という甚だ滑稽で歴史を語る上ではタブーとも言われているifについて綴って行きたい次第なのですが、何卒ご容赦頂きたく存じます。 そもそも源平合戦自体が起きていたのか? ますはここですよね。孔明が居たなら一連の源平の戦い自体が発生していたか? これすら無ければ話は始まらない訳なのですけど、戦が起きていなかった可能性を否定する事も出来ませ…

  • 哂う疵跡 五話

    一将の下に吉報が齎された。約束通り宇佐美は話を付けてくれたのである。流石は天下の宇佐美組長、信じてはいたもののその喜びは計り知れない。昨日の優子との逢瀬といいこの事といい一将には力強い追い風が吹いているようにも感じられる。でもその割にはいまいち心が晴れない。その原因は幸正の事とグループの定まらぬ先行きに他ならなかった。 この日珍しく会長である一将の父一彦が部屋を訪れた。普段から会社に来る事自体が滅多に無かった父は何時になく神妙な面持ちで現れ、素早くドアを施錠してから口を切り出す。 「お前、何かしたのか?」 「別に大した事じゃないさ、どうして?」 「昨日あいつが家に来たぞ」 「あいつとは?」 「…

  • 哂う疵跡 四話

    一将には交際している女性も居た。高校時代からの仲であった優子は聡明にして重厚、華麗にして妖艶といった淑女の気品に聖母マリア、或いは観音菩薩のような美しさと包容力を兼ね備えた才色兼備な女性であった。 彼女は大学を卒業してから医療の道に進んでいたのだが、まだ研修医である忙しいこの現状で一将と会える機会は少なかった。 神田組組長宇佐美との話が纏まった事で一息つく事が出来た一将は久しぶりに優子を誘ってデートに興じる。不穏な情勢が続く中、塞ぎがちになっていた彼にとっては何とも胸の弾む逢瀬である。一将はまるで十代の頃に帰ったかのように一人小躍りしていたのだった。 和らぐ事を知らない連日の暑さは万物に何を告…

  • 哂う疵跡 三話

    幸正が運転する車を飛ばすこと約30分。街はずれの少し人通りの少ない路地裏に山誠会系神田組の事務所はあった。 先々代の頃から山誠会に懇意にして貰っていていた西グループはこの神田組とも旧知の仲であったのだが、年々強まって行く暴対法の影響に依ってその関係も希薄になり最近では完全な疎遠状態にあった。 だがそれは今の時世には寧ろ好都合で、以前から裏社会との関係を断ち切りたいと言っていた会長、つまり一将の父もそういう経営方針をとっていた。それが今になって自分達の方から頼る事になってしまったのは実に不甲斐ない話でもある。一将は己が非力さを恥じながらも毅然とした態度で向かって行く。 門番に案内され中へ入って行…

  • 哂う疵跡 二話

    一将には弟が一人居た。まだ大学生である一弘もまた兄同様に西グループの業務に従事しており、兄弟揃ってがっちり二人三脚、西グループを背負って立つ者としてその将来を嘱望されていたのだった。 一弘と部下の幸正は特に仲が良かった。皆同世代とはいえ年齢的には一番年上であった一将はグループの長としての風格もあり、ものを言って来る者は親以外には大していない。そこで一つ年下の幸正は更に一つ下の一弘を弟分のように可愛がり、一弘も彼の事を兄のように慕っていたのだった。 この三者に共通する事がああるとすればやはり少々狡猾にも思える厭らしさがあるぐらいだろうか。特に幸正などは西グループの御曹司二人との親密な間柄を盾にし…

  • 哂う疵跡 一話

    2003年(平成15年)の夏は暑かった。例年のように厳しい暑さを訴える夏という気節は有難い反面鬱陶しいようにも思えないでもない。 勇ましくも煩い蝉の鳴き声、燦然と照り輝く強烈な陽射し、青々しい樹々に草花、汗を拭いながら道行く人々に意気揚々と走り回る可憐な童達、そして涼やかにも一筋の美しい線を現す川の流れ。 自然の恩恵を受け続ける生きとし生けるものは、その自然に対し恩返しをする事が出来るのだろうか。その想いこそが己惚れに値するのだろうか。何れにしても夏という気節には殊の外印象に深いものを感じる。 この日も汗水垂らしながら外回りの営業職に勤しんでいた一将は一つの大きな商談を取り纏めたあと、或る喫茶…

