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  • 波(7)

    波(7)〈完結〉上岡良樹がゴルフ場で仲間とゲームを終わってラウンジでお茶を飲みながら談笑しているところにズボンの右ポケットでスマホが鳴った。久しぶりに聞く「ライン」の着信音だ。すぐ会社の部下だった陽気な吉村太郎の顔が浮かんだ。〈今頃なんの用だろう。〉もう何年も連絡をくれたこともなかったし、こちらからも連絡していない。スマホを取り出すために立ち上がりズボンのポケットに手を入れてスマホを取り出してみる。ロックを外した画面を見て良樹は一瞬目を疑った。妻の綾乃からだった。「Iloveyou.綾乃」と書いてある。からかわれているような気がした。〈なんだこれは。しかし、あいつはこんな冗談ができる女じゃない。誰かが妻の名を騙って俺をからかっているのか。〉それにしてもそんな冗談をしそうな仲間は思い当たらなかった。このメールは一...波(7)

  • 波(6)

    波(6)新しいことを覚えるのは非常にエネルギーが要る。上岡良樹は現役時代にスマートホンを使い始めたが、電話とメール、それとゴルフの必要から部下の吉村太郎に設定してもらい教えられた「ライン」以外はほとんど使っていなかった。メールは、今は関西に住んでいる子供たちとの連絡、特に正月前後に、毎年している家族の新年会の打ち合わせで使うぐらいであまり頻繁には使っていない。退職以来あまり外部の人との接触も多くはないのでスマートホンを使う頻度も下がり、〈やめようかな。〉と思うこともあった。しかしせっかく使うようになったスマホをあえてやめる気にもなれなかったし、車の場合もそうだが良樹は新しいことへの興味は少なからず持っていた。だがスマホは新しい使い方を知りたくても、仲間がいないと皆目見当がつかず踏み出せない。新しいことを試みたい...波(6)

  • 波(5)

    波(5)上岡綾乃はパートの仕事に慣れるに従い親しい仲間も出来た。全日勤務の浅井順子は新入りの綾乃に何かと親切にしてくれた。不用意な間違いを犯し若い上司に手ひどく叱られた時など「私もそうだったのよ。」と慰め、丁寧に教えてくれたものだ。順子は綾乃より八歳も若いが、夫がリストラにあって現在求職中だという。順子は根っから明るいタイプで綾乃は自分が落ち込んでいる時などに彼女の笑顔に救われることが多かった。〈今更仕事なんて無理かな。生活に困るわけでもないし、夫が言うようにやめたほうが夫婦関係もうまくいくだろうし・・・〉慣れない仕事でつまずき落ち込んでいるとそんな思いが頭をもたげる。しかし負けん気の強い綾乃にしてみれば自分で始めたことを途中でやめてしまうのは更に悔しかった。ましてあまり会話もなく一日中不機嫌な夫と過ごすことを...波(5)

  • 波(4)

    波(4)綾乃は一年ほど前から週三日、隣町のスーパーへレジ打ちのパートに行くようになった。夫が退職して家にいることが多くなり、四六時中顔を合わせているのもなんとなく気が滅入る。今まで経験したことのない勤めに出る経験もして見たいと思った。今まで専業主婦を続けてきたが、初めての勤めは決して楽ではない。研修を受けて一日四時間、一週間に午前の勤務が一回と午後の勤務が二回というシフトだが、慣れない客扱いに緊張の連続で、はじめの三ヶ月ぐらいは仕事を終えて家に帰るとどっと疲れが全身を襲った。夫がゴルフで夕方帰ってきても、まだ二階の寝室で寝ている日も何度かあった。「そんなに疲れるんだったら仕事なんてやめろよ。別に生活が苦しいわけじゃないだろう。」その日も夫は機嫌が悪かった。綾乃はしぶしぶ降りてきてレトルトカレーを作って夕食にした...波(4)

  • 波(3)

    波(3)上岡良樹が定年退職して三年が過ぎた。贅沢をしなければ年金だけでもなんとか生活できるのであえて再就職する気も起きず、週一・二回はゴルフの打ちっぱなしに出かけ、近くの比較的安いコースを見つけて年に何回かは実際のコースを回って新しい仲間もできた。退職後しばらくは職場の仲間のコンペにも誘われたが、回数が減り話題も合わなくなって次第に遠ざかった。家ではパソコンを開きSNSなどを見て過ごす日が多くなった。在職中はまとまった時間もとれずあまり覗かなかったネットの世界に踏み込んでみると、そこは今まで過ごしてきた世界からは想像を絶する、まさに情報の海原だった。政治・経済・スポーツ・芸能は言うに及ばず、夫婦関係・恋愛・不倫・趣味・セックス・ファッション・芸術・買い物・専門技術・医療・料理・健康・犯罪・地理・天気・交通・法律...波(3)

