汐の情景 最終話
康明からの連絡は彼の母御が亡くなってから数日が経った、通夜も葬儀も終えた後だった。何故もっと早く知らせてくれなかったのかと訝る英和。たとえそれがここ最近の経緯に依るものであろうとも納得しかねる。 でもそんな事を言っている場合でもないこの状況は英和の足を急がせた。目に映るもの、心に感じるもの全てが虚しさだけを表しているようだ。ちらほらと咲き始めた彼の大好きな紅葉にさえ何も感じない。こんな時に限って進行方向へと追い風が吹いていたのは皮肉以外のなにものでもなかった。 康明の家は当然のように静まり返っていた。喪に服す彼の様子は凄まじいまでの憂愁感を湛えていたが、それ以上に伝わって来る彼の落ち着きの無さ…
2021/12/05 19:17