  • 来てるのか!? 台風襲来に対する心構えと要望

    ちはやぶる 嵐の前の 気の逸り(笑) いやいや、9、10、11号と次々に発生した台風が疾風の如く日本列島に襲い掛からんとしているようですが、皆様方は如何おあそびあそばされていますでしょうか? 世間は五輪ピックにコロナ、メキシコ麻薬戦争と相変わらずニュースには事欠かない忙しなさを漂わせてますが、もうすぐ盆が来るというのにこんな状況で良いのか? と思わないでもありません。 という事で(どういう事やねん?)今日は目前にまで迫った台風襲来に対する心構えと、その台風にもして貰いたい要望ですね。その辺の事を綴って行きたいと思います。 台風襲来に対する心構え その壱 一応の対策はしておく 窓や雨戸をしっかり…

  • 甦るパノラマ 最終話

    物言えば唇寒し秋の風。せっかく面会に訪れたというのにいざ英昭を前にするとなかなか言葉が出て来ないさゆり。彼の姿に大した変化は見受けられなかったものの、何かが邪魔をしているような気がする。それは英昭とて同じで言いたい事、訊きたい事は山ほどあるのに何故か口が開かない。内的なものか外的なものかは分からないが見つめ合う二人の間には目に見えぬ力が働いていたように思える。 見つめ合う事1分以上、一瞬たりとも視線を反らさなかった二人は全く同時に笑みを浮かべる。人間というものは実に不思議な生き物である。その微笑をきっかけにして徐に口を開き出す二人には心に合致するものでもあったのだろうか。さっきまでとは打って変…

  • 甦るパノラマ 三十二話

    英昭の母の容態は連日のように如才無い献身的な看病をしてくれていたさゆりと、その胸襟を開いた会話に依って思いの外早く回復して行くように見える。 医師から軽い脳貧血と言い渡された彼女はしっかりとした養生をするよう指示を受け、薬を貰って退院する。 何とかタクシーに乗り込み一人で家に帰る事が出来たは良いが、この後どうするのかが問題である。人間というものはやはり一人で生きて行く事は出来ないのだろうか。事が起きて初めて胸に想う非力さと憂愁感。それは切なさや儚さなどといったどちらかと言えば綺麗なものなどではなく、凄まじい恐怖に充ち足りた完全な虚無であった。 食欲が全く無いにも関わらず台所に立ち何かをしようと…

  • 甦るパノラマ 三十一話

    病室に入ったさゆりが目にした光景は御労しくも嘆かわしい、同情を禁じ得ない実に不憫な英昭の母の姿だった。 既に眠っているであろう彼女の手をそっと握り瞑想するさゆり。すると彼女は徐に目を開けてか細い声で語り掛けて来る。 「さゆりちゃん、来てくれたのね、ありがとう」 潤んだ瞳を隠す事が出来ない彼女は素直な想いを告げるべく必死に言葉を続けようとするのだが、その容態を案じるさゆりは優しく毛布を掛けてやり安静にしておくよう献言する。だがそれでも尚発言を試みる彼女をさゆりは静止する事が出来ない。 「どうしても訊いて欲しい事があるのよ」 「はい」 「英昭は警察に捕まったのよ、暇田川署よ、悪い事をしてしまったの…

  • 甦るパノラマ 三十話

    罪を認めた英昭は取り合えず警察の留置所で一夜を明かす事になった。主犯である義正も既に取り調べを受け留置されているとの事だった。 初めて味わう罪人としての処遇。それは今までの彼には想像もつかない話であった事は言うに及ばず、いくら夏とはいえこの牢屋から感じる事といえば常闇、冥闇(めいあん)、冷徹、冷血、冷酷、残酷と、涼しいどころか底なしの冷たさと闇を訴えるようなものばかりだ。 一切の人情が失われたこの空間の中で幾日も暮らしているとその者も何れは廃人になってしまうだろう。罪人に人権などというものは無いのかもしれないが、もし冤罪ならば末恐ろしい話ではある。 しかし英昭が真に怖れていた事は言うまでもない…

  • 甦るパノラマ 二十九話

    それからの二人は以前のような仲の良い恋人として恙ない日々を送っていた。毎日のように連絡を取り合う間柄は初恋を思わせるような初々しさで互いの心を刺激しながらも和やかな雰囲気を自らに与えてくれる。 張りのある生活とはこのような事を指すのだろうか。恋に堕ちる二人はまるで魔法にでも掛けられたように我を忘れ仕事、日常生活を問わず全てが巧く運んでいるような錯覚に溺れる。ものは考えようとは言うが正にその通りで考え方、心掛け次第でどうにでもなるような気もしないではない。 これこそが人に執着する念なのだろうか。ならば業はどうなのか。念に依って表される人の業。二極一対、表裏一体に感じる二つの事象も実は元を同じくす…

