『親鸞に秘められた古寺・生涯の謎』(山折哲雄編者)からの転載です。『親鸞正明伝』が記す九条兼実の娘玉日姫との結婚譚現代では親鸞の妻というと忠信尼のイメージが根強いだろうが、「親鸞は恵信尼と一緒になる前に別の女性と結婚していた」とする伝承も真宗教団では古くからみられた。その女性というのが、第1章でも言及した、関白九条兼実の娘とされる玉日姫だ。親鸞と玉日姫の結婚について詳述するのはり「親鸞正明伝」である。親鸞は法然の門下に入っておよそ半年後の建仁元年(1201)十月、すなわち二十九歳のとき、法然の指示によって玉日姫と結婚したのだという。同書のそのくだりを、要約して記してみよう。〈建仁元年十月上旬、九条兼実が法然の吉水の禅房を訪ね、仏法談義をかわした。そのとき、兼実が「出家の念仏と、私のような在家の念仏とでは、...玉日姫との結婚譚