0006「幸せの一割」
「ねえ、ここに置いといた今月分の家賃、持っていったでしょう。返して!」「いいだろ。金がいるんだ。また、銀行からおろしてこいよ」安男はそう言うと、ふいと出て行ってしまった。残された佐恵子はため息をついた。二人は付き合い始めて五年。安男は、以前はとても優しい男だった。それが、一緒に暮らすようになると、彼はまったく働かなくなり、遊ぶ金欲しさに佐恵子に無心する始末。さっさと別れてしまえばいいのだが、彼女にはその決断をすることが出来なかった。銀行への道すがら、佐恵子は不思議な占い師に出くわした。その女占い師は客待ちしているでもなく、分厚い洋書を開いて、読むでもなく目を落としていた。「ちょっと、あんた」と占い師は、ちょうど前を通りかかった佐恵子を呼び止めた。「あんた、悩み事があるね。占ってあげよう。ここに、お座りなさ...0006「幸せの一割」
2024/07/31 17:08