  • 五輪ピックを6.5倍楽しむ方法 ~記憶に残る名選手達

    炎天下 蝉も汗ばむ 葉月かな(笑) いよいよ8月になりましたかぁ~。やはり時は一瞬たりとも止まってはくれないみたいですね。当たり前ですけど。 世の中はオリンピック一色という感じに見えますが実際はどうなのでしょうか。何れにしてももはや五輪開催の賛否は是非にも及ばぬ話になってしまいました。こうなったからには出場されている選手達の応援をする事こそが民の義務であるとも思う所であります。ガンバレー !^0^ という事で(どういう事やねん?)このオリンピックを何倍も楽しむ方法なのですが、それはやはり悠久の歴史を持つオリンピックで輝かしい雄姿を見せてくれた往年の名選手達。その記憶を辿る事でこそ得られる享楽だ…

  • 甦るパノラマ 二十八話

    酒に十の徳ありと言うが今の二人には幾つの効果が齎されたであろう。気分的には愉快である事は言うまでもないのだが、別に悩みが一掃された訳でもない。無論そこまで高望みする訳でもないのだが、愉快に微笑みながら談笑する表情の中にも何処か翳を感じてしまうのは思慮深い二人に共通した欠点でもあった。 それを察してか料理を運んでくれたおかみさんは明るい面持ながらも少し意味深な事を口にする。 「はい出来ましたよ、貴方達、今日ぐらいは硬い話は止めて大いに寛いで行って下さいましね、お酒はいくらでもありますから」 今日ぐらいとはどういう意味なのだろうか。英昭は初めて来た店なのに恰もその性格を見透かしたような言い方には蟠…

  • 7月の終わり しておくべき事 ~心構え、抱負

    去り際の 態も見事な 文月よ(笑) いよいよ7月も終わりを迎えますか。本当に早いですね。この前正月になったばかりと思っていましたが、もはや7月も終わり盆も間近、そしてまた正月と。 儚きは世の常。それに抗う事ほど虚しいものは無いように思える今日この頃ではありますが、ここらで時を止めて欲しいとも思ってしまう稚拙な自分もいます。 それにしても文月のこの鮮やかな立ち去り方も見事というしかありませんよね。立つ鳥跡を濁さずとは言いますが正に花鳥風月、自分も見習いたいぐらいです。 そこで月末にしておきたい事、そして新しい月を迎える上での心構えと抱負ですね。色々ありますが一つ一つ抑えて行きたいと思います^^ …

  • 甦るパノラマ 二十七話

    まだ二十歳過ぎである英昭にとって600万円という金額は大金だった。初めて手にする金。札の幅は同じだが厚さは約60mm(6cm)、とてもじゃないが財布には入らない。勿論入れる気も無い。ならば何処に保管するのか。金融機関に預けるのはヤバい。となれば自ずと箪笥預金しか道は無くなって来る。 先々警察に捕まる可能性の残っているこの現状で母に渡すのもまだ時期早尚だろう。英昭は取り合えず普段通りに生活する事を心掛ける。そうなれば今までのように仕事をサボる事も出来ない。大金を手にして初めて感じるこの窮屈感。まるで自由を奪われたようなこの感じは金を手にするまではある程度は予想していたものの、想定外の事の方が多く…

  • 英雄に天下は取れない?

    風吹けば 心安らぐ 猛暑かな(笑) それぐらいで安らぐ訳ないやろっ! っていう話なのですが、ここらで一雨降って欲しい所ではありますね 🥵 それにしてもこの連日の酷暑の中、皆さん如何お過ごしあそばされていますでしょうか。くれぐれもご自愛のほどお祈り申し上げ候。 ま~世間はコロナに五輪ピック、地震に大島優子結婚と相変わらず忙しいようですが、それも一興これも一興で自分としては常に花鳥風月を心掛け、亦夢見て時代に流される事無く流れて生きて行きたいという所ですかね。 という事で(どういう事やねん?)今日のテーマはタイトル通り『英雄に天下は取れないのか?』というその真意を探るべく、歴史上の偉人から現代社会…