  • 波(2)

    波(2)「退職金を使って車を新しくしようと思うんだがね。」上岡良樹は、退職後一週間ぐらいは家の近所を散歩したりして過ごしていたが、車を買い替えて妻と新車でドライブに行きたいと思った。退職金の一部を使えば十分買える。「今の車はもうだめなの?」「いや、そういうわけじゃないけど、今なら無理なく買えるし、たまにはお前とドライブを楽しみたくてね。」「ドライブなら今の車でもいいんじゃない。私は満足よ。これからは年金だけで収入は減るんだし、お金は大切に使う方がいいわよ。」「・・・」予想通り渋い妻の反応だ。まだ結論は出していないが、考えてみれば確かに妻の言う通りだとも思った。しかし、まだ諦めきれない気持ちが強い。今のカローラも休日のゴルフか、たまに妻とのドライブ以外には使っていないので走行距離も八万キロを少し超えたところでまだ...波(2)

  • 波(1)

    波(1)平成二十三年五月十八日水曜日、上岡良樹は六十五歳の誕生日を迎え、三十八年にわたるサラリーマン生活に終わりを告げた。「定年」、多くの人々が迎える人生の区切り。川崎市内にある大手自動車メーカーの系列会社で経理部長を務めた良樹は、その日職場の同僚たちの送別会に招かれて夜十一時過ぎに帰宅した。同じ駅から通っている今日まで部下だった吉村太郎が自宅までタクシーで送ってきてくれた。家では妻の綾乃が、食卓に料理を並べて夫の帰りを待っていた。テーブルには夫の好物の生ビールも並んでいたが料理はすっかり冷めている。「おかえりなさい。あなた、長い間お疲れさまでした。今日は無事勤め上げたお祝いにと思って料理を作って待っていたのよ。」「そうか・・・せっかくだったなぁ。今日は会社の送別会ですっかり飲んできちゃったよ。今日あること言っ...波(1)

  • 短編小説 熟年夫婦

    熟年夫婦あなたは妻に惚れていますか?あなたは夫と恋をしていますか?夫婦生活を長年しているといろいろあります。子供のこと、仕事のこと、家計のこと、住まいのこと、ローンのこと、衣服のこと、食べ物のこと、家事のこと、お互いの趣味のこと、夫婦喧嘩のこと・・・夫婦になった男女を世間はごく当たり前に「一体の存在」としてみます。しかし結婚という手続きをしない男女が一緒にいると「好奇の対象」として見られることが多々あります。まして高齢と言える未婚のカップルには厳しい目を向ける人もあるようです。しかしそのような人たちこそ本当は充実した幸せな日々を送っている「恋人」たちであることが多いのです。熟年夫婦というとき真っ先に脳裏に浮かぶのは一時盛んに取りざたされた「熟年離婚」という言葉です。そこまで行かなくても、世の男性は三人寄れば自分...短編小説熟年夫婦

  • 続・シニアカップルの経済学

    続・シニアカップルの経済学旅の思い出(田淵雪江の手記よりその2)二泊目のホテルの名は「ホテル・ピアノ」でした。「このホテル雪江さんみたいな名前だね。いっぱい楽しもうね。」と彼。「バカね。変なこと言わないでよ。」はたして、その夜私はピアノになりました。彼の指は私を何度もクライマックスに押し上げる名演奏家なのです。それは彼の本当の優しさだと思います。こんなに感じたのだからもうこれ以上は無理じゃないかと思っている私を彼は時間をかけ私が完全にいくまで手抜きせず何度でも満足させてくれます。そして彼に愛撫されるといつの間にかそれを受け入れ彼の虜になって感じてしまいます。そんな時私は本当に幸せで歳を忘れます。この人と出会えてよかったと感謝し、彼の深い愛情に心身ともゆだねます。もうすぐ80歳を迎える彼は、いわゆるEDなのです。...続・シニアカップルの経済学

  • シニアカップルの経済学

    シニアカップルの経済学旅の思い出(田淵雪江の手記より)ふたりで2泊3日の北海道旅行に行きました。彼と知り合ってもう5年目になります。何度か二人で旅行もしてきましたが、お互いに年金生活者、二人とも裕福な方ではないので某旅行社の格安パックツアーをネットで探して3か月ほど前に予約しました。私たちは、お金を出し合ってあらかじめ旅行費用をためているんです。集めたお金は私が管理します。日常の二人一緒の行動の時にも私が持っている「二人のお財布」から出費します。いくつになっても恋人と二人で旅行するというのは良いものですよね。二人で旅行費用を振り込みに行くと、子供の頃どこか知らないところに連れて行ってもらえるような、うきうきした気分になり、買い物のついでにショッピングセンター内の喫茶室でつい彼とおしゃべりを楽しんじゃいました。よ...シニアカップルの経済学

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