カビの宇宙
秋の陽は釣瓶おとし、陽が落ちるのが早くなった。夜空の月も輝きを増して澄みきっている。夏から秋へと、昼間せめぎあっていた二つの季節が、夜にはすっかり秋の領分になっている。久しぶりに、風が冷たいと感じて窓を閉めた。夏のあいだ開放していた窓を締めきると、どこからともなくカビ臭い匂いがしてきた。いかにも部屋に閉じこめられている感じがする。この感覚は懐かしい。カビの匂いは嫌いではない。カビ臭い部屋にいると、特別な空気に包まれているような安堵感がある。こんな私の習癖を他人に話したら、きっと笑われてしまうだろう。古い民家や寺院などを訪ねると、どこからともなくカビの匂いがしてくることがある。すると、体がすぐにその場の空気に溶け込んで、以前からそこに居たような落ちついた気分になってしまうのだ。生まれた川の匂いを覚えていると...カビの宇宙
2024/10/20 10:28