  • 甦るパノラマ 二十六話

    現場に着いた二人は手筈通りに防犯カメラにスプレーを吹き付け辺りを警戒しながらも素早く行動する。英昭はシケ張り、義正はATMが置かれているハウスぎりぎりに付けていたトラックの上から直接重機を操縦する。 華奢なハウスは一瞬にして潰れ去りATM機が姿を見せる。それをそのまま重機で掴み上げ見事に奪取した。トラックに積まれたATM機はシートで覆い隠し、英昭は急いで運転席に乗り込む。 数十m走った所で車を停め、義正がトラックの荷台から降りて来る。席を交代した二人はここで初めて一息つく事が出来た。この間僅かに5分。正に予定通りの全く手抜かりのない仕事っぷりであった。 「やったな! これで俺達は億万長者か?」…

  • 甦るパノラマ 二十五話

    案ずるより産むが易し。どうせ一回きりの人生ならたとえそれが悪い事であっても、大して人に迷惑を掛ける訳でも無かったら人を殺める訳でも無い、所詮はあくどく儲けているサラ金業者の金ではないか。ならばいっそそれを奪う事に依って正義の証とする事も出来るのではないか。 実に都合の良い自己中心的な考え方ではあるのだが、これ以上逡巡する事を嫌った英昭の衝動に駆られた想いは理性を失いエスカレートして行く一方だった。 そうなれば事を起こすに早いに越した事はない。兵は神速を尊ぶ。今度は自分の方から積極的にアプローチを掛ける。電話に出た義正の声にはこの前とは真逆なぐらいに張りが感じられた。 「おう、ようやく腹が決まっ…

  • お題 記憶に残るあの日 ~情けない話

    はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」 あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら 僕らはいつまでも 見知らぬ二人のまま ♪ って当たり前やろ!って話なのですが、そんなツッコミを入れてはいけません(笑) 残念ながらそんな劇的でドラマチックな恋愛などとは無縁だった自分としては、またまた他愛もない単なる思い出話になってしまうのですけど、それでも一応お題に準ずる事にはなるのかなという事で宜しくお願い致します^^ 無免許で長距離を流した思い出 高校生時分の話です。その日昼に授業を終えた自分は小学生からの付き合いだった他校生の友人と二人でペチった(パクった、盗んだ)単車にニケツ(二人…

  • 甦るパノラマ 二十四話

    何とも薄汚れた、見窄らしい恰好をしている義正には清潔感や若さが全く感じられなかった。皺だらけのシャツに洗ってもいないような擦り切れた薄っぺらいズボンに黒ずんだ白い靴。髪もボサボサで風呂に入っている様子もない。虚ろな目つきに光は無く死んでいるようにさえ見える。これこそがギャンブル依存症の末路とでもいうのだろうか。まるでポン中のようでもある。 それに比べるとまだ幾分英昭の方がマシな感じもする。同じギャンブル中毒でありながらこの違いは何なのだろう。それを確かめるべく義正を問い質す英昭。しかし彼の心もまた死にかけている事に違いは無かったのだった。 「おい、どうしたんだよお前、久しぶりに会ったのに何だよ…

  • 甦るパノラマ 二十三話

    都会の喧騒とはいうが、敢えてそこに身を窶す、ギャンブルに嵌っているこの現状に憂き身を窶す事に依って何がしかの突破口を見出そうとする思慮も決して間違ってはいない気もする。堕ちる所まで堕ちないと底が見えない、と言えば浅はかな感じもするのだが、今の英昭にはそうする事でしか己が生きている証を立てる事が出来なかったのかもしれない。 依然として彼はボートレースに興じていたのだが、一朝一夕に大金を得る事は出来ない。そこで思い付いた事は実に稚拙で軽率で打算的な話なのだが、1レース辺りにまとまった金額を投資して大儲けするといったいわゆる勝負だった。 或る休日に競艇場に赴いた彼はいきなりそれを実行に移す。次のレー…

  • 甦るパノラマ 二十二話

    英昭が社会人になってから早や3年という歳月が経った。22歳になった今その生活は更に荒み、劣化の一途を辿っているように見える。もはや彼はまともな人生を歩む気すら無くしてしまったのだろうか。勤務態度も悪化し無断欠勤する日も多い。始めの内は母に対して繕っていた嘘でさえも今では全くつかなくなり、堂々とギャンブルに興じるその様は実に救い難い完全な依存症の姿であった。 ギャンブルの収支がプラスならまだしも明らかに大幅なマイナスである。それどころか消費者金融からも数百万円という借金をしており、そのうえ母からも無心をするような自堕落な日々が続いていた。 女手一つで育ててくれた母に対し親孝行をしたいという気持ち…

  • 甦るパノラマ 二十一話

    午後8時前、英昭はそのまま駅前にあるパチンコ店に駆け込む。混んでいた所為もあったが時間に余裕の無かった彼は大して何も考えずに行き当たりばったりで空いていた台に坐る。初めて打つ機種だった。データカウンタを見上げると本日の大当たり回数は23回とそこそこの数字だ。これならもう一伸びあってもおかしくはない。 実に短絡的な発想だが、それが功を奏する場合も結構多い。すると打ち始めて僅か数回転でいきなり大当たりを射止める事が出来た。やはり天は俺に味方しているのだ。この調子で連チャンすれば閉店までにそこそこの出玉が見込める。 これこそがギャンブル好きな人間の実に甘い夢物語なのだろう。大当たり図柄は6で一回交換…

  • 甦るパノラマ 二十話

    英昭はこんな形でしかさゆりと会えなかった自分を恥じた。都会の喧騒は彼の陰鬱な心持を更に曇らせる。大勢の群衆で溢れる帰宅ラッシュ時の忙しい駅前に、まだ世に擦れていないさゆりの純粋で淑女のような気品を漂わす綺麗な姿は少し浮いているようにも見える。彼女は英昭に近付いて来て徐に口を開き出した。 「久しぶりね、何処行くの?」 「何処ってこれから帰る所だよ」 「ちょっとつき合ってくれない?」 「あ、ああ、いいけど」 二人は取り合えず近くにあった居酒屋へ入った。そういえばさゆりと酒を飲むのは初めての経験だった。 「乾杯」 控え目ながらもそう声掛けをしてビールを飲み出す二人。さゆりの飲みっぷりの良さに愕いた英…

  • 甦るパノラマ 十九話

    さゆりの記憶の中で自分から電話をした事は一度も無かった。当然英昭が出なかった事も。高校生時分では翌日にその様子を確かめる事も出来るのだが、今となってはそれも難しい。わざわざ家まで行くのも憚られる。そこまで深く考え込むのも彼女らしくない訳なのだが、何故か気になって仕方がない。 これこそが恋というものなのか。離れ離れになって初めて経験するこの想い。こればかりは如何に聡明な彼女にも整理し難い事であったに違いない。さゆりは陰鬱な想いを秘めたまま眠りに就くのだった。 パチンコで大負けした英昭が家に帰ったのは午後10時半だった。玄関を開けても母は出迎えてくれなかった。もうとっくに夕飯も食べて床に就く頃だろ…

  • オリンピック心得 大暑 ~円周率(心)近似値の日

    蒼天に 想いを馳せる 五輪かな(笑) いやいや、暑い日が続きますが正に夏真っ盛りという感じですかね。子供の頃ほど夏の到来を喜べないくせに、夏の終わりには毎年決まって虚無感に襲われるという自分も情けない限りです(笑) 何れにしてもいよいよ明日オリンピックが開会されるのですか~。これについても色んな事を考えていましたが、事ここに至っては賛成も反対もへちまも蜂の頭もないと。 とはいえやはり一応の心得は必要とも思いますね。今日はその辺の事と記念、行事などについて語って行きたいと思います^^ オリンピック心得 その1 開会式やオリンピックの競技会場に乱入しない これは言うまでもない当たり前の話なのですが…

  • 甦るパノラマ 十八話

    付き合いの酒に付き合いのギャンブル。付き合いという言葉からはろくなものがイメージ出来ない。余り気は進まなかったがギャンブル好きな性質と、酒の影響で多少なりとも気が大きくなっていた英昭は歩みを止めなかった。 そこは初めて来る店であったが仕事帰りの人達が駆け込む夕方は結構賑わっていた。たとえ一歩でも足を踏み入れるとまるで別世界のような雰囲気を漂わせるパチンコ屋とは一体何なのか。上辺だけとはいえ綺麗な内装の中に響き渡る大きな音と怪しい光、幾重にも積み上げられたドル箱、射幸心を煽られ理性を失った客達の昂奮を抑え切れない様子。 それらの事象だけでも意志の弱い人間なら我を忘れて堕落してしまう可能性もあるだ…

  • 甦るパノラマ 十七話

    桜が満開に咲き誇る頃、世は新年度を迎える。もはや残冬の肌寒さも消え去った地上はすっかり春の陽気に包まれている。燦然と輝く陽射しには謝意を感じるが結構眩しい。その穏やかな光に乗じるようにあらゆる生命は元気に躍動し始める。 天為に依って開花した桜が演出してくれる神々しくも和やかな、優しい柔らかい雰囲気は万物に何を告げようと言うのだろう。それをただ短絡的に喜び、浮かれている人々の様は些か滑稽で、桜に対しても反って非礼に値するのではといった考え方は過ぎた思慮に依るものなのだろうか。 何れにしても春を迎え、新年度を迎えた人々の表情はあくまでも明るく朗らかで、前向きな精神の芽生えを映し出していたのだった。…

  • 甦るパノラマ 十六話

    「そんなに深く考えなくても、今の貴方のままでいいのよ」 さゆりが発したこの一言は言葉であって言葉で無い。理性ではなく感性。英昭の感覚に直接刺激を与えたさゆりの想いがどれだけ彼を楽にさせたか、その力は計り知れない。安心した英昭は軽く笑みを零す。それに釣られるように優しい笑みを浮かべるさゆり。質は違えど感受性の強かった二人にはこんなやり取りこそが或る意味楽しい試練、超えて行ける壁であったのかもしれない。その壁を一つ一つ超えて来たからこそ今に至る事が出来たのだろう。その具体的な内容までは分からないまでも。 「ご飯出来たわよ~」 「は~い」 二人を呼ぶ母の声も返事をする英昭の声も心なしか何時もより明る…

  • 保守と革新 ~選挙に見る無常感

    移り行く 空の景色も 無常かな(笑) もはや梅雨も明け外の景色もすっかり夏一色になりましたね。無論それはそれで良い事なのですが、暑い夏の到来と短い春にも色んな想いを巡らしてしまう自分がいます。 そこで昨日行われた兵庫県知事選。自分の地元兵庫県という事で注目していたのですが、その結果については個人的には残念で仕方ありません。 またまた硬い話で恐縮なのですが政治に見る今の日本の世相と言いますか、そもそも世の中、人間、森羅万象とは一体何なのかといった訳の分からない話をして行きたいと思います(笑) 兵庫県知事選 news.yahoo.co.jp 本来選挙や政治の話をするのはタブーでモラルに反する行為だ…

  • 甦るパノラマ 十五話

    恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす。どちらかと言えば互いに無口な方だった英昭とさゆりとの関係は蛍の恋に近かったのではなかろうか。 身体の契りは交わしても心の契りはまだ交わしていないというのが正直な気持ちかもしれない。別に焦る訳でもないのだが違う進路を歩む事になった英昭はもう一歩踏み込んだ恋愛をしたいと思っていた。 今にも咲かんとする桜は可憐な蕾を無数に宿し開花の時期を窺っている。木に停まっているメジロやヒヨドリは綺麗な鳴き声を上げながら戯れている。雀や鳩以外の鳥の鳴き声に気付くと自然とそっちに目を移してしまう人の癖は滑稽にも見える。英昭は空を見上げながら鳥達の飛び行く様を眺めていた。…

  • 甦るパノラマ 十四話

    二人だけの卒業式。真の卒業式。その日に交わした初めての契りはこの3年間の高校生活の集大成を飾るような烈しくも甘美な形を彩り、二人の愛の着地点でもあったのか。そう解釈してしまうのも些か虚しい気もするのだが、少なくとも一つの節目であった事には違いないだろう。 それが真の愛なのか、勢いだけのものなのか。聡明なさゆりが勢いだけで他人に靡く訳がないと確信していた英昭は今一度彼女の顔を見つめながら呟くのだった。 「良かったな」 さゆりは少し照れながらも相変わらずの毅然とした態度で答える。 「そうね、良かったわ」 そして顔を見合わせた二人は徐に笑すのだった。愛に理屈など要らないと言えば尤もらしくも聴こえるの…

  • 甦るパノラマ 十三話

    光陰流水の如し。高校に入学して早や3年という歳月が経った今、英昭はいよいよ卒業の時を迎える。まだ寒さの残る3月上旬ではあったが、1、2月をやり過ごした事で少しは気が楽になっていた。 桃の花を見上げながら思う事はその美しい佇まいと、この3年という歳月が表す懐かしさと、これから将来に向けての抱負だった。 ぼんやりと眺めていた英昭の目には木の梢に停まった一羽の蝶の姿が映る。冬の間は幼虫として身を竦めていたであろうこの蝶は春の陽射しを感じ取り、その可憐な姿を目一杯広げて晴れやかに飛び回っている訳だが、果たして本当に嬉しいのだろうか。嬉しくないといえば嘘になるかもしれないが、真に嬉しいかといえばそれも言…

  • 甦るパノラマ 十二話

    それから一年余の月日が流れ高校三年生の正月を過ぎた一月中旬。秋の優雅な雰囲気を一切拭い去ったこの時期に感じる事はただ寒いだけという実に淋しいものだ。あれだけ鮮やかに咲き誇っていた樹々もすっかり枯れ果て、葉を失ったその姿はまるで案山子のようにも見える。 白い雪にも風情を感じない訳でもないが、人間に動物、虫、植物、あらゆる生命の中で特に人が抱く正直な気持ちとしてはこの寒さの厳しい冬を出来るだけ早く通り過ぎ、穏やかな春の到来を待つというのが専らであろう。 そんな些か贅沢に思える感情とは別に、質の違った贅沢、或いは夢物語とも思える幻想に浸っていた者が居た。 英昭のギャンブルの調子はあれからもちょっとし…

  • 甦るパノラマ 十一話

    英昭が足早に駆け付けた店は天遊会館という如何にも昔ながらな屋号のパチンコ店であった。そこは彼の地元の隣町に位置するのだが歩いていけない距離でもない。 午後5時半、店の前には既に人だかりが出来ていた。新装開店という変則時間に開店するイベントは当時は新台入れ替えの際、当たり前のように行われていたイベントであり、その日は良く出ていた。その最たるはやはりパチンコ、スロット共に仕組まれていたモーニングというサービスで、この台を引き当てる事が出来れば小資金で大当たりをゲット出来、勝利する確率も大幅に上がって来る。 普段からこのモーニングを入れてある店なら尚更で、新装開店時なら全台に入ってる事もしばしばあっ…

  • 甦るパノラマ 十話

    それから数日が経った体育祭当日、この日も朝から気持ち良く晴れた渡った空は地上を明るく照らし出し、万物に生命の息吹を与えてくれる。正に体育祭日和。そこまでの関心が無いまでもまだ若い英昭や他の生徒達は意気揚々と胸を弾ませ、気を逸らせながら登校する。 その心意気に乗じるように華麗に飛び立つ鳥や、虫達の微笑ましくも勇ましい果敢な姿は恰も体育祭に出場する一選手のような漂いさえある。 「母さんも後で見に行くから」 玄関先まで英昭を見送った母もそう言って明るい笑みを浮かべていた。英昭は内心別に来なくてもいいよとは思いながらも母と同じく笑みを浮かべてアイコンタクトを取り、軽い足取りで歩き出す。 学生服に身を包…

  • 甦るパノラマ 九話

    拍手で迎えられたさゆりは皆にチヤホヤされながらも相変わらずの冷静沈着な様子で自分の持ち場へ戻る。殆ど息も切らせてはいない。本人よりもテンションの上がっていた同級生が笑顔で語り掛ける。 「さゆり凄いじゃない! また速くなったんじゃない? 女子ではno.1間違いなしね」 女子達で盛り上がっている中に恐る恐る近づいて行く英昭。彼もまた自分の高揚感を抑え切れない一人であった。 「お見事!」 訊き覚えのあるその声に振り向いたさゆりは以前として落ち着いた様子で済ましていた。英昭は次の言葉に迷いながらも正直な想いを投げ掛けてみた。 「まだ怒ってんのか? 俺が悪かったよ、それにしてもさゆりがこんなに足が速いと…

  • 甦るパノラマ 八話

    料理を食べ始める英昭の手は些かなりとも震えていた。母が丹精を込めて作ってくれた料理は美味しいに決まっているのだが、せっかくの御馳走も気が沈んでいた今の英昭の喉を余り通らない。だが母を悲しませてはいけないと思った彼は少し大袈裟な物言いをする。 「めっちゃくちゃ美味しいよ! こんな料理を食べたのは生まれて初めてだよ!」 「ふん、大袈裟な子ね」 一口食べただけでそこまで感動する英昭の様子を訝った母は彼の顔にはっきりと目を見据えて今日一日の事を訊いて来た。 「で、競馬場デートはどうだったの?」 益々慌てた英昭はて少し活舌の悪い言い方をする。 「な、何でデートだと分かったんだよ?」 「あんたの様子を見て…

  • 甦るパノラマ 七話

    パーンパパパパパパパーン。 軽快に、高らかに鳴り響くファンファーレは如何にも今から一大競走が始まるかのような大袈裟な雰囲気を辺り一帯に漂わし、観客達の心は更に昂奮して行く。 第一回秋華賞、レース場に姿を現した騎手達は各々の馬に跨り颯爽と返し馬に赴く。その可憐な雄姿に魅了された一同は歓声を上げて応援する。天高く響き渡る歓声に共鳴するように二つに割れた雲間からは眩しいまでの光芒が差し込み、光輝く競走馬の毛艶は美しさを増す。これには流石のさゆりも感動したようでその表情は多少なりともうっとりとしてた。 そんなさゆりの肩に手を添えレース場を遠くに見つめる英昭。この時の彼の表情はあくまでも一人の純粋無垢な…

  • 甦るパノラマ 六話

    この日のメインレース(11R)はG1秋華賞だった。牝馬のクラシック戦線であるこの重賞レースは今年から新しく始まったG1レースで場内も熱気にに溢れていた。 英昭はデートに必要な最低限の金しか持って来ておらず、前もって予想もしていなかったのだが、いざさゆりの下を離れ一人になると自ずとギャンブル好きの血が騒ぎ、結局はそのなけなしの資金で馬券を購入してしまった。彼が買った馬券はこの秋華賞の馬連でその購入額は僅か500円だけであった。こんなものが当たる訳がない。英昭はダメ元で遊びで購入しただけだった。 弁当を買って戻るとさゆりは元の場所に坐ったままで英昭の顔に目をやり優しく微笑んだ。一安心した英昭は弁当…

  • 甦るパノラマ 五話

    二日後のデート当日は薄曇りながらも雨が降る気配は余り感じられない。英昭は何時ものように傘を持たずに家を出る。すると後ろから母が声を掛けて来た。 「一応傘持って行ったら? 何時降って来るか分からないわよ」 「いいんだって」 母の忠告に耳を傾けなかった英昭は意気揚々と出発する。性格も然る事ながらこれも根拠のない自信という若者の特権なのだろうか。今の英昭には怖いものなど何一つ無かったようにも思えるのだった。 二駅電車に乗り何時も二人が学校帰りに分かれている駅のホームでさゆりを待つ英昭。気が逸る彼の心情はまるで遠足に出掛ける幼稚園児のような幼さを漂わせる。時計を何回も見直し、時間を確かめる。約束の時間…

  • 七夕は年間行事No.1 ~不変の想い

    天の川 夢に観ゆるは 七夕か(笑) 笹の葉さらさら~ のきばに揺れる~ お星さまきらきら きんぎんすなご ♫ この歌を思い浮かべるだけでも心が癒され気持ち良くなって来ます。 年間行事や記念日には余り関心が無い自分ですが、七夕だけは本当に好きですね。はっきり言って正月の次に、いや寧ろ同等に好きなぐらいです。 今日は生憎の天気なのですが、一年に一度の七夕を祝う気持ちには何ら変わりはありません。毎日同じ事ですけど、特に今日という一日は大事にしたいと思います。 七夕とは 中国、日本、韓国、台湾、ベトナムなどにおける節供、節日の一つで、五節句の一つにも数えられ、その起源は中国の漢の時代に編纂された織女、…

  • 甦るパノラマ 四話

    さゆりと母が異口同音に投げ掛けた言葉は英昭を悩ませるのに十分だった。さっきまでは平静を装っていたが、いざ自室で独りになるとその哀しい、やるせない想いは自ずと胸に込み上げて来る。過去を振り返る事が特段嫌いでもなかった英昭は横になり、追憶に浸って行った。 それは遡ること9年前、英昭が8歳、小学2年生の夏の出来事であった。今も昔も夏は暑いものだ。この年も日本は厳しい猛暑に見舞われ、外に出ると目の前の景色は陽炎のようにゆらゆらと歪んで見える。 強く照り輝く陽射しの下、蝉達は煩いほどに勇ましく啼き続け人々は汗を拭いながら日々の生活に勤しむ。学校の授業を終えた英昭は家に帰り、夕食までの間家の傍で近所の人達…

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